Vol.328

KOTO

08 APR 2022

器の割れや傷もアートに変える。日本古来の修復”金継ぎ”を自宅でできる「つぐキット」

食器が割れたり、ヒビが入ってしまったら、どうするだろうか。モノに溢れている現代、何の迷いもなく捨ててしまうかもしれない。だが、それがお気に入りだったり、人からの贈り物や、思い出が詰まったものなら? そんな”唯一無二”を修繕するだけでなく、新しい魅力を吹き込むことができる日本古来の修復技法が「金継ぎ」だ。今回は、金継ぎを自宅で気軽にできる金継ぎキット「つぐキット」を紹介する。

傷をあえて目立たせることで、芸術へと昇華

金継ぎとは、日本の伝統的な器の修復技法で、割れたり欠けたり、ヒビが入ってしまったりした器を漆(うるし)を使って接着し、金粉や銀粉などで割れ目を装飾して再び永く使えるようにするもの。15世紀の室町時代に生まれたものとされており、当時は殿様が所有する中国から輸入された貴重な陶器を修繕するための最上級の技術だったのだとか。

500年以上前に誕生した金継ぎ
「つぐキット」の生みの親であり、恵比寿と浅草(浅草は2022年4月から)で金継ぎ教室や、修繕サービス、金継ぎした器のレンタルなどを行なっている「つぐつぐ」代表の俣野由季さんは、「金継ぎは、ここ2年ほどで一気に注目されるようになりました」と話す。

金継ぎキット「つぐキット」9,980円(税込)〜(セットの内容によって価格が異なる)。金継ぎ人気もあり、発売当初の2020年はじめに比べ、同年終わりには売り上げが6〜7倍に

株式会社つぐつぐ代表の俣野由季さん。金継ぎを知ってからすぐに修業を始め、全国の職人さん13人にインタビューをするなど金継ぎの世界に一気に魅せられたという
おうち時間が増えてから、モノ消費からコト消費にシフトしてきていると言われている。金継ぎも、そんな中でニーズが高まっているようだ。

そもそも、日本は古来より多くのものをリペアして暮らしてきた。多くの人が大量生産・大量消費の暮らしを見直した結果、古き良き文化に原点回帰しているように思う。

「割れや欠け、ヒビは、ともするとマイナス要素に思えます。ですが、金継ぎはそれらを”新たな美”としてありのままを受け入れるということなんです。日本独自の精神であり、文化。あえて目立たせることで、唯一無二の芸術品にさえなるんですよ」

欠損が、逆に新しい価値になる。そう、四肢がないことが美を感じさせる、かの『ミロのヴィーナス』のように。「壊れた=使えないから捨てる」と固定概念にとらわれることが、なんともったいないことだろう。

「金継ぎは、単色の器が映える」と俣野さん。柄物は金継ぎが目立たない場合も

花瓶の金継ぎも素敵。金継ぎをした箇所は長時間は水に晒せないので、飾るのはドライフラワーを

金継ぎには、金色だけでなく、銀色や紺色など、いろんな色がある。写真のものは銀。技術次第で、蒔絵で模様を施すこともできる。左は蒔絵を施したもの。金継ぎの仕方によってまったく表情が変わる

金継ぎは、思い出や想いを継ぐということ

金継ぎは今、どんな風に楽しまれているのだろうか。

「みなさん、金継ぎをするのは、決して高いものばかりじゃないんですよ。以前は江戸時代や明治時代の古伊万里といった高価なものに施すものという印象が強かったように思いますが、今は元値が高くなくてもご両親の形見だったり、パートナーの方が大切にしていたもの、長年愛用していて愛着を持っているものといった、思い出が詰まっていて、もう手に入らないものなどを金継ぎしたい、という人が多いですね」

つぐつぐに金継ぎにやってくる人の食器一つ一つに、ストーリーがある。

「これは友人がフランスで購入したノーブランドの陶器なのですが、息子さんが割ってしまって。大泣きしてしまった息子さんに、きちんと直るのだと見せたかったのだそうです。

この21つに割れてしまった器は、ドバイ万博 日本館のプロジェクションマッピングにも登場

左は割れていない器
ものを大切にする心を子どもに教えたいと、親子でいらっしゃった方も。割れたのは息子さんがつくった陶器だったのですが、息子さんに『ちゃんと直るからね』と言いながら一緒に金継ぎされていました」

俣野さん自身が初めて金継ぎしたのも、旅の思い出が詰まった1皿。「ドイツ留学時代にポーランド旅行で購入したボレスワヴィエツの食器です。帰国時にあまり現地のものを持ち帰らなかっただけに、大事な当時の思い出の品。高いものではなかったけれど、代えがきかないから、どうしても直したかったんです」と話す。

金継ぎの材料は決して安価ではなく、時には食器の元値よりも高額な場合も。さらには、完成までには数ヶ月を要し、手間暇もかかる。だが、思い入れのあるものを長く大事に使いたいという気持ちを形にしてくれる金継ぎには、お金には代えられない価値がある。出来上がりの見た目の美しさだけではない。金継ぎをするということは、思い出や想いを継いでいくということなのだ。最近は、接着に漆の代わりに合成接着剤を使用した1日ほどでできる「簡易金継ぎ」もある。しかし、日本伝統の金継ぎでは、醍醐味をより深く感じることができるだろう。

漆、木、土など自然の材料を使って修繕する

そもそも、今回筆者が金継ぎをしたいと思ったのも、大切にしていた皿を割ってしまったからだった。高級ではないものの、一目惚れで買った作家もので思い入れがあった上、少し深さがあって汎用性が高いところや、シンプルだけれど土の風合いを感じられるところが気に入っていたのだ。同じものを買い直すことも考えたが、愛着があるものだからこそ、自分の手で直したいと思った。

割れてしまった皿
この「つぐキット」は漆や木の粉など自然の材料を使って伝統的な技法で行う本格派だ。伝統技法と聞くと難しそうに思えるが、金継ぎのために必要最低限の道具がそろっており、YouTubeで工程を丁寧に解説されているので初心者でも手軽にチャレンジできるという。

「つぐキット」は漆を使う伝統的な金継ぎができる。幅11×長さ23×高さ3cmとコンパクトな箱に収められている
直す皿は、3つに割れてしまっているうえ、浅いヒビが入ってしまっている。今回必要なのは、割れているパーツの接着と、欠けている部分を埋めること、ヒビの修理だ。

まず、割れた断面を接着する。生漆と小麦粉、水を練ったものでパーツをあわせていく。器の形に接着しただけだが、形がもとに戻ったことにうれしくなる。

割れた断面の角をサンドペーパーでやする

接着するための漆を作る

漆を塗ってパーツを接着。1週間以上漆風呂(器を乾かすための箱、段ボールなどでOK)に入れて乾かす。欠けているところは漆で作ったパテで埋める
1週間後、漆が乾いたらはみ出た漆をカッターで削ったり、サンドペーパーで研いだりして綺麗にする。繋いだ部分が味わい深く感じられ、金粉を蒔かずとも、すでに美しい。

はみ出た漆をカッターで処理したもの

漆のペーストで割れ・欠けの凹凸を滑らかにして漆風呂で1日乾かす
表面を滑らかにし、下地を塗っていよいよ金粉を蒔く工程に入っていく。

耐水ペーパーに水をつけながら表面が滑らかになるよう研ぐ

黒色漆(下地になる漆)を塗って漆風呂で1日乾かす

弁柄漆(金粉を蒔く下絵に使用する漆)を塗り、金粉を真綿で蒔いていく

金粉と真綿

漆風呂で1日乾かして完成。上部に横に走っている茶色い線は、浅く入っていたヒビ。修繕は素人には難しいとのことなので、金粉は蒔かず、生漆を染み込ませる簡易的な処置を行った
恥ずかしながら線は太いし、表面も滑らかにしきれず、きれいにできたとは言い難い。だが、大きな充実感と達成感を感じている。きれいではないかもしれない。だが、自分の手で金継ぎをしたためか、この不恰好さも愛嬌に思えてくるし、”味”にも感じられてくる。これも、無心になって向き合った1週間以上という時間が、1枚の皿への愛着と愛情を深めてくれたからだと思う。

洗剤でやさしく洗って、さっそく料理を盛ってみた。金継ぎをした部分が料理に彩を加え、割れる前よりもおいしそうに見える気がする

皿のほかに欠けとヒビがあった丼も修復。ちょっとしたアクセントに

海外でも評価される”KINTSUGI”

ところで筆者は金継ぎをしている間、”禅”を彷彿とさせる感覚があった。精神を集中して、無心になって皿の欠片をつなぎ、金粉を蒔いていると、心が落ち着いていく。

海外では、金継ぎは”KINTSUGI”と呼ばれ脚光を浴びているが、日本の”侘び寂び”の文化の芸術としてだけでなく、精神面への効果も注目されているのだという。

「つぐキット」も、売り上げの28%は海外なのだとか。金継ぎは洋食器にも合う
「金継ぎによる精神面への効果は二つあると考えられています。一つは『自己効力感』。『自分の手で一から最後まで器を直すことができた』と、自分の力を信じることができるようになることにつながります。もう一つは『癒し』。日常を忘れて黙々とものを直すことで、疲れ、傷ついた自分の心を癒すことにつながっているようです」

恵比寿にある「つぐつぐ」の店舗。教室、修繕やレンタルなどを行う。フランスなど海外の人も来店するという。4月オープン予定の浅草の店舗は、海外観光客向けの体験教室になる予定

金継ぎを日本の日常に

MUJI新宿ではつぐつぐ提携の金継ぎ受付カウンターがあり、割れてしまった器を持ち込んで金継ぎを依頼できる(欠け1箇所3300円~ 、割れ2分割5500円~)。今は金継ぎ”ブーム”という形だが、こういう街中で気軽に金継ぎを依頼できる環境があったり、一家に一つ金継ぎの道具がそろっていたりと、いつか日本の日常の当たり前になる日がくるかもしれない。

そのためには、まずは器を割ってしまった時、捨てるのではなく、金継ぎのことを思い出してほしい。1つの器の金継ぎを通じて、心のありようやモノの価値を見直すことができるはずだ。

つぐキット金

https://shop-kintsugi.com/
9,980円(税込)〜