クライヌリッシュ14年と、削り出しの氷でハイボールを美味しく飲む
最大の特徴は、ウイスキー界でも異彩を放つ「蜜ろう(ワックス)」のような重厚で滑らかな質感だ。ストレートやロックで味わうのも当然美味しいが、夏の終わりの野外ならハイボールを推したい。
14年熟成のスタンダードボトルであるクライヌリッシュは、もちろんストレートで飲んでも素晴らしいが、残暑の残る頃にはハイボールを作っても最高だ。
グラスにぎりぎり入る大きめの氷を使えば、溶けにくく長持ちするため、最後まで水っぽくならず、クライヌリッシュ本来のおいしさを長く楽しむことが出来る。あらかじめ用意した板氷をアイスピックで大きめに割り、氷の角に沿わせるように、冷えた炭酸を静かに注ぐ。
ここで作る一杯は、日常で爽快に喉を潤すカジュアルなハイボールとは一味違う。炭酸を注いでもウイスキーの骨格がブレず、泡が弾けるたびに熟した洋梨のような気品ある香りが立ち上る。そして口に含んだ瞬間、あのオイル感が炭酸の刺激を包み込むと、リッチで安らぎに満ちた時間が訪れる。氷が溶けても水っぽくならず、むしろ水と交わることでフルーティーな酸味と塩気が鮮やかにひらいていく。
さらに、ハイボールを作ったあとにウイスキーをそっと静かに垂らす「フロート」も試してほしい。グラスに口をつけた瞬間、濃厚な香りが立ち上がり、ストレートに近い、本来のクライヌリッシュの美味しさをダイレクトに感じることが出来る。そのあとを追うように、下から冷たい炭酸と旨みが立ち上がってくる。移り変わる風味は、まさに贅沢の極みだ。
川内倫子氏の写真集、生と死を等しく捉える眼差し
影があるからこそ、光を認識できる。その当然のことに、ふと気づく瞬間がある。世界的に多くの評価を得てきた彼女の作品の奥には、言葉では表現しきれない未知の世界が広がっている。
今や手に入りにくいコレクターズアイテムとしても知られる代表作『AILA』で描かれるのは、まさに「生命の根源」だ。生まれたての赤子や海へ向かうカメの命の輝きと、横たわる生き物の死骸。誕生の歓喜と死の静けさを隠さず等しく並べることで、生きることの生々しいリアリティを突きつけてくる。
中心にあるのは、自身の子どもとの関わりやその成長の記録だ。庭で遊ぶ子どもの姿や、日々移ろっていく家族の時間。写真と言葉の両輪で手繰り寄せられた日常の断片は、自分のすぐそばにある命の愛おしさと、かけがえのない生活の手触りを教えてくれる。そしてそのような穏やかな日常の中にも忍ぶ影。常に生と死が表裏一体であることが、よくある子育てエッセイとは違うところだ。
私たちが普段何気なく浴びている太陽の光や、木々の隙間から差し込む透過光。写真に収められたそれらの光を見つめていると、ただ「綺麗だ」と感じる以上の感情が込み上げてくる。光が存在するためには、それを引き立てる暗闇や影が不可欠だ。
写真から受け取ったそのしなやかな強さが、じわじわと身体に染み込んでいくのを感じる。
1枚の写真から、何を感じ、どう考察をするか。それこそが写真集を開くという遊びなのである。
自由に感じて、自由に捉える。その遊び方をこの本が教えてくれる。
ふたつの「静かな強さ」が交差する
その余韻を抱えたままページをめくっていると、目の前の写真集と手元の一杯が、自然に重なり合っていく。
川内氏の写真が持つ、光をすくうような繊細な美しさ。
クライヌリッシュが持つ、滑らかで上品な佇まい。
どちらも一見するとどこまでも優美だが、その奥にはブレない芯の強さがある。生と死、光と影の表裏を思考する写真の眼差しと、200年の歴史と厳しい自然に育まれたウイスキーの骨格。軽やかに見えて、どちらも地に足のついたタフさを秘めている。
不揃いな割氷は急激に溶けることなく、ゆっくりと時間を引き延ばしてくれる。一口ふくむごとにハイボールの表情が変わり、写真集をめくっていると風の音が心地よく目の前の優しい光が煌めく。
揺れる木々や影を伸ばす草むら。先ほどまではただ「静かで心地よい自然」として眺めていた風景の中に、優しさや美しさだけでなく、どこか容赦のない厳しさや、光の裏側にある深い闇の気配を感じ取る自分がいる。生と死、光と影。『光に住み着く』世界観とウイスキーの「静かな強さ」を身体に取り込んだことで、世界の見え方がほんの少し、けれど確かにアップデートされたように思う。
板氷を削り、こだわりのシングルモルトで丁寧にハイボールを仕込み、一冊の写真集と静かに向き合う。ただそれだけで、日常の風景はこれほどまでに深く、豊かな表情を見せてくれる。
目の前の光と闇が全ての世界を形成しているような感覚を覚え、私もシャッターを切り、光のコレクションを増やした。