Vol.488

MONO

20 OCT 2023

優しく雄大なマッコウクジラをモチーフにした灯り「Cachalot(カシャロ)」

静寂が包み込むような暗く冷たい海の中で、そのたった一頭の存在が、不思議な安らぎを生み、心を優しく温める。 まるで時間の流れまでもを、ゆるやかに変化させるマッコウクジラ。「Cachalot(カシャロ)」は、そのマッコウクジラをモチーフにし、自然界の生命が持つ造形的要素が込められた彫刻的な光のオブジェである。

人々の心や暮らしに寄り添う灯り

豊かな感情に満ちた生活を営んでいるというマッコウクジラがモチーフ
点灯時だけではなく消灯時も、いつ目にしても気持ちの高まるような存在感。創意に富んだ使い方に囚われない自由な灯りが日々を彩る。Cachalotを制作している株式会社アンビエンテックのプロダクトは、「夜が夜であるための」心地よい灯りのあり方を具現化し、夜の落ち着いた静かな空間を、煌々と輝く白い光で均一に照らし出すのではなく、自然界のリズムから感じ取った朝夕の温かみのある光、心をほぐす穏やかな灯りと共に1日を終える満足感を実現。

テクノロジーがどれだけ進化しようとも変わることのない美しく空間を魅了する灯りは、音楽や香りのように、感性や感覚を刺激する存在になると考えられており、今回紹介するカシャロにもそのクリエイティビティとフィロソフィーが込められている。

Cachalotの開発秘話

ダークグレー色のCachalot
今回、Cachalotをデザインしたデザイナーである松山祥樹氏に、Cachalotの制作背景や詳細を伺うことができた。

「開発がスタートした2020年頃は、まさに世界中が混沌の最中で、多くの人が自宅で過ごし、どこかに出かけることや、親しい友人と会うこともままならない状況でした。そんな時だったからこそ、人々の心や暮らしにそっと寄り添えるような灯りの在り方に考えを巡らせていました。周囲を明るくするという機能的側面だけでなく、孤独や不安を和らげ、やすらぎを与え、心を温めるような、そんな存在をイメージしていたときに、生命のフォルムが持つ魅力や、広大な海を泳ぐ1頭のクジラといったイメージを思い浮かべました」と話している。

どこから見ても有機的でなめらかな曲線が美しい
「動物をモチーフにしたオブジェやプロダクトは、遥か昔から人々の暮らしの中に存在し、心地よいアクセントとして空間に彩りを与えてきたと思います。そのため、プロダクトデザイナーとしても、造形の魅力や可能性を探求する上でも、もともと強い興味の対象でした。クジラという生物やその造形的要素は、どこか神秘的な魅力や力を持っていると感じます。巨大な塊としての力強さがありながら、どこか空に浮遊するような軽やかさがあり、静寂が包む暗く冷たい海の中であっても、そのたった一頭の存在が、不思議な安らぎを生み、心を暖め、まるで時間の流れまでもがゆるやかになるような感覚を覚えます」

夜の海を漂う中で、ふいに1頭のクジラに出会う奇跡のような光景や感動のイメージから、マッコウクジラがモチーフに選ばれたのであった。

生命体を象徴するような温かい光

生活空間にやさしく光を灯す
Cachalotの光は、なめらかなシェードのラインと一つに調和して、象徴的な光となって夜の空間に浮かび上がり、暮らしの様々な空間に生命感のある豊かな彩りを与え、寂しさや不安を自然とやわらげる。

マッコウクジラの優しく雄大なフォルムと柔らかな質感のシェードの中で灯るのは、Cachalot のために開発されたオリジナル光源だ。精密な金属加工による極めて繊細なディティールのフレームと調和し、生命体を象徴するような温かい光を放つ。

オリジナルのLED光源。見ていても目が疲れることがなく、自然な温かさを放つ
松山氏は光源についてこう話す。「アンティークの帆船模型を想起するような、精巧なディティールが魅力の光源です。生物のフォルムをモチーフにしたアクリルシェードの有機的な形状とは対比的に、直線的な光のロッドが象徴的に浮かび上がるようなデザインです。低消費電力のLEDなので、実質的にはほとんど熱は発生しないのですが、まるで熱を帯びているかのような、手をかざすと温かみが伝わってくるような、そのような視覚的な温かさをもった光を創っています 」

優しく穏やかな気持ちにさせてくれるCachalotは、暮らしにおける人と灯りとの根源的で普遍的な関係性に気づかせてくれるのであった。

ポータブルなので簡単に好きなところへ持ち運びが可能
光のオブジェのようなイメージで、リビングや寝室、書斎などあらゆる空間の中で、やわらかな光のアクセントとしてカシャロは機能する。窓辺やシェルフ、テーブルの上に置いたり、本や花瓶、他のオブジェなどと並べても心地よく調和するのも特徴だ。「横長のプロポーションなので、一輪挿しなどと並べて置くのが自分は気に入っています」と松山氏は教えてくれた。

純度の高い透き通ったアクリルシェード

純度の高いアクリルこそが表現できる、クリスタルガラスのように透き通ったマッコウクジラの姿は、日中には明るい陽射しのもとで自然な輝きを放ち、そっと人々の日常に寄り添う。これは一過性のものではなく、他の製品同様に末長く使い続けるための素材選びと丁寧なものづくりから生まれる純粋な美しさの証であり、アンビエンテック社の真髄でもある。

大量に生産され短期間で消費されるものではなく、自身の一部であるかのように、愛着を持って長い年月を共に過ごしてほしいという想いが強くあり、修理可能であることはもちろん、末長く質を保ち続けられる素材を選び、大切な資源の価値を最大限引き出すよう仕上げにも配慮しながら、一つ一つていねいに作り上げられている。

亜鉛ダイキャストとアクリルのコントラストが美しい
シェードは特殊な成形方法によるアクリル製で、純度の高いアクリルだからこそが=表現できる、クリスタルガラスのように透き通ったマッコウクジラのフォルムが浮かび上がる。ベースは重厚感のある亜鉛ダイキャストの銅メッキ仕上げで、製品裏面の細部に至るまで、パーツひとつひとつの美しさが際立つ。素材について松山氏はこう語る。

「クジラをモチーフにしたフォルムを美しく表現し、プロダクトとして生産していくために、アクリルという素材を選択しました。厚い部分と薄い部分のグラデーションや美しく磨かれた表面が、光を複雑に反射させながら、豊かな表情をつくっています。ベース部はカッパー色の亜鉛ダイキャストで、手に持った時の重厚感や、光源からの光を印象的に反射させることを念頭にデザインをしました。一つ一つの素材にこだわることで、例えば光を灯さない昼間の時間でも、心地よいオブジェとして存在できるようなプロダクトになっています」

リビングを灯したあとには、寝室にも。その時その時に、好きなところで使いたい
マッコウクジラのコンセプトをより感じさせる色展開で、優しく、温かな灯りが空間に浮かび上がるダークグレー。また、ナチュラルな光の美しさを感じさせ、明るい陽射しのもとで自然な輝きを放つクリアもある。どちらの色も広い海の中をゆったりと泳ぐマッコウクジラのフォルムが表現され、インテリアにも自然に馴染む。

Cachalotの灯す光を日々の一部に

心地よい灯りで一日を終える
「Cachalotは、エネルギー消費の少ないLEDの暖かな光で、夜の心地よさを改めて気づかせてくれます。また用いられる素材のほとんどは、永く使え、かつリサイクルが可能なサステナブルな素材で構成されています。長く愛着を持って使って頂けたらと嬉しいです」と松山氏は話す。

点灯していないときはオブジェとしても楽しめる、Cachalot。優しく悠々としたフォルムと、自然界のリズムと調和した光、心をほぐす穏やかな灯りと共に一日を過ごす。少し部屋を暗くして、このCachalotの光を灯しながら、静かな夜の時間を楽しんでみてはいかがだろうか。

Cachalot