Vol.582

KOTO

13 SEP 2024

癒しの香りを暮らしに添えて。フローラルウォーター

仕事だったり、家事だったり、育児だったり、皆それぞれの一日を乗り切り帰路に着く。疲労や重圧を抱えてドアを開ける時、ふわっと漂う植物の香りに包まれたならどんなに心地よいだろう。毎日の暮らしに香りという癒しをプラスしてくれるアイテム、フローラルウォーター。その香りとマルチな魅力を伝えたい。

香りという癒し

忙しい現代人にとって、日々の疲れ、心身の疲労を癒やすリラックスタイムは、まさに必要不可欠だ。必須項目になるほどストレスフルな社会というのも問題視すべき事案ではあるが、それほど今を生きる我々は自身の想像以上に心身ともに疲弊しきっている。それと同時に、蓄積し続けるストレスとどう向き合っていくかという点も、今を生きる上で重要事項である。

そんな社会だからこそ、皮肉なものだがストレス解消のためのコンテンツは膨大に用意されている。人々の"癒し"のニーズに応えるべく、ありとあらゆるジャンルを網羅してくれているのは消費者として大変有難い話である。

中でも香りに癒しを感じる人は多いだろう。香水や芳香剤、バスソルトやキャンドルなどはリラックスタイムの定番アイテムだ。最近は洗剤や柔軟剤、トイレットペーパーなどの紙製品も香りにこだわったものが多い。

筆者も製品の品質と同等あるいはそれ以上に香りを重視して商品を選んでいる節がある。着ていた服から香る甘い薔薇、家事をする中で漂うシャボンの香り。ふとした瞬間に感じる"いいにおい"に嬉しくなり、ちょっとハッピーになる。心地よい香りは暮らしのあらゆるシーンで癒しを届けてくれる存在だ。

ほのかに香るフレグランスは暮らしに癒しをプラスしてくれる
だが筆者としては懸念点があった。香りの強さ、もっと言えば人工的な香りである。すれ違う人の強すぎる香水、匂いが濃い柔軟剤や芳香剤が苦手で、雑貨屋のフレグランス類が置いてある通路を通っただけで気分が悪くなることもあった。強い香りが苦手な猫と暮らしている点も苦手意識に拍車をかける。

それでも無香料のものにはあまり触手が動かない。ほどよい香り、あくまで自然な香りのフレグランスはないかと思っていたところ、フローラルウォーターを見つけた。

フローラルウォーターの知られざる魅力

数多くの種類があるアロマを安全に使用するには正しい知識が必要だ
"アロマ"と聞くと大抵最初に浮かぶのはアロマオイルだ。アロマオイルはリラックスアイテムとして根強い人気があるが、少量でも芳香性が強く禁忌事項がある点が扱いづらく感じ、筆者は苦手意識があった。

アロマオイルとフローラルウォーターは何が違うのだろうか。気になって調べたところ、2つは親戚のような関係。精油とも呼ばれるアロマオイルを製造する過程で生じる副産物が、フローラルウォーターである。芳香蒸留水、ハーブウォーターなどとも呼ばれる。

最大の違いは濃さ。アロマオイルといえば、手のひらに収まるサイズの可愛らしい小瓶に入っているイメージがあるのではないだろうか。アロマオイルは植物の芳香成分が凝縮されていて高濃度なため、数滴でその威力を発揮する。

ローズウォーターやラベンダーウォーターなど、花を原料としたフローラルウォーターも多い
相対してフローラルウォーターは、アロマオイルと比べて0.1%〜0.01%の濃度。芳香成分は微量でマイルド、その分植物本来の香りを楽しめるのが特徴だ。

"低濃度"ということは決してネガティブなポイントではない。まず、希釈せずにそのまま使えるというメリットがある。アロマオイルだと希釈して使用するのが一般的だが、そのひと手間が億劫に感じさせるのも事実だ。そのまま使えるフローラルウォーターはタイムパフォーマンスが良く、忙しい我々現代人には高評価ポイントである。

成分や原料にもよるが、化粧水としてそのまま使えるものもある。それほど肌にやさしいということだ。植物には美肌成分が含まれているものも多いため、スキンケアとしての効果も期待できるそう。

ナチュラルな香りを楽しめる上、手軽に扱えて低刺激。なぜ今までこの存在に気づかなかったのか悔やまれると同時に、筆者は魅了されてしまったのだ。

自宅で植物の蒸留に挑戦

フローラルウォーターは一般的に蒸留器を使って精製される。業務用の大きな蒸留器から家庭用の蒸留器まで多様だが、大きかったり高価だったりと初心者にはハードルが高く感じる。調べたところ、蒸留器がなくても鍋を使って簡単な蒸留ができると分かった。好奇心のままに、自宅で手作りフローラルウォーターに挑戦してみた。

用意するものは、好みのハーブ、精製水もしくはミネラルウォーター、氷又は保冷剤。使用する道具は、深鍋と蓋、耐熱容器。家にあるもので作れるのが有難い。残念ながら今回ハーブが手に入れられなかったため、バラで代用してみた。

匂いがこもらないように今回は屋外で蒸留した

使用した蓋に氷を乗せるほどの深さがなかったため保冷剤を乗せた
鍋に精製水とハーブ(今回はバラ)を入れ、耐熱容器を中央に配置する。蓋を逆さまの状態で置き、氷か保冷剤を乗せる。この状態で加熱し30分ほど加熱した。

水蒸気が冷やされて、逆さまに置いた鍋の蓋の取っ手部分から下の耐熱容器に滴り落ちる、という仕組みだ。耐熱容器に集まった液体を瓶に詰め、冷めたらフローラルウォーターの出来上がり。無添加で日持ちしないため、冷蔵庫で保管し1週間ほどで使い切るようにする。

スポイトを使うと容器に移しやすい
今回は30分ほどの蒸留で20ccほど採れた。バラで代用したこともあり、香りはごく僅かであるが植物の自然な香りがする。後で分かったことだが、乾燥したものの方がより濃い香りのものができるようだ。家でハーブを育てて、そのハーブで作るというのも面白そうだ。

暮らしに植物の自然な香りを添えて

フローラルウォーターは幅広い用途があり、原料となった植物の種類によって使い分けるのも良い。

美肌成分が豊富な原料を使っているものは、直接肌に塗る化粧水として使うのが良い。刺激は少ないが、事前にパッチテストをしてから使用するか決めよう。手作りした場合はワセリンを少し入れると保湿力が高まる。植物の香りに癒されながらスキンケアができるだろう。

朝の洗顔も、いい香りがする化粧水だとテンションが上がる
肌に直接使えるため、もちろん髪にも天然のヘアスプレーとして使える。市販のヘアオイルの香りが苦手という人や、職場で香りが強いものを使えない場合にも、自然でマイルドな香りのフローラルウォーターは重宝されるだろう。

消臭・殺菌作用のあるハーブを使ったフローラルウォーターなら、リネンウォーターとして使うのがおすすめだ。食事のにおいが気になるカーテンにしゅっと吹きかけたり、アイロンをかける際は霧吹き代わりに使ったりできる。

洗いにくい布製品も手軽にリフレッシュ
同じようにルームスプレーとしても使える。来客前や匂いが気になる時などにしゅっと噴霧するだけで、心地よい香りが部屋中におだやかに広がる。気分を変えたい時やリフレッシュしたい時にもおすすめだ。

保存期間が短く使い切れない時は、思い切って入浴剤として使うのも手。いつものバスタイムがアロマバスに早変わりする。湯気と共に自然な香りが広がり、極上のリラックスタイムとなること間違いなしだ。

最後まで惜しみなく香りを楽しめる
留意するべき点として、フローラルウォーターは原料や成分によっては使用用途の制限がある。肌に直接使えるもの使えないものがあるため、表記をよく確認して安全に使いたい。

暮らしのあらゆるシーンで活躍するオールマイティなフローラルウォーター。きつくなく穏やかに、しかしはっきりと香る自然由来の芳醇な香りで心身を癒してくれるだろう。

自分に”お疲れ様”を贈ろう

心身が疲弊していると、自分を労ることも難しい事が多い。ストレスが多い社会だということも、自身がストレスを溜めていることも、疲れていることも、分かってはいても、自分になにかしてあげるという気力が起きないこともある。運動だとか、食事だとか、何か行動するにはエネルギーが必要で、そのエネルギーが尽きてしまっていることもある。

だから特別何かをしなくても、1日の生活の中でふとした時に癒しを感じられたらいいと思う。顔を洗って化粧水をつけた時、ソファに座った時、カーテンを開けた時、ふとした瞬間に感じるほのかな香り。そんな癒しが暮らしに寄り添ってくれたなら、強張った顔がふっと綻ぶだろう。

心安らぐ香りを暮らしに添えて
癒しを、香りを、身近にほのかに忍ばせてみよう。