海外で出会った、蘭のある光景
冒頭でも紹介した通り、当時の私は蘭というものにオフィスや社長室などといった堅苦しく権威的なイメージを抱いていた。また、高級品ということもあって拝金的な雰囲気もあるような気がし、つまりあまり良い印象を抱いていなかったのである。
けれども海外では、まったく別の植物に見えた。アパートの窓際やレストランの窓辺にささやかに飾られた蘭は、可憐な花と凛々しい茎と葉を兼ね備えた、清らかな品格を持った花だった。今までの蘭に対するイメージが、私の単なるバイアスだったとわかった瞬間である。そしてアパートやレストランといった日常的な空間を上品に彩ってくれるこの植物を、私も自宅に飾ってみたいと思うようになった。
猫も安心。蘭の種類は2万以上
世界のラン大図鑑によると、ラン科に属する植物の種類はなんと2万を越すそうだ。カトレアや黄色い細やかな花が特徴的なオンシジュームなど、ラン科の植物たちはどれも花弁の形が似ている。けれどエキゾチックな雰囲気なものから凛としたもの、パワフルさを感じさせるものまで、それぞれに個性があり実に多様である。
その中でも、筆者には蘭と言えば「胡蝶蘭」というイメージが強い。贈答用でも胡蝶蘭が用いられることが多い印象である。なぜ贈り物として人気なのかというと、一つひとつの花が大きいため華やかであること、さらに「長寿」などの意味があり縁起が良いこと、その上育てやすいという理由などがあげられる。
植物を購入する際に、育てやすさはたいへん重要なポイントだ。大きくなったり花が咲いたり、育ててゆく過程もまた、暮らしに植物を取り入れる時の喜びだからだ。
胡蝶蘭を買いに、花屋へ
蘭の開花時期は日本だと3月〜5月。けれど今は温室で育てられた蘭が、一年中花屋やホームセンターの園芸コーナーで売られているようだ。ちなみに蘭は大きく2つに分けて、日本や中国原産の東洋蘭と、熱帯や亜熱帯を原産とし、欧米で改良された洋蘭とがあるらしい。洋蘭は明治や大正に日本に入ってきたもので、現在花屋に並んでいるものはほとんど洋蘭に属するそうだ。
サイズはミニ胡蝶蘭と呼ばれている数十センチの小ぶりなものから、50センチを越す背の高いものまでさまざまだ。
その中でも今回は、お気に入りの花屋で70センチほどのものが売られていたので、それを購入した。 筆者の家は35平米ほどで、さらにメゾネットなため天井が高い。家具も少なく空間を広く使えているため、多少存在感のあるサイズの方がインテリアのポイントとして良さそうだったのである。
忙しい人でもできる。蘭の育て方
まず水あげは、週に一度程度。私のような面倒くさがりでも無理のない頻度である。実は胡蝶蘭は「着生蘭」という、樹木に寄生するように根を張る種類。水分や栄養分を確保しづらい環境で育っているため、根と葉で空気中の水分を吸収することができる。ちなみにそうして得た水分や栄養分を貯めておくために、蘭の葉は分厚いそうだ。
こうした理由から、根の部分に水をあげすぎると、返って蘭をダメにしてしまう。根腐りを起こさないように、土がしっかり乾いているのをチェックしてから水をあげるのがポイントのようだ。また空気が乾燥している場合は葉水をあげると良いそうなので、乾燥が著しいフランスに住んでいる筆者は与えることにした。
かくして私の毎日に、朝起きたらまず蘭の様子をチェックし、窓の横に移すという作業が加わった。買った当初いくつか蕾がついていたため、毎朝開花の様子を楽しく眺めながら蘭を運んでいる。
しっかり適切な手間を掛けてあげさえすれば、花は1〜3ヶ月ほども楽しめ、さらに株自体は50年〜80年ももつらしい。一鉢の値段は決して安いものではないが、こんなにも長く楽しめるのであれば、試してみても良いのではないだろうか。
蘭を部屋に飾って、起きた変化
部屋に切り花を飾ったときも同じように感じることがあるが、毎日の水換えが少々面倒である上に、あまり長く持たないという難点もある。それに比べて蘭は、筆者にとってはちょうど良い手間の具合だった。
それから蘭を日光浴させるべく、キッチン横の窓際に運ぶ。窓際にキッチンもあるためそこで朝食を作り、食べ、食後のコーヒーを飲みながら束の間、艶やかな葉の様子を眺めたり、新しく咲いた花にささやかな元気をもらったりする。仕事やフランス語、アートの勉強などで忙しない生活をしているため、決して長くはないが、いつしかこの時間が代え難いものになった。
インテリアのポイントになってくれるのはもちろんのこと、蘭がくれる時間や心の潤いは計り知れない。みなさんも、蘭のある生活を送ってみてはいかがだろうか。