Vol.1

KOTO

28 FEB 2019

小さなものから心豊かに。復刻版「ペーパークリップ 」

たとえ小さなものでも、いいものは私たちの感性を育ててくれる。日常で使う小さくてミニマルな要素を持ったアイテムは、いつの時代も変わらず魅力的だ。今回フォーカスを当てるのは、懐かしくも個性的なデザインが美しい復刻版「ペーパークリップ」。“紙を留める”という機能を最大限に引き出しながら、たった一本の針金でミニマルに構成されている。そんなミニマルなアイテムが持つ、奥深い世界を覗いてみよう。

「PAPER CLIPS」¥300(+tax)

ペーパーレスの時代だからこそペーパークリップにこだわりを

ペーパーレスの時代になりつつある今、安価で大量のクリップはそこまで必要とされない。だからこそ誰かに思いやりをもって書類を渡す時や、絵柄が素敵なDMをまとめる時、美しい形状のペーパークリップは存在感を放つ。

ペーパークリップといえば、針金が渦巻き状に成型されている「ゼムクリップ」がすぐに思いつく。同じ針金を使い、同じ機能をもっているとはいえ、違う形状になると新鮮な印象をもたらしてくれるものだ。

一方で時々意識されるのが、クリップで紙を留めることで起こる“一種の緊張状態”だ。紙の1点にテンションがかかった状態は、どこか美しい。

あるとき、筆者が見つけたペーパークリップは、そんな緊張状態の美しさを見事に引き立たせてくれるものだった。

1900年代に立て続けに生まれたアメリカのペーパークリップ

グレーの小さなボール紙のパッケージに外国風のグラフィックが印刷され、クラシカルな雰囲気が漂うこちらのペーパークリップ。商品名はなんというのだろうか、と目を凝らしても、商品名らしき文字は「PAPER CLIPS」のみ。機能通りのシンプルな商品名である。
「PAPER CLIPS」は、1903年から1921年にかけて欧米で製造・使用されていたペーパークリップを、日本のばね職人の手によって復刻・製品化したシリーズだ。ナンバリングされている数字が、そのペーパークリップが使用されていた年代となっている。

シリーズは全部で5種類。そのなかで今回ご紹介するのが、1904年に製造されていたペーパークリップの復刻版「PAPER CLIPS No. 1904」だ。丸と三角を組み合わせたかのような個性的なクリップの形状でありながら、クラシカルな雰囲気が漂う。
このような形のクリップが、しかも様々なバリエーションをもって1900年代初頭に製造されたのはなぜか? 情報を得ようとパッケージをみてみるが、記載されている情報は実にわずか。裏面には「1910年頃欧米で使われていたペーパークリップをその当時のまま復刻しました」との言葉が印刷されているくらいだ。メーカーのサイトも見当たらない。
そこで歴史を調べてみると、確かに1800年代末から1900年代初頭にかけて、多様な形状のペーパークリップが誕生し流通していたことがわかる。なぜここまでペーパークリップが発明されるようになったのか?それは、1800年代に工業用製紙工場が登場し、安価な紙が広く利用できるようになったことが大きい。

商取引でも大量の事務処理が行われるようになると、書類をまとめるためにいちいち穴を開けて紐を通す作業は非常に無意味で、膨大な時間を要する非効率的な作業だった。そこで、針金という安価な材料で簡単に書類をまとめられるクリップを、欧米各国の人々は次々と生み出したのだ。


こうして生まれたペーパークリップはアンティークペーパーファスナーとも呼ばれていたそうだ。そして「PAPER CLIPS No. 1904」と同じ形状のものは、当時「Common Sense Paper Clip」と呼ばれていた。
「Common Sense」は、アメリカのミシガン州ジャクソンで1904年から1925年の間に製造されていた。それまであったペーパークリップには、「Fay Paper Clip」や「NIAGARA CLIP」などがあり、逆三角形の形が目立つ美しいデザインだが、針金の先端が突出しているものが多かった。一方で「Common Sense」は針金の先端が突出しておらず、丸みを帯びたやわらかなデザインが特徴。箱の中でクリップ同士がもつれることも少ない。

ちなみに現在も一般的に使われている「ゼムクリップ」は、1800年代末に発明され「Common Sense」と同じ1904年に特許を取得。製造しやすい楕円のシンプルな形状の中に弾力性と柔軟性を兼ねそろえ、書類をまとめるという機能がしっかり備えられている。

しかし残念ながら「Common Sense」は21年間流通したのち、製造が停止されてしまった。ペーパークリップの「常識」になるよう設計されたのかもしれないが、その願いは叶わなかった。

丸と三角。2つの異なる形状が目を驚かせる

ペーパークリップというのは、書類を挟んだ時に挟む前とは違った表情を見せてくれるものだ。特に「Common Sense」型のペーパークリップは、書類を挟むことで幾何学的な形をはっきりと見せてくれる。

リング面を上にすれば、正円形の形が見えてくる。もちろん機能面はバッチリ。書類をしっかりと固定してくれる。見た目も機能も過不足なくまとめあげられていることに、当時の発明者のこだわりが見て取れる。

一方で、クリップを逆さにすれば、スタンダードなペーパークリップのような三角の形状が見えてくる。挟めば見える形状が変わるというのは、頭で考えてみればわかることだが、実際にみると新鮮な驚きを与えてくれる。
2つの表情を持つ「Common Sense」。この小さく美しいミニマルなアイテムを、生活に取り入れてみてはいかがだろうか。

今回紹介したアイテム
「Paper clips No. 1904」¥300(+tax)