「虫眼鏡」と聞くと何を思い浮かべるだろうか。黒い柄が付いている大きいレンズのついた虫眼鏡を想像する方が多いかもしれない。物体を拡大して観察する不思議な道具を通して、幼少期にさまざまなものを夢中になって見た記憶を思い出す方もいるだろう。その虫眼鏡をモダンで美しいインテリアアイテムにした「ガリバーフレーム」。大人の好奇心と探究心をくすぐられる魅力を紹介したい。
ひとめ惚れする対象を探す
デザイナーがモノに込めたメッセージを世界に届けるブランド「+d(プラスディー)」を手掛けるh concept(アッシュコンセプト)。同社が主催する「h concept DESIGN COMPETITION 2020(アッシュコンセプト デザイン コンペティション)」にて、募集テーマ「ひとめ惚れ」に応募されたデザイン総数362点のなかから「ガリバーフレーム」は最優秀賞に選出された。
「応募されたデザインはひとめ惚れする『対象』をデザインしたものが多いなか、ガリバーフレームはひとめ惚れする『対象を探す』という他にはない視点があった。日常品として手元に置いた時に、そこから夢が広がるプロダクトであることから最優秀賞として選出した」とh conceptの同コンペティション担当者は話す。ガリバーフレームのデザイナーである熊谷氏にもお話を伺った。
熊谷氏はもともと素材としてレンズに興味があり、小さなものが大きく見えたり、歪んで見えたり、様々な見え方があることから、レンズを使って何か作りたいと考えていた。そんななか、当時3歳のお子さんがはじめて手にした虫眼鏡でいろいろ覗いて遊んでいる姿を見て、「レンズを使えば『ひとめ惚れ』を探すことができるのではないか」という発想に至ったという。
まざまなひとめ惚れを「見つける」だけではなくて、「飾る」ということに注力し、虫眼鏡のような単なる拡大鏡のみならず、額縁としての役割を想定してデザインされている。「最初は奥行のある箱型で、その中にひとめ惚れしたものを入れるというアイデアもありました。ただそれではやたらと大げさなものになるのと、五面体で囲うことで中が暗くなってしまうため、中に置いたものを見せるには、もう少し厚みの薄い、フレームだけでもいいのではと考え、今のガリバーフレームのデザインになりました」と熊谷氏は話す。
プロダクト名にも入っている「フレーム」。熊谷氏がデザインしたフレームには、どんなこだわりがあるのだろうか。
浮遊感のある不思議な曲線のフレーム
「当初フレームはスチールの焼付塗装で考えていましたが、フレームの中と外の境界線を和らげて連続性を生む半透明の樹脂を採用することにしました」と熊谷氏は話す。
スチールのフレームを想定していたため「なるべくフレームの厚みを薄くして存在を消し、スタイリッシュに」と考えていたそうだが、その考えのまま樹脂素材で試作をしてみると、いわゆるお弁当箱のような印象になってしまったという。そこから曲線や角度を調整して独特の丸み感を出すことに成功し、最終的には樹脂にしかできないやわらかいフォルムに昇華した。
平面部分が少ないために、置いた時に独特の浮遊感が生まれている。小さいながらも存在感を与え、独特な丸みのフレームが空間をやわらかな雰囲気へと変化させる。
また、フレームの素材がスチールから樹脂に変わったことによって、樹脂特有の半透明の色出しにも挑戦することができたという。「スチールで想定していた時の不透明なフレームは、中と外を別世界のようにきっちりと分けられるという良さがありました。一方で、光を通す樹脂の半透明さは境界線が和らぐので、中と外の『連続性』が生まれます。その連続性と、レンズ越しのモノだけが大きく見えるという視覚的な不思議さがかけ合わさることで『フレームの中の物語』が生み出されると考え、半透明を採用しました」。
色はグレー、クリア、ブラウンの3種類。自分の家に置いて馴染むことを考えつつ、樹脂製で繊細な色の製品が多い眼鏡のフレームを参考にしながら色の選定をしたという。グレーは光の当たり方によってさまざまな印象に変化する。太陽光が当たると柔らかい透け感が出てふんわりとしたグレーになり、陽が落ちると深い墨のような印象にも。角度によっては雨上がりの海のような蒼いグレーのようにも見え、フレームの色だけでも変化を楽しめる。
今、目にしているものを新しいものに
ガリバーフレームのスタンダードな使い方としては、お気に入りのアイテムや小さなものの前に立てて使う。置くだけでそのアイテムが違った見え方に変化し、新しいインテリアを自宅に招いたような感覚になる。そのものが持つ新たな一面にも気付かされるだろう。次はどんなものを覗いてみようかと想像したり、新たな発見を楽しんだり、好奇心と思考力が刺激されていく。普段目にするものが大きくなっただけなのに、いつもと違う視点になるためそのものへの興味関心も増していく。
埃をかぶっていた地球儀や昔集めていた鉱物など、これまで特段目にとまることがなかったアイテムを、大きく見せ楽しく飾ることができる。よく生けているお気に入りの花を見てみると、雌蕊と雄蕊の部分が奇妙なテクスチャーで、なぜ私はこの花が好きだったのだろうかとも感じることも。花の持つ印象なのか、香りなのか、色なのか、フォルムなのかなど、好きなものが本当に好きなのかを深掘りする機会にもなる。
単体でそのまま飾れるデザインなので、インテリアとしてよく手に取れる場所に置いておき、さっと気になるものを観察する使い方もできる。置くものの大きさによって、自宅のインテリアの幅が広がり、お気に入りのものも、なんとなく家にあるけど今まで注視していなかったものでも大きくすることで、そのものへの愛着や情熱も変化していく。
持ち運んでさまざまな世界を覗く
新聞や雑誌などの細かい文字が読めるルーペとしてももちろん使え、手のひらサイズのフレームなので、こまめに動かさなくても小さな文字を読むことができ、手芸やプラモデルなど趣味時間にも役立つだろう。フレームに1箇所小さな穴が空いているため、紐を通して首から下げて外へ持ち出すこともできる。ガリバーフレームを手に取って少し離れて遠くを覗くと本来の景色と上下左右が反転するのだが、その世界を覗くのも面白く、小さいものから大きなものまでありとあらゆるものを覗き込みたくなる。
「レンズが大きすぎると余白が生まれて見せなくてもいいものも見える可能性もあるため、手のひらにのせられるスマートフォンくらいのサイズを想定してデザインした」と熊谷氏は話しているが、その手のひらサイズのちょうどいい大きさが心地よく、家でも外でも身近に置いておきたいサイズ感になっている。
玄関に置いて、外で何気なく見つけた枝や石、落ち葉など、季節を感じられるものを置いて楽しむのもおすすめと話す熊谷氏。飾りたいモノをぽんと置くだけで、その日の気分や季節を身近に感じられる。家族やパートナーとその気持ちを伝え合って楽しむのも良いだろう。「デザイン性が高く、モノだけで完結する製品も世の中いっぱいあるけれど、使う人によっていろいろ変化していくモノが好き」と熊谷氏は話しているが、ガリバーフレームは手に取る人次第でさまざまな使い方ができ、熊谷氏の友人の中には、小さいメダカの水槽の前に置いて使ったり、お店のショーケースのディスプレイに使ったりしてくれている人がいたりするそう。自分が思っていなかったような使い方をしてくれる人が増えていけば良いなと、期待しているという。
新しい発見を日常生活に
生活空間に馴染みながらも主張しすぎない存在感のガリバーフレーム。ふと視線をフレームの中に落とすと、神秘的な世界が広がっている。今見ている世界とはまた別の、同じ世界線であるはずなのにパラレルワールドの世界を垣間見ているような、なんともいえない不思議な感覚だ。
ガリバーフレームを通してさまざまなものを見てみると、今まで気づかなかったことがとうとうと湧いてくる。デザインの細部や色など、さまざまなことが際限なく気になりだす。いつも目にしているものでも大きさが変わるだけで、情報量が倍以上になり、そのものの印象が変化する。ガリバーフレームであなただけの新しい視点、考え方、真実、アイデアを見つけてみてはいかがだろうか。
ガリバーフレーム
CURATION BY
東京生まれ。フリーライター・ディレクター。美しいと思ったものを創り、写真に撮り、文章にする。