Vol.61

MONO

02 SEP 2019

もうメガネをなくさない。PUEBCO「GLASSES TRAY」

心地よく暮らすために、自分の審美眼にかなう「いいもの」を選ぶことは欠かせない。小物ひとつとってもこだわりを持って選ぶことで、毎日の暮らしの質は向上するものだ。今回フォーカスを当てるインテリアアイテムは、PUEBCO(プエブコ)の「GLASSES TRAY」。どんなインテリアにも馴染みのいい、シンプルなセラミック素材のトレーである。そしてこの「GLASSES TRAY」が、ただのトレーではなくメガネトレーとして機能する理由についても考えてみよう。

場に馴染むメガネトレー

PUEBCO「GLASSES TRAY」 Square
「メガネ、メガネがない…」
必要なときに限って、見当たらなくなることがあるメガネ。紛失したわけではなくとも、すぐに見つからないとフラストレーションが溜まるものだ。そんなことを防ぐためにも、メガネの定位置は決めておきたい。ベッドサイド、バスルーム、デスクなど、メガネの着脱をすることが多い場所に“定位置”としてメガネトレーを設置するのがいいだろう。

メガネトレーには、プラスチック、金属、革、木などさまざまな素材があるが、PUEBCOの「GLASSES TRAY」はセラミック製だ。清潔感のある白さと、とろみのあるツヤ、手に馴染みやすい質感は、この素材ならでは。シンプルなのでインテリアのテイストにも合わせやすく、水場に置いて痛む素材ではないので場所も選ばない。素朴だが、かなり優秀なアイテムだ。

ものの新たな価値観を提供するPUEBCO

販売店舗W%の外観
「GLASSES TRAY」を手に入れたのは、世田谷区太子堂にあるW%(ホワイトパーセント)というPUEBCOが運営するインテリアショップだ。ビンテージの家具とともに、「作りたいものを作る、欲しいものを見つける」という、シンプルな思いから作られたオリジナル商品が並ぶ。PUEBCOのアイテムは、リサイクルやリユース素材を使った商品が多数あり、“素材がもつ味”をデザインに取り込んでいる点も特徴のひとつである。

メガネを置くことを促してくれるデザイン

さて、ここでPUEBCOの「GLASSES TRAY」をじっくり見てみよう。

手に取ると、セラミックならではの重さと、ツヤのある釉薬が生み出すひんやり・柔らかな質感が手にしっくりくる。
底部にはタグのように小さな字で商品情報が入っている。そんな「GLASSES TRAY」の最大の特徴は、角が丸い長方形の長辺の1辺に、三角の切れ込みが入っていること。この少しの工夫が、どうしたわけか「ここにメガネを置く」という行為を促してくれるのだ。

タルフレームのメガネを置くときに微かに鳴る、「カチャン」というクリアな音もなかなかいい。
なにかしらのトレーを使ったことがある方は想像がつくだろうが、ただの長方形のトレーだと、如何様にも使うことができてしまう。メガネトレーとして買ったつもりでも、気づけばハンコやペンなど、小物が雑多に置かれていたという経験がある方も少なくないだろう。
しかしこの「GLASSES TRAY」はほんの少し切れ込みを入れただけで、メガネのブリッジの下にある空間を連想させ、メガネの置き場所であることを示唆してくれる。ほんの少しの形の特徴が、「何のためのトレーか」という本来の目的を思い出させるのだ。

キーワードはアフォーダンスとシグニファイア

レーとは「物を載せて使う底の浅い容器」のことだが、そもそも人はなぜトレーを使うのだろうか?
それは、トレーが“物を置くこと”をアフォード(提供)しているからに他ならない。
例えばテーブルの上に長方形の板が置かれていたとしよう。ただの板では、必ずしも人はそこに物を置こうとするとは限らない。しかし、板の縁がわずかに立ち上がっていることで、「その場所からものがこぼれ落ちることを防いでくれる」という意味を人は見出す。

そして、バラバラにしておきたくない物や所定位置を決めたい物があるとき、縁が立ち上がった板を物を置くためのトレーとして使うのだ。

この環境や物質と人間とのあいだにある “相互作用を生み出しうる関係”のことを、アフォーダンス(affordance)という。このアフォーダンスという言葉は、アメリカの心理学者ジェームズ・ギブソン(1904-1979)が提唱した概念である。

そして「立ち上がった板の縁」のような、人がアフォーダンスを見出す手がかりこそがシグニフィア(signifier)だと、アメリカの認知科学者ドナルド・ノーマン(1935-)によって提唱された。

シグニフィアのわかりやすい事例としては、ドアノブの例が挙げられるだろう。
部屋に入室するとき、人はドアを押す(または引く)か、横にスライドさせるか、ドアのどこをさわればドアが開くか、そもそもドアなのか壁なのかを判断する必要がある。そんな時、ドア板にドアノブが付いていればそれを回して押す(引く)ことで部屋に入るドアだと見出すことができるし、ドア板に指がわずかに引っかかる窪みがあれば、引き戸であることが見出せる。

これらのアフォーダンスとシグニフィアの考え方は、多くのデザイナーたちの興味を引き、現在では私たちの暮らしを快適にするプロダクトや建築デザインなどに取り入れられているのだ。

ものとライフスタイルの関係をミニマルに考える

「GLASSES TRAY」はシンプルなデザインでありながら、私の日常に、“一定の場所にメガネを置く“という行為をアフォードしてくれた。普段からメガネを探すことが多い私にとって、メガネの定位置が決まったことは喜ばしいことである。

一方でこのメガネトレーは、しばしば「おもし」として使われることがある。それは、程よい重さと持ち上げやすい形状がシグニフィアとなったからだ。また、もしこれがメガネを全くかけない人の部屋にあったら、メガネトレーとしてのシグニフィアが見つけられず、ただの小物入れになる場合だってある。

部屋にあるものと自分とのあいだには多様なアフォーダンスが存在する。「物が自分自身にどのような行為を促してくれるのか」という観点から日用品を選ぶことが、より良い暮らしへの近道になるのかもしれない。

今回紹介したアイテム

PUEBCO 「GLASSES TRAY」

Type / Square
Size / W170×D75×H18mm
Material / Ceramic
¥ 1,000(+tax)