Vol.258

MONO

06 AUG 2021

HARIO「ミニフォン」で叶える、コーヒーカップ1杯分に込められた至福の時間

コーヒーが好きな人には、一日は一杯のコーヒーから始まると言っても過言ではないだろう。豆や焙煎方法、抽出にこだわって味わい深い一杯を嗜みたい。そんなコーヒー愛好家にとって、気になる抽出器具はサイフォンかもしれない。手間がかかるからこそ特別さをかもし出すサイフォンの中で、「世界で一番小さい」と謳われているのがHARIOのミニフォンだ。洗練された小さなフォルムに込められた魅力の秘密を解き明かしてみよう。

サードウェーブコーヒーの時代

諸説あるもののエチオピアやアラビアを起源とし、アラビア半島で栽培と貿易が始まったコーヒーはその歴史上でさまざまな流れが生まれ、19世紀後半以降、それぞれの時代は「ウェーブ(波)」で表されている。

最初の波、「ファーストウェーブ」とされているのは人々が家庭でコーヒーを嗜むようになり、便利で素早くコーヒーが淹れられる利点を追求した19世紀後半だ。豆の出産地や焙煎方法はさほど重要ではなく、インスタントコーヒーが生まれた時代を指している。

その後シアトルでスターバックスコーヒーが誕生し、アメリカでカフェ文化革命が起こった1970年代以降が「セカンドウェーブ」と呼ばれている。コーヒーの質は向上し、カフェ内のインテリアが重視され、バリスタが淹れるフレーバーが加えられたコーヒーなどのメニューも登場。カフェとコーヒーがともに発展を遂げたのだ。

カフェによってコーヒーのクオリティは一段と飛躍した
現在は「サードウェーブ」と呼ばれ、2000年以降にコーヒー専門家や愛好家によって変化が起きた時代を指している。コーヒー豆の原産地や焙煎日、その方法を明確にし、公正な価格を設定しコーヒー農家を保護し、コーヒーにまつわる全てのプロセスを重視する。カフェはもちろん自宅用でも上質の豆や抽出器具の選択肢があり、コーヒー好きにとってはたまらない時代と言えるだろう。

コーヒーサイフォンーその原理と歴史

自宅で美味しいコーヒーを飲む際にこだわりたいのがコーヒー豆、そして抽出器具。抽出には幾多の方法があるが、最もドラマティックと言えるのがサイフォンではないだろうか。

サイフォンはふたつのガラス容器(ボール、フラスコ等と呼ばれる)で構成されている。水が入った下ボールを加熱すると、蒸気圧によりコーヒー粉を入れた上ボールに水分が上昇する。コーヒー粉と混じり合った水分は、重力と圧力降下のため下ボールへと移動し、コーヒーが完成する仕組みだ。

サイフォンは他の抽出法に比べ、見る者を魅了する風景を作り出してくれる
コーヒーサイフォンは1830年代ベルリンで最初のモデルが発明され、このタイプを改良したものが1841年、フランスはリヨンのマダム・ヴァシューによって設計された。同時代にイギリスで高い人気を博したものは、スコットランドのジェームズ・ネイピアが発案したデザインだ。

サイフォンがアメリカで広まったのは19世紀後期だが、この時代のガラスのボールはランプの炎によって割れてしまうこともあった。そこで20世紀初頭、パイレックス社の耐熱ガラスを使用したものが誕生する。しかし利便性が追求された1950年代以降、欧米でサイフォンの人気は徐々に衰退していった。

一方、1970年代から喫茶店がブームとなった日本では長く根強い人気を誇ることとなる。店主の趣味が反映された店内で、コポコポと音を立ててコーヒーを抽出するサイフォンの佇まいは、昭和の喫茶店の象徴と言えるだろう。

他のものより難易度が高く感じられるからこそ、コーヒー愛好家にとってトライしてみたくなるコーヒーサイフォン。中でも洗練されたコンパクトなサイズのHARIOのミニフォンは、サイフォン初心者さえも魅了してしまうプロダクトだ。

ミニマルなラインが美しいHARIOのミニフォン

世界最小サイズ、HARIOのミニフォン

1921年創立、2021年で創業100周年となるHARIOは日本で唯一国内工場を保有している耐熱ガラスメーカーだ。理科化学用ガラス器具の製造、販売からスタートしたHARIOは戦後、その技術を活かし耐熱ガラスを用いたコーヒーサイフォンの製造に着手、家庭用品を生産し始めた。

HARIOのコーヒーサイフォンの歴史は70年を超え、魅力的なデザインを持つサイフォンが幾つか展開している中で、今回選んだものはHARIOの「ミニフォン」だ。高さは18.8㎝と驚くほど小ぶりなサイズで完成するのはカップ1杯分、120ml。通常の高さ28~39㎝あるサイフォンに比べると非常にコンパクトなフォルムが特徴だ。サイフォンを使用してみたいけれど、置き場所に困るという人にとって嬉しいサイズに違いない。

ミニフォンには左から濾過布5枚、濾過器、アルコールランプ、本体、計量スプーンが付属している

HARIOミニフォンの使い方

サイフォンの使い方は一見難しそうに感じるが、手順を覚えてしまえばとてもシンプル。使用前に濾過器、濾過布は熱湯に通し、濾過布の起毛面を上にして濾過器にセットする。

上ボールに濾過器を入れ、鎖を引っ張りフックを足管の先端にかけて固定する

上ボールにコーヒー粉を約12g、下ボールに水またはお湯を130ml程入れておく
アルコールランプに火を点け、下ボール底の中央に置く。下ボールに煤がつくのを避けるため、燃料用アルコールのみを使用しよう。お湯が沸騰すると、上ボールの足管にある圧力調整穴から上昇して行く。

お湯が上昇していく様は理科の実験を彷彿とさせ、懐かしさと興奮で心が弾む

下ボールのお湯が上昇したら、竹べらやスプーンなどで粉をほぐすようにかき混ぜ、1分ほど加熱を続ける
サイフォンをアルコールランプから遠ざけてランプフタをかぶせて火を消したら、上ボールからコーヒーが下がるのを待とう。

コーヒーが下ボールに下降したら、スタンドを片手で持ち、上ボールをゆっくりと外してフタ兼上ボール立てに立てておく

温めておいたコーヒーカップにコーヒーを注ぎ、完成
サイフォンで淹れたコーヒーは飲みやすくすっきりとしたテイストで、日によって微妙に味が異なるドリップ方式に比べ一定感のある味わい。コーヒーの香りが室内に満ち、心が静かに落ち着いていくのを実感できるだろう。

自分のために最高の一杯を

サイフォンでの抽出はガラス製の器具や炎の取り扱いなど注意すべき点が多く、億劫に感じてしまうかもしれない。しかし今、コーヒーは「素早く手軽に淹れるもの」ではなく、本当に美味しい上質な一杯を嗜むものへと変化している。

サイフォンは一人の時間をより贅沢にしてくれる
自宅で過ごす一人きりのカフェタイム。お気に入りの本とチョコレートを用意して、サイフォンが生み出すノスタルジックな情景を慈しむ。幼い頃に父に連れられ通った喫茶店。落ち着いた色合いの家具や調度品の中、カウンターの上でアルコールランプに火が灯り、サイフォンは優し気な音を立てて人々に安らぎを与えていた。

時間を経て今、自宅でHARIOミニフォンがカップ一杯分の至福のひと時を作り上げてくれる。ミニフォンが生み出す暮らしの中の得難い幸福感を、体験してみてはいかがだろうか。

HARIO ミニフォン