Vol.562

KOTO

05 JUL 2024

押し付けの価値観からの解放。モノ選びの楽しさに目覚めるインテリアのリサイクルショップ「FUNagain」

ファッションや部屋のテイストなど、自分の好みの理由や背景を改めて考えてみると、意外と説明が難しい。ブランド名やクリエイターの知名度や流行でモノの価値を測ることは決して悪いことではないが、それらの何に惹かれたのかを考えることがないのなら、それは”思考停止”をしているのかもしれない。「自分の”好きなモノ”って何だ?」ーー東京都・千駄木にあるインテリア商品を扱うリサイクルショップ「FUNagain(ファンアゲイン)」に行ってから、ずっと自問している。

ブランド、ジャンル、価格…価値観の呪縛で”思考停止”していないか

SNSを眺めている時、街を歩いている時、「あ、コレいいな」とビビッとくるアイテムに出合うことがある。ところが、それがノーブランドだったり、知らないブランドだったりすると、途端にワクワクがしぼんでいくという経験をしたことはないだろうか。逆に、特にときめかなかったはずのアイテムでもブランド名を知った瞬間に興味を引かれたり……。

自覚なく抱いていた固定観念に気付かせてくれたのが「FUNagain」だった。

「FUNagain」の客層は、美容師やアパレル関係など、クリエイティブ感度の高い人たちが多い
店主は、BEAMSやESTNATIONなどのセレクトショップでVMD、MDなどを経験し、現在はインテリアスタイリストとしても活躍する高島大輔さん。店内のアイテムは、すべて高島さんが目利きしたもの。ブランド品もノーブランド品も、生まれた国も年代も、ジャンルもさまざまなインテリアや雑貨が等しく肩を並べて陳列されている。高島さんは”キュレーションされた骨董市”と自称する。

アイテムがクリアなアクリル棚に陳列されていてユニーク

ショップに並ぶアイテムは、日本、アメリカ、デンマーク、イギリス、中東など、生まれた国も年代もさまざま

食器類も充実のラインナップ

アートポスターも扱っている
高島さんが「FUNagain」をオープンしたのは、2022年4月。「長年、洋服業界で働いてきて苦手だったのが、『これはどこそこで生まれたディテールで、時代背景がこうだからそのアイテムと合わせるのは違う』みたいな知識や価値観の押し付け。こうした呪縛に囚われると、ファッションやインテリアも楽しくなくなってしまう。こういうジレンマから解放されてつくったお店なんです」と話す。

店主の高島大輔さん。個人宅やホテル、店舗などのインテリアスタイリングも行っており、雑誌など多くのメディアで活躍している
「ブランドやクリエイターなどの知名度や知識を持つことは悪いことではないんです。それら自体が価値だと思い込んで”思考停止”してしまっていませんか?ということを投げかけて、違う選択肢もあるのだと伝えたいんです。大量生産されたもの、安価なものなどでも、自分が素敵だと思えるものはたくさんある。思考停止の呪縛から自由になれば、インテリアをもっと純粋に楽しめると思うんですよね」

それでは、なぜリサイクルショップだったのだろうか。その背景には、10年前に高島さんが台湾に行った時の体験がある。台湾では、年末の大掃除や引越しなどで、粗大ゴミとして出された大量の家具が道端に置いてある光景を目にすることがある。それを他の人が再活用することも少なくない。

「結構いいものがあるんですよね。イベントで、それを拾い集めてディスプレイし直す機会があったんですが、みんな『超イイね』って言ってくれて。でも、これらのアイテムって誰かが捨てたものなんですよね。価値観の違いで元のモノの価値が変わるという気づきになりました」

ショップのサブタイトル「The Circulation of Love!!」にも、その時の学びとマインドが刻まれている。

「The Circulation of Love!!」
「誰かが大切にしていたものを、次の誰かの大切なものにするという橋渡しの役割をしたい。『愛の循環』ですよね。いま、世の中ではSDGsやサーキュラーエコノミーってよく言われてますけど、突き詰めて考えると、二酸化炭素を出さないためには洋服なんて作らなくていいし、旅行だって、お肉を食べることだって制限しなければならなくなる。本気でやるとなったら、僕自身はキツいことだなって思うんですよね。

結局、いま世の中で言われていることって、環境のためではなく、建前なんじゃないかと。
僕が大切にしたい『循環』というのは、人の気持ちのことです。モノを作った人、使っていた人、これから使う人、全て。たとえ有名なデザイナーのものでなくても、魂を感じるものだったら伝えたい。だからこそ、毎週仕入れたアイテムをInstagramで丁寧に紹介するようにしていますし、接客でも大切にしていること。どれか一つを切り取ったら、『愛の循環』は成立しませんから。その結果がほんの少しでも、より良い地球の未来につながるのではと思っています」

ショップは感度の高い個人店が点在する谷根千(谷中・根津・千駄木エリア)にある。「谷根千は古い街並みが残っているだけでなく、大学があったり、文豪が住んでいた歴史があったりと、インテリジェンスを感じる。そういう街にはいい飲み屋がある(笑)」(高島さん)

「近所の商店街は、無添加の自家製麺をつくっている『大沢製麺所』や、日本屈指の自然派ワインの品揃えで店主もおもしろい『リカーズのだや』など、コアな店が多い」(高島さん)

まさに一期一会。固定観念を破壊しながらモノ選びを楽しむ

高島さんの言葉通り、Instagramには仕入れたアイテム一つ一つに魂と熱量を感じる紹介文がつづられている。Instagramで狙いを定めたアイテムのために、早朝から来店する客も少なくない。実際ショップに行くと、いかに多くの高感度の人々の物欲センサーを刺激しまくっているかを目の当たりにする。

さまざまな角度から撮影された写真と紹介文に熱量を感じる
土曜11時オープン前に8時から整理券を配布しているのだが、筆者も10時に訪れたところ、すでに整理券番号は19。「ほしいものリスト」も一緒に記入できるようになっていて、自分よりも前に来た人の購入予定アイテムを事前にチェックできる。

毎週、 約8 割の商品が入れ替わるというから、アイテムとの出会いはまさに一期一会。19番の筆者が入店したのは開店から30分後ほどだったが、Instagramで紹介されていた商品の体感7割は「Sold」マークがついていた(筆者は​プライウッドのローテーブル​とイタリア製ガーデンスツールをゲット)。お目当てのアイテムがあるなら、土曜に早起きをして早い番号の整理券を入手すべし。

月曜から金曜は、仕入れのために関東圏の市場に足を運び、商品を洗浄し、写真を撮影してInstagramで紹介し……と、高島さんは1日も休まず土日の開店に挑んでいる

店内のアイテムの8割が毎週入れ替わる
ところで、高島さんはどのような信条のもと、目利きをしているのだろうか。

「まず、お店の個性を出すラインナップが3割。これは世の中でみんながあまり価値に気づいていないものです。例えば、1980年代後半から90年代の勢いがあったバブル期の日本って、海外から取り寄せた物や、素材もデザインもお金をかけたつくりの良い物がたくさんあったんです。そういう物のなかでも、現代の暮らしに取り入れても違和感がないものをセレクトしています。

次に、時代の流れに合わせたものが 3 割です。丁寧でシンプルな暮らしが流行していましたが、今、そういうものに飽きてきていて、反動がきていると思うんですよね。80年代のイタリアで起きたポストモダンに似ています。機能的に優れた美しいものがもてはやされていた中で生まれた、自由にいろんな考えや表現があってもいいよね、という動き。いわばカウンターカルチャーです。そういう意識で選んだものです。

のこり4割がベーシックなもの。どんなテイストにも馴染むものです。無印良品やIKEAなどみんなが知っているブランドのものもあります。僕はラタンのアイテムを選ぶことが多いかもしれません」

確かな目利きで選ばれたアイテムがリーズナブルに手に入るのはうれしい。ダイニングテーブル3〜6万円、イス9,000円〜2万円弱など
実際に、取材時に店頭にあったラインナップの一例を見ていただくのが早いだろう。ぜひ、あらゆる先入観をとっぱらってみてほしい。店主の高島さんのコメントとともに紹介しよう。

レザーカンチレバーチェア 14,000円(税込)

背もたれと座面がレザーになっていて、体重を分散させる構造のため長く座っても疲れにくい
「このイスの構造は、1920年代に建築家・マルセル・ブロイヤーが考えたものなんですけど、彼のブランド名を冠したものは60万円くらいするんですよね。一方、このチェアは、公共施設や業務用の家具を作っている日本のADAL社が2012年につくったもので9000円。この59万円の差にどんな価値を見出すかについては、ぜひ一度考えてみてほしいところ。ちなみに僕なら、ダイニングテーブルと合わせてお酒をゆっくり飲むときに使いたいですね」

ランドリーボックス 12,000円(税込)

リーズナブルで吸湿効果のあるラタン素材のランドリーボックス
「僕はラタンのアイテムが好きで、毎週何かしら仕入れています。時々、お客さんに『昔、家にあった』『おばあちゃんの家にあったやつ』と言われるんですが、それも思考停止してしまっているかもしれませんよ。このクラフト感は、日本の民藝のようでもあるし、東南アジアの民藝のようでもある。さらには、フランスのアンティークにもラタンは使われていたりする。このアイテムをどういう風に使ったらどう見えるのか、今一度向き合ってみませんか?」

一輪挿し 9,000円(税込)

イギリスの女性陶芸家Diana Worthy(ダイアナ・ワーシィー)によって1970年代に作られた一輪挿し。「日本の陶器にはないグラフィカルな要素が、日本の民藝品を見慣れている人にとっては新鮮に映るはず」

ダイニングテーブルセット ダイニングテーブル1台、イス4脚 85,000円(税込)

「Sampei design institute Tokyo(三平興業研究所)」の逸品。「1970年代にチーク材でつくられたもの。50年経ってもこの高品質、つくりの良さを感じさせます」

石器の平皿 1枚2,800円(税込)

磁気と陶器の間の素材からなる石器の平皿で、熱に強い。「1970、80年代は日本の石器が世界で評価されていて、輸出用として作っていたもののデッドストック品。料理が映えます」

サワーグラス 1,800円(税込)

1990年代に作られたサワーグラス。「今、アクリル素材が世の中のトレンド。花瓶として使うのもおすすめ」

モノの持つ要素を分析し、仲間同士をグルーピングする

入手したアイテムは、どのように部屋に取り入れるとよいのだろうか。高島さんがインテリアスタイリングの依頼を受ける時も、依頼者がもともと持っているアイテムを見て、好きそうな色、テイスト、素材感を分析する。さらに、「同じ要素を持つ仲間同士を集めて配置する、つまりグルーピングするのがオススメです」と話す。

「時代、素材、テイスト、これらがグルーピングの三大柱。同じ性質を持つ仲間同士は喧嘩しないんですね。さらに、そこにそのグループが際立って見えるようなコントラストをつくるアイテムをプラスする。例えば、古いシャビーなものばかりを集めたら老けた感じになってしまうけれど、現代的に見えるようにするためには何の要素が必要なのかを考えるんです」

同じグループの中に、あえて違うテイストのもので遊びを加える
具体的にはどういうことなのか、カメラマンが心惹かれた3つのアイテムを例に聞いてみると、

「現代の北欧製のものが2点のもの、アンティークなものが1点。ということは、デザイン性の高いアイテムのアクセントに古いものを混ぜるのがお嫌いじゃないですよね。クリーンなテイストのものをベースにするのがお好きだけど、全部そうだとモデルルームみたくなっちゃうのは違う、と思っていますか?」と即座に分析。カメラマンを「どうして分かるんですか!」と驚かせていた。

ここまで知識や価値観に囚われていないか投げかけてきたが、高島さんの話を聞くと、ものの持つ歴史や、作り手や背景といった知識があれば、もの選びの解像度が上がるのだと感じる。実際、グルーピングをするにしてもアイテムの持つ要素を因数分解して理解することで特徴や魅力がクリアになるし、何より高島さんの目利きは確かな知識と経験、見立てに基づくものだ。

「僕は、モノの持つ要素や、なぜ良いと思うのかを常に考え続けるクセがついているんです。商品の紹介をするときも、『どこのブランドで、デザイナーは誰か』で終わるんじゃなくて、それ以外の価値をどう伝えるかを言語化できるようにすることに重きを置いている。知識を持っていること自体が価値なのではなくて、それをどう使うか、どう発展できるか、ということに価値があると思います。この差は思っているより大きい」(高島さん)

知識にとらわれているのか、知識を表現手法として使いこなせているのか、この問いにハッとさせられる。

テイストもジャンルもバラバラだが、世界観が出来上がっている

ディスプレーにも高島さんの業が生かされていて、スタイリングの勉強になる

常日頃から物事に向き合い、本質に気づけることが人生を豊かにする

「僕が商品の良さを伝えるために、毎週、頭をフル回転させて言語化しようとしていることって、『ZOOM LIFE』さんがフォーカス当てても拡大して物事を見るっていうことと、結構近いと思うんですね。基本的にコンセプトは一緒なんじゃないかな。

常日頃からいろんな物事に向き合っていくことって、いろんな気づきがあるんですよ。その気づきが多ければ多いほど、ちょっとしたことで人生を楽しくできたりする。

例えば、『ラグジュアリーとは何か』に向き合ってみると、必ずしもそれはタワーマンションに住んだり自家用プライベートジェットに乗ることじゃないんですよね。『あ、今日の夕陽超きれいだったな』というような、ちょっとしたことでも贅沢だなと思える瞬間が、絶対にたくさんある。こういう細かいところに日常的に気づけるかどうかが、人生を豊かにすることにつながると僕は思います」

高島さんのご自宅。「自分自身のためのモノを選ぶ時は、やっぱり希少性やブランド名にとらわれないことは意識しているし、値段のバランスに対して自分の魅力を覚えるかどうかもすごく考えますね。プラス、接客してくれたお店の人の人柄も大事」(写真はInstagramより)
知識や価値観なんて小難しく考える前に、”心の声に気づく”ことから始めよう。モノを選ぶ時、ワクワクしているだろうか。気持ちに正直に従って、もう一度世界を見てみたら、それまでと180度違っているかもしれない。間違いなく、そこから人生が楽しくなる予感がするはずだ。

photo|嶋崎征弘 Masahiro Shimazaki

高島大輔

1978年生まれ。FUNagain店主。セレクトショップ(BEAMS、ESTNATION)のVMD、MDなどを経て現在に。現在はショップ運営の他に、ホテルや個人宅のインテリアスタイリング業務を中心に行っている。

https://www.instagram.com/anthemdsk/

FUNagain|ファンアゲイン

東京都文京区千駄木3-48-2
営業時間:土曜11時-18時、日曜12時-18時
※8時から11時ころまで整理券を配布し、順番に入店。
16時からはDM通販対応もできる限り行っている。事前キープ不可
定休日:月-金曜

https://www.instagram.com/funagain_sendagi/