Vol.803

FOOD

27 OCT 2026

秋田のきりたんぽを、自由に楽しめる「きりたんぽカップスープ」

秋田へ出張したとき、お土産売り場で目に留まった「きりたんぽカップスープ」。カップに描かれた愛らしいイラストと、郷土料理を手軽に味わえるという意外性にひかれて、友人へのお土産に選んだ。すると、友人からも好評だった。きりたんぽといえば、鶏のだしが利いた鍋で味わう、秋田の郷土料理。名前は知っていても、具材をそろえて自分で作るには少しハードルが高い。そんな一品が、カップ一つで気軽に楽しめるとは。秋田の食文化を今の暮らしに取り入れやすい形で届けるこの商品は、どのようにして生まれたのだろう。企画を手がけた株式会社ツバサを訪ねた。

鍋の中の郷土料理を、持ち歩ける一杯に

鶏のだしで煮込むきりたんぽ鍋。秋田を代表する郷土料理
ツバサは、商品の企画やデザインなどを手がけるクリエイティブ会社だ。メーカーからパッケージ制作の依頼を受ける中で、自分たちでも秋田の特産品を生かした商品を作れないかと考えるようになった。そこで、県内外の人に秋田の魅力を伝える素材として目を向けたのが、きりたんぽだった。

きりたんぽは秋田を代表する郷土料理だが、県内で一様に身近な食べ物というわけではない。県北では日常的に親しまれている一方、県南ではそれほどなじみがない人もいるという。県外では、名前は知っていても食べたことがない人も少なくない。

郷土料理を手軽に楽しめる、保管にも便利なカップタイプ
きりたんぽに興味はあっても、鍋の材料や器具を揃えるのは大変だ。だからこそ、気軽に食べるきっかけをつくりたかった。お土産売り場に並ぶ箱入りのきりたんぽは、サイズも大きく、重さもあるため、持ち帰るにはかさばる。そこで考えたのが、持ち運びやすく、手軽に食べられるカップだった。旅行中に買って帰るお土産にも、家で食べる一食にもなる。きりたんぽを食べるまでの距離を、ぐっと縮める発想だった。

きりたんぽやはるさめなどが入っており、食べ応えがある
カップの中には、秋田県産米を使ったきりたんぽとスープなどが入っている。秋田の魅力を全国へ届けたいという思いから、できるだけ県産の素材を使っている。

手軽な一杯を支える、見えないひと手間

カップに収まる長さにカットされた、秋田県産米使用のきりたんぽ
手軽に食べられるカップ式きりたんぽの開発の裏側には、さまざまな人の手がかかっている。その一つが、きりたんぽをカップに収まる長さへ切る工程だ。1本をそのまま袋に入れる商品とは違い、カップ用のきりたんぽにはカットするひと手間が加わる。その作業を引き受けてくれる事業者を探すことは簡単ではなかった。

きりたんぽやスープをそれぞれ作る事業者との調整も必要だった。売り場で手に取ったときには、一つの商品に仕上げるまでに、これほど多くの調整が必要だとは思わなかった。手軽に食べられる形を実現するために、見えないところで多くの工程が重ねられている。その話を聞いて、小さなカップの見え方が少し変わった。

カップの中にはきりたんぽやスープなどが入り、食べ方の案内も付いている
食べるときは、きりたんぽを電子レンジで約1分温めてからカップに入れ、お湯を注いで約3分待つ方法がおすすめ。合わせて約4分で、もちもちとしたきりたんぽの食感を楽しめる。電子レンジを使わず、お湯だけで食べることもできるため、キャンプや登山に持って行ったという声も届くそうだ。鍋料理として家庭で親しまれてきたきりたんぽが、外でも楽しめる温かい一杯になっている。

ひとりでも手軽に楽しめる
手軽さだけでなく、おいしさにも工夫が重ねられている。味を支えるスープにも、作り手の技術が生きており、きりたんぽとともにスープの味わいも好評だと担当者は話す。製造を担う事業者と味の調整を重ねながら、ともに一杯を作り上げてきた。短い時間で食べられる手軽さと、また食べたくなる味。その両方があってこそ、最初の一杯が次の一杯につながっていく。

写真を使わず伝える、きりたんぽの新しい表情

写真を使わず、文字とイラストでそれぞれの味を表現したパッケージ
土産物売り場で並ぶ商品の中から、思わず手を伸ばしたくなる理由はパッケージにもある。きりたんぽの大きな写真を前面に出す商品が多い中、ツバサのカップは文字とイラストを中心にしたデザインだ。どこか懐かしさを感じさせながらも、色使いや絵柄には洗練された印象がある。

細部には、秋田らしさを感じさせる意匠も。担当者によると、比内地鶏ときりたんぽを描いた小さなマークがあしらわれているという。商品を近くで眺めれば、そうした小さな発見も楽しめる。

現在、6種類が販売されている
味ごとに色を変えているため、違いも一目で分かる。お土産売り場などで見かければ、棚に並ぶたくさんの種類から、どれを選ぶか悩んでしまう。私も、贈る友人の好みを思い浮かべながら選んだ。郷土料理を贈るとなると、調理の手間まで考えて迷うことがあるが、このカップなら渡しやすい。旅先で見つけた秋田の味を、気負わず誰かと分け合えるところがいい。

まずはこの3つから。きりたんぽカップスープおすすめ3選

今回紹介する3種類。左から、おしるこ、比内地鶏醤油味、海鮮ブイヤベース味
カップスープには、定番から意外な組み合わせまで、さまざまな味がそろう。初めて選ぶ人にも、お土産を探している人にもおすすめしたい3つを紹介する。

1.比内地鶏醤油味|きりたんぽ鍋を思わせる定番

比内地鶏のうまみを生かしたしょうゆスープに、きりたんぽとはるさめを合わせた定番
最初の一杯には、比内地鶏醤油味を。秋田名産の比内地鶏のうまみを生かしたしょうゆ仕立てのスープにきりたんぽを合わせた、秋田のきりたんぽ鍋を思わせる味だ。担当者も、初めて食べる人にはこの味を勧めるという。なじみのあるしょうゆの風味とともに、きりたんぽの食感を楽しめる。きりたんぽを食べたことのない友人に渡すなら、私もまずはこの味を選びたい。名前だけ知っていた郷土料理を、実際に味わってもらう入口になりそうだ。

2.海鮮ブイヤベース味|秋田の魚しょうが洋風スープに

海鮮ブイヤベース味には、秋田の魚しょう「しょっつる」を使用
定番とは違う味を楽しみたいのなら、海鮮ブイヤベース味。トマトと魚介のうまみを重ねた洋風のスープに、秋田の魚しょうである「しょっつる」を使っている。きりたんぽを定番のしょうゆ味の鍋とは違う形で楽しめる一杯だ。私が面白いと感じるのは、洋風のスープにも秋田の味が生きていること。きりたんぽはしょうゆ味の鍋で食べるもの、というイメージがあったが、合わせるスープによって、楽しみ方はもっと広がるのだと思った。

3.おしるこ|きりたんぽを甘いおやつに

きりたんぽとあんこを組み合わせたおしるこ。郷土料理が甘いおやつに
きりたんぽの印象をがらりと変えるのがおしるこだ。商品開発の会議で「きりたんぽをおやつ感覚で食べられないか」と話したことが、誕生のきっかけだった。米でできたきりたんぽなら、お餅やおはぎのように、あんことも合うかもしれない。秋田で一般的な食べ方ではないが、試してみると相性がよかったという。

鍋の具材だったきりたんぽが、スイーツになる。意外な組み合わせが支持され、おしるこも人気の一品となっている。最初は驚いたが、おはぎも米とあんこの組み合わせだと考えると、なるほどと思う。昔からある食材も、組み合わせや捉え方を変えることで、新しい楽しみ方が生まれる。甘いものが好きな友人には、この発想ごと贈ってみたくなる一杯だ。

定番から甘い味まで、さまざまな組み合わせを楽しめるシリーズ
ほかにも、辛さを楽しめるチゲ味など、味の選択肢は幅広い。取材時には味噌味も発売されたばかりだった。「きりたんぽがかつてみそで食べられていた」という説に着想を得て、昔の食べ方をヒントに生まれた味だという。新しい組み合わせと昔からの食文化が、一つのシリーズの中で出会っている。

地元の作り手とともに、秋田の味をその先へ

身近なカップの一杯から、秋田の食文化に出会うきっかけを届ける
ツバサが目指すのは、カップの商品だけを知ってもらうことではない。まず一杯を食べ、「きりたんぽっておいしい」と思ってもらう。名前を知っていても、実際には食べたことのない人に、気軽に味わってほしい。それが商品に込めた願いだ。その体験から本場の鍋に興味を持ち、いつか秋田を訪れてくれたら。そんな道筋を思い描いている。

秋田の味を届けるために、地元の店とも手を組んできた。その一つが、秋田のラーメン店・末廣ラーメン本舗とのコラボレーションだ。店の中華そばのスープを再現し、きりたんぽと組み合わせた。秋田の食文化を伝えたいという互いの思いが重なって生まれた一杯である。担当者は、今後も地元の店との取り組みを新たな味づくりにつなげていきたいと考えているという。

5社の味を少しずつ楽しめる「いぶりがっこくらべ」
地元の作り手と組み、秋田の味に出会う入口を増やす。その発想は、きりたんぽ以外の商品にもつながっている。ツバサが企画した「いぶりがっこくらべ」は、県内の5社のメーカーが作るいぶりがっこを、少量ずつ食べ比べられる商品だ。1本買う前にいろいろな味を試し、自分好みの味や作り手を見つけられる。各メーカーの商品を購入できるサイトへつなぐ仕組みも設けたという。初回分は約2カ月で売り切れ、担当者は次回、数量を増やして届けたいと話す。

ツバサ自身が製造するのではなく、地域の作り手と食べ手をつなぐ。きりたんぽカップスープも、いぶりがっこの食べ比べも、秋田の味を知るきっかけを作るという点でつながっている。旅先で同じ名産品がいくつも並んでいると、どれを買えばいいか迷う。少しずつ比べて、自分の好きな味を見つけられるのはうれしい。さらに、気に入った味から、その作り手を知ることもできる。そんなお土産の選び方を、私も楽しんでみたい。

味ごとに選んだり、食べ比べたり。自宅用にも、贈り物にも楽しめる
きりたんぽカップスープは、まだ秋田土産の定番として知られるところまでは来ていない、と担当者は話す。それでも、展示会では「あれ、食べたことがあります」と声をかけられることが増えたそうだ。そうした反応から、商品を知り、実際に味わった人が少しずつ増えている手応えを感じている。

友人に好評だったお土産の背景を知り、今度は自分のためにも選びたくなった。忙しい日の昼食には比内地鶏醤油味、いつもと違う気分を楽しむなら海鮮ブイヤベース味、甘いものが欲しいときにはおしるこ。旅先の味を、その日の暮らしに合わせて選べるのがいい。秋田で出会った一杯は、お土産を渡した後も、日々の暮らしの中で楽しめる。郷土料理を身近にするとは、こういうことなのかもしれない。

ツバサ|きりたんぽカップスープ