Vol.658

MONO

06 JUN 2025

まるでレコードショップのような「TOKYO ACRYL」で、アクリル加工を新たな趣味に

街ではパーテーションやフェイスシールドとして。そして昨今は「推し活」グッズのアクキー、アクスタとして需要が増えている「アクリル」。実は、色とりどりのアクリル板から自分だけのアイテムを作る「アクリル加工」を趣味にしている人も増えているという。そこで今回はアクリル会社「有限会社三幸」が運営する店舗「TOKYO ACRYL」にお邪魔し、ワークショップを体験しながら、アクリルという素材の扱い方と可能性を教わっていく。

見ているだけで楽しいアクリル板の世界

「TOKYO ACRYL」は、昨年2024年に東京・北綾瀬駅の駅前に移転してきたオリジナルアクリル販売の専門店。白色を基調とした店内には、さまざまなアクリル商品が揃っている。例えば「レコードサイズ」と呼ばれる30cm×30cmのアクリル板、「ハガキサイズ」と呼ばれる10cm×14.5cmのアクリル板。他にもさまざまな形に加工された小物パーツ類や、キーホルダーなどの既製品。また、こうして作られた商品の端材を研磨してパーツ化した「Refine Acrylic」や、文字通り切りっぱなしのアクリル板「キリッパ」は量り売りで販売されている。

ちなみに、一番売れるのはレコードサイズのアクリル板。アクリル板をLP盤サイズに切り出し、レコード箱のように並べて陳列しているのは、運営会社「有限会社三幸」の社長さんのアメリカンビンテージ好きに由来しているという。

レコードサイズの棚

レコードサイズ

ハガキサイズ

Refine Acrylic

キリッパ

Refine Acrylicの一部
レコードサイズやハガキサイズのアクリル板は、アクセサリーのクリエイターや、自作のグッズを作る人が買うことが多いが、中にはアクリル板をそのままインテリアとして飾る人もいるそうだ。たしかに、透け感があるアクリル板も多いので、窓辺や光の当たる部屋にあると綺麗かもしれない。

1種類のアクリル板を作る際に余った絵の具を捨てずに組合わせると、独特のマーブル模様が出来上がる。これを「廃液シリーズ」と呼んでいる。何が出来上がるか分からないので、すべて1点もの
こうしたアクリル板には、商品名とは別に10種類のカテゴリー名が書いてあり、文字通り単色で透明感のある「clear」や、レース生地や和紙などが間に挟み込まれている「textile」、マーブル模様だったりグリッターなどが入っていたりする「art」、不要な端材を砕いて混ぜて再利用した「SDGs」など、実にカラフルでさまざまな種類が揃っている。

中にはアクセサリー用の羽根やパーティークラッカーの中身の銀テープを入れた板などもあって、これほどまでにアクリル板の種類があるのは日本でこのお店だけだという。
ちなみに「TOKYO ACRYL」がこれまでに販売したアクリル板のパターンは約7000種類。そのうち800種類ほどが常に店頭に用意されているという。また、現在も毎年100種類ほど新商品を生み出し続けているというから驚きだ。

アクセサリーパーツ

アンブレラチャームなども販売している

そもそもアクリルの長所とは?

アクリルがここまで人気なのには理由がある。スチロール樹脂などに比べて丈夫で割れにくく、なのに軽い。ガラスの代用品として乗り物の窓や水槽などにも使われるのはこのためだ。そして熱での加工や着色がしやすく、専用の接着剤があれば2~3秒でくっつくというのも便利なところ。

また、近年アクリルスタンドやアクリルキーホルダーが人気なのは、キャラクターの絵をそのまま貼りつけているので、フィギュアやぬいぐるみなど他の立体物に比べて構造的に破綻することがないことも挙げられる。なのでコレクションしやすく、気軽に持ち運んで、キャラクターと一緒に景色や食べ物と写真を撮る人も多いのだ。

一方でアクリルには短所もあり、まず熱に弱い。マグカップを置くためのコースター程度の熱なら耐えられるが、熱したフライパンを置いたりすると曲がったり解けたりしてしまう。また、ハンバーグに刺すピンなど食品用のものには使えないことや、消毒液などアルコールを使用すると割れる可能性があることなどが欠点として挙げられる。

そして、アクリル最大の難点が、切り出すには専用のレーザー加工機が必要で、騒音や煙、においが発生することだ。そのため、アクリル板を自宅で加工をするのは少しハードルが高く、3Dプリンターやレーザーカッターをレンタルしてくれるファブ(Fab)施設を利用する人が多い。

そんな、便利だけれど難点もあるアクリルという素材に慣れ親しんで、誰でも楽しく加工できる場所が「TOKYO ACRYL」の中にもある。それがワークショップだ。

好きなアクリル板から名刺入れを作ってみる

「TOKYO ACRYL」では毎週さまざまなワークショップを行っており、素材としてのアクリルに初めて触れる人のためのコースから、作家やクリエイターを志したい人のための「セミナー」まで、コースの数は約20種類。しかもスタッフのアイディア次第でコースは増え続けているという。コースによって集まる人数はさまざまで、1回に2~3人の時もあれば、人気のクリエイターが講師を務める時は10人以上集まることも。席が空いていれば飛び入り参加もOK。スケジュールはXやInstagramに投稿されていて、直近のワークショップの紹介や空き状況はInstagramのストーリーで確認できる。

ということで今回は、「TOKYO ACRYL」スタッフの水木さんに教えていただきながら、アクリル初心者向けコースの中では少々難易度高めだという「選んでつくる名刺ケースワークショップ」に挑戦してみることに。

完成品の名刺ケース
まずは、先ほど紹介したレコードサイズかハガキサイズのアクリル板から好きなものを選ぶ(レコードなら1枚、ハガキなら2枚選択可能)。アクリル板の種類が豊富すぎるため、人によっては1時間以上悩んでしまう人もいるそうだ。カラフルなアクリル板から「今日の1枚」を選ぶのは、まるでアイスクリーム屋さんの店頭のようだ。

今回、筆者が選んだのは、表面に使用するのは板の間に布やラメを挟んだ「textile」のもの。裏面に来るもう1枚は、廃液を利用したマーブル模様の「SDGs」カテゴリーのもの。
選んだアクリル板をレーザー加工機の中に置いて、PCで切り出す位置を調整。アクリル板の模様は手作業で生まれたランダムなものなので、板のどのあたりから切り出すかもこだわりのポイントだ。あとは加工機のスイッチを押せば、自動で部品ごとに切り出してくれる。

レーザー加工機

中にハガキサイズのアクリル板をセットしスイッチを入れるだけ

2枚のハガキサイズの板からパーツを切り出したところ

上板と下板の間に挟みこむパーツ
切り出した部品と、間に挟みこむL字型の部品(これも白や黒、透明から選べる)が揃ったところで、水木さんからアクリルの接着の仕方を教わっていく。アクリル用接着剤はアクリル自体を溶かしてくっつけるため、部品同士を押さえて、その隙間に接着剤を吸わせるような感覚で、筆でちょんちょんと付けていくのがコツ。ベタッと塗るわけではないので結構カンタンで、完全に接着し終えるのは24時間後だが、5秒でかなりしっかりとくっついている。接着後は、可動するヒンジ部分をねじ止めして完成。部品が揃ってしまえば15分ほどで完成する。

まずは接着の練習を教わる。接着剤を隙間に沁み込ませるように筆を当てるだけ。

切り出した上板とL字型パーツを接着する

さらに下板も接着

ドライバーでねじ止めすれば…

名刺ケースが完成!

アクリル加工を新たな趣味に

「名刺ケース作り」よりも簡単で、初心者や子供にもオススメなのは、端材に目玉パーツを付けるだけでキーホルダーが作れる「めだまモンスター」や、タイルのようにアクリルを配置して接着してコースターを作っていく「モザイクアートコースターワークショップ」など。他にも、アクリル板をトースターで温めてから曲げる「バングル・S字フックワークショップ」は少し難易度高め。慣れてきたら、指輪の形にカットしたアクリルを紙やすりで削り、最後は研磨剤でツルツルに磨いく「磨いて作る指輪ワークショップ」や、「イヤリング・ピアスワークショップ」に挑戦してみてもいいかもしれない。もちろん、自分のアイディア次第で自由にモノづくりを楽しむのもアリだ。

好きな端材に目玉を付けるだけでモンスターが完成!

コースター

バングルやS字フック
レコードサイズのアクリル板は毎月毎月種類が増えていて、パーツも毎月新作が登場する。その一方で(定番カラーを除いた)同じアクリルは常に店頭にあるとは限らないので、一期一会の楽しみもある。また、本来であれば捨てられれてしまう端材や廃液を使ったアクリル板をアクセサリーや日用品にすることは、環境に貢献していてエコにも繋がっている。集めるのも、加工するのも楽しいアクリルの加工を、新たな趣味にしてみてはいかがだろうか。

TOKYO ACRYL

東京都足立区谷中2-12-5 RAKUTOビル 2F
営業時間 火・木・土・日曜13時~20時(※変更があるので事前にHPの確認を)

https://www.tokyoacryl.miyukiacryl.tokyo/