箱を開けるまで、何が入っているかわからない。はじめて見る珍しい野菜が入っている。そんな楽しみを味わえるのが、坂ノ途中の野菜定期宅配「旬のお野菜セット」だ。化学合成農薬・化学肥料を原則使わずに育てられた旬の野菜を中心に、サイズに応じて毎回7〜15種類程度が届く。一人暮らしで使い切れるのか、珍しい野菜をどう食べるのか。そんな不安があっても気負わず楽しめるコツと、野菜の秘密、「100年先もつづく、農業を。」という理念に込められた坂ノ途中の思いを、広報の小西裕美さんに伺った。
赤いピーマンは完熟の印。「旬のお野菜セット」で出会う秋の味わい
箱を開けると、色とりどりの野菜がぎっしり。見慣れたものもあれば、はじめて見るものもある。眺めているだけで気持ちが弾む。
「旬のお野菜セット」は、坂ノ途中が届ける野菜の定期宅配だ。年間500種類以上の野菜を取り扱っており、毎週、隔週など、自分で決めた間隔で旬の野菜がおまかせで届く。
秋を象徴する野菜のひとつが、色づいたピーマンだ。緑から赤に切り替わる途中は「大丈夫かな」と少し心配な色になるが、その後は鮮やかな赤になる。もともと未熟な状態で収穫して食べるピーマンは、完熟すると甘みと酸味が増してフルーティーになり、果肉も柔らかくなる。ただ、完熟すると傷みやすく、一般的な流通には乗りにくい。「旬のお野菜セット」では、そうした普段見かけない野菜に出会えるのが魅力だ。
小西さんがこの時期に楽しみにしているのがレンコンだ。夏の出始めは水分が多くシャキシャキした食感が特徴だが、秋から冬にかけてデンプンが糖に変わると甘みが増し、もっちりしてくる。おすすめは縦切りのレンコンステーキ。輪切りではなく縦に切って油で炒め、塩をふるだけだ。「もっちりして、糸を引くんですけど、すごく歯ごたえが良くて、お酒が進みます」。まるでフライドポテトを食べているような感覚で、つい手が伸びるという。
箱を開けたときのワクワク感を大切に詰め合わせた野菜たち
セットに詰める野菜の組み合わせは、生産者から毎週届く「この野菜が出せます」というリストを見ながら、2日間かけて立案される。担当するのは、野菜のバイヤー、商品企画を担う通称「おいしいもの担当」、そして生産者との窓口としてサプライチェーンチームで野菜の手配などを行う担当者の計3名だ。普段はそれぞれ別のチームに所属しており、生産者と向き合う立場、お客様に販売する立場と視点は異なるが、野菜に詳しいという点は共通している。
小規模な生産者が多く、全てのセットを同じ内容にはできないため、複数のグループに分けてバランスを考えながら組み立てる。「旬のお野菜セット」だけでも、Sサイズは15通り、Mサイズは9通り、Lサイズは2通りと合計26通りのセットがある。直近の内容と被らないか、まだ届いていない野菜はないかと、データに基づいて検討する一方で、お客様目線で考えて箱を開けたときのワクワク感も大切にしている。さまざまな色合いや食感の野菜を組み合わせることで、お客様は箱の中を眺めながら「この野菜とこの野菜で何ができるだろう」と想像がふくらんでいく、という具合だ。
最初に決めるのはその回の目玉野菜であることが多い。かぼちゃにしよう、色づいたかぶにしよう、と旬の野菜から考える。クリスマス前なら緑と赤の野菜、お正月なら雑煮に使える里芋など、暮らしに根づいた季節の行事も意識する。
立案チームがいつも頭をひねるのが、春や秋など季節の変わり目の端境期だ。夏野菜の収穫が終わり、冬野菜が育つまでの間は、どうしても野菜が少なくなる。旬の野菜を扱うからこそ、量が多い時期もあれば少ない時期もある。それでも季節の野菜を楽しんでもらえるよう、組み合わせを試行錯誤しているという。
理由を知れば、楽しくなる。野菜は生き物
坂ノ途中の社内では、「野菜は生き物」「ブレを楽しもう」という言葉がよく飛び交う。気候によって姿も味も変わる野菜の変化を面白がろうというメッセージである。
たとえば、先端のつぼみの部分が紫色のブロッコリー。スーパーで見かけたら「傷んでいるのか」と心配になるかもしれないが、実はこの紫色は寒さから身を守ろうとしてアントシアニンを出した結果だ。寒さにあたったことで、むしろ美味しくなっているという。店頭では紫色の見栄えがよくないため、アントシアニンが出にくい品種もつくられているが、その意味を知っていればおいしいブロッコリーを見分ける目印になる。
坂ノ途中では、そうした野菜の「なぜ」をお客様に伝えることを大切にしている。お客様窓口に「ミニトマトが割れていました」と問い合わせがあると、その理由もあわせて返信する。ミニトマトは乾燥した気候に合う野菜で、雨が降ると水を吸えるだけ吸い込んで実がパンパンになり、配送時の衝撃などで割れてしまうことがあるのだ。こうした説明を添えると、「そうなんだ」と返事が届き、文通のようなやり取りが続くこともあるという。
有機農業の野菜にはたまに虫がつくこともあるが、それすら楽しんでくれるお客様もいる。小西さんが「ほっこりした」のは、届いた野菜についていた小さな青虫を育てたら蝶になった、というお客様の話だ。
生産者との信頼関係が支える品質。100年先の農業を思う
「100年先もつづく、農業を。」という理念の背景には、現代の農業は環境に負荷をかけていて、このままでは100年も続かないかもしれないという思いがある。長い歴史をもつ農業がせめて100年先まで続くように、「未来からの前借り」をやめようという呼びかけでもある。驚くのは、坂ノ途中のお客様にこの理念が浸透していることだ。ロイヤルカスタマーへのインタビューでは、全員がこのビジョンを知っていたのだという。
理念は生産者への向き合い方にも表れている。坂ノ途中では、生産者のことを「契約生産者」とは呼ばない。取引先には新規就農者も多く、「この日までに何キロ」と約束することが負担になるからだ。そのため毎週、出せる量を聞いて仕入れる。取引価格は基本的に一定で、豊作でも不作でも大きく変わらないため、生産者は売り上げの見通しを立てやすい。
また、坂ノ途中の野菜は化学合成農薬・化学肥料を原則使わずに育てられているが、有機JAS認証の取得には時間もお金もかかるため、生産者に認証の取得を求めていない。その代わり、栽培日誌をつけ、必要に応じて栽培履歴を提出することなどを基準にしている。一方で、取得したい生産者には必要な書類を出力できるサービスも提供している。
坂ノ途中では、「有機」や「オーガニック」という言葉を、あえて前面には出さないようにしているという。強く訴求することで、かえってお客様を限定してしまうこともあるからだ。
大切にしているのは、生産者が上手に育てた野菜を適正価格で販売することだ。ときどき規格外の野菜を扱っていると誤解されるが、生産者との信頼関係の中で本当に質の良い野菜を届けている。
お客様や生産者との間にこうした共感が生まれるのは、社内でも同じ思いが共有されているからだろう。配送中に状態が変わることもあるため、少し多めに野菜を仕入れており、余った野菜はまかないにして皆で食べる。「なんか人参多くない?」「それはね…」そんな会話を交わしながら同じものを食べることで、価値観を共有する場になっているのかもしれない、と小西さんは話す。
一人暮らしでも、定期宅配の野菜を気負わず楽しむコツ
野菜セットはS・M・Lの3サイズがあり、自炊の頻度などに合わせてサイズも届く頻度も選べる。一人暮らしではSサイズを選ぶ人が多いが、中にはLサイズを選ぶ人もいるという。Sサイズは1回に届く種類が少なめだが、毎週届けばいろいろな野菜と出会える確率は高い。
自炊も気負う必要はない。小西さん自身、「旬のお野菜セット」で肩の荷がおりたという。「ハンバーグを作らなきゃ、とかじゃなくて、炒め物でいいんだみたいな」。いつもの炒め物や味噌汁の具を旬の野菜に替えるだけで見た目も味も変わり、季節も感じられる。長く続けているお客様ほど、実はシンプルに楽しんでいるそうだ。
野菜が届いたら、同梱されている野菜の説明書を見てみよう。生産者や地域、おいしい食べ方が記されている。また、無料の公式アプリでは、野菜を使った1,500以上のレシピを野菜ごとに検索できる。
珍しい野菜は、どう食べるか悩むという人もいるかもしれない。小西さんは、そこに「小説のような楽しさがある」と話す。小説は読んでみるまで面白いかわからないが、読めば新たな発見があり、思わぬ展開に心が動く。珍しい野菜も説明書を読み、実際に調理して食べてみると、「こんなふうになるの」「こんな味がするの」という驚きがある。
次のセットにはどんな野菜が入っているだろう。旬の野菜を食卓に並べ、季節の移ろいを感じてみてはいかがだろうか。
坂ノ途中|旬のお野菜セット
価格:Sサイズ:2,670円、Mサイズ:3,550円、Lサイズ:4,760円(いずれも税込、送料別)
公式サイト:
https://www.on-the-slope.com/
CURATION BY
料理とお菓子作り、キャンプが趣味。都会に住みながらも、時々自然の中で過ごす時間を持ち、できるだけ手作りで身体に優しい食事を取り入れている。日々の暮らしを大切に、丁寧に過ごすことがモットー。