Vol.382

MONO

14 OCT 2022

見て、触って、食べて。「バーミキュラ ビレッジ」でメイド・イン・ジャパンのものづくりを体験

日本の町工場が作り上げた鋳物ホーロー鍋が、その気密性の高さにより無水調理ができることで話題となり、今や世界でも人気を集めていることをご存じだろうか。純国産の鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ」は2010年に誕生し、一時は生産が追い付かなくなったことも。そんな「バーミキュラ」を体験できる複合施設があり、2021年には代官山に2号店が誕生しているという。愛知・名古屋にあるその施設を訪ねてみると、鋳物ホーロー鍋は料理が得意な人が持つ鍋というイメージがあったが、バーミキュラは料理が苦手な人こそ使うべき製品だということがわかった。忙しいZOOM読者におすすめの製品も紹介しながら、職人技の凄さを体感でき、暮らしを変えるきっかけとなる場所を案内していく。

バーミキュラとは?そのルーツ、特徴について

バーミキュラを開発した「愛知ドビー」のルーツは、80年以上の歴史を持つ老舗鋳造メーカー。ドビー機と呼ばれる繊維機械などを作るメーカーだった
今回紹介する鋳物ホーロー調理器具ブランド「バーミキュラ」は、愛知県名古屋市中川区の小さな町工場がルーツ。もともとドビー機と呼ばれる繊維機械などを作る鋳造メーカーだったが、繊維産業の衰退により存続の危機に。そこで三代目社長が一念発起して開発したのが、職人たちが持つ鋳造や精密加工の技術を活かした鍋だった。

鋳物とは金属を溶かし型に流し入れて作る製品のことで、これにガラス質の釉薬を薄く吹き付けて焼き上げるホーロー加工を施すことで遠赤外線効果を高めた鍋ができあがる。バーミキュラの注目すべきは、蓋と本体との接地面の加工を0.01mmの精度で削り込むことで生まれた非常に高い気密性。それにより食材の持つ水分だけで調理することができる無水調理を可能にした。

バーミキュラの製造工程で実際に使われている精密加工の機器。鋳造工程で成型後に職人の感覚で0.01mm単位で調整していく
鋳物ホーロー鍋は海外製のものが主流だったが、バーミキュラが作り上げたメイド・イン・ジャパンの鋳物ホーロー鍋「オーブンポットラウンド」は、その気密性の高さから食材が驚くほど美味しくなると注目が集まり、2010年の発売から数年は予約待ちですぐに手に入らないという状況に。栄養価も逃がさず調理できることも実証するなど、素材本来の味を引き出す鍋として、レストランや料理家など多くのプロも愛用するまでになった。

ひとつの鍋から広がる体験型複合施設「バーミキュラ ビレッジ」へ

フラッグシップショップに並ぶ製品。キッチンの高さとちょうど同じ高さになっていて、その使い心地を確かめられる。引き出しを開けるとおすすめのレシピも案内されている
そんなバーミキュラ ブランドの世界観をもっと気軽に体験できる場所をと、2019年に誕生したのが体験型複合施設「バーミキュラ ビレッジ」だ。建物があるのは名古屋市中川区の、町工場が連なる運河沿い。フラッグシップショップやキッチンスタジオ、ラボラトリーがある「スタジオエリア」とベーカリーカフェとレストランがあり、開放的な空間が広がる「ダインエリア」の2つのエリアからなる。

スタジオエリアには「オーブンポットラウンド」をはじめとする、すべてのバーミキュラの製品が並ぶフラッグシップショップが広がる。ほかにも料理教室が開催されるキッチンスタジオがあり、食にまつわる本が並ぶクックブックライブラリーでは、珈琲を飲みながら本を読むことも。さらに店内の一角にはステージのようなデモンストレーションキッチンがあり、そこではバーミキュラの製品を知り尽くした、バーミキュラコンシェルジュによるデモンストレーションも随時行われていて、バーミキュラ製品で作った料理を試食したり、製品を使って調理を体験することもできる。

スタジオエリアではバーミキュラと同じアルチザンの精神が貫かれたキッチンツールや器などもセレクトして販売
さらに奥にはバーミキュラ製品を作る工程を目の当たりにできるラボラトリーがあり、ものづくりへのこだわりを実際に体感できる場所となっている。こちらは名古屋にしかない施設で、職人の技術の高さやバーミキュラ製品に込められた想いなどを知ることができる場所だ。

バーミキュラの鍋やミニスキレットを型にして焼き上げているペストリー。バーミキュラの製造元直営だからこそできるベーカリーだ
「スタジオエリア」から200mほど離れたところにあるのが「ダインエリア」。バーミキュラの製品を使って焼き上げたパンや料理などを実際に楽しむことができる。「POT MADE BAKERY」に並ぶのは、ベーカリー用に開発した専用バーミキュラで焼き上げた食パンやバーミキュラで作った無水カレーをたっぷりと包んで焼き上げたカレーパンなど。表面は香ばしく、中はもっちりしっとりとした食感のフォカッチャやサクサクした食感とバターの甘みや香りが豊かな「鍋クロワッサン」などもあり、その食感と小麦本来の風味が引き立つ味わいに驚くはずだ。

レストランには薪窯があり、バーミキュラの特性を活かしなが香ばしさがアクセントになった薪窯料理を提供
隣接するレストラン「ザ ファウンダリー」では、プロの技により生み出される季節の食材をふんだんに使った料理がメニューに並ぶ。もちろん、すべての料理はバーミキュラ製品を使って調理したもの。煮込み料理や蒸し料理、ローストやコンフィなど…バーミキュラで多彩な料理を作ることができることに、やはり驚かされる。

2021年には東京・代官山に2号店となる「バーミキュラ ハウス」がオープン。フラッグシップショップやクッキングルームのほか、デリカッセンやレストランがあり、デリカッセンではバーミキュラの料理を手軽にテイクアウトできる代官山限定メニューも。地域の利用者のニーズにも合わせながら、バーミキュラを体験できる拠点としてその魅力を発信している。

料理が得意でない人にこそおすすめ。「ライスポット」の魅力

鍋と専用ポットヒーターが一体となった「ライスポット」。写真のソリッドシルバーなど3色を展開
バーミキュラの製品を店内でいろいろ体験してみたが、忙しくても美味しく体によいものを楽しみたいというZOOM読者の皆様におすすめしたいと思ったのが「ライスポット」だ。2010年にバーミキュラの最初の製品「オーブンポットラウンド」がリリースされたが、「ライスポット」は2016年に発売された、世界一、美味しいご飯を炊くことを目指した製品。バーミキュラの鍋でご飯を炊くととても美味しい、という声から生まれたものだ。

ご飯を鍋で炊くときには、火を止めるタイミングや火加減など少しコツがいるが、専用ポットヒーターで火力を管理することで、誰でも簡単にボタンひとつで鍋炊きご飯が楽しめるようになった。

「ライスポット」は鍋を包み込むように加熱するので、かまどで炊いたような粒が立ち、香りが良い、米本来の美味しさが楽しめるご飯に。さらに冷めても美味しいので弁当やおにぎりでその違いがわかる

コツをつかめば応用も自由自在。レシピのポイント

簡単にかまど炊きようなごはんが楽しめる「ライスポット」だが、料理もいろいろ作ることが可能。その使い方のポイントをビレッジ内のキッチンスタジオで定期的に開催されている料理教室を実際に体験しながら教えてもらった。フラッグシップショップでは500円以内で気軽に参加できる短時間料理体験TOUCH&COOKも毎日開催していて、気軽にバーミキュラ料理の美味しさに触れることができる。

今回作るのは、野菜たっぷりのミネストローネ。野菜の水分だけで、しかも調味料は塩胡椒だけで、食材の旨みの詰まったスープを作る。まずポイントとなるのが具材の切り方だ。

水を一切入れない代わりに、野菜の量はたっぷり。野菜の甘みや旨みが調味料の代わりとなる
使用する野菜は、人参、玉ねぎ、茄子、ズッキーニ、トマト。すべて小さめのさいの目に切る。細かくカットすることで水分が出やすくなるので、無水調理するときには小さめに切るのがポイントになる。ほかにはみじん切りにしたニンニク、ホールトマト缶、さいの目に切ったベーコン、ローリエを用意する。鍋を弱火にしたら、オリーブオイルとニンニクを入れ、香りがでるまで炒める。その後ベーコンを炒め、野菜を順番に入れていく。

「ライスポット」の火加減調整はポットヒーターにおまかせ。30℃~95℃まで1℃刻みで温度設定が可能
次にポイントとなるのが具材を入れる順番。水分の出やすいものから順に平らにしながら入れていく。底に熱源があるので、下に水分の出にくいものを入れてしまうと焦げ付きの原因となるのだ。入れる順番は、生のトマト、玉ねぎ、茄子、ズッキーニ、人参、水煮トマト缶。あとは塩胡椒をし、ローリエをのせて、蓋をしめ50分のタイマーをセットして待つだけだ。

鍋の特性を知ることが使いこなすコツとなる
50分後に蓋を開けてみると、野菜の水分だけとは思えないほどスープがたっぷり。遠赤外線の効果により食材の繊維を壊さず加熱できるので、カットした野菜は煮崩れせず、食べると柔らかい。「ライスポット」をはじめとするバーミキュラの鍋で作った料理の特徴と言えるだろう。

調味料は塩だけだが、野菜やベーコンの旨みが引き出され、奥深い味わいに。バーミキュラの鍋を使うと、調味料が少なくて済むので体に優しい料理を作ることができる
ほかにも「ライスポット」ではさまざまな調理ができる。バーミキュラを製造販売する愛知ドビーの社員の方々におすすめの料理を尋ねてみると「カレー」や「豚汁」などがやはり美味しいとか。シンプルな素材の旨みが詰まった料理が本当に簡単に美味しくできるのだ。野菜のローストや温泉卵といった簡単な料理はもちろん、茶碗蒸しやローストビーフ、さらにオーブンを使わずに発酵から焼成までライスポット1台でパンを焼くこともできる。絶妙な火加減調整が可能なので、誰でも簡単に、失敗なく作ることができるのが最大の魅力だ。

チャーハンなどの炒め物もOK。一定の温度に保つことができるので、火力が弱まることなく、パラパラのチャーハンが出来上がる

鍋で暮らしが変わる。そのきっかけになる場所へ

代官山にある「バーミキュラ ハウス」
名古屋でも代官山でも料理教室はとても人気で、これから購入しようと思っている人だけでなく、すでに愛用している人も多く通っているという。さらにバーミキュラ専用のレシピアプリも展開するなど、長く使い続けることができる耐久性を備えているのはもちろん、日々の料理に活用できるレシピのアイデアを提案してくれるところもバーミキュラが愛されている理由だろう。「バーミキュラ ビレッジ」ではリペアの受付もしていて一生使える品質への自信と製品への責任を感じることができる。

世界各地へも進出していているバーミキュラ。アメリカでは「ライスポット」を「VAMICULAR Musui-Kamado」という名前で販売していて、グルテンフリーや和食に関心がある人々に人気を集めているという。また韓国ではヌルンジと呼ばれるおこげが人気ということで、おこげを作るボタンを組み込んでいるとか。各地域ごとに仕様を少しずつ調整することで、世界中に愛用者を広げている。

世界一、素材本来の旨みを凝縮することを目指したフライパンも。煙のように見えるのは蒸気。食材の余分な水分を一気に蒸発させることができる
バーミキュラの製品は、職人技が落とし込まれているのはもちろん、細部のデザインや周辺アイテムにも、アルチザンな探求心が詰め込まれていて、鍋ではあるが、上質な暮らしのシンボルになっているように感じた。鍋で暮らしが、食が変わる。それを実感できる場所へ。まずは、その料理を食べてみて、製品を触ってみて、驚きのバーミキュラ体験をしてみてほしい。

愛知・名古屋「バーミキュラ ビレッジ」

東京・代官山「バーミキュラハウス」