Vol.246

MONO

25 JUN 2021

卓上で実験のように探求。IBUSISTが広げる燻製の世界

アウトドア料理の人気もあって、家でも手軽に燻製ができる燻製機がいろいろ登場している昨今。本格的なスタイルからキッチンで使えるコンパクトなものまで、さまざまある燻製機の中から、ギア感覚の男前なボディに魅せられて手に取ったのは、今までにないスタイルのマシン。実際に使ってみると、その手軽さ、面白さに心を掴まれることに。燻された食べ物を口にすると、こんな酒と合わせたい…さらにこんなものを組み合わせたら美味しくなるのでは…と、どんどんと食への探求が膨らんでいった…。

スタイリッシュなボディと簡易な操作性。「IBUSIST」の特長とは

IBUSISTを購入すると入っている商品がこちら。専用のウッドチップも入っているので、すぐに燻製を楽しむことができる。セットの中には食品を真空パックすることができるノズルと専用袋なども付いてくる
今回紹介する燻製マシンIBUSISTは、家庭用の卓上燻製機として開発されたというもの。クラウドファンディングを立ち上げ製品化させたもので、海外で見つけたスモーカーからヒントを得て作り上げた今までにない燻製スタイルが注目を集めている。

その使い方は至って簡単。取り扱い説明書はサイトで公開されているので、チェックしながら組み立てることができる。まずはチップを入れるカップの底に網を装着し、本体に取り付ける。煙の通り道となるチューブと本体を接合し、ドームの穴にノズルを差し込む。これで組み立ては完了だ。

ウッドチップを大さじ1杯ほどカップに入れたら火を付け、チップが燃焼したらスイッチを押し、煙がドームに充満するのを待つ。煙が充満したらスイッチを止め、ドームの中で香りが付くのを待つ、という流れだ。1度煙を溜めると煙の状態やドームの密閉度にもよるが10分ほど燻煙することができる。さらに燻製させたいときはまた同じことを繰り返していく。

燻製中に皿とドームの隙間から煙が漏れ出すので換気は必須
食材を皿の上にのせ、そこにドームをかぶせて燻製させるので、煙が漏れにくいよう、ドームの中に収まるサイズの皿や容器を用意することがポイントになる。煙は少ないとはいえ、換気扇を付けたり、窓を開けておくなどして換気には必ず気を付けることを忘れずに。

スイッチは三段階に調節できるが、火をつけた直後10秒ほど強めにすると燃焼が加速し煙を多く出すことができる。その後スイッチを弱め、煙が充満したらスイッチを止めて燻製させるので、スイッチを着ける時間は30秒ほど。煙を効率的に溜め込むので、チップが少量で済むのも画期的といえる。

これぐらい燃焼しただけでも、十分に煙が充満してくれる
IBUSISTは今までにない形のスモーカーだが、その構造はいたってシンプル。本体には風を起すモーターが付いているだけだ。しかし、接続部分の気密性など煙が漏れないしっかりとした構造になっているのが注目点だろう。ステンレスのボディはすべて取り外して洗うことが可能で、手入れもしやすい。

ボディにはハンドルが付いていて持ち運びが気軽にでき、倒れたりしないように重量を少し重めにしたというスタイリッシュなボディも特徴的だ。付属のドームにはトップにクリスタル風のカッティングが施されており、さりげなく卓上に置いても様になる。さらに電源はコードレスで、付属のUSB接続コードでパソコンなどに接続して充電することが可能だ。

チョコレートや液体も燻製にできる「冷燻」とは

濃厚なガトーショコラを燻製中。お菓子の中でもチョコレートはかなり燻製と相性がよいと感じた
IBUSISTの燻製方法を分類すると、熱を食材に加えない冷燻と呼ばれる方法。通常燻製は、長期保存ができるように施す調理法なので、食材を塩漬けや乾燥など下処理をしてから行なう。冷燻のほかにも温燻、熱燻などいろいろな方法があるが、その違いは燻煙しているときの庫内の温度。冷燻以外は庫内が熱くなり食材に熱が加わるが、冷燻は本来食材に氷を当てるなど冷やしながら燻煙することで食材に熱を加えないようにするという方法なのだ。

IBUSISTはモーターの送風により、煙を送り出し、直接熱が加わらないようにし、煙の風味だけをまとわせるという、今までにない冷燻のスタイルといえる。なのでアイスクリームやチョコレートなど通常の燻製では溶けてしまうようなものにも燻製の風味を付けることが可能だ。

燻製ガトーショコラを食べたらまず欲しくなったのがウイスキー。ウイスキーにもスモークを入れて、燻らしながら傾けるなんてことも
逆に言うと、IBUSISTは食材の持つ水分に反応させて香りや風味を付けていくので、乾燥させた食材には風味が付きにくい。色も通常の燻製よりも付きにくいが、上品な香りをまとったように仕上がるので、香水を気分に合わせて付ける…そんな感覚で楽しむことができる機械といえるだろう。現在はどんな食材にも合わせやすいという桜のチップのみだが、今後はほかの木材のチップも展開する予定だという。

燻製時間での変化を比べて、好みの味を探求

手前が10分ほど、奥が40分ほど燻煙したもの。色も明らかに異なる
BUSISTの仕組み、特長を知ったところで、今度は実際にどれほどの燻香が付くのか…どれほどの時間燻せば自分好みの風味になるのかを知るために、時間ごとに食べ比べてみることにした。今回は色の変化が分かりやすいカマンベールチーズで、5分、10分、30分と時間違いで作ってみる。長時間スモークすると皿にも色が付いてしまうほどだった。30分以上経つと素材に色がついていることがわかり、風味もしっかりしたものに。

食材によってさっとスモークしたほうがよいもの、しっかりスモークしたほうが風味が増し、より美味しくなるものがあるので、いろいろ試してみると面白いだろう。乾いたものは時間がかかること、ほどよく塩分のあるもののほうが美味しく感じやすいことを考慮にいれておくといい。

いろいろ試して、いつもの食をグレードアップ

どんな食材が相性がよいのだろう…どれぐらいの時間スモークしたらよいのだろう…と悩んだときは、公式サイトにはさまざまなレシピがアップされているのでこちらを参考にしてみてもいい。公式サイトを見ると、最近ではチンジャオロースーを燻製にしたら美味しかったとの投稿も。

食材をスモークしてから料理するのはもちろん、できあがった料理をそのままスモークすることができるのも、IBUSISTの今までにない燻製機といえるところだろう。

自家製ミートソースもスモークすることで、ワインが飲みたくなる大人な味わいに
パスタ好きとしてすぐに思いついたのがミートソース。合い挽き肉のミートソースを作って、ラップで鍋に蓋をし、その隙間からIBUSISTのチューブを入れて燻煙。何度か混ぜながら20分ほど燻煙してみたが、やはり肉料理は燻製の香りで風味が増す。牛100%で作ったらもっと相性がよいだろうと思った。パスタは茹で立てが命なので、しっかりセッティングをしておいてから、盛り付けたパスタを卓上で”追い燻製”して仕上げる。ドームを開けた瞬間の煙も演出となって、食卓も盛り上がるだろう。

凝った料理でなくても、例えばテイクアウトしてきたコロッケや餃子といった惣菜、コンビニで買ったチーズケーキなどなど、日常で出会った食材、いつもの味を燻製にしてみてもいい。実験のように試していけば、好みの味を探求していくのが楽しくなるだろう。

バターはスライスして表面積を増やすことで燻製の風味がより付きやすくなる
チーズが燻製と相性がよいのはいわずもがなだが、パン好きの人はバターの燻製もおすすめだ。使ったのは香りのよい発酵バター。煙に当たる表面積を多くしたほうが風味が付くと考え、波場のナイフでカットしてから皿に並べ30分ほど燻煙。まっすぐカットしたものと食べ比べたがあまり違いは分からず…。バターを立てて、さらに煙の当たる面を多くしたほうがよいと気づく…。

パンはクラストをしっかり焼き込んだバゲットや全粒粉やライ麦のコンプレなど粉の風味を感じるシンプルなものを合わせて。ミネラル感のある塩をのせて食べるだけで、特別な一品になる。燻製バターを冷凍保存して少しずつ食べてみたが、冷凍しても燻香は消えず風味が落ち着いて食べやすくなった。時間が経ってもしっかり燻製の風味が残っていたことに驚かされた。

パンとバターと塩。これだけでワインがたまらなく進む。ハムをのせてシンプルなサンドイッチにしたり、小倉あんをのせても

日常にもっと燻製を。その思いを形にしたプロダクト

サーモンと帆立、アボカドのタルタル仕立て。桜のスモークをまとわせて
ハムやマヨネーズ、ゆで卵などなど…スモークしたものをはさんで、サンドイッチを作ったら…とIBUSISTを使っていると、どんどんとアイデアが溢れてきた。もともと家庭向けに開発した商品だが、今ではレストランなどでも使われているとか。IBUSISTはプロの料理人や料理好きの人はもちろん、マンションなどでも使うことができるので、今まで燻製にチャレンジ出来なかった人もターゲットにした画期的な調理家電といえるだろう。

家飲みの時間が増えた今だからこそ、新しいスタイルのスモーカーを手にして、レストランで味わうような、アウトドアで楽しむような、わくわくする一品を自宅でも楽しんでみて欲しい。

IBUSIST