Vol.89

KOTO

17 DEC 2019

現代に蘇る自己啓発。 マインドフルネスで、自分自身を鍛えよう。

疲れたと感じたときは、どんなことをして過ごすだろうか。あるいは、ストレス解消には、何をするだろう。ひたすら寝る? マッサージに行く? それとも親しい人とお酒を飲んで騒ぐ、なんて人もいるかもしれない。
身体的な疲労をとるやり方、嫌なことにいったんフタをして忘れるやり方、色々あるだろう。今回とりあげたいのは、自分の心身と正面から向き合って、そもそも疲れてしまわないようにするやり方だ。これまではあまり注目されてこなかったが、欧米で急速に広まりつつある「マインドフルネス」というトレーニング。2600年ほど前にブッダが始めたところに起源のある、いわば世界最古の自己啓発である。マインドフルネスに関する情報発信やトレーニングのスタジオ運営を行っている、株式会社Melonの代表・橋本大佑さんにお話を伺った。

いま・ここの観察がマインドフルネス。

マインドフルネスといえば、目を閉じて、あぐらをかいて、深呼吸のイメージ。どちらかといえば、座禅に近いと考える方もいるかもしれない。大まかにはあっているのだが、座禅とマインドフルネスは、少しだけ違う。宗派によって細かいところは異なるものの、座禅は「心を無にして集中する」ことが必要になる。頭を空っぽにして、目の前のろうそくをただ見つめるように集中し、雑念を取り払うようなトレーニングだ。

一方で橋本さんによれば、マインドフルネスは、「いま・ここ、を観察する」という表現が近い。何も考えないのではなく、「観察する」というのがポイントである。

目を閉じて、自分がいまどんな状態かを観察する
ちょっと、やってみよう。これを読んでいる手を止め、目を閉じて呼吸を意識してみる。吸い込んだ空気は、どんなスピードでどのあたりを通っていくだろう。じんわり目が疲れているのを感じるかもしれないし、お腹のあたりのあたたかみにも気付けるかもしれない。そういった、自分の呼吸や体温、内臓の動き。普段は無意識のものに目を向けて、「いま・ここの自分はどういう状態なんだろう」と観察するのが、マインドフルネスなのだ。ここで、「外から聞こえる音は何の音だろう」「寒いからエアコンをつけたいな」と次の思考へうつらないようにするのが大切。思考や感情につなげることなく慣れてきたら「何か音がしている」「いま自分は寒いと感じている」と、状態や感覚にとどまらせてみよう。そうすることで、自分の感覚や感情を客観的に観察できるようにする。

筋トレとマインドフルネスは真逆のもの。

橋本さんご自身がマインドフルネスに興味を持ったきっかけを尋ねると、「元々健康オタクだったんですよ」という答えが返ってきた。

「小さいころから親の教えで、三食欠かさず野菜をたくさん、早寝早起きして、ゲームじゃなくてスポーツを、という生活が当たり前でした。だから大人になっても健康に気をつけたりトレーニングしたりはもう当たり前過ぎて、身体を鍛えることに対して様々な角度からさらに追求したいと考えるようになりました。調べるうちに出会ったのが、マインドフルネス。アスリートの方が『最後はメンタル』と言われるように、身体のトレーニングだけではダメで、心のトレーニングも必要だと考えるようになったんです」

代表・橋本大佑さん。外資業界から一転、マインドフルネスのトレーニング事業を始めた。
「軽度のうつ病を経験したことも、大きかったです。当時は結構ショックでした。健康に気を遣っている自信があったので、『オレでもうつになるんだ』と。うつや自殺などの社会問題にも関心を持ち始め、ますます心のトレーニングの重要性を考えるようになり、マインドフルネスを普及させるためのビジネスを起こすに至りました」。

筋トレブーム・健康ブームの影響で、身体のトレーニングを行う人が増えたいま。橋本さんは、「筋トレのような身体を鍛えることと、マインドフルネスのような心を鍛えることは、真逆の側面があるんです」と言う。

「筋トレは、痩せたいとか服の似合う体型になりたいとか、理想や目的がスタートにあると思います。結果へ向けて努力するし、やれば成果も見えやすいのが筋トレです。努力して、成果が見えて、だからモチベーションが保てるし、また努力する。わかりやすいサイクルです。一方でマインドフルネスは、何か具体的な目的は設定しません。強い目的やゴールを持って動くのは、『欲や刺激に動かされている』状態で、そういった欲や刺激から解放されるのがマインドフルネスです。筋トレと違って、すぐにわかりやすい結果が得られるわけでもない。結果のためにやる気を出すのでなく、自らの生活の質、さらには人生をより豊かにするためにと信じてやってみることが重要なトレーニングです。どちらがよくて、どちらがダメということではありません。ただ、心身のトレーニングを考えるなら両方のアプローチがあったほうがいい。せっかく筋トレブームで身体を鍛えることが意識され始めたのだから、心を鍛えることも意識してみてほしいと考えています」。

ただ自分を観察することの難しさ。

取材に伺った際、実際に「はじめてのマインドフルネス」という教室に参加させてもらうことができた。参加者は少人数で、1回10名程度。最初にマインドフルネスの考え方について橋本さんから講義があり、後半ではインストラクター主導でメディテーション(瞑想)を行う。座り方、呼吸のリズム、どんなことを感じられるか。一つひとつ、指導してもらった。

講座は豊富にあるが、「はじめてのマインドフルネス」は2本立て。 知識としてマインドフルネスを知りながら、体験することができる。
インストラクターのことばは明確。やっていることもシンプル。それでも、体験してみたライター自身は非常に難しさを感じた。何もする必要はなく、ただ目を閉じて、座るだけ。それだけのことがどうしてこんなにできないのかと、混乱する。数分何もしないで座っていると、落ち着かなくてお尻がムズムズする気がするし、つい次の日の仕事のことを考えてしまったり、周りの人をチラ見してみたり。自分を観察するどころか、何もしないでポカっと空く時間があれば、とたんに、「考えるべきこと」や「やるべきこと」がなだれ込んできてしまうのだ。

それもそのはず。現代人は、刺激ジャンキーなのだ。スキマ時間は、活用するもの。電車に乗ればメールやニュースを見るし、歩きながらでも音楽を聞き、食事をしながらでも打ち合わせをする。何もせずに自分を観察するなんてやったことがないから、難しくても仕方がないのかもしれない。

マインドフルネスは科学であり、 宗教であり、トレーニングであり、医療である。

今回体験講座では上手くできなかったなと感じていたが、はじめは誰でもそんなもののようだ。橋本さんに聞けば、毎日数分、2〜3ヶ月続けてみると、自分の思考の変化を段々と感じられるようになるとのことだった。もちろんそれは、「うまくメディテーションをする」ということが目的になるのではなく、自分を観察し、いま・ここを感じられるようになるということ。そうすることで、正しい判断をすることができるようになったり、感情に振り回されることが減ったりしていくのだ。

スタジオは表参道に。夜の講座は仕事帰りの方が多かった。
マインドフルネスには様々な側面がある。ブッダが始めたということで宗教的な側面もあるし、心身ともに鍛えていくようなトレーニングの側面もある。さらに現代では、脳科学や心理学の分野でも注目を浴びている。実際にメンタルクリニックなどで行われる治療でも、「認知行動療法」というものがあり、自分の心の状態と行動を観察し言語化して、自覚していくことに、マインドフルネスが取り入れられている場面もあるのだという。

様々な側面での活かし方があるからこそ、こちらのスタジオを訪れる人も、様々だという。瞬時の判断が大切になる経営者やトレーダー。大事な局面での精神力が試されるスポーツ選手。感情労働と言われる接客業の方も多いそうだ。

「やればわかる」の究極?

トレーニングや講座は、まずはやってみるよりもどんなものか理解してからやりたいと思うのが普通のことだ。しかしマインドフルネスは、自分がどうなっているかを感じ、観察する作業。やってみなければわからないし、一方で、やろうと思えばいつでもどこでもできて、その分ハードルは低いかもしれない。余計な刺激や情報を取り入れすぎてしまう、現代の生活。自分自身を感じてコントロールして、不要なものから解放されたり、最小限の思考になることで、本当に行うべき行動や適切な判断をすることにもつながるのかもしれない。心身の疲れを感じる現代人には、積極的にリセットしていくトレーニングが必要。そのために、すぐできて有用な手段のひとつとして、マインドフルネスを覚えておくのもよさそうだ。

MELON マインドフルネス専門スタジオ