塩と同じくらい毎日の料理に欠かせない調味料・胡椒。パウダーのものは手頃で使いやすいが、香りが薄いのが難点だ。より胡椒の風味を味わおうと思ったら、粒のものを使う方が良いし、その場合ペッパーミルが必要になる。さらに、ペッパーミルも千差万別。けれどもさまざまな種類がある中で、一際多くの人々から支持を得ているのがフランスの自動車メーカー・プジョーのものだと私は思う。そこで今回は、このプジョーのペッパーミルをご紹介したい。
キッチン用品の他に車も作る。プジョーとは何者?
フランスで生まれたPeugeot(プジョー)は現在、自動車メーカーとしてその名を轟かせている他、ペッパーミルやソルトミルなどのキッチン用品の販売も行っている。車に疎かった私は最初キッチン用品でプジョーの名を知り、その後車を作っていることを知ったのだが、その幅広い商品作りの姿勢には驚いてしまった。率直に「なぜキッチン用品を作っている会社が、車まで作っているのだろう」と思ったのである。けれども調べてみると、確かな技術を持ち、その技術を他の分野に活かそうと考えるパイオニアとしての精神にも長けているメーカーだということがわかる。
プジョー家は、もともと粉挽き業を営んでいた家庭だった。けれども1812年にジャン=ピエールとジャン=フレデリックの兄弟が家業を継ぎ、製粉所を製鋼作業所に改造したのだ。
この事業はうまく行き、のこぎりの刃や置き時計用のバネの薄い鋼の帯などで特許を取得。そして1840年にこの製鋼技術を使って作り出したのが、家庭用のコーヒーミルである。さらに改良を重ねることにより、今度はペッパーミルが誕生。その後も彼らの探究心は止まることを知らず、1882年には自動車の生産に乗り出した。家業を継いだプジョー家の一人ひとりが製鋼の技術を活かし、自分の興味のある分野と時代の流れを汲み取って発展させてきたブランドこそが、プジョーなのである。
ちなみに、プジョーのトレードマークとも言えるライオンのマークが採用されたのは、1850年のこと。プジョーの製鋼技術が生み出す刃物の鋭さを象徴してくれる、ライオンの歯がイメージされているそうだ。このエンブレムは現在も受け継がれ、車にもキッチン用品にもライオンの刻印が施されている。
料理人も愛用する、プジョーのミル
彼らのルーツはわかったが、ではなぜプジョーのペッパーミルは多くの料理人からも愛されるほど品質に定評を得ているのだろうか。その秘密は、プジョーの強みでもある切削加工技術を活かした刃の構造にあるという。
プジョーのペッパーミルの一番の特徴は、螺旋状の歯が二重に取り付けられている「二重螺旋構造」。上部を回すことで胡椒の粒を歯に食い込み下部に誘導、その後固定して砕く、という仕組みだ。この仕組みによって、固いスパイスが軽い力でも均一に挽くことができるそうだ。さらにパワフルなプジョーの歯で挽かれた胡椒は香りも引き出され、風味が豊か。プジョーが持つ製鋼技術がいかんなく発揮された仕組みなのである。
シンプルなパスタだからこそ、胡椒で変わる
目玉焼き、スープ、サラダなど、さまざまな料理で活躍する胡椒。最後にとりあえず胡椒をかけておけば味が締まるという安心感に、私は何度救われたことだろう。ちなみに、胡椒の香り成分である「βカリオフィレン」には、神経をリラックスさせ、怒りや不安を和らげる作用があるという。胡椒の香りは食欲をそそるだけではなく、思わぬ形でも私の日々をサポートしてくれていたようだ。
今回せっかくそんな胡椒の味をさらに引き出してくれるミルを手に入れたのだから、いつもとは違う、胡椒が主役の料理をしたいという願望が沸々と湧いてきた。そんな私の頭に浮かんだのが、カチョ・エ・ペペという名のパスタである。
カチョ・エ・ペペはイタリアの首都ローマの名物料理で、料理名のcacioは「チーズ」、pepeは「胡椒」を意味する。その名の通り、チーズと胡椒のみで作るとてもシンプルなパスタなのだ。パスタというと思わずベーコンやらトマトやらを入れたくなるけれど、私はこれを知って以来、パスタは調味料だけでも十分おいしいことを知った。ただし具がない分、カチョ・エ・ペペはとにかく風味が命だと私は思っている。小麦の素朴な風味を土台に、チーズのまろやかな香りが加わり、そして胡椒のスパイシーさが料理を引き締めてくれるのだ。
作り方はとっても簡単で、茹でたスパゲティをオリーブオイルと塩胡椒、それからペコリーノチーズとゆで汁で和えるだけだ。私の場合はここにバターも少し入れる。
仕上げにガリガリという小気味の良い音とともに、ペッパーミルを挽く瞬間がたまらない。音とともに胡椒の風味が鼻をかすめ、やはり挽き立ての香りは全然違うと思わされる。
決して豪華な食事ではないのに、五感を刺激するペッパーミルの音と胡椒の豊かな風味があるだけで、とても「通」な食事をしているような気がしてくるから不思議だ。
今回は料理の仕上げに使ったため、一番粗い挽き方にしたが、粗さの調節は6段階から選ぶことができる。ミルの下部に取り付けられたダイヤルを回すだけで調節が可能で、数字が大きくなるほど粒が粗くなるのだ。サラダやパスタなど仕上げにかけるときは粗め、スープなどの仕込みに使うときは細かくと、挽き方も極めてゆくと、これからの料理がさらに楽しくなりそうである。
テーブルやキッチンに置いておくだけで絵になる
プジョーといえば、まるで彫刻のような美しいフォルムも有名だ。サイズは12、15、18、22センチとあり、私はあえて少し存在感のある18センチを選んだ。食卓に高さのあるものが加わるだけでテーブルコーディネートのポイントになるし、挽くときも両手でしっかりと握りやすいと思ったのだ。
さらに、素材は木製のもの。他にもアクリルやステンレスのものや、電動のものも取り揃えられている。どれも共通しているのが、曲線を活かした優雅なフォルムと、無駄のないシンプルさ。プジョーをキッチンやテーブルの上に置いておくだけで、空間まで上質になったように感じられる。
プジョーのミルは、ギアの加工、木の削り出し、塗装、仕上げに至るまで、すべてフランスとスイスの国境あたりに位置するカンジェーにある自社工場で作られ、現在世界80か国以上に輸出されて愛されている。
丁寧に作られたミルは耐久性にも優れているため、一度買ったら長く使い続けることができるそうだ。そこまで料理に興味がない人にとっては思わず「高い」と思ってしまう値段だけれど、使う頻度の高さや使う年数を考えたら、一度手にとってみても損はないように思う。
何気ないものだけれど、意外と出番が多い胡椒。そんな胡椒をより風味豊かにするだけで、料理の時間も食事の時間ももっと楽しくなるはず。手の込んだことをしなくても、簡単に料理を格上げしてくれるペッパーミルを、ぜひみなさんも手に取ってみてはいかがだろうか。
PEUGEOT PEPPER MILL
CURATION BY
東京都出身。フリーの編集・ライター。フランスと日本を行ったり来たりの生活をしている。