「量り売り」はフードロスに向き合い、シンプルに暮らしを整える文化
「フードロス」とは、まだ食べられるのに、捨てられてしまう食べ物のこと。日本では1年間に約612万トン(東京ドーム約5杯分)のフードロスがあるといわれており、1人あたり毎日お茶碗1杯分の食料を捨てていることになるのだとか。そのうち、料理のつくりすぎによる食べ残しや、買ったのに使わずに捨ててしまっている家庭からのフードロスは(284万トン)と約46%を占めている(農林水産省2017年)。
将来的に人口増加で食糧不足に陥るとされていているだけでなく、食品の処分時に排出される二酸化炭素で地球温暖化につながる等で環境負荷が懸念されるなか、“もったいない”だけでない、解決しなければならない深刻な問題なのだ。
食品部の川良はるかさんは、無印良品で量り売りの導入を決めた背景を、こう話してくれた。
「パックされた食べ物は一見便利ですが、無駄が多く、フードロスにつながってしまっています。無印良品でもパックされた食品を扱っていますが、1グラムずつ、1個ずつ、1人分ずつという最小単位の販売で、ひとりひとりの『適量』で商品を購入できる量り売りという選択肢を増やすことで、できるところからフードロスを削減していければと思ったのです」
商品はガラスで仕切った特別な部屋にあり、衛生管理と食品の品質管理のために湿度と温度を厳しく管理、売り場に入れる人数の制限もしている。正直、すごく手間がかかっているという感想を抱いたが、ここまでする背景には「無印良品が量り売りという食文化を提案することで、多くの人にフードロスについて考えるきっかけになれば」という想いから。
量り売りがフードロス解消に繋がることは理解できたが、私たちの生活にはどのような暮らしの変化があるのだろうか。
「量り売り」で食生活に彩りを
「量り売りは、まだまだ日本では馴染みのない文化。根付かせるためには、量り売りをストイックに日々の食生活のなかに取り入れていくよりは、ちょっとの量を無駄なく使える喜びだったり、レシピなどで新しい食の発見をしたり、そういうふうに食を楽しみ、暮らしに彩りを与えながら、結果的にフードロスに貢献できるということが大事だと思うんです」と川良さん。
「無印良品 東京有明」の売り場では、レシピやおすすめの使い方をあわせて紹介する工夫がされていて、どうやって食べようか想像しながら選べるようになっている。
鈴木さんは、二十一穀米や発芽玄米など7種類あるさまざまなお米からその日の気分に応じて選んで白米に混ぜてみることが多いとか。「袋で売られているものだと量が多くて、途中で飽きちゃうこともあるんです。でも、少量から購入できると試して使ってみることができるので便利です」
「レンズ豆とパクチーのサラダ」の作り方
・レンズ豆60g ・紫玉ねぎ(みじん切り)1/4個 ・ワインビネガー 大さじ1 ・セロリ(みじん切り) 1/4本 ・塩 少々 ・パクチー(ざく切り) 4本ほど ・ナンプラー 小さじ1 ・にんにく(みじん切り)1/4かけ ・あらびきコショウ、オリーブオイル 各適量
1、レンズ豆はさっと洗い、塩少々(分量外)を加えた湯に入れて、アクを取りながら約10分ほど茹でる。
2、紫玉ねぎは3分ほど水に浸けておく。水からあげてペーパータオルでしっかり拭き取る。セロリは塩を加え、しんなりするまでもんで、出てきた水分をしっかり絞る。
3、1の豆、2の野菜をボウルに入れ、にんにく、ワインビネガー、ナンプラーを加えてなじませたら、パクチーとオリーブオイルを加えてさっと和え、あらびきコショウをふりかけたら、完成。
少しずつ購入できるので、気分によって使い分けても余ることがないのがうれしい。また、いつもの料理にちょっと加えてみようというアイデアの源にも。量り売りは人によって異なる楽しみ方ができるところも面白いと感じる。
「量り売り」のある暮らしを体験してみる
購入するのは、ドライフルーツのレモン。ドライフルーツは好きだが、パックで売られているものは量が多くて途中で時化てしまったり、食べ飽きたりしてしまうことが多いのだ。食べきれそうな少量だけ購入できるのは、とてもありがたい。
店内に用意されている紙袋に、好きな量だけトングで取り出して詰める。あとは、タッチパネルを操作して分量や商品名が印刷されたシールをプリントアウトし、紙袋に貼ってレジに持っていけばいい。購入の仕方はとても簡単だ。
ほかにもレモンのドライフルーツを使ったケーキのレシピもあったので、チャレンジしてみるのも楽しそうだ。ケーキを作ると材料が余ることも多いが、量り売りで分量を決めて購入すれば、その心配もない。
まずは気になる食品の量り売りを試して、発見をし、「次はこうしてみよう」と工夫を重ねていく。これも少量ずつ試せる量り売りならではの楽しみだろう。そのまま食べるのもいいけれど、食生活がもっとクリエイティブになっていきそうな予感がした。
無印良品の「量り売り」は食品以外
繰り返し容器を使ったり、空き容器を活用することは、脱プラスチックにも貢献できる。パッケージ化された商品でも詰め替え商品はあるとはいえ、詰め替え商品が入っている容器がゴミになっている。家庭ごみの容積の半分以上が容器や包材。量り売りで、家庭ゴミを減らすことにも繋がるのだ。
食品は衛生面の関係上、現在は店舗で用意された紙袋を使用する必要があるが、「今後はパッケージの削減にもつなげられるよう、食品でも繰り返し使える容器を導入できるようにすることも検討しています」と川良さんは話す。
ゆくゆくはフードロスだけでなく、食品面でも脱プラスチックにも繋がりそう。SDGsにおける量り売りの可能性を感じさせる。
「量り売り」は今後もっと身近になっていく
私は量り売りを利用して1週間、「今日はどの食品をどのくらい使おうか、どう利用しようか」と考える楽しみが生まれ、冷蔵庫やキッチンの棚とにらめっこをするストレスが減ったことに気づいた。賞味期限を過ぎてしまったものを心を痛めながら捨てることもない。さらに、1週間するとプラスチックゴミが30Lの袋いっぱいになっていたものが、その半分程度で済んだことも大きな変化だ。
量り売りは、必要以上のものを持たず、心豊かに暮らす「シンプルライフ」に通じるものがある。
無印良品でも、量り売りの商品を使ったレシピを楽しめるワークショップや、量り売りができる店舗がもっと増えていくかもしれない。量り売りを楽しむ人が増えたなら、その分だけもっと楽しみ方をシェアしていくことができる。そうなれば、量り売りがもっと身近な存在になり、私たちの生活をさらに豊かに彩ってくれそうだ。