Vol.73

KOTO

15 OCT 2019

<SERIES> アーティストFILE vol.4 ひとつずつ未来のために、ミヤザキ

1992年生まれ島根県出身・大阪府在住。大阪総合デザイン専門学校卒業。シンプルかつ丸いフォルムで描く動物や人物画が特徴の画家・イラストレーター。大阪で展覧会や似顔絵展に数多く参加。東京でも個展を開催し活動の幅を広げ、知名度も右肩上がり中の彼女に「なんでもできる、自分だけの日曜」をテーマに描き下ろしてもらった。

「何でもできる、自分だけの日曜」

洗濯物と進まない時計

「本棚の前で小説を読んでいるところです。洗濯物を取り込んでから畳むまでに他のものへ目が移ってしまって、洗濯物がなかなか畳めないという自分の日常のワンシーンを描きました」

ユーモア溢れる視点で、誰にでもある日常の中の「洗濯物を畳むまでの時間」をピンポイントに切り取って表現してくれた。なぜそのシーンを描いたのか理由を聞いてみた。

「普段作品展やイラストレーションの仕事ではめったに描くことのない’’自分の部屋’’がテーマだったので、私のそのままを描こうと思いました。いつもシンプルな絵を描いていますが、実生活はごちゃごちゃしていて部屋もあんまり綺麗じゃないです(笑)」

「ここ2ヶ月位、有り難いことにすごく忙しくて慌ただしかったです。やっぱり休みの日ってやらなければいけないことを、何もせずにいられたらいいなと思います。夜更かししてお昼に起きて、録画した番組を見たり、本を読んでだらだらしたりできる休みがたまにあると最高ですよね」

絵の本棚の上にあるものは、実際に自分の部屋にある他のアーティストの作品たちをモデルにして描いたそうだ。絵を見ると時計に針がないことに気が付く。

「時計の針がないのは、時間を気にせずに過ごしたいという意味であえて描きませんでした。出来れば休みの日は締め切りから解放されたいなと思って(笑)。なのでこの絵には時間が存在しません」

お気に入りは牛の絵

「普段はアナログで線を描いてから、デジタルで着色をすることが多いですが、最近漫画風に描くことが好きでよくモノクロで描いています。台詞はないけど、漫画の一コマみたいに主人公の動きが分かるように描きました。なので今回はアナログな線だけにして着色せずに、画材も漫画家が使うつけペンを使っています」

モノクロで描かれたこの作品に、もし色をつけるならどんな色付けをするか聞いてみると「黄色とあともう一色くらいでシンプルにしたいですね」と言う。話を聞いているとシンプルという言葉が彼女から多く発せられる。

「常にシンプルな絵にしたいという気持ちが強くて、画面をどう作ればいいかをいつも考えています。そのせいかシンプルなものを描きがちですね。例えば簡略化しやすい動物が好きで、最初の方は動物の絵ばかり描いていました。牛はすごく好きな動物のひとつです」

「ushi」

シンプルさが最大の表現方法

今のシンプルな作風になる前は細かい絵を描いていたそう。
「高校生の時に中村佑介さん(ASIAN KUNG-FU GENERATIONのCDジャケットを手掛けるイラストレーター)の画集がヒットしていました。私も憧れがあって、真似して細かく描いていました。」

「日本画や浮世絵が好きで、要素を削ぎ落した表現や線の気持ちよさが全面に出ているものに惹かれていきました。専門学校でイラストレーション学科に通い始めてから、シンプルな作風に変わりました。今までシンプルだと手法や手数が少なくて怠けているんじゃないかと思われたり、画面の中に空白が多いと不安になる気持ちがあったのですが、色んな人の作品を見ていく中で『そうじゃなくてもいいんだ』と思えるようになりました」

ステップアップのために

最初は動物の絵ばかり描いていたが、今では似顔絵展に参加したり展覧会のテーマをプロレスにしたりと積極的に人物の絵を描いている。一年半前からイラストレーターと名乗り始め、イラスト業に本腰を入れ始めたそう。

「イラストやるなら人が描けた方がいいなと思って練習を始めました。そこから展覧会のテーマを意図的に人にしました。でも難しくてまだ苦手ですね」

「テーマをプロレスにしたのは、『ミヤザキさんのタッチってプロレスに合いそうだよね』と言われて自分でも『そうかも』と思い、人物を描く練習も兼ねて描きました。プロレスの歴史の本を読んだり、70〜80年代に猪木さんが活躍していた時代のプロレスをYouTubeで見たりして、猪木さんや長州力さんをモデルにして描きました」

「長州力」

「がんりゅうじまけっせん」

背伸びせずに自分らしく

ポップで可愛らしい彼女の絵の象徴とも言えるのが、その無表情な人物の顔。元々は目や鼻など顔のパーツを描かないスタイルだったそうだ。

「絵を描き始めた頃は、憧れを追い求めてクールな世界観を絵の中で作っていました。目がないとミステリアスな印象になるし、目を入れると目に注目してしまうような感覚がありました。どこか一点に注目が行くのではなく、一枚の絵として全体をフラットに見て欲しいという思いもあってずっと描いてきませんでした」

「クールでかっこいい世界観を目指して描いてきましたが、自分自身の性格や人に与える印象ってその真逆なんですよね。まさしく無い物ねだりです。憧れの絵を描くよりも自分らしく描くほうが、気持ちが楽だし楽しいので素直に描こうと思って、それから自然に目も入れるようになりました」

「人の絵を見てもいつも思いますが、絵の印象と作者自身の印象ってすごく近いですよね」と言う彼女の明瞭で迷いのない話し方は、確かに彼女の絵が放つシンプルで明るい雰囲気とマッチしている。

イラストが教えてくれたこと

今ではイラストレーターとも呼ばれているが、元々はアーティスト志望だったそうだ。自由に描くアーティストと、依頼をされて描くイラストレーターの二足のわらじを履く彼女にそれまでの道のりを聞いた。

「専門学校に通っていた時は、自由に好きなものを描いていい授業の方が好きで、イラストレーターよりも画家になりたい気持ちが強かったです。専門学校を卒業して、20歳から5〜6年の間もアーティストとして活動していて、展覧会ばかりやっていましたが、イラストレーションにもずっと興味を持っていました」

実際細かく描いていた時期は高校生から専門学校入学直後までで、そこまで長くはなかったと話す彼女。自分のスタイルが定着した代わりに生まれた悩みを解決してくれたのがイラスト業だったと言う。

「シンプルなスタイルに固まってから、それはそれで悩む時間もかなり長かったです。未だに悩みますけどね。自分のスタイルが出来たことによって、描き方や考え方などが凝り固まってしまう感覚があって、自分はこういうスタイルだからこんな風に描かないといけないみたいに勝手に思ってた時期もありましたが、それを解放してくれたのがイラストでした。相手からの要望に答えて、制約内で挑戦することで『自分ってこんな風にも描けるんだ』って新しい発見をすることが出来ました」

絵で食べるためにコツコツと

「私どうしても絵で食べていきたいんです。イラストを始めたのも絵で生活したいという気持ちから始めました。逃げてるみたいに聞こえちゃうかもしれませんが、自由に描くのは展覧会で出来るので、今はイラストを全力で頑張りたいです」

「描きたいものだけ描ける人は本当に一握りだと思いますが、段階を踏んで自分をしっかり貫いていけば、いつか絶対にそうなれると思っています」

アーティスト活動からイラストレーターまで柔軟に仕事をこなす彼女。まだこの先もいくつものステップが待ち受けているかもしれないが、彼女なら焦らず自分のやるべきことをひとつずつ果たして夢を叶えるはず。今後の活躍に注目だ。

Information

関西のイラストレーター3人によるグループ展開催
2019年 12月7日(土)〜12月23日(月) *展示会は終了しています

詳しい情報は彼女のアカウントから随時更新

Twitter:https://twitter.com/mmzaki_3?lang=ja
Instagram:https://www.instagram.com/miyazaki1992/

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