昆布に、どのようなイメージを持っているだろうか。出汁を取るための食材という印象が強く、手間がかかりそうだと感じる人も多いかもしれない。忙しい毎日のなかで、毎食きちんと料理をするのは簡単ではない。それでも、外食やコンビニだけで済ませるのではなく、自分や家族のために少しでも食事を整えたいと思うことはあるはずだ。そんな日々の食卓に気軽に取り入れられるのが昆布。お刺身やサラダ、お味噌汁に加えるだけで、手軽に旨みをプラスできる。昔から親しまれてきた昆布は、現代の暮らしにも寄り添う食材。今回は、昆布を無理なく楽しむ暮らし方を提案しよう。
富山に根付く、昆布の食文化から学ぶ
富山県は、全国でも有数の“昆布県”として知られている。1世帯あたりの昆布の消費金額が全国トップクラスで、家庭料理の中にも昆布が自然に根付いている地域だ。
その背景には、富山ならではの歴史がある。富山県高岡市の昆布メーカー「室屋」の代表・室谷和典さんによると、大きな要因のひとつが、江戸時代から明治時代にかけて日本海を行き来した貿易船「北前船」だという。北海道で採れた昆布は、関西をはじめとした日本海側の港町へと運ばれ、その交易を通じて富山にも広がっていった。
さらに、北海道へ渡った富山の開拓民が故郷へ戻る際に昆布を持ち帰ったことも、昆布文化の定着に影響したとされている。こうした歴史の積み重ねが、今日の富山の食文化を形づくってきた。
現在でも富山では、とろろ昆布のおにぎりや魚の昆布締めなど、昆布を使った料理がスーパーマーケットや地域の商店に並び、食卓にも頻繁に登場する。特別な日に味わうものというより、毎日の暮らしの中で自然に親しまれている。
富山県出身の筆者にとっても、昆布は昔から身近な存在である。富山を離れて10年以上経った今もなお、ほぼ毎日のように昆布を口にしていることに気づいた。
なかでも県外の人にも知っておいてほしい手軽に取り入れられる昆布が、とろろ昆布だ。富山では一般的に「白とろろ」と「黒とろろ」と呼び分けられている。
もともと黒とろろは昆布の表面に近い黒い部分を削ったもので、白とろろは内側の白い部分も含めて削ったものだった。ただし現在は、削り方だけでなく使用する昆布の種類にも違いがあり、それぞれ異なる特徴を持つようになっている。
富山では、料理によって白とろろと黒とろろを使い分ける家庭も少なくない。
白とろろは、おでんや味噌汁によく使われる。ふんわりとした口当たりで、汁を吸うにつれてやわらかく、とろりとした食感へと変化していく。
一方の黒とろろは、おにぎりとの相性が抜群だ。ご飯に巻くと昆布の風味がしっかりと感じられ、ほどよく残る繊維感がアクセントになる。
こうした使い分けは、特別な知識として学ぶものではない。親から子へ、そして孫へと、日々の食卓を通して自然に受け継がれてきたものだ。だからこそ富山では、昆布は“伝統食材”であると同時に、暮らしに寄り添う身近な存在として愛され続けている。
「出汁を取る」だけじゃない。今の食卓に合う昆布の使い方
昆布というと、「丁寧に出汁を取るための食材」という印象を持つ人も多いかもしれない。けれど、富山に根付く食文化からもわかるように、実際には、もっと自由度の高い食材だ。
私が、昆布は今の暮らしに合っていると感じるのは、頑張らなくても使えるという気軽さが一番の理由。例えば、お刺身に小さく切った昆布を添えておくだけでも、身が引き締まり、味に奥行きが生まれる。
丁寧に出汁をとったり、お料理と意気込んできちんとレシピを調べたりする時間がなくても、昆布の旨みを加えることは意外に簡単。炊き込みご飯や栗ご飯も、昆布と相性のいい料理のひとつ。調味料を増やさなくても自然と味がまとまり、シンプルな具材でも豊かな味わいに感じられる。
さらに、昆布は和食だけに使うものではない。スープやパスタ、鍋料理などにも合わせやすく、コンソメやトマトベースの料理に加えても、味に深みを与えてくれる。忙しい日の食事では、「手間をかける余裕はないけれど、味気ないものにはしたくない」と感じることも多い。そんなとき、乾物として常備できる昆布は、冷蔵庫にある食材だけでは物足りない日の心強い存在になる。
特に便利なのが、細かくカットされた昆布や、とろろ昆布のようにそのまま使えるタイプ。おにぎりに添えたり、うどんにのせたり、サラダに少し加えたり。ほんの少し取り入れるだけで、いつもの食卓の印象が変わる。料理を頑張るというより、料理のハードルを少し下げながら、満足感を上げる。昆布には、そんな現代の食卓に寄り添う魅力がある。
「昆布ソムリエ」シリーズで始める、昆布のある毎日
室屋が展開する「昆布ソムリエ」シリーズは、そんな現代のライフスタイルに寄り添う全9種類の商品。昆布に詳しくない人でも選びやすいよう、それぞれの特徴やおすすめの使い方が整理されていて、昆布を暮らしに取り入れる入口になってくれる。
一口に昆布といっても、真昆布、羅臼昆布、利尻昆布など種類はさまざま。それぞれ旨みの出方や香り、向いている料理が異なるという。「昆布ソムリエ」シリーズでは、そんな個性豊かな昆布を使いやすいサイズにカット。さらに、各商品のパッケージには昆布ソムリエによる活用提案が添えられていて、「どの昆布を選べばいいかわからない」という人でも、用途や味わいの違いをイメージしながら選びやすい。専門店に並ぶ多種多様な昆布を前にすると迷ってしまいがちだが、「昆布ソムリエ」シリーズは、そのハードルをやわらげてくれる。
室谷さんは、「昆布には美味しさと健康という二つの魅力がありますが、そこに“簡単・便利”という価値を加えたのが昆布ソムリエシリーズです」と話す。特に忙しい人でも手軽に取り入れられるよう、時短調理に役立ちながら健康にも配慮できるように工夫されている。
現代のキッチン事情に合うサイズ感も魅力。都市部では収納スペースが限られていることも多く、調味料や乾物を大量にストックするのは難しい。その点、昆布はコンパクトに保存でき、乾物ならではの日持ちのよさもある。
「今日は冷蔵庫にあまり食材がない」。そんな日でも、お味噌汁やサラダにひとつまみ加えれば、手軽に食卓を整えられる。昆布ソムリエシリーズは、富山で昔から受け継がれてきた昆布の文化を、現代の暮らしに合わせて楽しむための相棒のような存在だ。
暮らしに根付く昆布を、これからも
そんな「昆布ソムリエ」シリーズをはじめとする室屋の商品を直接手に取れる昆布の専門店「KOMBU KIOSK」が、2026年3月5日、富山県氷見市の複合施設「氷見漁港場外市場 ひみ番屋街」にオープンした。モダンでエッジの効いた店構えが印象的だ。店内に並ぶのは、日本の伝統的な食材である昆布だけ。昆布と人との新たな接点を生み出し、その魅力を次の世代へ伝えていく場所でもある。
昆布店の後継者として室屋に婿入りし、18年間にわたって昆布業界に携わってきた室谷さんは、出汁用昆布の需要は減少傾向にあると話す。一方で、「とろろ昆布などの加工昆布は比較的堅調です。顆粒出汁や液体出汁、出汁パックなど、昆布の旨みを手軽に取り入れられる商品も増えています。昆布文化を、時代に合わせて形を変えながら受け継ごうという動きが業界全体で見られます」と語る。
そのなかで室谷さんは、「私はできるだけ昆布そのものの姿を残しながら文化を継承していきたいと思っています」と話す。製品のパッケージや店づくりを工夫することで、昆布に馴染みのなかった人にも興味を持ってもらいながら、昔から親しまれてきた昆布の魅力も伝えている。
便利な商品が増え、食生活も変化するなかで、昆布との関わり方も少しずつ変わっている。それでも、先人たちが守り、受け継いできた食文化の価値は変わらない。室谷さんの言葉からは、昆布を単なる食材としてではなく、暮らしの知恵や地域文化として次の世代へつないでいきたいという強い思いが伝わってきた。
完璧じゃなくてもいい。昆布で満足感をプラスしよう
SNSを開けば、彩り豊かな手料理や丁寧な暮らしの風景が並ぶ時代。けれど、現実には忙しく働きながら、限られた時間の中で毎日完璧に自炊を続けるのは想像以上にエネルギーが必要だ。だからこそ、すべてを頑張るのではなく、自分の暮らしを少しだけ整えるという感覚が大切になってくる。
昆布を常備しておくことも、その手助けになる。冷蔵庫にある食材で作った簡単なスープでも、昆布の旨みが加わることで、どこかほっとする味になる。忙しい夜でも、「ちゃんと食べた」と思える満足感を与えてくれるだろう。
富山で長く受け継がれてきた昆布文化には、魚を昆布締めにして味わいを深めたり、少し加えるだけで旨みと満足感を生み出したりと、日々の食卓を支える知恵が詰まっている。その知恵は、「昆布ソムリエ」を通して、忙しさと隣り合わせの現代の都市生活にも静かに寄り添ってくれる。毎日の食卓に少し昆布を取り入れて、感じる風味と気持ちの変化に意識を傾けてみてはいかがだろうか。
室屋 「昆布ソムリエ」シリーズ
CURATION BY
東京と富山の2拠点生活をするインタビュアー・取材ライター。ライフワークはおしゃれホテル宿泊で、年間100以上の宿泊施設を利用。ローカルとシティどちらで遊ぶのも好きで得意。グルメはフランス料理とチョコレート、コーヒーが大好物。