「TILE KIOSK(タイルキオスク)」はタイルを購入できるウェブショップだ。「売店」「ニューススタンド」などの意味を持つKIOSKだが、その名の通りTILE KIOSKでは気軽に一枚から建材であるタイルを購入できる。窯元に眠っていたデッドストック、長い間作り続けられているものから新しく生まれたもの、時には実験的に作られた希少なプロトタイプまで、色や形、サイズ、年代も実にさまざまなタイルを販売している。その魅力を紹介したい。
日常にタイルを。TILE KIOSKの誕生秘話
TILE KIOSKで現在販売しているタイルは、主に岐阜県多治見地区のもの。岐阜県多治見市を拠点とする株式会社エクシィズが運営しており、世界中の建築家やインテリアデザイナーのためのオーダーメイドタイルのブランドTAJIMI CUSTOM TILESをはじめ、多治見ならではの技術、色や形などの表現力の豊かさにこだわった特注タイルの製作、タイルを中心とした建材の輸出入を行なっている。
社内には多彩なタイルサンプルを製造できるラボを併設しており、多治見一帯の複数のメーカーと協働し、安定した生産環境を保持しているという。長年リサイクルタイルの生産の仕組みを開発するなど、サスティナブルな取り組みにも力を入れているのも興味深い。TILE KIOSKの広報担当のdaily press竹形氏にTILE KIOSKの誕生秘話を伺った。
「建材であるタイルは、これまではプロの方が何平米いくらという形で扱うアイテムで、一般の方が身近に手にとってタイルの楽しさを感じるという状況はありませんでした。しかし、そもそもの使い手である一般の生活者の方に『もっとタイルの魅力を知ってもらえたら、今後もっとたくさんの方が生活する空間の中に、多治見地区の表現力豊かなタイルが施されていくのではないか?』と考え、ではまずは一枚からでも手にとって買えて、好きなように生活の中に取り入れることができる『TILE KIOSK』を始めようということになりました。」
タイルとの一期一会との出会いを楽しむ
タイルはご存知の通り、石や粘土からなる生地を高温で焼成し、釉薬によってデザイン性や機能性を付加した外装材、舗装材、化粧材のことを指す。TILE KIOSKが扱うタイルの産地である多治見地区は、良質の粘土鉱物を含む豊かな土壌を有したことから、約1300年前に焼き物文化がはじまり、長い歴史のなかで日本を代表する陶磁器である美濃焼が誕生し、多治見地区のものづくりの可能性を大きく引き伸ばした。このような背景のもと20世紀初頭に始まったタイル製造は、岐阜県を代表する産業となり、総合生産量は全国1位、モザイクタイルに至っては国産の9割を多治見地区で製造しているという。
多治見タイルの特徴は、圧倒的な生産力だけではなく、素材、成形、釉薬にいたるまで、さまざまな形態や特性のメーカーが多治見のものづくりを支えているという。さらに、日本の伝統的な焼成技術、変化に富んだ釉薬表現、それを支える設備や生産方法が残っているのも特徴だ。日本の伝統的な陶器の風合いにも通じる、温かみ、手仕事感、独特なテクスチャーや施釉による色の出方などが特徴の多治見地区のタイル。 色や風合いに出るムラが豊かな表情を醸し出し、日本的な美しさの概念を感じさせる。
「TILE KIOSKが販売しているタイルは、形や釉薬の表現など、多治見のタイル製造の技術や表現力の可能性を伝えてくれるものです。なおかつ、日常の生活で何かに使用したり、アートとして飾ったり、何に使おうかなと想像を豊かに膨らませてくれるようなタイルを揃えています」と竹形氏は話している。
デッドストックや、サンプルなど一点ものも多数あり、TILE KIOSKが抱えるタイルの数は随時変化する。既存の商品、デッドストック、かつて実験の中から生まれたサンプル、新作などいつもいろいろと混在しており、常時130種類ほど、最大で150種類ほど揃えているという。今、この瞬間に手にできるタイルとの一期一会との出会いを楽しめるのも、TILE KIOSKの魅力である。
異なる表情を持つタイル
タイルといえば幼い頃に通った銭湯を思い出す。壁一面に規則正しく並び、びっしりと敷き詰められた白色のタイル。浴槽の中に貼られた水色と青色の小さなモザイクタイル。タイルが整然と並んでいる姿が無機質で少し怖かったが、つるつるとした感触が面白く、湯船に入りながらおそるおそるタイルを触っていた記憶がある。祖父母の自宅の浴室や洗面所にも黄色や赤、茶色などのタイルが敷き詰められており、幼少期の生活とタイルは密接していた。
しかしTILE KIOSKのタイルを実際に手に取ると、幼少期の記憶と違った。これはタイルなのか?と思うほど、私が知っていたタイルではなかったのだ。一つ一つ眺めているだけでも楽しく、アートピースのよう。デザインやフォルムの美しさに惚れ惚れしてしまう。そのまま飾ったり、小物入れとして使用したり、オブジェとして飾ったり、コースターにしたり、さまざまなアイデアが浮かんでくる。
TILE 1<TK-MS-00209>
白い釉薬の模様が面白く、そのまま壁にアートとして飾っても素敵な風景をもたらしてくれそうな少し大きめのタイル。熱い器やお鍋などを置くプレートとしても。
TILE 2<TK-OH-00072>
生地の中にあえて鉄粉をまぜこみ、斑点をつけているという正方形のタイル。薄く釉薬を施して侘び寂びを感じるテイストに仕上げている。清潔感のある淡いグリーンが美しい。鉄粉の反転、特有の光沢、冷却時に生じた釉薬のひび模様である貫入が合わさり、その不思議なテクスチャーは見ていて飽きない。
TILE 3<Cove Pink>
ロンドンをベースに活動するデザイナー、マックス・ラムが、先述したTAJIMI CUSTOM TILESとのコラボレーションしたタイル。上品なピンクの釉薬が施してあり、優しくも力強い佇まいのあるタイルだ。幅18cmあり存在感もあるため、オブジェとして飾ればインテリアの中心にもなる。
TILE 4<TK-SU-00047>
釉薬の表情が芸術的な正方形のタイル。夜明け雲のような薄明な空のよう。一見モノトーンのシックなタイルに見えるが、グレー、乳白色、青、紫、黒、ベージュの混ざった奥深いカラーをしており、模様も独特で見ていて飽きない。
TILE 5<TK-KZ-00040>
一品一品手仕事で作り出した筒状のタイル。セミマットなテクスチャーが心地よい。ペンや歯ブラシを置いたり、一輪のドライフワラーを飾ったりしたい。覗いてみれば何かが発見できるかも。ペーパーウェイトにもおすすめ。
TILE6 <TK-SU-00051>
小さな粒状の原料を大きな圧力で押し固めて作られた長方形のタイル。細い縦縞が特徴的で、トレーとしてアクセサリーや小物、鍵置きにぴったりなサイズ。グレイッシュなブルーはシックで落ち着いた印象があり、インテリアにもなじみやすい。
TILE 7<TK-MS-00359>
ところてんのように、土を押し出して作られたというタイル。トレーとして使ったり、お菓子や前菜を添えてテーブルコーディネートを楽しみたい。青と白のコントラストが美しく、爽やかで涼しさや夏っぽさも感じられ、今の季節にオブジェとして飾りたくなるタイルだ。
TILE 8<TK-MS-00212>
板状の粘土からひとつひとつ後ろから押し込んで凸を作ったタイル。ポコポコ湯が沸いているようなツボ押しのようなデザインで非常にユニーク。オブジェとして飾るのはもちろん、マッサージにも使えるという。
8個だけでもこんなに表情豊かなTILE KIOSKのタイル。正面、横、斜め、背景とさまざまな角度から見るとまた違う表情を出し、違うタイルを合わせればまた異なる表情を生む。作り手と自然が織りなす奥深く豊かな造形の虜に。
自分だけの一枚、自分だけの使い方を見つけたい
TILE KIOSKのタイルは見ていて飽きることがなく、使い方も限定されていないため、部屋のどこに置こう、次はどの使い方にしよう、と考えながら過ごすのが楽しい。オリジナリティ溢れたTILE KIOSKのタイルを自宅に迎えると、最初は違和感があるものの、タイル独特の素朴で純粋な佇まいが、徐々に空間に安心感を与えてくれるようになる。小さいものでも不思議な魅力とインパクトがあるTILE KIOSKのタイル。是非手にとってお気に入りの一枚を見つけてみてはいかがだろうか。
TILE KIOSK
CURATION BY
東京生まれ。フリーライター・ディレクター。美しいと思ったものを創り、写真に撮り、文章にする。