なぜ夏の服選びは難しいのか?
なぜ夏は服選びは難しいのだろう?この理由は汗ではないかと、私は思う。
夏はどうしても汗をかく。少し外を歩くだけでTシャツがびっしょり、という経験をしたことがある方も多いだろう。そして少しでも時間が経つと、汗の不快感にプラスして、その臭いも気になってくる。だから私たちは夏のあいだ一日に何度も着替えたりするのだが、その度にクリーニングに出すわけにもいかないので、お洒落着にはなかなか手を伸ばせない。現実は洗濯機で気兼ねなく洗える適当な服のルーティン。夏の服選びにワクワクできないのは、そんな習慣が理由かもしれない。
それでは、自宅で簡単に洗濯できるのに、お洒落も楽しめる服があるとすれば?さらに、着ている時の汗の不快感も軽減してくれる服があるとすれば?私たちの夏の服装選びは、もう難しくはなくなるのではないだろうか。
そんな服を、ついに私は見つけた。ウール素材で作られた一見シンプルなTシャツ〈ひつじTシャツ〉。製造元は、愛知県一宮市の『新見本工場』だ。
メイドイン尾州の『新見本工場』
田んぼにかこまれた大きな工場の一角に『新見本工場』はある。元々は『見本工場』として、その名のとおりサンプルを作る工場として運用していた場所を、2021年に店舗に改修した。だから、『新見本工場』。出迎えてくださったのは生地デザイナーの彦坂雄大さんだ。
洋服好きならたまに耳にする尾州というワードだが、これは昔の尾張国の通称。『新見本工場』のある愛知県一宮市を中心に、津島市、稲沢市、江南市、岐阜県羽島市など、愛知県尾張西部から岐阜県西濃までのエリアを尾州と呼んでいる。
「尾州は、一宮市を中心に工場が密集しています。そのため『新見本工場』では、紡績から生地の製作、仕立てまでの服作りの全工程を、外部に委託することなく、すべて尾州の職人たちの手で行うことができるのです」
「職人さんも『新見本工場』の服を着てくれていて、それがとても嬉しいですね。尾州の生地というだけでない、本当のメイドイン尾州を、お届けしていけたらと考えています」
毛織物産地・尾州だからこそ提案できる「夏こそウール」
「尾州のウールは、一般的なものとは異なります。特に皆さんがイメージされるような秋冬の分厚いウールではなく、スーツ生地に代表されるような光沢感の美しいウール。このサラッとした素材感は、まず他の産地で出会うことはできないはずです」
「サラッとした素材感」。これぞまさに、ご紹介する〈ひつじTシャツ〉のウールで感じたことだった。
「『新見本工場』としても、この尾州ならではのウールを広めたい、という目標がまず第一にありました。そして思いついたのが、夏にウールを着てもらうというアイデアです」
こうして〈ひつじTシャツ〉は「夏こそウール」というインパクトのあるコピーと共に、『新見本工場』の立ち上げ時に目玉商品としてリリースされた。当時から反応が良く、初回は一週間で完売。このTシャツをきっかけにウールの魅力に取り憑かれたお客さんも、実際に多いのだという。
「生地の薄さに驚かれる方が多いですね。試着いただいた際、試着室から『なんだこれ!?』という声が聞こえてきたことも。肌にのせるとよりその軽やかさを実感いただけると思います」
〈ひつじTシャツ〉の素材と製造工程
ウールの表面はウロコ状に重なり合っていて、このウロコをスケールと呼ぶのだが、スケールは湿気を調整するために閉じたり開いたりする。吸湿性や速乾性が期待できる素材というわけだ。これは羊自らが快適に過ごせるように進化した「羊毛」ならではの機能であり、〈ひつじTシャツ〉の着心地がサラッとしているのも、このウールの特徴を最大限利用しているからである。
〈ひつじTシャツ〉に用いられている糸は、super100’sメリノウール。メリノウール原料の繊維直径はなんと0.0185mmで、この細さも、快適な着心地を実現する理由の一つだ。
またこの生地は、編み上がってから一度「整理」と呼ばれる水洗いを行う。彦坂さんは、この工程がミソなのだと話す。
「洗い方によって全く風合いが異なります。縮み方をコントロールしつつ洗いをかけて、どのくらいの柔らかさで仕上げるかというのが、職人の腕の見せ所。尾州ウールはこの技術が優れているので、他にはないウールの着心地が実現しました」
〈ひつじTシャツ〉は糸の段階で防縮加工を施しているのに加え、さらにこうして水洗いの工程を経ているので、繊維が縮みにくい。これが自宅での洗濯もしやすさにも繋がっているのだそうだ。
『新見本工場』は尾州の地で、このようなウールへの挑戦を、きっとこの先も続けていくのだろうなと思う。またアップデートが行われることもあるだろう。それは 言い換えれば、ウールの可能性の最先端を、私たちはこの先も〈ひつじTシャツ〉を通じて味わうことができるということかもしれない。
夏ちょっといいかも、を〈ひつじTシャツ〉で
サラッと着られてお手入れが楽なので、家着としてつい手を伸ばしてしまうが、デザインがシンプルで洗練されているので、そのままお出かけ着にも着られることが嬉しい。家でリラックスして過ごす時のスタイリングを、ボトムスと小物だけ変えて、そのままショッピングに。そんな使い方ができるのが〈ひつじTシャツ〉の魅力だと感じる。
小型二輪に乗って。日々にゆとりを見出すための、ちょうどいいバイク|ZOOM LIFE
「肌触りの良い生地の表側をあえて裏に使用しているため、肌に直接着るのもおすすめです。夏はTシャツ、冬は肌着として、通年〈ひつじTシャツ〉を着ているというお客さんも多いんですよ」
サラッとしたウールを着て一日を過ごすと、この茹だるような暑さでも、夏ちょっといいかも、とさえ思えるから不思議だ。私は明日の朝も、この気持ちの良いウールに手を伸ばすだろう。
この夏、ウールの新しい可能性と共に
「尾州や、尾州のウールを知って、人生が3倍楽しくなったと言ってもらえたことがあります」
多くの人の人生を何倍も楽しくしてくれるようなウールが、これからも尾州という土地から広まり続けてほしいと、私も一人のファンとして願う。