Vol.804

KOTO

29 OCT 2026

街の風景は、見る角度で変わる。歌川広重が描いた江戸と、いまの東京

LIFE DESIGN APARTMENT「ZOOM」をプロデュースするトーシンパートナーズが、東京国立博物館の特別展、内山晋コレクション受贈記念「歌川広重 江戸のベストアングル」に協賛している。ZOOMシリーズのなかでも「ZOOM両国」が建つ両国は、江戸文化の面影を今に残す街だ。広重が江戸の風景を独自の構図で切り取ったように、ZOOM両国もその土地の歴史や個性を住まいのデザインに取り入れるマンションシリーズで街の魅力を現代の暮らしへつないでいる。本展を手がかりに、江戸といまの東京を行き来し、見慣れた街の新たな表情に出会ってみたい。

名所を描くだけではない、広重のまなざし

「ZOOM両国」のエントランスに掲げられたロゴサイン
「ZOOM両国」では、墨色の外壁タイルを縦横に編み込んだように配置した伝統的な「網代模様」を外観に現し、エントランスには江戸町屋の坪庭を思わせる空間を設けるなど、両国にふさわしい江戸の「和の粋」を表現している。建物と街のつながりに目を向けると、デザインを味わう楽しみも広がりそうだ。お気に入りの部屋で過ごす時間に加え、近所を歩き、その土地の歴史や文化に触れる時間も、暮らしの豊かさを形づくっている。

江戸の「和の粋」をデザインに取り入れた「ZOOM両国」の外観

木の縦格子など、和の趣を感じさせる「ZOOM両国」のエントランス空間
歌川広重(1797~1858)は、江戸時代後期を代表する浮世絵師の一人。日本各地の風景を題材にしたが、その魅力は名所を紹介することだけにはとどまらない。晴れた日と雨の日、朝と夕方、季節ごとの空気の違い。広重は天候や時刻の変化を画面に取り込み、同じ場所にもさまざまな表情があることを描き出した。風景の中に小さく配された人々の姿も、そこに暮らしが営まれていたことを伝えている。
なかでも興味深いのが、見る人の視線を誘う構図の工夫だ。「名所江戸百景」の一図「浅草金龍山」では、浅草寺の大提灯を画面の手前に大きく配し、その奥に雪をかぶった参道や境内の建物を望む。門の赤と、雪の白。その対比に目を奪われ、やがて視線は小さな参詣客や遠くの五重塔へと導かれる。すべてを均等に見せるのではなく、あえて手前のものを大胆に強調することで、奥行きと臨場感が生まれる。

歌川広重「名所江戸百景 浅草金龍山」。大提灯を手前に配し、雪の浅草寺を望む
別の作品「浅草田甫酉の町詣」では、窓辺に座る猫の向こうに、酉の市へ向かう人々の姿が広がる。街の賑わいを正面から描くのではなく、室内から外を眺める視点を選んだところが面白い。名所を紹介する絵でありながら、そこには誰かの日常をそっとのぞくような親しみがある。窓の内側の静けさと、外に広がる祭りの賑わい。二つの世界を一枚に収めた構図からは、街がそこに暮らす人の数だけ異なる表情を持っていることが伝わってくる。広重は風景を描くと同時に、風景を「どう見るか」という体験まで作品にしていたのかもしれない。

歌川広重「名所江戸百景 浅草田甫酉の町詣」。窓辺の猫越しに、酉の市へ向かう人々を望む
構図を味わうなら、まず絵の中でいちばん大きく描かれたものを探してみよう。その向こうには何が見えるだろう。自分の目がどこに引き寄せられたのかを確かめるだけでも、広重の選んだ視点が少し身近になる。

旅の道と江戸の街、三つのシリーズをたどる

歌川広重「東海道五拾三次之内 日本橋」。江戸・日本橋の朝の賑わいを描く
今回の展覧会で中心となるのは、「東海道五拾三次」「木曽海道六拾九次」「名所江戸百景」の三大シリーズ。旅人が街道を進む視線と、街に暮らす人が身近な風景を見つめる視線。その違いを意識しながら鑑賞すると、広重の表現の幅がいっそう感じられる。

会場に設けられた、歌川広重の人物像や作品世界を紹介する展示
「東海道五拾三次」は、江戸と京都を結ぶ東海道の宿場を題材にしたシリーズ。土地の景色や人々の営みを通して、道の先へと想像を誘う。一方、渓斎英泉から広重へと作画が引き継がれた「木曽海道六拾九次」では、内陸を通る中山道の山あいや宿場の風情など、東海道とは異なる旅の表情に出会える。そして晩年の「名所江戸百景」では、江戸の橋や寺社、季節の行事など、身近な都市の風景が意外な構図によって切り取られていく。

浮世絵作品が並ぶ、東京国立博物館 本館A室の展示風景
会期は2026年9月29日から12月20日まで、会場は東京国立博物館の本館A室。第1期の9月29日~10月25日は「東海道五拾三次」、第2期の10月27日~11月23日は「木曽海道六拾九次」、第3期の11月25日~12月20日は「名所江戸百景」を中心に紹介し、三期を通じて各シリーズの全点を公開する。展示作品は各期ですべて入れ替わるので、見たいシリーズの展示期間を確かめて訪れたい。会場には超高精細映像のコーナーも設けられ、作品の色彩を大型モニターで味わえる。

本館A室の展示風景。広重の作品が会場を囲むように並ぶ

一人の蒐集家が、未来へ残した風景

この展覧会には、もう一つ大切な物語がある。開催のきっかけとなったのは、蒐集家・内山晋(1893~1980)が旧蔵していた浮世絵1,025点を、東京国立博物館が受贈したことだ。静岡県に生まれた内山は、幼い頃から浮世絵に親しみ、学生時代には故郷の江尻清水湊を描いた広重作品を手にした。その一枚との出会いが、のちのコレクション形成につながったという。

コレクションの旧蔵者・内山晋の人物像や蒐集活動を紹介している
内山は商事会社を営むかたわら作品を集め、海外の美術館で浮世絵の展示に接したことを機に、本格的な蒐集を進めた。出版物や展覧会でも作品を紹介し、浮世絵の研究と普及に力を注いだ。好きな作品を自分だけで楽しまず、その魅力を人と分かち合おうとした姿勢にも心を動かされる。保存状態の良い作品が伝える繊細な色彩は、絵師の仕事だけでなく、作品を守り継いだ人々にも目を向けるきっかけになる。
絵の中に描かれた街並みは時代とともに姿を変えたが、作品が残ったことで、当時の人々が何を美しいと感じ、どの風景に心を動かされたのかを想像できる。文化を受け継ぐとは、古いものをただ保管することではない。そこに込められた視点を、次の時代の人がもう一度見つけられるようにすることでもあるのだろう。

江戸の風景から、現代の街を見つめ直す

川と橋を中心に広がる、現代の東京の街並み
広重が描いた江戸の名所の多くは、現代の東京にも地名や場所の記憶を残している。ただし、二つの時代を安易に重ね合わせることはできない。建物は建て替わり、交通手段は変わり、人々の暮らし方も大きく異なる。それでも、川や橋の位置、道のつながり、地域に根づく行事などを手がかりに絵を眺めると、目の前の街にいくつもの時間が折り重なっていることに気づかされる。

両国・北斎通りの街並み。歴史や文化が日常の風景に息づく
帰り道には、絵の中で気になった「見せ方」を一つだけ試してみるのもいい。橋を真正面から眺める代わりに欄干越しに見たり、建物全体ではなく窓に映った空を探したりする。広重と同じ風景を再現する必要はない。名所かどうかを決める前に、自分が足を止めたくなる理由を見つけること。それだけで、いつもの散歩に小さな目的が生まれる。

隅田川と総武線隅田川橋梁。背後には東京スカイツリーを望む
住む場所を選ぶときにも、交通の利便性や建物の機能といった条件は欠かせない。一方で、近所を歩く楽しさや、季節ごとに変わる景色、地域の文化に触れる機会は、数字だけでは測りきれない暮らしの魅力となる。広重の作品は、都市の価値を一つの尺度で決めつけず、普段は見過ごしている風景に目を向けるきっかけを与えてくれる。街の魅力は、そこで過ごす時間の中から見つかるものでもある。

文化を、暮らしのすぐそばに

文化に触れる時間を、日常のすぐそばに
文化と住まいは、一見すると離れた話題に思える。しかし、街の歴史を知り、いつもの道に新しい発見を重ねることは、その場所で暮らす時間を少し豊かにする。大切なのは、過去の景色を懐かしむだけで終わらせないことだ。広重が風景の中に見いだした魅力を手がかりに、いま自分が暮らす街を見つめてみる。昨日まで何気なく通り過ぎていた場所にも、まだ知らない「ベストアングル」が隠れているかもしれない。

開催概要

特別展 内山晋コレクション受贈記念
「歌川広重 江戸のベストアングル」
会期:2026年9月29日(火)~12月20日(日)
会場:東京国立博物館 本館A室(東京都台東区上野公園13-9)
展示スケジュール
第1期:9月29日(火)~10月25日(日)/東海道五拾三次 *終了いたしました
第2期:10月27日(火)~11月23日(月・祝)/木曽海道六拾九次
第3期:11月25日(水)~12月20日(日)/名所江戸百景
※各シリーズを中心に紹介し、展示作品は各期ですべて入れ替わります。
開館時間:9:30~17:00
※毎週金・土曜日、11月1日(日)・2日(月)・22日(日)は20:00まで。入館は閉館の30分前まで。
休館日:月曜日、10月13日(火)、11月24日(火)、12月15日(火)
※10月12日(月)、11月2日(月)、11月23日(月・祝)は開館。
観覧料:一般1,500円、大学生500円
※高校生以下および満18歳未満、満70歳以上、障害のある方とその介護者1名は無料。対象者は年齢を確認できるものや障害者手帳等をご提示ください。
※東京国立博物館キャンパスメンバーズ会員校の学生は無料(学生証の提示が必要)。
※一般当日券は、オンラインチケット(アソビュー!)での購入で100円割引。他の割引との併用不可。
※本展の観覧当日に限り、東博コレクション展(平常展)も観覧できます。
予約:事前予約不要。混雑時は入場をお待ちいただく場合があります。
アクセス:JR上野駅公園口・鶯谷駅南口から徒歩10分
主催:東京国立博物館
特別協力:NHK、株式会社蔦屋重三郎商店
協賛:株式会社トーシンパートナーズ
問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)

※開催情報、会期・開館時間・料金等は変更される場合があります。来館前に公式サイトで最新情報をご確認ください。
公式サイト:https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=2759

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