Vol.380

KOTO

07 OCT 2022

無印良品が「量り売り」。フードロスを楽しみながら減らしていく暮らし

最近、「量り売り」で商品を販売する店が増えている。調味料やお米などの食品、洗剤やコスメ類といった雑貨など、お店によって量り売りで購入できるものはさまざま。パッケージ削減によって脱プラスチックに貢献できることや、好きな量を購入できるためフードロスの心配が少ない、と注目を集めているのだ。そんななか、全国で私たちの暮らしを支えてくれている「無印良品」も量り売りを展開していることをご存知だろうか。無印良品に、導入の背景や想いを聞き、日常生活での量り売りの楽しみ方を紹介する。

「量り売り」はフードロスに向き合い、シンプルに暮らしを整える文化

無印良品の量り売りはじまりの店「無印良品 東京有明」。現在は港南台バーズ(神奈川県)、イーアス春日井(愛知県)、広島アルパーク(広島県)を含む計4店舗で展開
無印良品が量り売りを始めたのは、2020年にオープンした「無印良品 東京有明」から。ちょうど「フードロス」の問題がメディアに取り上げられることが増え、世間の認知度も上がってきていた時期だ。

「フードロス」とは、まだ食べられるのに、捨てられてしまう食べ物のこと。日本では1年間に約612万トン(東京ドーム約5杯分)のフードロスがあるといわれており、1人あたり毎日お茶碗1杯分の食料を捨てていることになるのだとか。そのうち、料理のつくりすぎによる食べ残しや、買ったのに使わずに捨ててしまっている家庭からのフードロスは(284万トン)と約46%を占めている(農林水産省2017年)。

将来的に人口増加で食糧不足に陥るとされていているだけでなく、食品の処分時に排出される二酸化炭素で地球温暖化につながる等で環境負荷が懸念されるなか、“もったいない”だけでない、解決しなければならない深刻な問題なのだ。

食品部の川良はるかさんは、無印良品で量り売りの導入を決めた背景を、こう話してくれた。

「パックされた食べ物は一見便利ですが、無駄が多く、フードロスにつながってしまっています。無印良品でもパックされた食品を扱っていますが、1グラムずつ、1個ずつ、1人分ずつという最小単位の販売で、ひとりひとりの『適量』で商品を購入できる量り売りという選択肢を増やすことで、できるところからフードロスを削減していければと思ったのです」

売り場は湿度・温度管理のためガラスで仕切られている
今回取材した「無印良品 東京有明」では、食の基本となる雑穀や乾物などを中心に、コーヒー、ドライフルーツ、ナッツ、お菓子まで、約50ものアイテムを量り売りで販売している。

商品はガラスで仕切った特別な部屋にあり、衛生管理と食品の品質管理のために湿度と温度を厳しく管理、売り場に入れる人数の制限もしている。正直、すごく手間がかかっているという感想を抱いたが、ここまでする背景には「無印良品が量り売りという食文化を提案することで、多くの人にフードロスについて考えるきっかけになれば」という想いから。

食品は約50アイテムを展開。商品がズラッと並ぶ圧巻の光景に、思わずワクワクしてしまう
日ごろから食品をついつい多くストックしてしまい、使いきれずに捨ててしまったり、途中で食べ飽きていつの間にか賞味期限が過ぎてしまったり。思い返してみると、私自身、大いに思い当たる節がある。

量り売りがフードロス解消に繋がることは理解できたが、私たちの生活にはどのような暮らしの変化があるのだろうか。

売れ筋は国産のドライフルーツ。「ドライフルーツの新たな楽しみ方が増えた」「思った以上にドライフルーツの種類が豊富」と好評なのだとか

東京有明ではコーヒーの量り売りのリピーターも多い。オリジナルブレンド、カフェインレス、シングルオリジンと幅広く展開

「量り売り」で食生活に彩りを

実際に量り売りで食品を購入するといっても、パックされた食品を購入することに慣れた人たちにとっては、日常生活のなかの利用シーンがイメージしにくいことも事実。

「量り売りは、まだまだ日本では馴染みのない文化。根付かせるためには、量り売りをストイックに日々の食生活のなかに取り入れていくよりは、ちょっとの量を無駄なく使える喜びだったり、レシピなどで新しい食の発見をしたり、そういうふうに食を楽しみ、暮らしに彩りを与えながら、結果的にフードロスに貢献できるということが大事だと思うんです」と川良さん。

「無印良品 東京有明」の売り場では、レシピやおすすめの使い方をあわせて紹介する工夫がされていて、どうやって食べようか想像しながら選べるようになっている。

スタッフの手書きのおすすめPOP

自由に持ち帰れる紙のレシピも置いてある

料理の写真もあって、楽しみ方のアイデアがふくらむ

30gでどのくらいの量になるかのサンプルが置かれているので、購入する量のイメージもしやすい
川良さんと、同じく食品部の鈴木亮平さんのお二人に楽しみ方を聞いてみると、それぞれに違った返答が。

鈴木さんは、二十一穀米や発芽玄米など7種類あるさまざまなお米からその日の気分に応じて選んで白米に混ぜてみることが多いとか。「袋で売られているものだと量が多くて、途中で飽きちゃうこともあるんです。でも、少量から購入できると試して使ってみることができるので便利です」

お米は7種類ほどをラインナップ。ジャスミン米やもち玄米など、見慣れない種類もあるが、少量を試せるので冒険しても安心
川良さんは、乾物ゾーンにある7種類の豆のなかでもレンズ豆がお気に入り。「他の豆はひと晩水に浸して戻す必要があるんですが、レンズ豆はさっと洗って使えるんです。気軽にサラダの彩りに取り入れたりできて、使い勝手がいいんですよ」

レンズ豆とパクチーのサラダ。ワインビネガーのほどよい酸味とレンズ豆と野菜の異なる食感が楽しい

「レンズ豆とパクチーのサラダ」の作り方

(材料2人分)
・レンズ豆60g ・紫玉ねぎ(みじん切り)1/4個 ・ワインビネガー 大さじ1 ・セロリ(みじん切り) 1/4本 ・塩 少々 ・パクチー(ざく切り) 4本ほど ・ナンプラー 小さじ1 ・にんにく(みじん切り)1/4かけ ・あらびきコショウ、オリーブオイル 各適量

1、レンズ豆はさっと洗い、塩少々(分量外)を加えた湯に入れて、アクを取りながら約10分ほど茹でる。
2、紫玉ねぎは3分ほど水に浸けておく。水からあげてペーパータオルでしっかり拭き取る。セロリは塩を加え、しんなりするまでもんで、出てきた水分をしっかり絞る。
3、1の豆、2の野菜をボウルに入れ、にんにく、ワインビネガー、ナンプラーを加えてなじませたら、パクチーとオリーブオイルを加えてさっと和え、あらびきコショウをふりかけたら、完成。

少しずつ購入できるので、気分によって使い分けても余ることがないのがうれしい。また、いつもの料理にちょっと加えてみようというアイデアの源にも。量り売りは人によって異なる楽しみ方ができるところも面白いと感じる。

「量り売り」のある暮らしを体験してみる

売り場の情報やお二人の話から、自分ならではの楽しみ方のイメージを膨らませ、私も量り売りに挑戦してみることにした。

購入するのは、ドライフルーツのレモン。ドライフルーツは好きだが、パックで売られているものは量が多くて途中で時化てしまったり、食べ飽きたりしてしまうことが多いのだ。食べきれそうな少量だけ購入できるのは、とてもありがたい。

店内に用意されている紙袋に、好きな量だけトングで取り出して詰める。あとは、タッチパネルを操作して分量や商品名が印刷されたシールをプリントアウトし、紙袋に貼ってレジに持っていけばいい。購入の仕方はとても簡単だ。

筆者は1番人気というドライフルーツのレモンを30g(10gあたり60円)購入 (購入は20g〜)

商品を詰めた紙袋を計量トレイに乗せる

タッチパネルで商品番号などを入力していく

操作が終わると商品情報がシールに印刷されるので、それを紙袋に貼ってレジに持っていく
自宅に帰り、試したのは売り場のPOPに書かれていたスタッフおすすめの楽しみ方。紅茶にドライフルーツを入れてフルーツティーにするのだ

レモンのドライフルーツを紅茶に入れてレモンティーに
砂糖が程よく紅茶に溶け、濃縮されたレモンの風味が。最後にレモンを食べる楽しみがあるのもドライフルーツならでは。これはハマってしまいそうだ。次は他のフルーツで試してみるのもいいかもしれない。マンゴーティーやアップルティーなど、毎日のティータイムの楽しみも広がっていきそうだ。

ほかにもレモンのドライフルーツを使ったケーキのレシピもあったので、チャレンジしてみるのも楽しそうだ。ケーキを作ると材料が余ることも多いが、量り売りで分量を決めて購入すれば、その心配もない。

まずは気になる食品の量り売りを試して、発見をし、「次はこうしてみよう」と工夫を重ねていく。これも少量ずつ試せる量り売りならではの楽しみだろう。そのまま食べるのもいいけれど、食生活がもっとクリエイティブになっていきそうな予感がした。

無印良品の「量り売り」は食品以外

ちなみに「無印良品 東京有明」では、アルカリ性のクリーナー・アルカリ電解水や家庭用洗剤など、食品以外の量り売りも行っている。空になった無印良品の洗剤ボトルか、市販のペットボトルを持参すると、スタッフが充填してくれる仕組みだ。

繰り返し容器を使ったり、空き容器を活用することは、脱プラスチックにも貢献できる。パッケージ化された商品でも詰め替え商品はあるとはいえ、詰め替え商品が入っている容器がゴミになっている。家庭ごみの容積の半分以上が容器や包材。量り売りで、家庭ゴミを減らすことにも繋がるのだ。

アルカリ電解水クリーナー、トイレ用洗剤、バス用洗剤 各100ml70円(税込)、衣類用洗濯洗剤・衣類用柔軟剤 100ml55円(税込)、食器用洗剤 100ml95円(税込)

容器はある程度の丈夫さがあれば何でもOK。その場で購入もできる

洗剤の購入の仕方

棚には蛇口がずらり。ひねると洗剤など商品が出てくる

欲しい分量だけスタッフさんが計量し、持参or購入した容器に入れてくれる

筆者は普段から愛用しているアルカリ電解水クリーナーを300ml購入
他の店舗では、シャンプーやコンディショナーのヘアケア製品、ハンドソープやボディソープを量り売りで販売しているところも。

食品は衛生面の関係上、現在は店舗で用意された紙袋を使用する必要があるが、「今後はパッケージの削減にもつなげられるよう、食品でも繰り返し使える容器を導入できるようにすることも検討しています」と川良さんは話す。

ゆくゆくはフードロスだけでなく、食品面でも脱プラスチックにも繋がりそう。SDGsにおける量り売りの可能性を感じさせる。

「量り売り」は今後もっと身近になっていく

海外では、マルシェ(市場)やバルクショップなどで当たり前に見られる量り売り。でも、考えてみれば日本でも昔は量り売りがスタンダードだったはずだ。現在のパッケージ化された商品を購入するスタイルは利便性を追求した結果だが、心の豊かさや地球環境について大切に考える機会が増えたいま、改めて量り売りは新しい価値に気づかせてくれる。

私は量り売りを利用して1週間、「今日はどの食品をどのくらい使おうか、どう利用しようか」と考える楽しみが生まれ、冷蔵庫やキッチンの棚とにらめっこをするストレスが減ったことに気づいた。賞味期限を過ぎてしまったものを心を痛めながら捨てることもない。さらに、1週間するとプラスチックゴミが30Lの袋いっぱいになっていたものが、その半分程度で済んだことも大きな変化だ。

量り売りは、必要以上のものを持たず、心豊かに暮らす「シンプルライフ」に通じるものがある。

無印良品でも、量り売りの商品を使ったレシピを楽しめるワークショップや、量り売りができる店舗がもっと増えていくかもしれない。量り売りを楽しむ人が増えたなら、その分だけもっと楽しみ方をシェアしていくことができる。そうなれば、量り売りがもっと身近な存在になり、私たちの生活をさらに豊かに彩ってくれそうだ。

無印良品