Vol.511

MONO

09 JAN 2024

世界中で愛される「Aeron Chair」の快適さ。それは課題解決から生まれた。

世界中の経営者やクリエイターが愛用している、Herman Miller社のAeron Chair(アーロンチェア)。人間工学や人体の運動理論に基づいて設計された、高機能ワークチェアの代表格と言っても過言ではない製品である。布や革などの生地を一切使わずに、背面および座面にはメッシュ素材を使用しているのが特徴で、身体にフィットして弾力のある座り心地は、アーロンチェアでしか感じられない唯一無二のもの。この快適性の背景には、座る人たちが直面する課題の解決があったことはご存知だろうか。開発背景と実際に使用した機能面などをご紹介したい。

アーロンチェアとは

その威風堂々たる佇まいは、まさにキング・オブ・チェアー
Aeron Chair(アーロンチェア)は、1994年に誕生。アメリカ合衆国に本拠地を置く、イームズシェルチェアなどで知られるアメリカを代表する家具ブランド、ハーマンミラー社から発売されている。ニューヨーク近代美術館MoMAの永久コレクションに選定され、2011年にはグッドデザイン賞の特別賞、ロングライフデザイン賞も受賞。デザイン面でも高く評価されている、キング・オブ・チェアーだ。

国内外で数多くの有名クリエイターが愛用しており、日本では『ワンピース』の尾田栄一郎さんや『デスノート』の小畑健さん、『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦さん、「ハンター×ハンター」の冨樫義博さんが愛用していることを過去に公表している。

名作椅子は、課題解決から生まれた

アーロンチェアの“アーロン”とは空気の意味。見た目もかなりエアリーである
アーロンチェアの開発に携わったのは、2名の家具デザイナー。ビル・スタンフとドン・チャドウィック。

ビル・スタンフは1960年代からウィスコンシン大学で教鞭を取りつつ、整形外科および血管系の専門家と共同で、理想的な椅子の座り方についての研究に従事していた。

一方、ドン・チャドウィックはマテリアルと製造プロセスにこだわりを持つデザイナー。ワークチェアの研究開発時に老人ホームを訪問し、長時間寝ている姿勢をとり続けることで発生する「床ずれ」で悩む入居者を目の当たりにする。その光景をヒントに、メッシュ素材を採用することで、長い時間座ると身体を痛める問題を軽減することに試みる。

2名のアイデアや研究結果を製品開発に落とし込んだ結果、1994年に生まれたのがアーロンチェア。アーロン(Aeron)とは、「空気」を意味するラテン語の「Aero」から取られており、空気のように、人に負荷のかからない椅子でありたいという想いが込められている。

※発売から23年が経った2017年には、ドン・チャドウィックが現代の働く人たちのために機能面をアップデートした「アーロンリマスタード」が発売される。オフィスチェアとして更に使いやすく、快適性も一段と増して進化を遂げている。

腰痛や疲労感を軽減させる技術を搭載

アーロンチェアには、長時間座っても疲れない秘密がある
椅子というプロダクト観点で見た際に、アーロンチェアの素晴らしさを語るのに欠かせないのが、「8Zペリクル・エラストマーサスペンション」と「ポスチャーフィットSL」と呼ばれる機能だ。

8Zペリクル・エラストマーサスペンション

アーロンチェアの大きな特徴は、背面および座面に布や革などの生地を一切使用していないこと。それを可能にしたのが、椅子の全面に使用されているメッシュ素材。

見た目からはわかりにくいが、実は背もたれ部分や座面のメッシュは視覚的に均一な表面でありながらテンションを変えた「8つのゾーン」に分かれている。そうすることで、身体の部位に適した圧力分散を実現し、身体の熱が通過して、快適な皮膚温度を維持するのを助けるとのこと。通気性や理想的な体重分散を実現したメッシュの張り地が、腰にかかる負担を大幅に軽減し、腰痛を起こりにくくするものかもしれない。

視覚的には均一だが、張り地のテンションを変えた「8つのゾーン」に分かれている

触ってみると分かるが、メッシュの部位によって弾力が異なる

ポスチャーフィットSL

背面裏側にある装置も、アーロンチェアの特徴の1つ。硬さを調節できるパッドが、仙骨(身体のバランスを保つ部位)を安定させて背骨の腰部をサポートする。椅子に座った状態でありながら、健康的な立った姿勢と同じような状態を維持させてくれるのだ。

この機能の開発背景には、「オフィスチェアには深く座らずに、前方部分にのみ体重をかけたまま、長時間座って仕事をしているワーカーが多い」というリサーチ結果から開発された機能とのこと。椅子にしっかりと奥まで座らせて、腰をサポートする機能は唯一無二だ。

背面中央にある台形状のものが、ポスチャーフィットSL

ポスチャーフィットSLはダイヤルで硬さを調整可能
背と腰をサポートしないまま前屈みの姿勢をずっと続けると、首や肩こり、頭痛、腰痛などの問題を引き起こすケースが多くなる。前屈みにならずに背骨のカーブを正しく保つためには、人間が立っている姿勢の時と骨盤の角度が同じになるように、背もたれの下方部分と座る人の骨盤部分との隙間をなくして、しっかりサポートすることが重要。通常は、深く腰掛けてもこの部分には隙間ができてしまうが、その課題を解決したのが、ポスチャーフィットSL機能。

この機能は、腰痛治療の専門家であり、人間工学の観点から椅子を研究しているブロック・ウォーカー博士と共に開発された。ブロック・ウォーカー博士は、飛行機やレーシングカーのコックピットの開発に携わるなど、長時間過酷な状況下に置かれる人のことを考えた椅子を数々開発しており、幅広く活躍されている。

自分にいちばんフィットした姿勢で、仕事への集中を継続させる椅子

リクライニングの角度も簡単に調整可能
椅子の座り方は千差万別。だからこそ、座面の高さ調節機能は当然ながら、背もたれが5°前傾する「前傾姿勢を維持する機能」など、座る人ひとりひとりの体型や使うシーンに合わせて細かく調整できる。これもアーロンチェアの素晴らしい点。椅子に自身を合わせるのではなく、自身にとって“最高の座り心地の椅子”へとカスタマイズできるのだ。

前傾チルト調節

執筆作業などデスクワークに集中していると自然に体が前傾姿勢になってしまうもの。アーロンチェアには「前傾チルト調節」という機能があり、背もたれと腰の間にできた隙間を埋め安定感を維持できる。

座面下にあるスイッチをひねれば、前傾モードに

座面が少し前傾になっているのが分かるだろうか

リクライニングの硬さ調節

椅子のリクライニングの硬さ・緩さもカスタマイズ可能。座面下のダイヤルを回すだけで簡単に調節できる。

このダイヤルを回すだけで、リクライニングの硬さを調整可能

アーム角度・奥行き・高さの調節

デスクワークを長時間する人にとって、肘掛けの位置調節は重要であり、非常に気になる点ではないだろうか。アーロンチェアでは、肘掛けのアームパッドの角度や奥行き、高さを自由に調節可能。使ってみてこそ実感できる点ではあるが、これは非常に便利だ。

肘掛けが外向きの状態

肘掛けが内向きの状態

肘掛けが後方にある状態

肘掛けが前方にある状態

アーロンチェアは、デスクワークを続ける人の必需品

この数年でオフィスワークではなく在宅ワークの時間が増えた人は多いはず。特に私と同じように、PC作業の仕事に携わっている人にとって、デスクで椅子に座る時間が非常に長く、どれだけ腰痛に苦しめられてきたことか…。1日8時間以上、椅子に座る日も少なくありません。毎日長時間、自分の身を預ける椅子だからこそ、健康のためにも椅子には是非こだわってほしい。

今回ご紹介したアーロンチェアは、良い製品ではあるが、正直言って価格が高すぎる。しかし、長時間椅子に座ることで発生する身体の痛みを抑えられるかもしれない点を考えれば、費用に見合った十分な価値はあると言えるだろう。

購入後のサポート体制も非常に充実しており、ハーマンミラーおよびハーマンミラーの正規販売代理店から直接購入した場合は、「12年間の保証期間」が設けられている。劣化・消耗部品の多くが無償修理・交換の対象となっているのだ。これは凄い。

デスクワークをする人に是非オススメしたい椅子である、アーロンチェア。使えば使うほど、この椅子にかけた開発者の想いを感じることができるし、腰痛の苦しみからも開放されるはずだ。

アーロンチェア