ZOOMLIFEを運営するトーシンパートナーズが展開するマンションブランド「ZOOM」シリーズは、2014年度から11年連続・計18棟で「グッドデザイン賞」を受賞している。グッドデザイン賞は、日本で唯一の総合的なデザイン評価・推奨の仕組みで、「Gマーク」とともに広く親しまれてきた制度だ。今回はそれに関連して、2022年にグッドデザイン賞を受賞した、アロマキャンドル「Rotch(ロッチ)」を開発した三和物産株式会社 代表取締役社長の西河誠人さんにお話を伺った(注1)。Rotchは30分ほどで燃え尽きるミニマルなアロマキャンドルだが、その小さな一本には、多くの人の手が関わっている。記事を通じてその背景に触れ、自分のために“休む時間”をつくるきっかけとしてぜひ手に取ってみてほしい。
手間いらずで、使い切り。うれしいコンパクトサイズ
まるで、おしゃれなマッチ箱のよう――。これが、Rotchを初めて手にしたときの印象だった。封を開けると、ふわりと心地よい香りが漂う。箱の中からは、可愛らしいミニロウソクのようなアロマキャンドルが顔をのぞかせた。
Rotchの斬新な点はいくつも挙げられる。中でも最もユニークなのが、マッチとロウソクの要素を掛け合わせた製品であるということだ。点火は、マッチを擦るようにアロマキャンドルの先端を箱の側面でこするだけでよい。そして一度火がつけば、燃え尽きるまでの時間はおよそ20〜30分。ひと息ついてリラックスするのにちょうどよく、使い切りであるため、消したりつけ直したりする手間もない。
こうした特徴は、偶然生まれたものではない。「仕事や家事、子育てに追われる“忙しない現代人”に、ひとときでもリラックスしてもらいたい」という思いから、使い手の暮らしに寄り添うかたちで設計されている。
香りのラインナップは、オレンジ、カモミール、ラベンダーにはじまり、現在は全部で6種類。それぞれ異なるパッケージデザインで、思わず全種類そろえたくなる魅力がある。
部屋の明かりを落とし、火をつけてみると、これまで日常の中で火を灯す機会はあまりなかったことに気づき、新鮮な気持ちになった。おしゃべりを楽しむのも良いし、ひとりで静かにのんびりするのも心地よさそうだ。忙しい毎日の中で手を止めて、意識的に休むきっかけをくれるアイテムである。
シンプルで使いやすく、コンパクトで、お財布にも優しい。すべてがミニマル。でも、そのひとときに心が満たされる。これで、十分なのだ。
「火をどうデザインするか」が発想の原点
Rotchは、石川県で葬祭用品を取り扱う三和物産が展開する「リ・クラフト」プロジェクトから生まれた。「日本にある捨てられるものを、デザインとアイデアの力でよみがえらせる」をコンセプトに、新規事業として立ち上げられた取り組みであり、Rotchはその第二弾である。
着想の原点となったのは、当時多摩美術大学の学生であったデザイナー・小笠原勇人さんのアイデアだった。小笠原さんは、大学の講義で出された「新しい光をデザインしなさい」という課題に対し、「火は危ないし、今はあまり使われないからこそ、火をデザインしてみよう」と考えた。
製品化までには困難もあった。マッチ用の機械では、小さなロウソクの先端に頭薬を塗ることができなかったのだ。「対応は難しい」と言われ、一度は頓挫しかけたが、西河さんは諦めずに自らマッチ工場まで足を運んだ。
そこで、実際に頭薬を塗ったロウソクを点火した時に、「純粋に興奮した」そうだ。「工夫次第でいけるはず」と確信を得た西河さんの熱意もあって、スタート地点に立てたのだという。現在も、頭薬の塗布は機械ではなく、福祉施設の人々による手作業で行われている。
なお、Rotchは廃棄されたロウソクを再利用したアップサイクル製品でもある。これも、「リ・クラフト」を推進する三和物産ならではのアイデアとして加えられた要素である。
手が届くアート。伝統工芸作家とRotchのコラボレーション
最近の取り組みで注目したいのが、作家との共創だ。現在、数量限定で販売されている「九谷焼Edition」は、九谷焼作家・早助千晴さんとのコラボにより実現した特別版である。
Rotchは、先端部分が赤く着色されているのが特徴だが、九谷焼Editionでは青色だ。これは、早助さんの作品に見られる、透明感のある印象的な青をイメージしてアレンジされた。パッケージには、早助さんが書き下ろした図案と、作品に登場する白い象が描かれている。
作家にとっては、作品が一点ものとなり高額になりがちなため、ファンが気軽に手に取るのが難しいという側面がある。その点、Rotchは作品の世界観を取り入れながら、手に取りやすいアイテムであることから、「ファンに届けやすい」と喜んでもらえたそうだ。
ファンにとってもうれしいアイテムであると同時に、作家を知るきっかけにもなると感じた。実際、私自身もパッケージの可愛さに惹かれて手に取り、コラボ商品であることを知って早助さんのインスタグラムを訪ねた。そして、その繊細な描画と美しい色彩の作品に、すっかり魅了されたからである。
思わず人に伝えたくなる、“マッチのように擦る”体験
グッドデザイン賞に応募した理由は、Rotchの認知度を高めたいという思いと、外部の視点でどのように評価されるのかを知りたかったからだ。
審査員からは、マッチとロウソクを組み合わせた新しいスタイルのアロマキャンドルであるという点、30分間の“休憩時間”を提案するというストーリー、思わず手に取りたくなるようなパッケージデザイン、廃棄ロウソクを再利用したアップサイクルの取り組みなどが評価された。
なかでも印象的だったのは、“マッチのように擦る”という行為そのものの体験価値に触れてもらえたことだという。「予想以上に楽しい」「ワクワクした」「他者とのコミュニケーションを促すツールになる」といったコメントをもらい、当事者では気づかなかった視点からの評価が得られたことは、大きな収穫だった。
Rotchを使ったときの“擦る楽しさ”を、誰かに「ほら見て!すごくない?」と伝えたくなる気持ちもよくわかる。マッチを擦ること自体が久しぶりだったし、ロウソクに火が灯るという不思議さも新鮮で、誰かと共有したくなる体験だった。Rotchを紹介したTikTok動画は90万回以上再生され、若い世代を中心に大きな反響を呼んだ。コメント欄には「マッチを擦ったことがない」「はじめての体験」といった声がたくさん寄せられたそうだ。
Rotchを灯して、30分の“休む時間”を取り入れてみて
西河さんのお話を伺ってから、Rotchが「今日も一日、お疲れさま」と語りかけてくれているように感じるようになった。それは、つくり手の思いを、しっかりと受け取ったからかもしれない。自分自身でその時間を楽しんだあとは、今度は誰かの一日に「お疲れさま」とメッセージを添えて、手渡したくなる。西河さんも「疲れている人や、元気になってほしい人に贈る“代表的なプレゼント”になってくれたらうれしい」と話す。
Rotchは、公式オンラインショップのほか、セレクトショップや21世紀美術館などでも取り扱われており、20〜30代の女性を中心に人気が高まっている。毎日の中に、意識して30分だけ“休む時間”をつくる。そんな新しい習慣を、「Rotch」とともに始めてみては。
(注1)Rotchは、三和物産株式会社の子会社だった株式会社リクラで、西河さん(現・三和物産代表)を中心としたチームにより開発され、2022年にグッドデザイン賞を受賞。現在は三和物産が事業を引き継いでいる。
三和物産|Rotch
「ZOOM」シリーズのご紹介
トーシンパートナーズの「ZOOM」シリーズは、「SAFETY(安全で、安心する)」「SENSE(センスが刺激される)」「PRACTICAL(実用的で使いやすい)」という3つの価値をコンセプトに、都心での上質な暮らしを提案している。
2024年度は、「ZOOM麻布十番」「ZOOM広尾」の2棟がグッドデザイン賞を受賞している。それぞれ、都心部という制約の多い立地の中で、暮らしやすさと美しさを兼ね備えた設計上の工夫が評価された。麻布十番は構造の工夫によって開放的で自由度の高い空間を生み出した点が、広尾は高層ビルと住宅地の間に自然に溶け込む設計が、特に高く評価されている。
トーシンパートナーズ|ZOOM麻布十番
トーシンパートナーズ|ZOOM広尾
CURATION BY
料理とお菓子作り、キャンプが趣味。都会に住みながらも、時々自然の中で過ごす時間を持ち、できるだけ手作りで身体に優しい食事を取り入れている。日々の暮らしを大切に、丁寧に過ごすことがモットー。