Vol.614

KOTO

03 JAN 2025

海外インテリアのような雰囲気に。胡蝶蘭の育て方、楽しみ方

蘭と聞くと、社長室などに飾られている少し物々しい雰囲気を想像する方も多いかもしれない。 かくいう私も以前はそのようなイメージを抱いていた。けれども海外を訪れた際に、そんな私の思い込みは一気に覆った。 新しい環境の中で色眼鏡を外して見てみると、蘭はどんなインテリアにも合わせやすく、かつ空間の品をあげてくれる植物だとわかったのだ。

海外で出会った、蘭のある光景

ドイツ・デッサウのレストラン。窓際に蘭が飾られている
数年前のことだ。私はアートの勉強のために、ドイツのベルリンを歩いていた。そして散歩の際に目に入ったアパートや食事をしたレストランで、度々蘭を見かけたのである。

冒頭でも紹介した通り、当時の私は蘭というものにオフィスや社長室などといった堅苦しく権威的なイメージを抱いていた。また、高級品ということもあって拝金的な雰囲気もあるような気がし、つまりあまり良い印象を抱いていなかったのである。

けれども海外では、まったく別の植物に見えた。アパートの窓際やレストランの窓辺にささやかに飾られた蘭は、可憐な花と凛々しい茎と葉を兼ね備えた、清らかな品格を持った花だった。今までの蘭に対するイメージが、私の単なるバイアスだったとわかった瞬間である。そしてアパートやレストランといった日常的な空間を上品に彩ってくれるこの植物を、私も自宅に飾ってみたいと思うようになった。

ドイツ・ベルリンにて

猫も安心。蘭の種類は2万以上

オンシジューム。細かな花弁だが、蘭らしい形をしている
購入しようか検討しはじめていた私がまず調べたことは、猫も安心な植物かどうかだ。筆者は猫を飼っている。同じく猫を飼っている人ならすぐにわかっていただけると思うが、例えばチューリップやユリなどは猫にとって毒になるため、飾ることができないのである。しかし猫にも安全ということがわかり、さらに蘭への興味は深まった。

世界のラン大図鑑によると、ラン科に属する植物の種類はなんと2万を越すそうだ。カトレアや黄色い細やかな花が特徴的なオンシジュームなど、ラン科の植物たちはどれも花弁の形が似ている。けれどエキゾチックな雰囲気なものから凛としたもの、パワフルさを感じさせるものまで、それぞれに個性があり実に多様である。

その中でも、筆者には蘭と言えば「胡蝶蘭」というイメージが強い。贈答用でも胡蝶蘭が用いられることが多い印象である。なぜ贈り物として人気なのかというと、一つひとつの花が大きいため華やかであること、さらに「長寿」などの意味があり縁起が良いこと、その上育てやすいという理由などがあげられる。

植物を購入する際に、育てやすさはたいへん重要なポイントだ。大きくなったり花が咲いたり、育ててゆく過程もまた、暮らしに植物を取り入れる時の喜びだからだ。

胡蝶蘭を買いに、花屋へ

購入した胡蝶蘭
育てるのが難しい印象のあった蘭だが、胡蝶蘭なら比較的育てやすいとわかったため、家に向かい入れてみることにした。筆者は現在フランスに住んでいるが、フランスでも蘭は「orchidée」という名前で呼ばれ、日常を彩る花として親しまれている。

蘭の開花時期は日本だと3月〜5月。けれど今は温室で育てられた蘭が、一年中花屋やホームセンターの園芸コーナーで売られているようだ。ちなみに蘭は大きく2つに分けて、日本や中国原産の東洋蘭と、熱帯や亜熱帯を原産とし、欧米で改良された洋蘭とがあるらしい。洋蘭は明治や大正に日本に入ってきたもので、現在花屋に並んでいるものはほとんど洋蘭に属するそうだ。

サイズはミニ胡蝶蘭と呼ばれている数十センチの小ぶりなものから、50センチを越す背の高いものまでさまざまだ。

その中でも今回は、お気に入りの花屋で70センチほどのものが売られていたので、それを購入した。 筆者の家は35平米ほどで、さらにメゾネットなため天井が高い。家具も少なく空間を広く使えているため、多少存在感のあるサイズの方がインテリアのポイントとして良さそうだったのである。

忙しい人でもできる。蘭の育て方

蕾も次第に開いていった
蘭を育てる際、注意しなくてはならないポイントはいくつかあるが、どれも決して難しいものではなかった。

まず水あげは、週に一度程度。私のような面倒くさがりでも無理のない頻度である。実は胡蝶蘭は「着生蘭」という、樹木に寄生するように根を張る種類。水分や栄養分を確保しづらい環境で育っているため、根と葉で空気中の水分を吸収することができる。ちなみにそうして得た水分や栄養分を貯めておくために、蘭の葉は分厚いそうだ。

こうした理由から、根の部分に水をあげすぎると、返って蘭をダメにしてしまう。根腐りを起こさないように、土がしっかり乾いているのをチェックしてから水をあげるのがポイントのようだ。また空気が乾燥している場合は葉水をあげると良いそうなので、乾燥が著しいフランスに住んでいる筆者は与えることにした。

乾いたら水をあげる
その他、置き場所は直射日光が当たらない明るい場所を好むらしい。我が家の窓の横は光が入って明るいが、直射日光は当たらないため、置き場所はそこに決めた。また夜は窓際が少し冷えるので、部屋の奥の棚に置き換えるようにしている。

かくして私の毎日に、朝起きたらまず蘭の様子をチェックし、窓の横に移すという作業が加わった。買った当初いくつか蕾がついていたため、毎朝開花の様子を楽しく眺めながら蘭を運んでいる。

明るい窓辺に飾る
基本的な世話はたったのこれだけだが、花が咲き終わったあとはもう少しだけ手間を掛けてあげると良いらしい。萎れた花は都度摘み取り、花が全て咲き終わったら茎を根元の辺りでカットする。花を咲かすという仕事でエネルギーを使った蘭は休眠期間に入るため、この頃は水やりを控えめにし、温度や湿度を安定させ、労ってあげることが重要なのだそうだ。

しっかり適切な手間を掛けてあげさえすれば、花は1〜3ヶ月ほども楽しめ、さらに株自体は50年〜80年ももつらしい。一鉢の値段は決して安いものではないが、こんなにも長く楽しめるのであれば、試してみても良いのではないだろうか。

蘭を部屋に飾って、起きた変化

夜は窓際が冷えるため、別の棚に移動
蘭が家に来てからというもの、部屋の空気に清涼さと瑞々しさが加わったと感じている。そして凛と美しい佇まいは、インテリアに品の良さを加え、眺めているだけで心地が良い。

部屋に切り花を飾ったときも同じように感じることがあるが、毎日の水換えが少々面倒である上に、あまり長く持たないという難点もある。それに比べて蘭は、筆者にとってはちょうど良い手間の具合だった。

窓辺に移した蘭
筆者はメゾネットの上の階を寝室にしているため、起きたらまず階段を降りる。一階に降りるという行為が体にスイッチを入れ、ここから一日が始まるように感じられる。そしてまず一番に目に入るのが、蘭の置かれた棚である。これだけで、清々しい空気を浴びたかのように、心が洗われる。

それから蘭を日光浴させるべく、キッチン横の窓際に運ぶ。窓際にキッチンもあるためそこで朝食を作り、食べ、食後のコーヒーを飲みながら束の間、艶やかな葉の様子を眺めたり、新しく咲いた花にささやかな元気をもらったりする。仕事やフランス語、アートの勉強などで忙しない生活をしているため、決して長くはないが、いつしかこの時間が代え難いものになった。

インテリアのポイントになってくれるのはもちろんのこと、蘭がくれる時間や心の潤いは計り知れない。みなさんも、蘭のある生活を送ってみてはいかがだろうか。

参考文献

マーク・チェイス, マーテン・クリステンフース, トム・レミング「世界のラン大図鑑」、三省堂、2020