コーヒーにはある程度こだわりがあって、豆は淹れる直前に挽き、毎日飲んでいたが、実はドリッパーについてそれほど意識していなかった。そんな私が、その美しい形とカラーリングに魅せられ手に取ったのが、コーヒー専門店のものではなく、陶磁器メーカーが作ったというドリッパー。ORIGAMIと名付けられたそのプロダクトで、儀式のように毎日コーヒーを淹れていると、ドリッパーを選び、コーヒーを淹れるという作業ひとつひとつに意味があることをあらためて感じることに。ドリッパーをきっかけに、自分のために淹れる、自分に合ったコーヒーを模索してみた。
バリスタと共同開発。「ORIGAMI」ドリッパーとは
家でハンドドリップを楽しむ人が増えてきた昨今。より美味しいコーヒーを楽しみたい、産地や焙煎のこだわりを楽しみたいという人々に支持されているのが、プロ向けに開発されたORIGAMIというコーヒーツール専門のブランド。そのなかでも折り紙のように美しく、技を感じるプロダクトとなっているのがドリッパーだ。バリスタの世界一となったチャンピオンが、このドリッパーを使っていたこともあり、今や世界中のコーヒーファンが注目する一品となっている。
ORIGAMIドリッパーは深いリブ(溝)が入った独特のフォルムをしているが、その素材はセラミック。美濃焼の産地として知られる岐阜県土岐市にある陶磁器メーカーが製造しているという。「最初はもっとリブが浅く、台形で広がった形をしていました」というのは製造開発に携わった株式会社ケーアイの加藤さん。そしてこの初号機をブラッシュアップさせようと、ユーザー代表として意見をうかがえる人を探していたときに出会ったのが、今では名古屋と中国にお店を構えるまでになったトランクコーヒーの鈴木さん。名古屋出身だが、当時コーヒー最先端の地であったデンマークで日本人初のバリスタになったという人物だ。
「その頃鈴木さんは名古屋で店を開業しようとしていました。地元らしいプロダクトを使って店を開きたいと鈴木さんも考えていたので、製品開発にご協力を得ることができました」。そんな鈴木さんの意見を反映させ作り上げたのが円錐型で、リブをさらに深くした初号機とは全く異なる形。通常の製品よりも手間暇がかかるものとなり、製造ラインに落とし込むのに苦労したが、3年ほどかけて製品化することができた。
ORIGAMIドリッパーの最大の特徴が、ギザギザとした深いリブ。この溝により湯の抜けがよくなり、雑味が少ない、すっきりとした味わいのコーヒーを生み出す。カリタやKONOなど老舗コーヒーメーカーのドリッパーにもリブはあるが、こんに深くギザギザしたものはない。素材についても、冷めにくいセラミックなので一度温めれば保温性があり、抽出に最適な温度を保てるので、味が安定するという。陶磁器メーカーだからこそできたドリッパーといえるだろう。
カップやソーサーなどコーヒーに特化したシリーズを展開
さらにこのドリッパーからはじまり、カップやソーサーなど、さまざまなコーヒーウエアがラインナップしているORIGAMI。なかでもトランクコーヒーの鈴木さんがソムリエに話を聞いてこの形にたどり着いたというのが、ワイングラスのフォルムを落とし込んだ「アロマ」シリーズだ。
株式会社ケーアイではワイングラスを取り扱っているということもあり、そのノウハウを活かしたものとなっていて、3種類のカップは、それぞれ特徴的な形。口があたる部分の厚みを薄くし、飲み口の形が開いたり、閉じたりしている。飲み口が閉じているとその分カップを傾けなければならず、それにより液体が舌の奥に直接届くことになる。舌の奥は酸味を感じる部位なので、より酸味を感じやすくなるというわけだ。ワインのように、スペシャリティコーヒーも味わいにあわせてカップを選ぶ、そんな新しいコーヒーの楽しみ方を提案したいと作り上げたカップとなっている。
そして豊富なカラー展開とトレンドも意識したカラーリングもORIGAMIの人気の理由だろう。コーヒーショップからのオーダーに対応できるよう取りそろえたものだが、カップの色でコーヒーの味の感じ方が変わるというデータもあるそうで、色選びも実は重要なのだとか。ドリッパーとの色の組み合わせを楽しみながら、自分に合ったものを選ぶことができるだろう。
ORIGAMIドリッパーでコーヒーを淹れてみる
株式会社ケーアイの加藤さんに話を聞くと、“自由度が高い”ことがORIGAMIドリッパーの特長であるとし、ORIGAMIドリッパーでのコーヒーのレシピについてはあえて詳しく案内していないという。例えば、ORIGAMIドリッパーには円錐型の専用のドリップペーパーがあるが、ウェーブ型と呼ばれる他メーカーのドリップペーパーも使用することが可能だ。ペーパーを変えるだけでもコーヒーの味わいが変わってくるという。ドリッパーを支えるホルダーも別売りになっているので、ほかメーカーのものと組み合わせたり、アレンジすることもできるだろう。
ということで自分の持っている道具を使って、ORIGAMI専用のドリップペーパーの裏に記載されていた淹れ方の手順を参考にしながら自分なりにコーヒーを淹れてみることにする。
ドリッパー以外に、コーヒーを淹れるときに用意するものを簡単にまとめてみたので参考までに。ドリップペーパーはドリッパーにあわせた専用のサイズ、形のものを。サーバー、ケトルは注ぎ口が先が細くなったものがあると注ぎやすい。豆や湯を計量するためのスケール、湯の温度を計る温度計があると味を比較するのに役立つ。挽きたての豆を…とこだわるならば、グラインダーもあるといい。手動ならば手頃なものも多くある。
ORIGAMIドリッパーの案内には豆14~16gに対し湯を200~250ccとあったので、まずは豆14gに対し湯250ccで淹れてみる。
1・湯を沸かし、サーバーにドリッパーとペーパーをセット。湯を注ぎ、器具すべてを温める。
2・計量した挽き豆を入れ、平らに均し、豆全体に行き渡る量だけ湯を回し入れ、30秒ほど蒸らす。
3・残りの湯を1、2回に分けて注ぐ。
4・計量分の湯がドリップしたら、温めておいたカップに注ぐ。
簡単に言うとこんな手順だ。今回の配分で濃いと感じたら、もう少し豆を減らす、薄いなら量を増やしてみればいい。ほかにも蒸らしの時間、湯の温度、湯を入れる速度でも驚くほど味わいが変わっていく。もちろん豆が異なれば、その基準もまた変わっていくだろう。ポイントは湯や豆、時間、温度などを計量しながら淹れること。そうすれば自分の好みの味が分かってくる。
シーンに合わせて。ORIGAMIでおすすめの豆選びについて
ORIGAMIはスペシャリティコーヒーを飲むのに開発されたシリーズだが、スペシャリティーコーヒーといってもさまざまな銘柄があり、コーヒー専門店には数えきれない種類の豆がある。そこでORIGAMIドリッパーの開発者であるトランクコーヒーの鈴木さんに、ORIGAMIで飲むのにおすすめの豆を教えてもらった。
まずは朝食時など午前中におすすめというのが「KOCHERE(コチョレ) / Ethiopia Natural」。コチョレはエチオピアでも人気の生産地イルガチェフェ内の村で、さらにエリアを限定したもの。トランクコーヒーではこれを絶妙な浅煎りにしており、柑橘のような酸味のほか、甘みが複雑でフルーツのような香りも特長。ORIGAMIで淹れると、その甘みや酸味をより一層楽しむことができ、すっきりとした味わいが目覚めにぴったりだ。
夜に飲むなら少しレアな豆だが、カフェインが少ないという「DATERRA(ダテーラ) / Brazil」。ラウリーナ種やアラモサ種というローカフェインの豆を栽培する農園の豆で、甘みや酸味のバランスもよくフローラルな香りも。アロマカップで飲み比べながら、ワインのように傾けて楽しみたい豆だ。
スペシャリティコーヒーは豆の品質がよいので浅い焙煎でも飲むことができ、そのおかげで苦み以外にも酸味や甘みなど豆が持つさまざまな味わいを感じることができる。ORIGAMIドリッパーはそんな甘みや酸味を引き出すように作られたドリッパーだ。しかし深煎りの豆で淹れても、苦味が和らぐのでほどよい苦みに調節したい…というときに使ってみてもいい。80度ぐらいの少し低めの湯で抽出してみたら、苦み以外の味わいが感じられるようになり、飲みやすく感じた。いろいろな煎り方の豆を試してみるのも楽しいだろう。
すっきり爽やかなアイスコーヒーこそ、ORIGAMIで
暑い夏はアイスコーヒーを飲みたい…ということで、ORIGAMIを使ってアイスコーヒーも淹れてみた。基本の淹れ方と同じだが、サーバーに氷を淹れてドリップするので、湯の量を減らして淹れる。鈴木さんに教えてもらったのは粉15gに対し、氷130gをサーバーに入れ、蒸らしを含め140ccの湯を注いで抽出するという方法。蒸らす時間を45秒と少し長めにとって抽出効率を高めるのがコツとのことだ。その後、蒸らしを含め2分以内で落とし切る。
アイスコーヒーというと、深煎り豆のイメージがあるかもしれないが、浅煎り豆で淹れるとまた違った飲み物のように感じるはず。鈴木さんがアイスコーヒーにおすすめと教えてくれたのは「ケニア・カラティナ」。シトラス・ラズベリーを思わせる果実味に、ローズヒップのような華やかさも。アイスで飲むとスッキリした味わいがより楽しめるだろう。
美しいドリッパーと共にコーヒーを求道する時間を
ドリッパーはコーヒーの味の方向性を決める一要素に過ぎない。しかしORIGAMIドリッパーを手にしたことをきっかけに、自分のコーヒーの淹れ方について見直すことができ、こうしたらどうだろう、次はこうしてみよう…とコーヒーを淹れる時間が暮らしの楽しみになった。コーヒーの奥深い迷宮に迷い込んでしまうかもしれないが…自分が美味しいと思う感覚を大切に、ぜひいろいろ試しながら、自分の味を追求して欲しい。ORIGAMIドリッパー&カップはきっと良きパートナーになってくれるはずだ。
ORIGAMI
CURATION BY
古いものや熟成したものと愛娘に目がない、フリーライター。チーズ好きが高じて、「チーズプロフェッショナル」の資格も取得。カメラ片手に町や人、美味しいものを訪ね歩く日々を過ごす。