Vol.686

MONO

12 SEP 2025

ブナ材の困った特性を、美しい“個性”に変えたインテリア用品「BUNACO」

ZOOMLIFEを運営するトーシンパートナーズが展開するマンションブランド「ZOOM」シリーズは、2014年度から11年連続・計18棟で「グッドデザイン賞」を受賞している。グッドデザイン賞は、日本で唯一の総合的なデザイン評価・推奨の仕組みで、「Gマーク」とともに広く親しまれてきた制度だ。今回はそれに関連して、2009年にグッドデザイン賞を受賞し、独自の製法と佇まいの美しさから国内外で注目を集める「BUNACO」を紹介する。淡い木目となめらかな手触りが魅力のブナ材を使った青森県発のプロダクトで、「使い道がない」とされたブナを活かすために生まれた独自の製法を支える職人の技と、その想いと挑戦が込められている。約60年前から「資源を無駄にしない」ものづくりを続けてきたサステナブルな歩みについて、ブナコ株式会社の里見杉子さんにお話を伺った。

かつて“役に立たない”と大量伐採されたブナの木を救った、もったいない精神

「BUNACO」の起源は、戦後復興を終え高度経済成長期へと移った1950年代まで遡る。

世界最大級のブナの原生林が広がる「白神山地」をはじめ、青森県はブナの木の蓄積量において日本一を誇る。ブナの木は、雄大で美しい立ち姿から「森の女王」と呼ばれるほか、「天然のダム」とも呼ばれるほどの保水力を持つ。

当時の乾燥技術ではブナの木を十分に乾燥させることが難しかったため、建築材としては反りや腐食が起こりやすかった。そのため、薪として燃やすばかりで、長らく「役に立た“無い”“木”=橅(ブナ)」として揶揄され、伐採されていた。

青森県と秋田県の県境に位置する白神山地には、世界最大級のブナの原生林が広がる。今でこそ世界遺産に登録され、価値が見直されているが、かつてブナの木は「たくさんある役立たずの木」程度の扱いだった
捨てられていくブナの木を“もったいない”と、青森県工業試験場(現 青森県産業技術センター)がブナの有効活用のために研究に乗り出した。そして1956年、当時の試験場長 城倉可成氏と漆職人の石郷岡 啓之介氏により、「ブナの薄板をテープ状に裁断し、コイルのように巻いて器に成形する」というブナコの技術が発明された。そしてその技術を引き継ぎ、1963年にブナコ株式会社(旧ブナコ漆器製造株式会社)が設立された。

当時はまだ乾燥の技術が発達していなかったために、捨てられるばかりだったブナの木を活かすために編み出されたのが「BUNACO」の技術。創業から60年以上経った今でも、同じ製法で作られている。

少ない材で高い機能性を有する「BUNACO」は、グッドデザイン賞や海外の展示会などでも高く評価されている
「もったいない」という想いと情熱の連鎖があったからこそ、60年経った今でも「BUNACO」を手に取ることができる。大量生産・大量消費へ突き進む高度経済成長のただ中にありながらも、資源・技術を無駄なく使い切る、活かすという考えがブナコの原点だ。

ブナ材の弱点を克服し、強みを活かす。省資源と形の自由度を全て叶える独自製法

「BUNACO」最大の特徴は、テープ状に加工したブナ材をコイル状に巻き、成形する独自製法。ブナの木が持つ特性を最大限に活かしており、“ブナ材でしか作れない”製法だ。
まずはブナの木を、大根の桂剥きと同じ要領で、長さ2m程度の薄い板状に加工する。

ブナの木を桂剥きしたような、シート状の状態からスタート。すべて天然木にこだわって仕入れている

ブナのシートを、今度はテープ状に加工。機械作業はここまでで、以降はすべて職人の手作業で形作られていく
薄いシートのような材を細いテープ状に裁断したら、あとは全て職人による手仕事。ブナのテープをコイルのように板にくるくると巻き付けていくのだが、材を継ぎ足すときにも接着は一切行わない。職人が温度・湿度・材の質を見極め、微調整を加えながらくるくると巻き上げていく。

ブナの柔らかさ・しなりを活かしながら、ぐるぐるとコイル状に巻いていく。「ブナ」と「コイル」の字を拾って「ブナコ」の名称になったという
そうしていくうちに、バームクーヘンのような木の板が出来上がる。これを今度は立体になるよう木のテープの重なり具合を調整していく。どの程度ずらすか、どのように角度をつけるかで変幻自在に形を変えていく。

湯呑み茶碗を使って、巻いたブナのテープを立ち上げていく。この時、茶碗の跡がついてしまうことがあるが、ブナの保水力によってキレイに復元されてしまうそう
最後の仕上げとして「わずかに生じた隙間を埋め、滑らかに削って整えては塗装する」という工程を丹念に繰り返し、やっと「BUNACO」が出来上がる。

薄いテープ状にしてから成形していくことで、狂いのもととなっていた水気も十分に乾燥させることができる。さらには、ブナ材をほぼ無駄なく使い切ることができるので、製造上の廃棄も少なく済む。ブナの木を必要以上に無駄に消費しない、いたって環境に優しい製法だ。

また、厄介者扱いをされたブナの保水性も活かした製法でもある。しなやかさがあるからこそ、巻き付けていく技法を取れるだけでなく、成形時に残る型跡や傷痕が自然に戻るために、他材では難しい滑らかな曲線を描くことができる。

ブナの木目が層のように重なって、複雑な風合いを演出している。形の自由度が高く、廃棄する材が格段に少なく済むことに加え、ゆるやかな曲線を描くことができるのも特徴だ

人気のティッシュケースは、本体部分は桂剥きしたブナのシートを活用し、蓋部分にブナコの技術が採用されている
職人の手から生み出された曲線は、なめらかで美しい。一つひとつ異なる木目が、幾重にも重なり合い、独特の風合いを持つ。まさに、ブナの木とこの製法ならではの美しさを感じられる。

ブナの木を大切に使っていこうとする想いが、ブナの木の本来の美しさを引き出すことができる製法を編み出し、受け継がれてきたのだと思う。

プロのデザイナーを魅了する、自由度の高い製品づくり

「BUNACO」のラインナップには、実にさまざまな用途・形の製品が揃っている。

創業当初からのベーシックな商品として、長く愛されている皿・ボウルなどのテーブルウエア。これに加えて、近年はティッシュボックスなどのインテリア小物、スツールやランプ、スピーカーなどまで製作の幅を広げており、そのすべてに天然のブナ材と、ブナコ製法が用いられている。

創業当初から愛されてきたテーブルウェア。木目のグラデーションが引き立て役になって、食べ物をより美味しそう見せてくれる

青森県の特産品であるりんごそっくりな小物入れ。オブジェのような見た目ながら、ブナ材の持つあたたかさが感じられる
だが意外なことに、同社にはプロダクトデザイナーは一人としていないという。色々な人に知ってもらおうと国内外の展示会に出展するうち、ブナコの独特な製法と表現性の高さに興味を持った百貨店のバイヤーやインテリアデザイナーから「こんな製品は作れないか」と要望に答えていく形で、新たな「BUNACO」が誕生していったそう。他では類を見ない製法なだけに、クリエイターとしての創作意欲をかき立てるのだろう。

百貨店「松屋」とのコラボで生まれたティッシュケース「食べられないバウムクエヘン」。コイル状に巻かれたブナ材の様子が年輪のようだと、遊び心をもってデザインされた

企業コラボによって、インバウンド向けに開発された「正座のためのイス」。和洋どちらのインテリアにも馴染むデザインになっている。


現在も、アパレルブランドなど異業種の会社とのコラボレーションを行うなど、外部の意見からインスピレーションを受けて商品開発を行っている。

もちろん制約はあるものの、「最近は様々な要望に応えてきた自信が、社内にも充ちてきました。だからアイデアがあるなら“1回やってみよう”と前向きに開発できています」という。

「自社だけの視点では偏りが出てしまい、きっと限界が来る」としてストイックな姿勢を持ちながらも、楽しみながら企画開発に取り組んでいるようだ。

ブナの持つ「光を通すとほんのり赤く光る」特性を活かしたランプ類は、今ではすっかり主力製品に。美しい木目が浮かび上がり、赤く幻想的な光が広がる。

明かりを付けない日中は、やさしいブナの木目が楽しめる。昼と夜で全く異なる顔を見せるのが、「BUNACO」ランプの特徴だ
多くの企業コラボや商品開発を経てなお、里見さんは「ブナコの製法には、まだまだ私たちが気づいていない、活かしきれていない要素がきっとある。まだまだ新しいものを作っていけるはず」と意欲を見せてくれた。

柔軟かつ意欲的な開発姿勢によって、これからもユニークな“BUNACOならでは”の製品が生み出されていく未来が楽しみでならない。

未来へ繋いでいくための工夫と挑戦

もともと資源の無駄が少なかった製法だが、現在はさらに無駄なく使い切る点に重きを置いて製造している。「ブナ材のもつ色の違いごと個性として捉えてくれる時代になってきたこともあり、材料の選別はほぼしない」という。昔は色を揃えるために、ムラのある材は弾いていたが、現在は仕入れた材のほぼ全てを使い切れるまでになったのだそう。サステナブルを意識するユーザーや企業にも好評だ。

同社は一貫して青森・津軽地方に拠点を置いており、2017年には旧西目屋小学校校舎をリノベーションした第2工場を設立。西目屋工場では、工場見学と製作体験ができるほか、BUNACOのプロダクトが一面に使用されたカフェも併設していて、ものづくりの素晴らしさや楽しさをまるっと体感できる。

白神山地のお膝元である西目屋村に立つ西目屋工場。廃校をリノベーションした複合施設として、県内外の観光客や地元客に愛されている
西目屋村はBUNACOの原点である世界自然遺産・白神山地の玄関口であるとともに、青森県で最も人口の少ない村だ。この地に工場を設立することで地元の雇用を生み出すとともに、地元の子どもたちに「地元の自然環境や、地元発の製品が世界に認められるものである」ことを伝える意図もあるのだという。

単なる観光施設ではなく、「広く開かれた作業場」という印象。ブナの木の香りを感じながら、職人の匠の技を間近に見学できる

工場見学付き製作体験も実施。職人の手では簡単そうに見えても、思い通りの形にするのは難しい。だが苦労して作り上げた分、愛着もひとしお
西目屋工場は、観光として訪れた人も、ブナの木が育まれる環境を身近に感じながら、製品が出来上がるまでの過程を間近に見て、体験することができる。職人の技量との差を痛感しながらも、「自分でつくった、少しいびつなものだからこそ愛おしい」と、満足げに持ち帰ってもらうことが多いそうだ。


工場内のカフェでは、あらゆるBUNACO製品が展示・使用されている。製造から生活に届くまでの過程をまるっと体験できる
西目屋工場での見学・体験だけでなく、小学校へ訪問しての体験授業や、職場体験なども20年以上の長きにわたって対応している。地元の子どもたちをはじめとした人へ、青森で生まれた技術や風土・歴史を伝えることを大切にしている様子がうかがえる。

忙しい日常のなかだと、街の不便なところばかりに意識が向いてしまいがちだが、「地域にあるもの」「地域で生まれ育まれてきたもの」を認識できると、見えていなかった街の魅力も見えるようになる。住む街の個性や良いところを知っていくことは、暮らしの充実にもつながるだろう。「BUNACO」にならい、“今あるもの”にしっかり目を向けていきたい。


日々に安らぎとぬくもりを添える、自分だけのお気に入り

すべて天然ブナを使ったBUNACOは、職人が丁寧に仕上げているため、大量生産品にはない魅力がある。BUNACOにしかない独創的なデザインの製品も数多いが、それらも美術品ではなく、生活のなかでこそ活躍する実用品だ。

生活の中に、こだわりの品を配置する。目にするたび、触れるたび、心に潤いを与えてくれるはず
一つひとつ異なる風合いを持つからこそ、自分の「お気に入り」を選び取ってみる。そして、自然の木目に心を和ませ、少しずつ現れてくる経年変化を楽しみ、ブナの優しい手触りにほっとする。

日々の何気ない瞬間に一雫の安らぎを与えてくれるBUNACOを、暮らしに取り入れてみてほしい。

BUNACO

テーブルランプ BL-T1951 16,500円(税込)
ティッシュケース SWING slim 9,900円(税込)
ボウル #5263 6,600円(税込

https://bunaco.official.ec/

「ZOOM」シリーズのご紹介

トーシンパートナーズの「ZOOM」シリーズは、「SAFETY(安全で、安心する)」「SENSE(センスが刺激される)」「PRACTICAL(実用的で使いやすい)」という3つの価値をコンセプトに、都心での上質な暮らしを提案している。

2024年度は、「ZOOM麻布十番」「ZOOM広尾」の2棟がグッドデザイン賞を受賞している。それぞれ、都心部という制約の多い立地の中で、暮らしやすさと美しさを兼ね備えた設計上の工夫が評価された。麻布十番は構造の工夫によって開放的で自由度の高い空間を生み出した点が、広尾は高層ビルと住宅地の間に自然に溶け込む設計が、特に高く評価されている

トーシンパートナーズ|ZOOM麻布十番

トーシンパートナーズ|ZOOM広尾

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