Vol.647

MONO

29 APR 2025

環境にやさしく、よく消える。 ホタテの貝殻から生まれた「モノナチュラル」

ZOOMLIFEを運営するトーシンパートナーズが展開するマンションブランド「ZOOM」シリーズは、2014年度から11年連続・計18棟で「グッドデザイン賞」を受賞している。グッドデザイン賞は、日本で唯一の総合的なデザイン評価・推奨の仕組みで、「Gマーク」とともに広く親しまれてきた制度だ。今回はそれに関連して、2024年にグッドデザイン賞に輝いた、ホタテの貝殻から生まれた消しゴム「モノナチュラル」を手がけた株式会社トンボ鉛筆を取材した。ホタテの貝殻は、埋め立てると土壌に塩分が溶け出し、環境汚染につながるとされており、有効活用の取り組みが注目を集めている。モノナチュラルは、どのような背景とプロセスを経て誕生したのだろうか。記事を通して、モノナチュラルに込められたメッセージを感じてほしい。

ホタテのチカラを活かした消しゴム

モノナチュラルは、ホタテの貝殻粉末を使った、環境にやさしい消しゴムだ。消しゴムの主な原材料は、塩化ビニル樹脂、可塑剤、研磨剤の3つに分けられるが、この製品では研磨剤の一部としてホタテの貝殻粉末が活用されており、”消す力”にしっかりと貢献している。

従来は鉱物由来だった粒子を、バイオマス由来材料に変更した
トンボ鉛筆の代表格である「MONO消しゴム」は、優れた機能性と高いシェアを誇り、業界でもトップクラスの評価を得ている。今回のモノナチュラルは、環境に配慮した製品でありながら、消字力はMONO消しゴムに引けを取らない。軽やかな使い心地が特徴で、使ってみた感触からモノナチュラルを選ぶ人も少なくなさそうだ。

業界トップシェアを誇る、MONO消しゴムのシリーズとして誕生した
また、バイオマス素材を一定量以上含んだ製品に与えられる「バイオマスマーク」を、MONO消しゴムとして初めて取得した点も見逃せない。本体は、ホタテ貝殻由来のやさしい色味。消しゴムを包むスリーブも柔らかなベージュで、温もりを感じさせるデザインである。

消しやすさはそのままに、エコな消しゴムをつくる

モノナチュラルは、昨今の環境問題やSDGsへの関心の高まりを受けて、「環境に配慮しつつ、消しやすい消しゴムをつくろう」という開発部の発案でスタートした。トンボ鉛筆ではこれまでにも環境配慮型の消しゴムを製造した実績があるが、塩化ビニル樹脂を合成ゴムに置き換えるなどの対応で、どうしても消字力が弱まってしまっていた。「環境に配慮している」だけでは製品は選ばれにくい。機能面やデザイン面の魅力も重要であり、新しいエコな消しゴムをつくるというチャレンジが始まった。

スリーブの色味はデザイナーや印刷会社と幾度も調整を重ねた
モノナチュラルの企画を担当した、マーケティング本部プロダクトプランニング部のプランナー・木村晋也さんによれば、環境に配慮した素材を使用しながらも、MONO消しゴムと同等の消字力を実現するためには、開発部で生地の配合について何度も検討を重ね、調整を繰り返したという。

さらに、時間をかけてアイデアを練ったのが、スリーブのデザインとネーミングだった。一般的な消しゴムのスリーブには、青や緑、黒などの色が多く使われている。ホタテが海の生物であることから、青や水色がよいのではないかという意見も社内にはあったが、デザイナーと相談しながら、文具としては珍しい淡いベージュを採用した。ベタ塗りにしないことで、ナチュラルな雰囲気に仕上げている。

そっと日常に溶け込む、やわらかな色合いのスリーブ
ネーミングも、素直に考えれば「エコ消しゴム」となりそうなところを、「エコ」という言葉が環境訴求を強く印象づけてしまうことから、あえて「ナチュラル」という言葉を選んだ。社内ではほかの意見もあったが、木村さんの「環境に強い関心を持つ人だけでなく、見た目に惹かれて購入する人にも届けたい」という思いが決め手となり、この名称に決定した。

スリーブの裏面には、ホタテ貝殻等のバイオマス素材を使用していることが記されている。見た目がかわいいと感じて手に取った人が、環境への意識を高めるきっかけにもなるような、自然な導線が仕掛けられている点も特徴である。

ナチュラルな色味が、店頭でもひときわ目を引く

“日常使いの文具”が意識を変えるきっかけに

トンボ鉛筆は、文具づくりにおいてデザイン性を重視しており、これまでにも国内外で数々のデザイン賞を受賞してきた。製品ごとにコンセプトに合った賞を選んで応募するようにしているそうだ。なかでもグッドデザイン賞は、単にデザイン性や表現力だけでなく、時代性や社会課題への取り組み姿勢も重視されるため、「モノナチュラル」との相性がよいと考えて応募することにした。

マーケティング本部プロダクトプランニング部 部長の佐藤和明さんに審査員の講評を共有してもらった。「環境配慮型の製品でありながら使用感を損なっていない点」「身近な日常の文具を通じて、利用者の環境への意識を高めるきっかけになる点」などが高く評価されたという。誰もが知るMONO消しゴムのシリーズとして生み出されたからこそ、より多くの人へメッセージを届けられるのかもしれない。

身近な文具が環境への意識を高めるきっかけに
また、佐藤さんはデザイン賞を受賞することについて、「受賞の積み重ねでブランドイメージの向上につながるし、実際に販売促進や採用活動でもその効果を感じることが多い」と語る。モノナチュラルの受賞は、トンボ鉛筆のデザイン力の高さを示す、ひとつの嬉しい証になったようだ。

受賞の知らせに笑顔を見せる、プランナーの木村さん

書くことで整う心

実際にモノナチュラルを使ってみたところ、話に聞いていた通り、軽やかな使い心地で驚いた。紙の上をすっと滑る感覚が心地よく、消し跡も残らない。

私自身の日常を振り返ってみると、思考を整理したいときには必ずペンと紙を手に取り、思いついたことを書き出したり、図にしてアイデアをまとめたりしている。そのほうが自然と手が動き、思考が深まるからだ。

鉛筆と消しゴムを使う機会は以前より減っているが、今回はあえて「書く」という行為そのものを意識してみようと考え、文字の練習帳を用意して取り組んでみた。思うように書けずもどかしさもあったが、ゆったりとした時間の中で心が穏やかになり、時にはこういう時間も良いものだと感じた。

柔らかな芯の感触が、手書きの実感を深める
モノナチュラルは全国の文具店や量販店で購入できる。店頭で見かけた際には、今回の開発ストーリーを思い出しながら、ぜひ一度手に取ってみてほしい。

使い手に寄り添うモノづくり

取材を通して、鉛筆の需要は減っているものの、シャープペンシルやマーキングペンの需要が牽引して、筆記具全体の需要は堅調なことを教わった。一つの仮説として、さまざまな職業でロボット化が進み、人が知的生産者に回ることで、ペンを使う機会が増えているのではないかという。

トンボ鉛筆は、製品を通じて常識や習慣を革新し、お客さまに心躍る発見や喜びを届けることをミッションに掲げている。長い歴史の中で、常に高い機能性とデザイン性を追求し、革新を続けてきた。モノナチュラルはその一例なのだろう。

100周年を機に刷新されたトンボマーク。モノづくりへの探究心が表現されている
グッドデザイン賞を受賞した製品は他にも数多くある。グッドデザイン賞のマークを見かけたら、デザインだけでなく、その製品が生まれた背景にも注目してみると、新たな発見があるかもしれない。

トンボ鉛筆|モノナチュラル

大サイズ:165円(税込)/小サイズ:99円(税込)
公式サイト:https://www.tombow.com/products/mononatural/
2024グッドデザイン賞:https://www.g-mark.org/gallery/winners/21586

「ZOOM」シリーズのご紹介

本記事で紹介したモノナチュラルと同じく、グッドデザイン賞を受賞しているのが、トーシンパートナーズが展開するマンションブランド「ZOOM」シリーズである。

「ZOOM」シリーズは、「SAFETY(安全で、安心する)」「SENSE(センスが刺激される)」「PRACTICAL(実用的で使いやすい)」という3つの価値をコンセプトに、都心での上質な暮らしを提案している。

2024年度は、「ZOOM麻布十番」「ZOOM広尾」の2棟がグッドデザイン賞を受賞している。それぞれ、都心部という制約の多い立地の中で、暮らしやすさと美しさを兼ね備えた設計上の工夫が評価された。麻布十番は構造の工夫によって開放的で自由度の高い空間を生み出した点が、広尾は高層ビルと住宅地の間に自然に溶け込む設計が、特に高く評価されている。

トーシンパートナーズ|ZOOM麻布十番

トーシンパートナーズ|ZOOM広尾

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