TIME FLOW™️(タイムフロー™️)は、カードと1分間を測る砂時計が一緒になったカードセットで、使い方に正解がない。しかし実際に手にしてみると、さまざまなことを発見し、時間を忘れてしまうほど深くのめり込んでしまう。自らの思考を整理し、見つめなおすきっかけになったり、ただ眺めて時間を感じたり。さまざまな使い方ができる魅力あふれるタイムフローを紹介していく。
誕生のきっかけ
タイムフローは思考の道具/遊具をつくるプロダクトブランドの「ナゼカ」から誕生した。ナゼカはタイムフローのほかに「カタルタ」というカードゲームを出しており、両方の企画・制作を行う福元氏にお話を伺った。
「心平らかであるための道具とはどんなものになるだろう、と幾度となく考えてきました。その度に「見つめるだけ」「数えるだけ」のシンプルな道具を想像していました。ゆっくり考えていこうと思っていたのですが、コロナ禍で状況が変わります。自分にとって何が大事なのかを確かめたり、これまでの道のりを思い出したりすることが増えたのです。周囲でも調子が狂ってしまった人や、不安が増している人が増えた状況を見て、『前倒しして今つくろう』と思いました。2020年の第2波が始まる頃のことです。タイムフローは時間の流れと向き合い、認識を遊ぶ道具です。ひと繋ぎと思われている体験を分節し、使い方を考える自由を持たせています。そうすることによって、思考の立ち上がり際を捉え、意識と無意識の往来を促すことができるのではないかと考えています」と福元氏は話す。
「ナゼカ」は「自覚と無自覚の点滅を捉えたい」という意味を込めて誕生した。「人が『なぜか』と発するとき、「なぜだろうか」と自覚的に問うこともあれば、「なぜかわからないけれど〜してしまう」というように、無自覚さを吐露することもあります。何かを習慣化し無自覚になることが人生にとってプラスに働くこともありますので、無自覚さを悪者に仕立てる気はありません。タイムフローは使っていただく方々に、自覚と無自覚の創造的な切り替わりの瞬間を作っていただくことを期待しています」
福元氏が話すその意味を、タイムフローの道具とともに紐解いていく。
遊び方は自由自在
パッケージは蓋と本体が一体型になっており、ソリッドなフォントでTIMEFLOWのロゴが中心に型押しされている。注意書きも何もなく、ロゴだけのミニマルなパッケージに「何が入っているのだろう」という期待が膨らむ。蓋を開けると右側に砂時計、左側にカードが入っており、遊び方にヒントとなる紙も同封しているが、シンプルに、本当にそれだけなのである。
砂時計は5cmほどの大きさで、ガラス製。タイムフローを制作する時にまず始めに決めたのは砂時計の砂の色だという。喜びも悲しみも遠ざけすぎないよう、印象として明るすぎず、暗すぎない色にし、白昼夢の入り口に射している光をイメージした淡い黄色にしたという。
なんの仕掛けもない砂時計ではあるが、普段サウナ室にて横目でしか見ることがない砂時計をじっくり観察してみると、砂時計の砂の崩れ方や積もり方などに変化があることがわかる。その変化は一定のルールがあるように見えてくるが、そのルールが通用しなくなったり、そのルールについて考えていると自身の集中力が切れたり、注意力が乱れてきたりする。砂時計を観察していると1分は長く感じるようであっという間だ。自分を見つめる1分、自分を忘れる1分、ただ共にいる1分など、さまざまな1分を測れることに気づく。
カードケースはノスタルジーを感じさせる、彩度の低い水色に砂時計が描かれており、カードケースを開けてみると、60枚のカードが入っている。カードケースと同じ絵柄の砂時計の写真が描かれていて、1分間の砂時計を1秒ごとに撮影した写真が1枚ずつプリントされてある。裏面をめくると数字が書かれており、表面の砂時計が表す時間の経過に対応した1から60までの数字が一つずつ記載されている。
カードには数字のみが書かれており、言語は一切使用されていないのも特徴だ。言語をなくした理由を福元氏は「言語化の機会をできるだけ純粋なものにするためです。自分自身で気づいたこと、感じたことを起点に、自らの言葉で気づきを手繰り寄せてほしいと思います。
タイムフローは使い方を規定しない類のプロダクトです。使い道を「考える」方向に振るにせよ、「無になる」「観察する」「集中する」といった方向に振るにせよ、言葉が付されていることが、その行為自体を邪魔してしまわないよう、重視しました。ひいては、そうした行為を組み合わせ、もっと込み入った使い方を考え出そうとするときに、言葉が書かれていないことで可能になることが出てくると想像しています」と話す。
砂時計とカードを組み合わせても、単体で使ってもよい。自分のコンディションを知る目安となるような日課を考え出す。ゲームやアクティビティを考え出す。写真を眺め、ただただ瞬間を味わう。いろんな使い方を編み出していける、自由の可能性をもつカードだ。
実際にタイムフローおすすめの使い方をいくつか紹介したい。
タイムカウント
“写真を表にしたカードを時系列に並べる。砂時計をひっくり返し、カードの写真を目で追いながら秒数を声に出して数えていく。「60」 のとき、砂時計を見る。砂がまだまだ落ちている最中だったとしたら、途中、何があなたを急がせたのだろうか。砂がとっくに落ちきっていたとしたら、あなたは何を考えすぎたのだろうか。残された問いに自分で答える。”
心身の静寂を取り戻すために行う瞑想のような遊び方に見えるタイムカウント。心を静めて無心になった状態で、特定の物事や目の前にあるものにフォーカスしたり省察したりすることは、意外と難しいものだ。自分の中の雑念を取り払いたいときにもおすすめしたい。
並べ替えゲーム
“カードの束から1~10のカード10枚を抜き出しシャッフル。砂時計をひっくり返し、1分以内に写真を時系列に並べ替える。並べ終えたら、1枚ずつカードをめくって数字を読み上げ答え合わせ。間違えていたら、写真の細部を観察してみよう。クリアしたら11~20や21~30など別の10枚に挑戦してみよう。まったく違う難しさがあなたを待ち受けている。”
1秒の砂の動きは実物でも写真でもじっくり観察しないとわからないもの。短い時間で写真のどの部分に着目して並べ替えていくかを考え、全体ではなく細部を客観的に着目することで、物事の観察力も鍛えられるだろう。細部を凝視することで今まで意識していなかったものにも目がいき、新しい発見も生まれるかもしれない。
60日チャレンジ
“タイムフローは自分で決めた1分間のチャレンジを60日間続ける助けにもなる。砂時計をひっくり返し、1分間のチャレンジを実行したら、日めくりカレンダーのように1日1枚のカードをめくる。めくったカードは数字の面を上にし、めくっていない束の横に並べて置くと、1日目には1のカード、2日目には2のカードといった具合に、その日が何日目のチャレンジであるかの記録が残る。“
毎日繰り返せば1年分の1分間チャレンジができる。自分で決めた日課やルーティーンでも良いだろう。1分間集中する、自分だけの特別な時間。今年の目標をまだ決めていなかった方にもおすすめしたい。
動詞の組み合わせ
同封されているカードとカードケースの側面にはタイムフローの使い方を考える手がかりとなる15個の動詞が書いてある。一語を選んで使っても良いし、いくつかを組み合わせて使っても良いし、新たな動詞を組み合わせても良い。
15個の動詞だけでも1つ使えば15通り、2つ選べば105通り、3つ選べば455通りある。15個の動詞の選ぶ組み合わせは32,767通りもあり、違う動詞の組み合わせを選べば一日に一回遊ぶとしても約90年遊べることになる。さらにその動詞に沿って新たな遊び方を考案していくのだから、例えば「観察する」という一つの動詞でも、人によって意味の捉え方はさまざまであり、「観察する」という動詞から派生する遊び方は無限に広がっていく。まさに十人十色の遊び方があるのだ。
しかし、毎日違う動詞の組み合わせを選ぶことができるといえばそうではなく、何度も遊んでいくうちに無意識のうちに自分が選びがちな動詞があることに気づき、自身の思考の癖に気付かされる。また、「観察する」という動詞でも、客観的に観察していると思っていても実は自分の中の何かしらの先入観や思い込みが存在し、それをもとに「観察」している、ということもわかってくる。この遊び方は自身の思考癖や思い込みや先入観を捨て、さまざまな制約にとらわれず物事を自由に見て考えていくことも教えてくれる。
自分と時間を見つめる
タイムフローはその名の通り「時間」と「流れ」を意識した道具だ。不可視な存在である時間を可視化した砂時計と、時間を分節し、より物質的にしたカード。手にとって遊びながら、それらを使って言語化する前の自身の思考であったり、はるか遠い記憶や瞬発的な洞察力を組み合わせたりして、時間と自分自身を再構築していく。
タイムフローで遊んでいると、毎日同じように遊べないことに気づくだろう。砂時計の砂の崩れ方が一定でないように、それぞれそのときの自分自身のコンディションよってかなり遊び方や思考が左右されるためだ。また、タイムフローで遊んでいる最中にあることに気づき、しかしそれによって悩み事を思い出し、その結果悩みを掘り下げてしまい遊びに集中できなく思考がそっちにもっていかれてしまったこともあるが、悩みをじっくり考える機会にもなった。それもまた良い。
砂時計、カードに描かれている数字と砂時計の写真。ただそこにあるミニマルでシンプルな3つの存在が、そのときの自身の気持ちや解釈によって、変幻自在に存在意義と役割が変わっていく。タイムフローは遊びながら無意識下に潜在する心身の状態も教えてくれる、バロメーターのような不思議な道具であり、考えることを永く続けさせてくれる道具でもあった。
TIME FLOW™️
CURATION BY
東京生まれ。フリーライター・ディレクター。美しいと思ったものを創り、写真に撮り、文章にする。