ZOOMLIFEを運営するトーシンパートナーズが展開するマンションブランド「ZOOM」シリーズは、2014年度から11年連続・計18棟で「グッドデザイン賞」を受賞している。グッドデザイン賞は、日本で唯一の総合的なデザイン評価・推奨の仕組みで、「Gマーク」とともに広く親しまれてきた制度だ。今回はそれに関連して、2024年にグッドデザイン賞を受賞した、デスクトップオーガナイザー「RAE」を手がけたコクヨ株式会社を取材した。RAEには、コクヨのモノづくりの姿勢が色濃く表れている。その魅力や背景にある思いを丁寧に紐解きたい。
素材は一枚の紙から。新しい日常に寄り添ってくれる一品
皆さんは数年前に訪れた急激な生活環境の変化を覚えているだろうか。仕事はリモートワークが中心になり、外出もしづらくなった。ライフスタイルが突然大きく変わってしまい、不安を覚えた人も多いはずだ。
デスクトップオーガナイザー「RAE」は、そんな世界中の人々が共通の不安を抱える中で生まれた製品だ。RAEのデザイナーは、サステナブルな素材として紙を選び、「一枚の紙で組み立てる」ことにこだわったという。完成時の美しさや使いやすさを損なわないよう、紙の厚みや硬さを研究し、最適な組み立て方を探るために、何度も試行錯誤を重ねて実現した。
その結果、軽くて収納性に優れ、持ち運びやすいデスクトップオーガナイザーに仕上がっている。細部にまで配慮が行き届いた設計は使い手にとってもうれしいポイントだ。
RAEには、働き方や家での過ごし方、コミュニケーションの取り方など、さまざまな変化が生まれる中で、「新しい仕事環境に対応するためのアイテムとして使ってほしい」という思いが込められている。角の丸いフォルムや落ち着いた色合いは、さりげなくデスクに馴染み、心を穏やかにしてくれる。
机の整理整頓と、心の整理を同時に。コロナ禍が落ち着いた今も、私たちの生活は確実に変化した。その新たな日常に寄り添ってくれる一品だ。
ヨーロッパ出身の2人のデザイナーが描いた「ポストノーマル」のかたち
RAEについて語るうえで欠かせないのが、その製品の成り立ちである。RAEは、コクヨが主催する国際プロダクトデザインコンペティション「コクヨデザインアワード」において、2021年にグランプリを受賞した作品が製品化されたものだ。
「コクヨデザインアワード」は2002年にスタートし、「コクヨデザインアワード2025」で22回目を迎える。多様化が進む現代において、一般の方からもアイデアを募り、受賞した作品については、コクヨが受賞者とともに製品化を目指すという取り組みだ。背景には、「素晴らしいアイデアや作品をもっと世の中に広めたい」という思いがある。
この取り組みには、“共感共創”を大切にするコクヨの姿勢が表れている。お客様の課題に共感し、それに応えようとするコクヨの挑戦に、お客様自身がまた共感するという循環を生み出すことを目指しているのだ。
2021年のテーマは、「POST-NORMAL」。RAEを提案し、グランプリを受賞したのは、フィンランド出身のMilla(ミーラ)さんとノルウェー出身のErlend(アーランド)さんのデザインユニットである。ヨーロッパのデザイナーによる受賞は、これがはじめてのことだった。
審査員の目を引いたのは、なんと言ってもその美しい佇まい。一枚の紙とは思えないほど完成度が高く、紙であることを忘れるほどだったという。二次審査を経て、最終審査会までの間に一段とブラッシュアップされており、素材の選定から組み立て方に至るまで、緻密にデザインされていたことが最後の決め手となった。
見事グランプリを受賞したRAEは、その後コクヨの開発チームとともに、製品化に向けて本格的に動き出したのである。
コクヨとの共創で、もう一つのサステナブルが加わった
RAEの素材には、コクヨの工場でノートなどを生産する際に発生する紙端材が活用されている。コクヨでは、こうした紙端材のリサイクルに力を入れており、これまでその多くはトイレットペーパーなどになっていた。
キャンパスノートに代表される通り、コクヨが使用する紙は上質だ。その特性を生かした再利用ができないものかと考えていたこともあって、RAEの製品化にあたり、コクヨはデザイナーに紙端材の活用を提案した。RAEは、コロナ禍という環境変化の中で、サステナブルな視点を大切にしながら生まれたもの。そのコンセプトとも合致するとして、MillaさんとErlendさんもこの提案を喜んで受け入れたそうだ。
しかし、紙端材を使った製品開発には多くの困難もあった。一度紙になったものを再生する過程で繊維が分断され、短くなるため、強度や耐摩耗性の点で、コクヨの品質基準を満たすことが難しくなった。また、色味や質感も完成度を高めるために、何度も調整を重ねる必要があった。
MillaさんとErlendさんもまた、それを紙の個性として受け入れ、諦めることはなかった。2人とコクヨは、オンラインミーティングやメールを通じて丁寧なディスカッションを重ねながら、デザインの調整を進めることになる。
「コクヨデザインアワード」は、受賞がゴールではなく、そこからコクヨとの共創がはじまる。製品化には想像以上の困難が伴い、途中で仕様変更しないといけないこともよくある。製品開発の知見を持つコクヨがその部分をリードするとともに、デザイナーと丁寧に対話しながら、より良い製品へと仕上げていくのだ。
RAEはそうした共創のプロセスを経て、サステナブルという価値に、紙端材という新たな要素が加わり、現在のかたちへと進化したのである。
“折り紙”のように、自ら組み立てる楽しさ
グッドデザイン賞に応募したのは、見た目の美しさや機能性だけでなく、生産のプロセスや社会に与える影響なども評価されるため、RAEにふさわしいと考えたからだ。審査員からは、一枚の紙だけで美しいデザインのデスクトップオーガナイザーを実現していることに加え、素材の選定や生産方法、組み立てに至るまで緻密にデザインされていることが評価された。さらに、使い手自身が組み立てることで得られる達成感や満足感が、その製品を大切に扱う動機となり、気づきや行動変容を促す可能性にも触れられている。
RAEは誰にでも組み立てられるが、初見では少し難しく感じるかもしれない。そのため、丁寧な解説動画と練習用の紙が用意されている。動画を見ながら、まずは練習用の紙で試してみた。途中で動画を止めたり戻したりしながら練習用を完成させたことで、本番は迷うことなくスムーズに組み立てることができた。
こうして使い手が最後の“仕上げ”に関われるのも、素材が紙であるからこそ可能になったことであり、とても素敵な体験だと感じた。RAEは、見た目の美しさだけを追求するのではなく、コンセプトを大切にしながら、デザイン性と機能性を兼ね備えている。出来上がりの完成度は高いのに、”折り紙”のように自分の手で組み立てたという実感が得られる、珍しい製品と言えるだろう。そうしたモノづくりのプロセスに、使い手が少し関われるという点は、楽しくもあり、心地良くもあった。
紙でつくられたとは思えない。そんな意外性も楽しんで
RAEは、コクヨの公式オンラインショップのほか、コクヨの直営店で販売されている。国内では、品川のコクヨ本社1階の「THE CAMPUS」内のショップ(注1)、羽田空港エアポートガーデン内にある「KOKUYODOORS」、原宿の「THINK OF THINGS」、海外では中国・上海の「Campus STYLE」で取り扱いがある。なかでも羽田空港のショップは、インバウンドの買い物客が多いことが特徴で、コクヨデザインアワードの製品は”ニッチなお土産”として喜ばれており、RAEの売れ行きも良いそうだ。
そして、RAEはその誕生のきっかけとなった「コクヨデザインアワード」にも影響を与えている。2022年にはMillaさんとErlendさんに続き、海外のデザイナーがグランプリを受賞。応募者全体に占める海外からの割合も増え、現在では半数を占めるまでになっているという。
RAEを通して伝えたいことを尋ねると、「美しいデザインはもちろんですが、一度寿命をまっとうした紙を、もう一度楽しんでいただきたい」との答えが返ってきた。一枚の紙を組み立てるだけで、紙とは思えないほどしっかりとしたデスクトップオーガナイザーが出来上がる。その意外性に、きっと驚かされるはずだ。ぜひ手に取って試してみてほしい。
(注1)THE CAMPUS SHOPは現在、改修工事のため休業中(2025年5月26日〜9月2日予定)。
取材協力:コクヨ株式会社 グローバルステーショナリー事業本部 CXデザイン部 馬目 亮さん
コクヨ|RAE
「ZOOM」シリーズのご紹介
トーシンパートナーズの「ZOOM」シリーズは、「SAFETY(安全で、安心する)」「SENSE(センスが刺激される)」「PRACTICAL(実用的で使いやすい)」という3つの価値をコンセプトに、都心での上質な暮らしを提案している。
2024年度は、「ZOOM麻布十番」「ZOOM広尾」の2棟がグッドデザイン賞を受賞している。それぞれ、都心部という制約の多い立地の中で、暮らしやすさと美しさを兼ね備えた設計上の工夫が評価された。麻布十番は構造の工夫によって開放的で自由度の高い空間を生み出した点が、広尾は高層ビルと住宅地の間に自然に溶け込む設計が、特に高く評価されている。
トーシンパートナーズ|ZOOM麻布十番
トーシンパートナーズ|ZOOM広尾
CURATION BY
料理とお菓子作り、キャンプが趣味。都会に住みながらも、時々自然の中で過ごす時間を持ち、できるだけ手作りで身体に優しい食事を取り入れている。日々の暮らしを大切に、丁寧に過ごすことがモットー。