「フェイクグリーン」と聞いて、どのようなイメージを抱くだろうか。生花や生木のニセモノや代替品? 「まったく別のものです。本物の植物が好きな人こそ、フェイクグリーンの世界の楽しさに夢中になるはず」と、ブームの火付け役であり、イベント出店や、「阪急うめだ本店」「niko and...」等のショップとのタイアップ、オンラインショップの運営を行うフェイクグリーン専門店「いなざうるす屋」オーナー、日下部有香さんは言う。リアルグリーンのように枯れる心配がなく、飾る場所なども自由自在なフェイクグリーン。その機能美や奥深い世界観を聞いた。
洋服やインテリアに愛着を持つ感覚と同じ
もともと生花や生木などのリアルグリーン好きだったという日下部さんだが、「育てるのが苦手」ということ、家が北向きだったこともあり、よく枯らしてしまっていたという。しかし、2010年に雑貨店のにぎやかしとして陳列されていたハンギング(吊るす)系のフェイクグリーンに出合い、一目惚れ。今でこそライフスタイルショップ等でも定番商品になっているが、2010年の当時はまだ「造花」「人工植物」などの無機質な名前で呼ばれ、主にプロが使うものだった。ところが日下部さんが自分の部屋に飾ってブログで紹介するとすぐに多くの反響を呼び、ブームのきっかけに。「いなざうるす屋」でフェイクグリーンを購入してSNSに投稿する人が爆発的に増え、イベントを開くと大勢が駆けつけた。多くの人のライフスタイルを彩るアイテムへと認識が変わっていったのだ。
2013年に専門店を開いた日下部さんは、フェイクグリーンを“この子たち”と呼ぶ。
「好きな洋服やインテリアには愛情を注ぐ人は多いと思うんですが、そういう感覚でかわいがってほしいなと思って、いなざうるす屋ではフェイクグリーンに愛称をつけています。フェイクグリーンには自然界に存在しないアイテム、つまりオリジナルがあって、例えばうちの定番アイテム『モフモフ』は、本来は『ファーンハンギングブッシュ』という覚えづらい名前なんです。ブログの読者さんから“そのモフモフしたものは何?”という質問を受けたことがきっかけで、シンプルに“モフモフ”という名前にしました。その方が、覚えやすいし、私達もお客さんも、愛着がわくでしょう?」。
他にも「ホワイトモケモケ」など、思わず頬が緩んでしまう愛嬌のある名前が並ぶ。これらも自然界にはないオリジナル。決してニセモノではない、フェイクグリーンという存在そのものに愛着を持ってもらいたいという思いが伝わってくる。
フェイクグリーンは“AS YOU LIKE”
「フェイクグリーンのクオリティは年々上がってきています。2015年頃のボタニカルブームをきっかけにリアルグリーンでも人気になった『コウモリラン』やエアプランツの『キセログラフィカ』といったユニークな植物の種類も増えました。特に『ドウダンツツジ』のフェイクグリーンの反響は大きかったです。ドウダンツツジはリアルグリーンだと旬が短いから、1年中楽しめるフェイクグリーンへの要望をたくさんいただいていて探し続けていたんですが、最近ようやく納得のいくクオリティのものと出合えました」(日下部さん)。
とはいえ、「まだまだ魅力を伝えきれていない」という。
「フェイクグリーンは、水も土も必要ないし、虫も寄ってこない。だからこそ、どこにでも飾れるし、思い切ってカットしたり、茎や枝などに入っているワイヤーを曲げたり、広げたりして、好きな形にもできる。“AS YOU LIKE(あなたの好きなように)”なんです。まさにインテリア雑貨ですね」(日下部さん)
リアルグリーンは、育てる過程や姿、形が変わっていくのを楽しむのが醍醐味。一方でフェイクグリーンは、風通しや日当たりといった置き場所などに関係なく、自分が好きなようにアレンジできる。つまり、リアルグリーンとフェイクグリーンは別物、違うフィールドのものだということだ。
「リアルグリーンが好きな人たちにこそ、この楽しさを実感していただけるのではないかと思っています」と、フェイクグリーンがもつポテンシャルを語ってくれた。
“未知の領域”だから面白い
日下部さんは、「フェイクグリーンは“AS YOU LIKE”だからこそ、私から使い方を提案することはしません。私はあくまで、みなさんにどう使ってもらえるかを想像しながらアイテムをセレクトするだけです。ご購入いただいた後にみなさんがどう楽しんでいるかは、むしろ私が楽しませていただいているんです」と話す。
InstagramなどのSNSで「#いなざうるす屋さん」と検索すると、お客さんたちがフェイクグリーンを思い思いに楽しんでいる様子が投稿されている。
例えば、上の写真はキッチンにフェイクグリーンを取り入れたもの。
「置いて垂らすだけとマネしやすい飾り付け方です。食器やキッチンアイテムなどと一緒に飾ることで、見せる収納がより楽しいものになります」(日下部さん)。
こちらのトイレは、異なるフェイクグリーンを同じ空間に取り入れることで、空間にリズム感を演出。ドラセナはリアルグリーンの鉢植えのようにするために、エキゾチックな器に入れて固定して立たせ、ココファイバーで根元を隠している。
「どんな使い方をしてもいいのがフェイクグリーンの魅力ですが、あえてリアルグリーンと同じような使い方に近づけるのも楽しみ方の一つ。ドラセナの青々とした色合いと、鋭くエッジの効いたフォルムが、空間に元気な印象を与えていますね」(日下部さん)。
シンプルなランドリールームは、「ティランジア」を置くことで個性をプラス。
「フェイクグリーンは陽の光が当たらないところで飾れるのが大きな利点ですが、陽の光が入るところに置くと、アイテムのユニークなフォルムと素材感が際立つんです。また、棚から垂らすようにして飾ると動きが出ます」(日下部さん)。
「同じフェイクグリーンでも、使う方々によって飾り方が全く違うんです。リアルグリーンだと水やりをした時に濡れてしまうトートバッグのような布物に入れて飾ったり、アクセサリーにフェイクグリーンに使っている方もいて、驚かされました。お客さんから今まで思いつかなかったようなアイデアがどんどん出てくるのが面白い。未知の領域がまだまだあるんですよね」と日下部さんは笑う。
部屋を飾るだけではない。出かける時のアクセサリーに取り入れたり、ぺちゃんこに潰してバッグに入れて持ち運んでキャンプなどで飾ったり。フェイクグリーンは使い方もアイデア次第で無限大に広がっていく。
DIYのように“カルチャー”にしていきたい
日下部さんの目標は、「フェイクグリーンをカルチャーにすること」だという。
「DIYって、昔は日曜大工と呼ばれていて、大人の男性がやるものというイメージがありましたよね。でも、今はお母さんが子どもと一緒に楽しんでいたりして、カルチャーとして定着している。フェイクグリーンもそんなふうに、“当たり前に日常に取り入れるもの”という認識、楽しみ方が広まっていくといいなと思っているんです。それをお店やイベントなどを通じて、多くの人に伝えていきたい」。
質のいい服や職人技のアイテムなど、「本物を持つこと」が良いとされる傾向がある。しかし、だからといって“フェイク(模造品)”は悪いものなのだろうか。違う価値や使い道、楽しみ方があるかもしれない。私達は、それをまだ知らないだけ。
フェイクグリーンは、とてもクリエイティブな可能性を秘めている。それをどう楽しんでいくかは、自分たち次第だ。
日下部有香さんのプロフィール
フェイクグリーン専門店「いなざうるす屋」オーナー。イベント出店やワークショップ等のイベント企画を精力的に行うほか、「阪急うめだ本店」「niko and...」等のショップとのタイアップ、オンラインショップの運営を行う。
おしゃれなフェイクグリーン・フラワーのお店「いなざうるす屋」
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ライフスタイル系の編集者/ライター。新しいライフスタイルを求める日々を送っている。建築、文具、旅、街おこし、リノベーション情報が大好物。最近気になっているものは、タイニーハウスとバンライフ。