Vol.520

MONO

09 FEB 2024

作り手の熱を纏う。CIOTAのデニムに込められた思い

近ごろ、世のデニム愛好家を唸らせているアパレルブランドがある。岡山に本拠を構える縫製工場・生地製造販売会社、株式会社shiotaから生まれた<CIOTA>だ。2019年スタートと新興のブランドながら、こだわり抜かれた製品の数々に各所から熱い視線が集まっている。さまざまなアイテムが発売されているが、やはりCIOTAを語る上で欠かせないのが看板商品であるデニムウェア。シルエットはストレート・テーパード・スリムの3種、カラーリングは多いもので8種類も展開されており、その意気込みが伝わってくる。ブランド自らが“世界最高峰の一つ”と銘打つCIOTAのデニムの魅力を、愛用者である筆者よりご紹介したい。

岡山の縫製工場から生まれたファクトリーブランド。CIOTA

四方すべてが丁寧に縫い付けられている、CIOTAのロゴネーム
CIOTAは、服を作る工場から誕生したいわゆるファクトリーブランド。三代にわたってカジュアルウェア製造に携わってきた縫製工場「塩田被服興業株式会社」の設備とノウハウを受け継ぐ、株式会社shiotaより誕生した。

shiotaは岡山に本拠を構えているため、特にジーンズの縫製技術に強みを持つ。その評判は、国内のみならず海外ブランドにも轟いているという。

シルエットは3種、色味は最大8色展開。バリエーションの豊かさもciotaの魅力
そんなshiotaがデザイナーの荒澤正和氏を迎え入れて立ち上げたのが、アパレルブランドCIOTA。荒澤氏は20年間で5社8ブランドのアイテムをデザインした経歴を持ち、その潤沢な知識と技術をCIOTAで遺憾なく発揮している。

世界に誇る縫製技術と、気鋭のデザイナーによるアイデアが、真似のできないCIOTAブランドを作り上げているのだ。

自社一貫生産だから叶う、最高品質のものづくり

ペーパーラベルの言葉を読むと、CIOTAの哲学を感じ取ることができる
CIOTAの特徴は「自社一貫生産」であること。原料の選別から、生地のデザイン、生地織り、洋服のデザイン、縫製仕様の考案、縫製に至るまですべて自社で完結しており、全工程に徹底的にこだわっている。生地やパターンはもちろんのこと、タックボタンやブランドネーム、腰部分に付いているペーパーラベルにまで、作り手の意志が感じられるのだ。神は細部に宿るという言葉どおり、その丁寧に処理されたディテールが製品の完成度をグッと引き上げている。

デニムの聖地である岡山でも、ここまで製造を自社完結させている工場は稀。数多くの競合がいる中でもCIOTAが選ばれる理由は、どこまでも質を追求できるこの体制にあるようだ。

ポケットに付いているリベット(金属パーツ)部分にも「CIOTA」の文字が
ちなみに、自社一貫生産だからこそ中間コストが削減でき、質の割に価格が抑えられているのも嬉しいポイント。どれも最高品質だが、3万円以内で購入できるデニムもある。

「デニムは生地が硬い」という常識を覆す、スビンコットン

実際に穿いてみると、なめらかで柔らかな生地感に驚く
CIOTAのもうひとつの特徴が、デニムなのにまるでカシミヤのように柔らかいこと。実際に穿いてみると、生地が肌に吸い付くような感覚がある。「良いデニムは硬くてゴワゴワしているもの」という常識が覆され、少し驚いてしまうほどだ。

この柔らかさの正体は、CIOTAのすべてのデニムに用いられている「スビンコットン」。スビンコットンとは、世界に流通しているコットンのうちわずか1.5%のみの超希少な綿。インド原産のスジャータ(SUJATA)綿と、カリブ海の島国であるセントビンセント(St.VINCENT)で栽培されている海島綿との交種であるため、それぞれの頭文字をとって「スビン」と名付けられた。

生育期間が長く生育条件も厳しいスビンコットンは、南インドの一部地域でしか栽培することができない。しかし、その環境でじっくり生育されるからこそ綿が細く、長く、強い繊維質に育ち、甘く撚ってもきちんと糸になる。それゆえ、スビンコットンで作られた生地は通常よりもかなり柔らかい質感となるのである。

超希少な「スビンコットン」を使用しているのがCIOTAデニムの特徴
しかしCIOTAのデニムは、単に穿き心地がいいだけではない。往年のヴィンテージデニムをイメージして作られたオーセンティックな見た目が、CIOTAの真骨頂。そのビジュアルを保ちながらも、穿いていて苦しさを感じない質感を実現している。

CIOTAのアイコン商品が、24SSでさらに進化

24SSバージョンの「Straight 5 Pocket Pants」
CIOTAのデニムの中でも、特にアイコン的存在となっているのが「Straight 5 Pocket Pants」だ。1970年代の古着をオマージュした製品で、股上は程よい深さ、そしてワタリは絶妙な太さで裾にかけてストンと落ちるスマートなシルエットとなっている。どんな服にも合わせやすく、普段使いしやすいアイテムと言えるだろう。「Straight 5 Pocket Pants」は発売当初から完成度の高いアイテムであったが、2024SSでさらにモデルチェンジされた。

ヴィンテージストレートジーンズからサンプリングしたボタンフライ仕様
まず生地は、のり抜きや防縮といった整理加工を施さない生機(きばた)に変更。これにより縮みやよれが起こるが、デニム本来の質感や、経年による表情の変化をより感じられるようになった。

生地のヨコ糸に使われているのは、先ほどご紹介したスビンコットン。そしてタテ糸には、本藍によるロープ染色した糸が使用されている。高価な本藍で、しかも大量のロットが必要なロープ染色で染められているデニムは、コストがかかりすぎるためなかなか流通しない。しかしロープ染色を行うことで、糸の中心に白が残る「中白糸」が出来上がる。これがいわゆる“色落ち”につながり、経年変化を楽しめるのだ。その上で、凸凹とした風合いが特徴のセルビッチデニムに仕上げるため、糸は旧式力織機(シャトル織機)で織られている。

こだわりにこだわりを重ねた「Straight 5 Pocket Pants」。これからどのように質感や色合いが変化していくのか、成長も楽しめる一本だ。

旧式の織機(シャトル織機)で織り上げられた、セルビッチデニム

美しさを追求しながらも、ユーザーに優しく寄り添う不朽のデニム

生地、形、加工、縫製すべてがこだわり抜かれた究極の一本
2019年に誕生し、デニム業界のニューカマーとして注目されているCIOTA。しかしCIOTAは、いっときの流行や勢いで終わるようなブランドではない。なぜならどのアイテムも、トレンドではなく「生地」からインスピレーションを受けてデザインされているからだ。デニムの本質を捉えた加工やパターンを追求しながら、これまでのデニムの常識を覆す肌触りや穿き心地も両立させるCIOTAのアイテムは、これからも多くの人に愛されるだろう。

ファストファッションが普及する今、CIOTAのデニムは安い買い物とは言えないかもしれない。しかし、ひとたびこのデニムを日常に取り入れると、その美しさと快適さの虜になる。そして生きもののように経年変化を楽しみ、1つのものを長く愛する日々は、何にも代え難い豊かさを生むはず。触れた瞬間、穿いた瞬間に分かる“違い”を、ぜひ体験してみていただきたい。

CIOTA