ZOOMLIFEを運営するトーシンパートナーズが展開するマンションブランド「ZOOM」シリーズは、2014年度から11年連続・計18棟で「グッドデザイン賞」を受賞している。グッドデザイン賞は、日本で唯一の総合的なデザイン評価・推奨の仕組みで、「Gマーク」とともに広く親しまれてきた制度だ。今回はそれに関連して、2024年にグッドデザイン賞に輝いた、株式会社ボンドインクのマルチバーム「KINOS(キノス)」を紹介する。マイナス40℃の寒冷地でも育つ植物のオイルを使い、ナチュラルな成分にこだわってつくられたバーム。約3年かけて開発された、その背景と思いを伺った。
99%天然由来。強い生命力を持つ植物の恵みをそのままに
丸みを帯びたフォルム、手のひらにちょうど収まるサイズ感、温もりを感じるやさしい色味──すべてがかわいい。箱を開けた瞬間、そう思った。
マルチバーム「KINOS」は、顔や体、髪まで、全身に使うことができる。植物オイルを使った天然由来成分99.0%のナチュラルなバームが、しっかりと保湿してくれる。
ラインナップは大きく分けて、くるみオイルをベースにしたものと、シーベリーオイルをベースにしたものの2種類がある。いずれも寒冷地でもたくましく育つ、生命力の強い植物だ。その他のベリー系オイルや亜麻仁オイルなども候補に挙がり、「食べられるものであれば、肌にもやさしいはず」と考えて、食用として親しまれている植物にこだわって原料を絞り込んでいった。
くるみには、オメガ3脂肪酸やビタミンEが豊富に含まれ、健康的なおやつとしても親しまれている。シーベリーはパワーフードとして知られ、ビタミンCや不飽和脂肪酸が多く含まれる。さらに、シーベリーは別名サジーとも呼ばれ、近年は「サジージュース」としても注目を集めている。
マイナス40℃の寒冷地でも育つ植物は、果実や種子を寒さや乾燥から守るため、体内にオイルを蓄えているといわれている。「KINOS」は、強い生命力を秘めた植物のオイルの恵みを、全身で受け取れるマルチバームだ。
自然豊かな北欧の暮らしをイメージして
「KINOS」の着想から商品化までには、実に3年近い年月がかかった。テクスチャーや容器、パッケージなど、一つひとつこだわったこともあるが、何より世界観を大切にしたことが大きかったのだろう。社内でさまざまな観点から意見を出し合い、時間をかけてじっくりと絞り込んでいった。
イメージしたのは、北欧の暮らし。自然に囲まれた家のリビングやバスルームに置いても、なじむようなデザインにしたかった。オイルを多く含むバームは、近年人気が高まっている一方で、市場にはすでに多くの商品が出回っている。ブレない世界観をつくり込んだ背景には、「自社がつくるなら、他にはないものを」という強い思いがあった。
そうして生まれた「KINOS」のコンセプトは、「寒冷地帯(北欧)」「ミニマル」「ナチュラル(無垢)」「再利用」「調和」の5つ。これらのコンセプトは、ブランド名やデザインにしっかりと反映されている。
「KINOS」は、フィンランド語で雪の結晶という意味。海外から見た“和”のエッセンスや、インテリア業界のトレンドである「ジャパンディスタイル」を意識したデザインが特徴だ。ジャパンディとは、和風(Japanese)と北欧風(Scandinavian)を融合させたスタイルで、近年は海外で話題となっており、日本でもその兆しが見え始めている。
共通する要素とされるのは、「ミニマル(余白)」「天然素材」「丸みのあるフォルム」など。「KINOS」では、木製キャップに無垢材を用い、やさしい丸みをもたせたキャップと容器で、その空気感を表現している。容器のデザインも、必要最低限にそぎ落とされたシンプルさで、まさにミニマルな美しさを体現していると言える。
世界観をかたちにする、細部へのこだわり
つくり込んだ世界観を実現するために、「KINOS」には多くのこだわりが詰まっている。テクスチャーは、髪のスタイリングにも肌のケアにも使えるように、心地良いなめらかさを求めて、何度も試作を重ねた。
一年を通じた寒暖の差も課題だった。冬場に硬くなりすぎず、夏場は溶けてしまわないように、バランスには特に気を配ったという。化学物質を使えば調整は容易だが、天然由来の素材にこだわったことで、思い通りの硬さに仕上げるまでに時間がかかった。協力してくれた開発会社でも、原料の配合を何度も見直しながら対応してくれたそうだ。
容器の瓶は、当初コスメ用で探していたのだが、イメージに合うものが見当たらず、最終的に食品用のものを採用した。食品用の瓶は、ラベルシールを貼るのが一般的で、直接プリントすることはほとんどない。しかし今回は、自然とインテリアに溶け込むデザインを求め、ガラスメーカーの協力を得て、ロゴを直接プリントしてもらった。
存在感のある木製キャップは、瓶に合う既製品がなく、木材加工を専門とするストーリオ株式会社に依頼し、「KINOS」専用に開発されたものだ。ブナの天然木から削り出した無垢材を使用しており、一つひとつ異なる木目が味わいを生んでいる。節目があるものも廃棄せず、そのまま商品として送り出すそうだ。木製キャップは、同じ規格の標準(メタル)キャップと差し替えて、繰り返し使い続けることができる。だからこそ、長く付き合うものとして、どんな木目のキャップが手元に届くのか、その“巡り合わせ”もひとつの楽しみだ。
最後は、香りについて。100%天然素材にできなかった理由はここにあり、残りの1%は香料によるものだ。リラックスして使えるよう、さまざまな香りの中から選び、強くなりすぎないように調整されている。キャップを開けると、上品で清涼感のある香りがふわりと広がるが、手にとって肌になじませると、ほんのり香る程度になり、ちょうど良い加減に感じられる。
性別や年齢を超えて、愛用者が広がる
細部までこだわって仕上げた「KINOS」。その完成度を試す場として、デザイン賞への応募の誘いを受けたが、「どうせ挑戦するなら、誰もが知る有名な賞にチャレンジしたい」と思い、数あるデザイン賞の中でも、一般に広く認知されているグッドデザイン賞への挑戦を決めた。
グッドデザイン賞の受賞製品の中には機能美を重視しているものが多いが、「KINOS」はそうではない。そもそも小さな会社が、大企業と同じ土俵で競い合うのは難しい。だからこそ「KINOS」では、機能性だけで勝負するのではなく、世界観を大切にし、「ミニマルな暮らしに寄り添うこと」を目指してきたのだ。
その姿勢が審査員に伝わり、「ベストを追求する姿勢でコンセプトの実現に力を注ぎ、その心がユーザーにしっかり伝わっている」と高く評価された。裏で積み重ねてきた努力を汲み取ってもらえたことが、何よりも嬉しかったという。
そうした思いを込めて生まれた「KINOS」は、実際に幅広い人々に受け入れられている。発売前に想定していたユーザー層は、都心に暮らす感度の高い女性たちだった。しかし、いざ販売を開始してみると、性別や年齢を問わず、多様な層の人たちが利用していることがわかった。狙った層はもちろん、自分で使ってその良さを実感した親が子どもの肌に使ったり、身だしなみに気を配る60代の男性がスキンケアに取り入れたりしているそうだ。
暮らしにしっくりくる。そんな出会いがあれば、迷わず手にとって
「KINOS」を展開するボンドインクは、「ライフスタイルを彩る」というビジョンを掲げ、アパレルやバッグの卸、オンラインショップでの販売を行ってきた会社だ。扱うアイテムには、“自分では買わないけれど、もらうとうれしい”ような、ギフトにぴったりのものが多い。
中には、実用性よりもデザイン性を優先したプロダクトもあり、その分、職人技の詰まったものや、見た目にこだわり抜いたものが揃う。「KINOS」も、自分用に購入する人が多い一方で、デザイン性や素材へのこだわりから、贈り物としても人気が高まっているという。
今回の取材を通して感じたのは、「KINOS」が単なるバームにとどまらず、暮らしを強く意識したものだということだ。
機能が優れていることはもちろんだが、数多くの商品が溢れる中で、私たちは何を基準に選ぶのだろう。自分の暮らしにフィットすることかもしれないし、その世界観に共感できることかもしれない。「KINOS」は、見た目が好きだったり、触り心地がよかったり、わが家の雰囲気に合っていると感じたり、そんな直感的な理由で手に取りたくなるようなアイテムだ。
今回のストーリーを通じて、その世界観に触れ、少しでも共感するところがあったなら、まずは手にとって、あなた自身の感性で感じてみてほしい。
取材協力:株式会社ボンドインク 代表取締役 前島 雅之さん、セールス 大村 桃子さん
ボンドインク|KINOS
「ZOOM」シリーズのご紹介
トーシンパートナーズの「ZOOM」シリーズは、「SAFETY(安全で、安心する)」「SENSE(センスが刺激される)」「PRACTICAL(実用的で使いやすい)」という3つの価値をコンセプトに、都心での上質な暮らしを提案している。
2024年度は、「ZOOM麻布十番」「ZOOM広尾」の2棟がグッドデザイン賞を受賞している。それぞれ、都心部という制約の多い立地の中で、暮らしやすさと美しさを兼ね備えた設計上の工夫が評価された。麻布十番は構造の工夫によって開放的で自由度の高い空間を生み出した点が、広尾は高層ビルと住宅地の間に自然に溶け込む設計が、特に高く評価されている。
トーシンパートナーズ|ZOOM麻布十番
トーシンパートナーズ|ZOOM広尾
CURATION BY
料理とお菓子作り、キャンプが趣味。都会に住みながらも、時々自然の中で過ごす時間を持ち、できるだけ手作りで身体に優しい食事を取り入れている。日々の暮らしを大切に、丁寧に過ごすことがモットー。