肌寒くなり、自宅でのんびり過ごしたい季節となった。くつろぐときに必要になってくるものといえば、上質な音楽、座り心地のよいソファなどさまざまだが、その中でもお香やアロマキャンドルといった香りのアイテムは、おうち時間の増加から人気が再熱している。ひんやりとした秋の風と香りをミックスしたい、そんな自然あふれる香りを放つ「パロサント」はご存知だろうか。火や電気を使わずともそのまま香る香木である。
古代より親しまれてきたパロサント
パロサントは、ペルーやエクアドル、ベネズエラ、コスタリカなど主に南米の沿岸地域で育つ。邪気を払い、場を浄化させ良い精霊やエネルギーを招き幸せを呼び込むと言われており、インカ帝国の時代よりシャーマン達が儀礼でパロサントを焚いたり、伝統医療に使われていたりと古代より人々を魅了し続けてきた。現在は主に香りを楽しんだり、インテリアのオブジェとして飾ったり、また防虫剤や瞑想、アロマテラピー、スマッジングなど幅広い用途で親しまれている。
しかし現在パロサントは希少なものとなり、ワシントン条約の保護対象となっている。今回紹介するニュージャージーにアトリエを構えるLuna Sundara(ルナスンダラ)社は、ペルーとエクアドルにある正規の認定農家と契約し、枯れ木となった野生のパロサント(学名Bulusera graveolence ブルセラグラベオレンス)のみを製品化している。自然に枯れ落ちたものだけを収穫するのにはサステナブルな観点だけではない。パロサントは生きた木の状態では香りが無く、枯れ木となったパロサントを長い年月をかけ自然の中で乾燥させることで木の中の樹脂が固まり、香りが熟成されるのだ。
一本でも優しく香り、使い方はさまざま
今回紹介するパロサントはペルー産で、10センチほどにカットされたものが8本入っている。パッケージを開封する前から漂うほのかな気の香りにうっとりする。
ニスの塗装などの表面処理が一切加えられていない地のままの木のため、木肌の美しさや手触りの良さがダイレクトに味わえる。個体差はあるが、軽いが目がしっかりと詰まっており、茶色の木目からは中南米の大地に大きく根を張り太くそびえ立つ原木が目に浮かぶ。パロサントは樹脂をたくさん含んでいるため、年月が経つにつれて艶が出て落ち着いたこげ茶色に変化していく。
シンプルなパロサントは他のインテリアの邪魔をせずに、ナチュラルな優しいぬくもりをプラスしてくれるだけでなく、おしゃれな雰囲気も落ち着く空間も両方叶えてくれる。打ちっぱなしコンクリートのモダンスタイル、北欧スタイル、アジアンスタイル、アンティークスタイルなど、どんなインテリアにもマッチしやすい。
パロサントはそのまま置いておくだけでも、しっとりとしたウッディな香りをほのかに漂わせる。一本でも香るため、スペースが取れない場所にもおける。作業机や玄関に置いたり、スワッグなどと一緒に吊して飾りながら香りを楽しむこともできる。
麻袋やオーガンジー素材の袋などに数本入れて、サシェとしてバッグの中に入れたり、枕元に置いたりした使い方も。また、虫が嫌がるリモネンという成分を含むため、クローゼットに入れておけば防虫効果も期待できるという。浴槽の中に入れれば、甘い香り漂うバスタイムを楽しむことができ、使い終わったら乾燥させて、また繰り返し使うといった方法もある。
着火すればより深い香りが漂う
着火させて燃やすことで香りの表情がさらに豊かになり、甘さや爽やかさが増す。
パロサントを45度程度傾けてマッチやライターなどで着火し、1分程燃やしたあと煙を吹き消す。煙は数秒~1分程度で消えるため、好みで着火して煙を吹き消す流れを繰り返す。香りが十分に部屋に蔓延したら、しっかりとスティックの火を消して耐熱性のある陶器や金属製のプレートやボウルなどの上に置く。焚火のように少しの間内部が燃え続ける場合があるため、完全に消火するまではその場を離れないよう注意が必要だ。
燃やすとバニラやムスクのような甘みが深まり、ミントやレモンのような柑橘系の香りがプラスされ、煙が立ち昇る姿は神秘的な雰囲気を増し、深い森の奥へとトリップしたようなそんな感覚になる。深いリラックスが徐々にやってきて、心が落ち着き神聖な気持ちに。
香りをより強くしたい場合には、カッターで薄く削ってフレーク状にして着火した使い方もできる。香りが弱くなったと感じた時には、少し削ると内側の油分が空気に触れるため、香りがまた漂いはじめる。
また、自分好みのキャンドルやディフューザー、アロマイオイルと組み合わせ、香りをブレンドして楽しむという使い方も。ラベンダーやハーブ系の香りのキャンドルを一緒に焚いて目を閉じれば、大自然に抱かれているような心地よい気分に。
気分や空気の浄化にも
パロサントの煙は邪気を払い、場を浄化させ良い精霊やエネルギーを招き幸せを呼び込むと言われるため、空間をデトックスする「スマッジング」にも使うことができる。スマッジングはアメリカ大陸の先住民族が浄化のためにパロサントを焚いて行った儀式や風習を指す。浄化の他、ムードを高めたり、エネルギーを強化したり、精神の安定にも効果があると信じられてきた。集中力を増すため瞑想にも使われており、近年アメリカでは一般の人々の間でも広く行われている。
また、ストレスや頭痛の緩和や、創造力の向上、幸運をもたらすとも言われている。仕事で行き詰まったとき、なんとなく心が晴れないというとき、ストレスで体が重いとき、そんなときにパロサントを焚いてみてはどうだろうか。心のもやもやのみならず、自分の周りにある邪気や空間を浄化しリフレッシュしてくれる。
スマッジング方法は簡単で、窓を開け、パロサントを着火し、パロサントを持って部屋を歩いて空間全体に煙をくぐらせ、窓から煙を出し、窓を閉める。煙を出すときはネガティブなエネルギーを一緒に外へ出すイメージすると良い。スマッジングの効果を信じるかはあなた次第だが、秋のひんやりとした空気と芳醇な香りの煙が混ざり、すがすがしい気持ちになるだろう。
毎日香りを楽しむことで、自分の心身に意識を向ける
香りを楽しむだけでなく、インテリアのアクセントや入浴剤や防虫剤代わりにもなり、空間を浄化し安らぎをもたらしてくれるパロサント。自由な発想で楽しみ、独自の使い方を見つけるのも楽しいだろう。パロサントの魅力はたくさんあるが、一番の魅力は自分の心身に意識を向ける時間を持つことができると考える。仕事や生活に追われてなかなか自分に向き合う時間がとれないと、ふと自分を見失ってしまいそうになるが、パロサントの香りを嗅ぐことを習慣化することで、自分と向き合う時間を意図的に作ることができる。コロナ下において心身ともにセルフコントロールがより大切になってきた今、何千年と受け継がれてきたエシカルアイテムで、自分の心と体をヘルシーに保っていきたい。
パロサント
CURATION BY
東京生まれ。フリーライター・ディレクター。美しいと思ったものを創り、写真に撮り、文章にする。