Vol.198

FOOD

08 JAN 2021

空間デザイナーが表現するハーブの魅力。「HERB+CAFE」の世界観

和歌山に、全国各地から感度の高い人が訪れるハーブ専門店「HERB+CAFE(ハーブプラスカフェ)」がある。店主・河野芳寛さんは空間デザイナーとしての視点を生かしながら、無農薬ハーブの自家栽培をはじめ、商品のパッケージデザインから店舗の空間デザインまですべて1人でプロデュース。洗練されたパッケージのハーブティーは、取り寄せる人も多い。河野さんはデザインを通して、ハーブの魅力をどのように伝えようとしているのだろうか。「HERB+CAFE」の世界観をのぞいてみたい。

空間デザイナーが手掛けるハーブ専門店

和歌山の中でも、みかんの産地として知られる有田川町。その住宅が立ち並ぶ静かな通りに、「HERB+CAFE」はある。白い倉庫のような外観からは、中がカフェになっているとは想像できず、うっかり通り過ぎてしまいそうなほど。それでも、全国各地からウワサを聞きつけて訪れる人でいつも賑わっている。

スタイリッシュな看板が目印
若い頃にオーストラリアへ渡り、ショーウィンドウの商品陳列を手掛ける「ウィンドウ・ディスプレイ」の仕事に携わったという店主・河野さん。帰国後は大阪で空間デザイナーとして活躍してきたが、パソコンがあれば仕事ができることから、地元である和歌山・有田川町にUターンした。当初はハーブ専門店を構えることはまったく視野になかったのだとか。

ところが実家に活用されていない畑があったことや、工務店を営んでいた父親が亡くなり使われていない倉庫があったことから、「自分なりにこの土地で何かできることはないか」と考えて行き着いたのがハーブだった。ハーブを栽培して自ら商品化することで、これまでやってきたデザインを生かせるのではないかと感じたそうだ。

約2年かけてつくられた寄木デザインの内装
「HERB+CAFE」の内装は流行りに左右されないデザインに仕上げるため、1つのパーツを作ったら時間をとって吟味してから、次のパーツに取り組むという工程を繰り返した。壁やカウンター、床の木材は、すべて河野さんの父親が残してくれたもので、再利用することで空間に趣深さが生まれている。

店主の河野芳寛さん
河野さんのこだわりは、ハーブの栽培から店作り、メニュー開発、商品デザイン、接客、提供に至るまで、すべての工程を自ら行うこと。「普通ならスタッフを雇って役割分担するところですが、私は一つ一つの工程に自分の息を吹きかけたくて。そうすることで、うちにしかない価値を提供できるのではないかと思っています」

メニューも空間デザインの視点で組み立てる

「HERB+CAFE」の店内では、ハーブを使ったランチやスイーツなど多彩なメニューをいただける。盛り付けはもちろん、店内でメニューが映えるように内装を微調整するなど、至るところに空間デザイナーの視点が生かされている。

「HERB+CAFE PLATE」
取材時に注文したのは、厚切りベーコン&燻製ソーセージのスモーブロー。スモーブローとはオープンサンドの一種で、パンにのっている食材以外にも付け合わせの焼き野菜やサラダをあわせて、自分なりの食べ方を楽しんでほしいという思いが込められている。バジルチーズソースが風味豊か。

ハイビスカスの甘酸っぱい風味が心地いい「ハイビスカス+バナナローケーキ」と、ハイビスカスやローズヒップなどが入った人気のハーブティー「ブレンドNo.2」
スイーツは、小麦粉や砂糖を使わず自然由来のもので甘さを出し、焼かずに冷やし固めた「ローケーキ」を提供。ハーブティーは自宅で飲むときの参考になるように、あえてティーバッグで出している。

植物も器も並べずにシンプルさにこだわる
ところで、「HERB+CAFE」の内装はシンプルで、ハーブなどのグリーンはあえて飾らないようにしているという。シンプルな空間のほうが彩あるメニューが映えて、運ばれてきたときのインパクトが大きいからだ。メニューが映えるように、テーブルも白を選んでいる。

ハーブの特徴を分かりやすくブレンドしたティーバッグ

ハーブ畑は店舗のすぐ近くにあり、数十種類のハーブを季節に合わせて栽培している。河野さんは農業の経験がないところから無農薬でのハーブ栽培をスタートし、試行錯誤しながら少しずつ種類を増やしてきた。収穫したハーブは、「HERB+CAFE」の店内で提供するメニューはもちろん、自宅用に販売しているハーブティーに使用している。

ハーブ畑での収穫風景
農業は本来の得意分野ではないが、河野さんは自らの手でハーブを栽培することに意味があるという。「自分の手で栽培したハーブでなければ、メニューの盛り付けもハーブティーのパッケージも、デザインのコンセプトがチープになってしまう気がして。栽培も手掛けてこそ、お客様に響くものが生まれると思っています」

摘みたての瑞々しいハーブたち

一つずつ手作業でティーバッグにハーブを詰めていく
また、ハーブティーのブレンドも、河野さんが独自に研究したものだ。ハーブティーは味や香りに苦手意識を持つ人もいるが、そんな人にもハーブの魅力を知ってもらうために、ブレンドは“分かりやすさ”にこだわった。

ブレンドする際、使うハーブの種類が多すぎると雑多な風味になり、それが飲みづらさにも繋がってしまう。そこで使うハーブを4種類に限定して、それぞれが引き立て合うようにブレンドすることで、飲みやすく仕上げた。

さらに、ハーブティーは茶葉とティーバッグの商品があるが、ティーバッグはハーブティー初心者でもおいしく淹れられるように茶葉をたっぷりと入れている。一般的なティーバッグの2倍にあたる茶葉量を詰めることで、誰もがハーブの香り高さや味わいをよりクリアに感じられる一杯を淹れることができるのだ。

パッケージデザインを通してハーブをどう伝えるか

ブレンドハーブティーは全部で12種類。時計を連想する12という数字から、1日のサイクルの中で楽しんでもらうことをコンセプトに「12(twelve) MOMENTS HERB TEA」と名付けている。自宅用に販売しているパッケージデザインは、河野さんのアイデアでその都度リニューアルされていく。

取材時は、ちょうど新たなパッケージが登場したタイミング。「今までにないギフトボックスを提案して、お客様に驚きや楽しさを感じてほしい」という想いから、なんとギフトボックスは筒型。中から3つの円柱が連なって出てくる。

遊び心あふれるギフトボックスは、もらった人も喜ぶはず

時計をモチーフにしたというパッケージの天蓋部分。12時間の目盛りを入れている

円柱の側面には、時計の針を描いている
あえて目盛りと針をずらしてデザインすることで動きを出し、時を刻んでいるかのように表現しているのがこだわり。

円柱型のパッケージの中には、円錐が4つずつ入っている

円錐の形に包まれた中身が、ハーブティーのティーバッグ

パッケージデザインもディスプレイもどんどん変化していく
ちなみに「HERB+CAFE」の店内では、その時々の商品パッケージに合わせてディスプレイを変えている。例えば、俯瞰で見せたいパッケージの場合は、低めのテーブルにディスプレイ。円柱パッケージのディスプレイは現在制作中だ。

デザインがハーブに触れるきっかけになる

「健康志向」「丁寧な暮らし」という文脈で取り上げられることの多いハーブ。いつの間にか、「ハードルが高そう」「日常に取り入れるのは難しそう」というイメージになっていないだろうか?河野さんはデザインを通して人にインパクトを与え、ハーブに興味を持つきっかけを作っている。ハーブティーのパッケージを手にすればはっと驚き、「ハーブって面白そう!」と思わずにはいられない。

食事やティータイム、美容や健康管理、ポプリなどの飾り…。ハーブは五感で楽しめるもの。さまざまなシーンにハーブをプラスするだけで、生活に豊かさがもたらされるはずだ。まずは「HERB+CAFE」のハーブティーをきっかけに、暮らしにハーブを取り入れてみてはいかがだろうか。

HERB+CAFE

住所:和歌山県有田郡有田川町徳田223-1
TEL:0737-23-7551

https://herbpurasu.tumblr.com/
※ハーブティー購入希望の場合はメールまたは電話で問い合わせが必要