「香り創りの専門店」ann fragranceとは
今回訪れたのは、表参道にある「Atelier ann」。最上階のワンフロアを贅沢に使ったアトリエは、重厚なダークネイビーの絨毯と、やわらかなピンクに包まれた調合ルーム、白い漆喰が幻想的な光をたたえる香りのセレクトブースから構成されている。美しさと静けさが共鳴する空間は、日常から少しだけ離れ、自分だけの香りと向き合う“異世界”への入口のようだ。
Atelier annのためにつくられた37種類の香り
フルーティ、フローラル、ウッディ、オリエンタルなど、さまざまな香調を網羅する一つひとつの香りは、何十種類もの原料を緻密に組み合わせてつくられたもの。香りを評価する専門家であるエヴァリュエーターが監修し、異なる香りを重ねても全体のバランスが崩れにくいよう設計されているという。
一般的なオーダーメイドフレグランスでは、ブレンドできる香りが2〜3種類に限られることも少なくない。そのなかで、最大5種類を自由に重ねられることは、Atelier annならではの大きな特徴だ。
選べる香りが増えるほど、組み合わせを美しくまとめるための設計は複雑になる。しかし、最大5種類までブレンドできるからこそ、一つや二つの香りでは生まれない奥行きや、予想していなかったニュアンスを引き出すことができるのだ。
ビンゴカードを使い、先入観なく香りを選ぶ
いくつもの香りを試すうちに、最初は意識していなかったものが気になったり、好きだと思っていた系統とは異なる香りに惹かれたりする。
一般的な買い物では、ブランドや香りの名称、パッケージなどを手がかりに選ぶことが多い。しかし、ここで頼りになるのは、その瞬間に「好き」「気になる」と感じた自分の感覚だ。ビンゴカードを開いていくゲームのような仕組みも、考えすぎず、直感に身を委ねる手助けをしてくれる。偶然のように見える選択のなかから、自分でもまだ気づいていなかった好みが、少しずつ浮かび上がってくる。
51万通り以上から生まれる、予想外の組み合わせ
「フラワーシャワー」は、ローズやミュゲ、ジャスミンなど、咲きたての花々を束ねたような軽やかな香り。「タスカーブルー」からは、木のぬくもりと花の甘みが重なる、深みのある印象を受ける。さらに、シトラスムスクの「ファントムムスク」が、二つの香りをやわらかく包み込んでいく。
一つひとつを嗅いだときには、それぞれ異なる印象を持っていた3種類。しかし重ねてみると、花々の華やかさにウッディな深みが加わり、ムスクの穏やかな余韻が全体をつないでくれた。軽やかさと落ち着きが同居する、爽やかでありながら奥行きのある香りへと変化していく。
最初からテーマを決め、それに合うものだけを探していたら、この3種類にはたどり着かなかったかもしれない。偶然選んだ香り同士が重なり、自分一人では想像していなかった方向へ広がっていくことも、この体験のおもしろさだ。
香りに色と名前をつけ、完成させる特別な一本
今回は、爽やかな夏の空気を思わせる淡いグリーンを選んだ。透明だった液体にゆっくりと色が加わると、それまで目には見えなかった香りの印象が、一つの風景として立ち上がってくるようだった。
レシピは、カードに記録して持ち帰ることができる。偶然から生まれた香りでありながら、使い切ったあとも同じ配合で再注文できるサービスだ。
「今の自分」を表すパートナーに
37種類を順番に試し、そのとき自分が反応したものを拾い上げる。そこには、これまで自覚していた好みとは少し異なる、「今の自分」の感覚が表れているのかもしれない。
数カ月後、あるいは数年後にもう一度体験したら、まったく異なる香りを選ぶ可能性もある。その時々の自分が惹かれた香りを組み合わせ、一本のミストとして残す。香り創りは、少しずつ変化していく自分を記録する体験でもあるのだ。
洋服やインテリアにも好きな香りを
朝はカーテンに吹きかけ、香りとともに一日を始める。仕事を終えたあとは、ソファのクッションにひと吹きして、くつろぐ時間へと気持ちを切り替える。眠る前には枕カバーにまとわせ、静かな余韻を楽しむ。肌につける香水とは異なり、暮らしのさまざまな場所に香りを忍ばせられるのが魅力だ。
いつもの選択から一歩外へ出て、偶然に導かれるまま香りを選んでみる。そこで出会うのは、想像していなかった組み合わせだけでなく、まだ知らなかった自分自身なのかもしれない。
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