レシピ付きスパイスセットが届く「AIR SPICE」
そんなわけで我が家には一度しか使っていないスパイスがいくつもあるし、湿気らないように保存をする方法や保管場所などの管理に頭を悩ませている。同様の悩みを持っている人や、ハードルを感じている人も少なくないはずだ。
「AIR SPICE」は、毎月レシピ付きのスパイスセットが届くサブスクリプションサービス(サブスク)。プロデュースしているのは、20年以上出張料理集団「東京カリ~番長」名義で全国各地で活動し、カレーやスパイスに関する著書を60冊以上手がけている水野仁輔さん。スパイスを求めて、世界中を旅しているカレー研究家でもある。
レシピに必要なスパイスの種類や分量が、必要な分だけあらかじめミックスされているだけでなく、水野さんによるスパイスについての解説や、レシピに使う食材が料理においてどんな役割を果たすのかが紐解かれている。
スパイスは“旅”。ちょっとした好奇心で新しい世界を見せてくれる
「冒険するほどの覚悟は要らないし、失敗する恐れもない。でも、そこには非日常があって、多くの刺激やインプットを手にすることができる」「スパイスを使うことって旅するのと同じくらいの感覚なんだ。気軽にできるのに、新鮮な美味しさに出会えるのだから」
「(スパイスを)何をどう使うかに悩みそうだったら、自分の気分にまかせて選べばいい。レシピを読んで作るとき、『これがない』なら『あれを使えばいいか』と気楽に構えればいい。好きな組み合わせを見つけたら、何度でも繰り返せばいい」
だが上記の考え方は、何かの道を極める行程「守破離」、つまり基本を忠実に守る「守」、自分のスタイルを模索する「破」、道を極めて自分のスタイルを確立する「離」でいう「破」だ。スパイスカレービギナーにまず必要なのは、スパイスを知り、使えるようになる「守」。
「AIR SPICE」は、ただおいしいカレーをつくれるということ以上に、「“スパイス道”を知るための入門」だ。
香ばしさとスパイスの香りが食欲をそそる「ガーリックキーマカレー」をつくる
【材料】(3〜4皿分)
・しょうが(千切り)大1片(15g)
・水A 200ml
・植物油 大さじ3
■ホールスパイス 1袋
※内容:コリアンダーシード大さじ1、クミンシード、セロリシード、キャラウェイシード 各小さじ1/2、アジョワンシード小さじ1/4
・鶏もも挽き肉 360g
■パウダースパイス 1袋
※内容:コリアンダー大さじ1、パプリカ小さじ2、ガーリック小さじ1強、ターメリック小さじ1、タイム小さじ1/4
・塩小さじ1強
・水B 200ml
・じゃがいも(2cm角切り)300g
・パセリ(みじん切り)小2枝(15g)
そのタイミングを、釣りや歴史的逸話における「タイミングの大切さ」になぞらえているのがおもしろい。ウキの状態に集中するがごとく、釣りの名手であり古代中国・周の文王に使えた軍師でもある太公望がたまたま通りかかった文王と語らったことをきっかけに重用された逸話のごとく、玉ねぎに強火で火を入れつつも焦がさないタイミングを見極めるのだ。
焦げやすい千切りしょうが焦げ茶色になり、香りが立ってきた。その瞬間を狙って鶏ももの挽き肉を加えて加熱の進行を止める。少ししょうがが焦げてしまったが、多少焦げてもOKだそう。あくまで「自分のなかで『どの焦げまでがおいしく味わえるのか』を見極めるゲーム」感覚で、できあがったカレーの味わいがどうなるのかを体験することが大事らしい。
炒めた玉ねぎやしょうが、にんにくの香ばしさと肉の旨味にパセリの独特の風味がアクセントに。パウダースパイスをまとったホクホクのじゃがいもの味わい、コリアンダーシードやクミンシードなどのホールスパイスのガリガリとした食感と噛むたびに弾けるフレッシュな香りが楽しい。これはご飯がすすむ。
【作り方】
2、油とホールスパイスを加えて混ぜ合わせ、きつね色になるまで炒める。
3、ひき肉を加えて全体に火が通るまで炒める。
4、火を弱めてパウダースパイスと塩を加えて混ぜ合わせ、さっと炒める。
5、水Bを加えて煮立て、じゃがいもとパセリを加えて蓋をして15分ほど煮る。蓋を開けてかき混ぜながら全体がしっとりするまで煮詰める。
カレーの常識や定義を問い直す2つのレシピ
まず、スパイスではなくハーブを中心に使った「チキンハーブカレー」(2021年7月 vol.64)。
スパイスの香りがないカレーなんて...と思っていたが、出来上がったカレーは想像以上に複雑かつ豊かな香りで驚いた。実はタイカレーはハーブが味の決め手らしく、どことなくグリーンカレーを思わせるまろやかさを感じることに納得してしまった。
筆者は丸一日置いてみたが、時間によって味わいがどう変わるのか試してみるのもおもしろそうだ。
それぞれのレシピごとに、あたらしいスパイスカレーの発見があるのが新鮮な体験だ。なんとなくレシピ通りに作らなければいけないという思い込みがあったが、水野さんは「スパイスには正解がなく、結局は好みの問題」と言う。つまり「AIR SPICE」も、あくまで一例にすぎないということ。いろんなレシピを通じて、スパイスに慣れ、特徴を知っていくことで、どんどんスパイスの世界が広がっていく予感がした。