現代なら大量生産できないような意匠があり、すべてが1点物
家具に使用されている木材も、現在は環境保護のために伐採禁止となった木材が使用されていることが多い。北欧アンティーク家具でよく見かけるチーク材はまさにそれ。世界三大銘木の1つに数えられる高級木材で、木目や色味が非常に美しいことが特徴。天然・無垢材のチーク材がふんだんに利用されているアンティーク家具は、長年の歴史を重ねてきた中で木材がいい感じにエイジングを重ねており、唯一無二の艶と輝きを放つ家具となっている。
以前に紹介した Herman Miller社のAeron Chair は、デスクワークのための椅子であり、機能性に重きが置かれた “キングオブ機能性” の椅子だったが、北欧アンティーク家具はそれとは真逆の存在。機能性よりも、材質や各パーツの細部までにこだわり抜かれた意匠、シンプルな使いやすさを追求したものが多い。家具をデザインしたクリエイターの魂を感じずにはいられない。
世界中で愛される「Aeron Chair」の快適さ。それは課題解決から生まれた。|ZOOM LIFE
安くはない家具だからこそ、大事に使いたいし後世に残していきたいと思える。そして、長年どこかの国で誰かの手によって大切に使われてきた家具を、今度は自分が引き継ぎ、後世につないでいく。リサイクルやSDGsといった言葉では表現しきれない「物への愛情」がそこには詰まっている。
デンマークを代表するデザイナー ハンス J. ウェグナーの想い
“椅子の巨匠”として知られており、その生涯で500脚以上の椅子をデザインしている。そして、その多くが名作椅子として国際的に高い評価を受けているのだから凄い。
彼の家具の特徴は、とてもシンプル。必要すぎる機能がない。無駄を排除し、利便性を重視している。シンプルな美と使いやすさを追求し、「家具とは生活に馴染むものだ」と言わんばかり。生活の中で邪魔にならない、身近な存在になれる家具を目指してきたのだと思う。
そんな点が、時代を超えても世界中で人気を博し、親しまれている理由だと言える。
無駄がないデザインで利便性も併せ待つ、デイベッド
GE258(デイベッド)
ソファとしては広々とした座面でリラックスでき、天板はちょっとしたテーブル代わりになる。ヘッド部分を上げればクッションやブランケットを収納しておくことも可能。片手でひょいっと背もたれを持ち上げれば、あっという間に座面のマットレスはベッドへと早変わり。ベッドということもあり、座面は傾斜のないフラットな設計。ソファの上で横になることもできるし、広々としたサイズゆえに3人で座るならゆとりたっぷりのスペースがある。
唯一無二のデザイン。アイデアが詰まった椅子とソファ
CH29(Sawbuck Chair)
CH29を初めて見る方の中には、「これは折りたたみの椅子だ」と勘違いされる方も多い。折りたたみ椅子は持ち運びしやすいように軽量化がされた形状となっているが、このCH29も軽量化を目的としており、このような形状になっている。
GE40(2Pソファ)
機能的すぎず、極端にシンプル。だからこそ、現代にも残っている
北欧アンティーク家具の凄い点は、製造から60年以上経った今でも残っていることである。残っている理由は間違いなく、良いものだからに違いない。実際に日常生活で使用してみて、その素晴らしさは実感できるし、この家具を私も後世に残していきたいという想いも芽生えてくる。そうやって良い家具は、人から人へと受け継がれていくのかもしれない。
この記事を読んで、北欧家具の魅力に少しでも気づいていただけたら、こんなに嬉しいことはない。ハンス J. ウェグナーでなくても、アノニマスデザイン(芸術家やデザイナーによる特別なものではなく、名もなき職人によって造られたもの)でも、かなり秀逸なデザインの家具は多数存在するので、ぜひお近くの北欧家具店でその奥深さを確かめてほしい。