Vol.756

MONO

15 MAY 2026

一点物のヴィンテージ コーヒーカップ&ソーサー「ARABIA Kosmos」で嗜む、優雅な時間

お気に入りの豆でコーヒーを淹れ、ゆったりと過ごす束の間の休息。毎日せわしなく働く現代人にとって、そんなコーヒーブレイクは非常に希少で尊い時間だ。せっかく特別なひとときを過ごすなら、道具にだってこだわりたい。今回は、フィンランドの有名陶器メーカー「ARABIA(アラビア)」より、50年以上経った今でも愛されるヴィンテージのコーヒーカップ&ソーサー「ARABIA Kosmos」をご紹介する。職人による“一点物”のものづくりが魅せるこだわりと美しさは、いつもの時間を優雅に格上げしてくれる。

芸術性と実用性が同居する、フィンランドの陶器メーカー「アラビア」

フィンランドで生まれ、150年以上の歴史を持つ「アラビア」
アラビア社は、1873年にフィンランドのヘルシンキ郊外・アラビア地区に設立された陶器メーカー。創業当時はスウェーデンのロールストランド社の子会社として実用本位の食器を大量生産していたが、やがて独立。1932年には社内に芸術部門(Art Department)が設立され、カイ・フランクやビルガー・カイピアイネンといった先駆的なデザイナーも集まるようになる。

「Vackrare Vardagsvara」は、食器や家具、建築など北欧全体の文化に息づいている

数々の陶磁器が生まれる過程で確立されていったのが、アラビアの「美しい日常/Vackrare Vardagsvara」という理念。「Vackrare Vardagsvara」は、スウェーデンの美術史家であるグレゴール・パウルソンが提唱したスローガンで、「誰もが使う日用品こそ、美しくなければならない」という意味がある。このスローガンに同調したメーカーやデザイナー、建築家、生活協同組合、政府などを巻き込み、スウェーデンのデザイン産業は発展することになる。1950年代には他の北欧諸国へも波及し、北欧モダンデザインとして世界を席巻するように。

パリ万国博覧会やミラノ・トリエンナーレなど、さまざまな展覧会で高く評価されたアラビア
アラビアの製品はストーリー性のある芸術的な見た目と、毎日使いたくなる機能性の高さが両立しており、さまざまな国際的展覧会で賞を獲得しています。長い時間をかけて、世界で一目置かれる存在となっていった。

日本の食卓にもよく馴染む「ARABIA Kosmos」

今回ご紹介する「Kosmos(コスモス)」は、アラビア社で1964年〜1976年にかけて製造販売されていたアンティーク製品。ペイントされた直線は、コスモスの花を表現したものだ。ブラウンと深いグリーンを基調とした落ち着いたカラーリングが特徴的で、アラビアのアイテムの中でも特に人気のシリーズとなっている。

Sモデルの「S」は、フィンランド語で「同じ」という意味の「Same」が語源だとか
Kosmosシリーズは、頑丈で日常使いしやすい「Sモデル」というフォルム(陶器の形)が採用されている。この「Sモデル」を発案したのは、アラビア社の黄金時代を支えた一人である女性デザイナーのウラ・プロコッペ。後のアアルト美術学校にあたるヘルシンキの美術工芸を卒業し、アラビアに入社。その後、巨匠カイ・フランクに才能を見出され、アラビアを代表するデザイナーとして数々の作品を生み出した。

また装飾デザインを手がけたのは、アラビア社で40年以上活躍したグンヴァル・オリン・グラングヴィスト。「パラティッシ」をはじめとした他の有名シリーズと比べると、どこか素朴で奥ゆかしい印象のKosmos。日本の食卓にもよく馴染むため、コーヒーの代わりに緑茶やほうじ茶で一服するのもおすすめだ。

どこか日本の民藝品のような雰囲気もあるKosmos。沖縄の器「やちむん」との相性も抜群

同じ絵柄は2つとない。ハンドペイントへの愛着が人気の理由

Kosmosシリーズのもう一つの特徴が、職人によるハンドメイドな装飾であるという点。製品の大半はストーンウエア(陶器と磁器の中間の性質を持つ「炻器(せっき)」のこと)で、職人の手で製品化されている。日照時間が短い北欧の自然環境の中で、生活を潤いあるものにしようと努力する北欧の人々の暮らしの知恵から生まれたものだそうだ。大きく分けて、2つの技法を組み合わせて、作られている。

エアブラシによる輪郭のぼやけた線と、手書きによる鮮明な線が組み合わさり、奥行きのあるデザインとなっている
1つ目の技法が、模様が切り抜かれた型紙(ステンシル)を器の表面に置き、エアブラシで色を吹き付ける手法。エアブラシで吹き付けるため、模様の縁が柔らかくぼやけて、水彩画のような優しく温かみのある印象が生み出される。もう1つの技法が、手描きでストライプを加える、まさに手作業の職人技によるもの。1点1点が手描きだからこそ、他の量産品とは一線を画す表情が陶器に現れる。

製造された時期によって異なるバックスタンプ。一般的に手書きの方が初期作品と言われている
コスモスの花びらを表現した細いラインは、色の濃淡や太さ、長さ、にじみ具合など、すべてが一つ一つ微妙に異なる。同じものが2つとない。手書きならではの味わいを楽しむことができる。ちなみに、裏側にあるバックスタンプも一つひとつ異なる。これが、1976年に生産を終えて半世紀が経った今でも尚、北欧ヴィンテージ食器の愛好家たちに愛され続けている所以だろう。

個体ごとの微妙な差異を見つけるのも、Kosmosを使う楽しみの一つ

毎日のあらゆるシーンで輝く存在

前述のとおり、アラビア製品は芸術性と実用性を兼ね備えているところが大きな魅力。Kosmosも、ちょっとやそっとでは壊れない頑丈な作りとなっている。だからこそ“美しいヴィンテージ食器”としてただ飾るのではなく、生活を支えるひとつの道具として、きちんと「使う」ことにしている。

好きな本や音楽とともに、お気に入りのカップでコーヒーを楽しむ至福の時間
たとえば、休日に。
時間をかけて淹れたコーヒーをKosmosに注げば、心なしか普段より贅沢な味に感じる。コーヒーをお供に好きな音楽をかけたり、本を読んだりする時間は、何にも代えがたい。

たとえば、仕事中に。
企画やアイデア出しに行き詰まったときに、小休止してコーヒーを淹れてみる。Kosmosの程よい重みと温もりが、張り詰めた集中力に心地よい余白を与えてくれる。

たとえば、来客時に。
一つひとつ表情が違うカップを吟味し、訪問者にコーヒーを出す。「素敵なカップですね」と気付いてくれる来客との会話に花が咲く。

仕事の合間のちょっとしたコーヒーブレイクにも最適なサイズ
どんなシチュエーションにも寄り添ってくれるKosmos。使い込んでいくたびに輝きが増してるのではないかと、筆者は感じている。

時代を越えて、受け継がれていく日用品

「ARABIA Kosmos」はヴィンテージ品で現在は製造されていないが、街のアンティークショップや雑貨屋で時々販売されているので、ぜひチェックしてほしい。言葉で説明するよりも、実際に手に取ってもらったほうが、その魅力に気づけるはず。

使えば使うほど、その美しさに気づかされる。それが「ARABIA Kosmos」

今から約50年前の製造当時に掲げられた「Vackrare Vardagsvara(誰もが使う日用品こそ、美しくなければならない)」という想いは、着実にいろいろな人の手を渡って未来へと受け継がれていく。そんな役目を引き受けるのも、「ARABIA Kosmos」を所有する魅力の1つかもしれない。

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