「サメをもっとおいしく! もっとカジュアルに!」。そんなユニークなコンセプトを掲げて、都内近郊のオフィス街や大学キャンパスに出没する、サメ料理専門キッチンカー「SAMEYA」をご存知だろうか。
食材としてのサメといえば、高級品であるフカヒレを思い浮かべる方が多いだろう。しかし、「SAMEYA」が提供するのは、サメの切り身“サメ肉”を使った料理だ。一般的にサメ肉はなじみが薄い食材なだけに、「どんな料理に仕上げるの?」「そもそもおいしいの?」「食感は??」といった疑問が次々と浮かんでくる。
もちろん、なぜサメ料理専門なのかという点にも興味を引かれずにはいられない。そこで今回は、「SAMEYA」が出店するエリアへと足を運び、同店を運営する髙瀨拓海(たかせ・たくみ)さんに話を伺った。
サメ肉をカジュアルなメニューでお届け
よく目立つ真っ赤なワゴンタイプのキッチンカーで、毎週月曜日から金曜日までのランチタイムに都内近郊を巡る「SAMEYA」。出店するエリアは曜日ごとに決まっており、取材当日は、周囲にオフィスビルが立ち並ぶ「丸の内仲通り」にてランチ営業を行っていた。昼の12時頃にキッチンカーを訪ねると、お昼休憩中の会社員の方々が店頭にズラリ。「SAMEYA」のロゴ入りTシャツに身を包んだ髙瀨さんが、オーダーを受けて、調理、料理提供までを1人でテキパキとこなす。
そんな「SAMEYA」では、一体どんなメニューをラインナップしているのだろう。サメ料理と聞けば少々身構えてしまうかもしれないが、この日用意されていたのは、サメ肉が入ったガパオライス、タコライスの2種類だ。
このほか、麻婆豆腐のお肉にサメ肉を使った「麻婆シャーク丼」や「サメドライカレー」を提供することもあるという。また、週末にイベントなどへ出店した際には、フィレオフィッシュから着想を得た「サメバーガー」が販売されることも。こうしたカジュアルなメニューであれば、サメ肉未体験の方でも気軽に口にできるに違いない。
実際に「SAMEYA」店頭では、食欲をそそる香りに誘われた方々がランチ仲間と一緒にメニューを一読し、「え!サメ料理だって!」と驚きの声をあげて、ものめずらしさから購入待ちの列に加わる光景を何度も見かけた。
こだわりのサメ料理を実食
まずは、ガパオライスをいただいてみよう。サメ肉を口に運ぶと、その身はやわらかでホロっとした食感がある。香草などと一緒に炒めているため、香ばしさを感じるが、肉自体に臭みはなく後味はとてもあっさり。目玉焼きをつぶして、黄身と絡めながらサメ肉を食べるのもたまらない。
続いて、アボカドやメキシコ風煮込みの赤豆がたっぷり盛られたボリューミーなタコライスへ。こちらのサメ肉は香辛料のクミンと一緒にソテーしたもの。肉自体の味にクセがないためか、スパイシーな風味が肉全体に染み込んでいるのが特長的だ。
髙瀨さんによると、サメ肉は高タンパク、低カロリーでとてもヘルシー。また、淡白な味であるため、どんな料理にも相性が良いのだとか。今回、筆者は初めてサメ肉をいただいたのだが、鶏肉に近いジューシーな旨味、あっさりした後味、やわらかな食感に驚いた。ぜひ偏見を持たずに、一度食べてみてほしい。
サメ料理を手がける理由
髙瀨さんに話を伺う中で、特に気になっていた疑問をぶつけてみた。なぜ「SAMEYA」はサメ料理を専門で扱っているのだろうか。それに対して、髙瀨さんは「気仙沼で暮らす漁師さんの収入を上げるためなんです」と答える。
「こう思うようになったのは、東日本大震災のときに、気仙沼へボランティアに向かったことがきっかけでした。あるとき、人生で初めて漁に同行させてもらったんですが、凍てつくような寒さ、強く吹き付ける風、荒れる波を受けて、命の危険を感じたんです。本当に辛かった。それでも漁師のみなさんは、仕事として一生懸命やっている。まさに命懸けですよね。それにも関わらず、漁師さんの平均収入がものすごく低いことを知って。頑張っている人が評価されていない現状に違和感を抱いたんです。」
このような体験を経て髙瀨さんは、お世話になった気仙沼の漁師に恩返しするために、そして彼らの収入を上げるために、“自分ができること”について考え始める。そこで、目を付けたのがサメ肉だった。
「実は、サメの国内水揚げ量の9割は気仙沼港が占めているのですが、ヒレ以外はあまり活用されていない状況です。とても美味なのにも関わらず、サメ肉には二束三文の値段しかついていません。でも、僕が東京でサメのおいしさや魅力を伝えて需要が増えれば、サメ肉の価値が上がる。つまり、漁師さんの収入を上げる手助けができると思ったんです。」
こうして、気仙沼直送の「モウカザメ」を使ったサメ料理を提供する「SAMEYA」が始動した。キッチンカーによる移動販売という営業形態を取っているのは、さまざまな場所を訪れることで、より多くの方々にサメ肉の美味しさを知ってもらうという目的からだ。また、ガパオライス/タコライス/ハンバーガーといった、カジュアルなメニューを用意しているのも、サメ肉に興味を持ってもらうための工夫の1つだという。
「僕は『漁師さんの収入が低いから料理を買ってください』とか、同情を誘うような商売をしたいわけではありません。そうした店舗運営の背景を気にせずに、ただサメ肉を美味しいもの、珍しいものとして食べていただければ嬉しいですね。そうしたお客さんの行動が、漁師さんへのサポートに自然とつながっていけば、とても理想的な流れだと思います。」
今後「SAMEYA」は、これまでのキッチンカーでの営業に加え、新たなプロジェクトにも着手する予定だ。気仙沼で獲れたサメを現地の工場で加工し、それを販売する売り場を作る取り組みも行っていくとのことだ。これからの活動にもぜひ注目していただきたい。そして、まだサメ肉を食べたことがないという方は、ぜひ「SAMEYA」に足を運んでみてほしい。出店情報はTwitterやInstagram、Facebookにてチェック可能だ。
SAMEYA
CURATION BY
1991年生まれ。岐阜県出身、東京都・中野区在住。音楽、小説、お笑いが好き。最近は海外ドラマばかり観ています。