Vol.667

KOTO

08 JUL 2025

現代人のための漢方を提案する「LAOSI」。その考え方を知り、体の中から整う体験を

近年ドラッグストアでも漢方が買えるようになり、婦人科などで漢方を処方されることも。しかし漢方は種類も多く、本当に自分にあっているのか…効いているのか…と不安になることが多かった。そんなときに見つけたのが、奥渋谷と呼ばれる高感度なお店が点在するエリアの路地に佇む漢方薬店。薬店とは思えないスタイリッシュな雰囲気で、一包から気軽に購入でき、ワークショップなども開催しているという。実際に悩みを相談してみると、丁寧なカウンセリングにより自分の今の体の状態にあった漢方を処方してもらうことができ、自分の体と改めて向き合う時間となった。

漢方を知り、自分の体と向き合う。現代人に寄り添う漢方薬局「LAOSI」

渋谷から北西へ代々木方面に抜ける通りは奥渋谷と呼ばれ、センスのよいショップが点在するエリア
LAOSIは、奥渋谷の静かな路地に2021年にオープンした漢方薬店。漢方の入口になれる店にと薬剤師である松浦さんが、その人にあった漢方を処方している。さらに気軽に飲める薬膳茶やシリアルなどを開発したり、ワークショップを開催したりと、漢方を処方するだけではない、さまざまな角度から漢方=中医学の魅力を発信している。

LAOSIの店舗運営と薬剤師を務める松浦尚子さん
漢方薬剤師の松浦さんは、北海道出身。祖父の代から漢方薬局を営んでいて、漢方は暮らしの身近にあった。狩猟もしていたりと熊やウサギなどの生き物の命をいただく、という営みが日常だった北海道の暮らしの中で、漢方と触れ合い、生き方となっていったという。

地元の人々の不調に寄り添い、家族のように相談事にのっていた様子を見て育った松浦さん。長女だったことから、家を継ぐことを考えて薬科大へ。しかし、弟が家業を手伝ってくれるようになったことをきっかけに、家を出て海外留学なども経験し、東京で薬剤師として働くようになる。病院で内科や婦人科などほとんどすべての科を経験していったが、自分が納得いく仕事をすることはできなかったとか。

建築デザイン会社のオフィスだったという建物をリノべーションした店舗
その後、結婚出産子育てを経験し、子どもの手が離れるようになると、病院での仕事に限界を感じ、漢方の魅力を世に広める仕事ができないかと考えるようになる。その時に出会ったのが店舗用サインなどを手掛ける会社「anveil」の代表・音田氏で、自身の思いに共感してもらい、店をスタートさせることができたのだという。

カウンセリングから松浦さんが導き出す、体の声

松浦さんが目指すのは、漢方=中医学の考え方を基に、独自のスタイルで築き上げた、その人のバックグラウンドをから見るという漢方薬店。生活の癖をヒアリングし、その人の体質を見極めた上で自然治癒力を最大限に引き出す方法を提案する。なので、まずはその人の生活や悩み事を聞き出す、カウンセリングが診断の礎となる。その人が何気なくしている普段の生活をヒアリングすることで、無意識に習慣化してしまっている、いいと思ってしていることが不調の原因だったり、悪化の要素となっていることがあぶりだされてくるのだ。

問診票では病歴などを中心に20ほどの質問に答えていく
まずは問診票に病歴や生活習慣、困りごとなどを記載してもらう。お酒を飲むかなどはもちろん、食後眠たくなるか、頭痛の部位など、多岐にわたる。それを見た上で、舌診。舌は体のさまざまな不調を表す鏡のようなもの。赤ければ熱がこもっている、シワがあれば乾燥しているなど、さまざまな体の声が見てとれるという。

実際に私も診察をしてもらったが、舌診や問診のほかにも声の出し方、顔色など、話をしながらいろいろなことを観察されていたようだった。そこで導き出されたのが、「瘀血」「気滞」と呼ばれる状態であるとのこと。中医学では人間は「血」「水」「気」から成り立っていると考えられ、「血」は全身に栄養を届ける役割を、「水」はうるおいを「気」は臓器などすべての動きのエネルギーとなるとされている。「瘀血」「気滞」とは、血や気が滞っている、流れが悪い状態。これを整えるための漢方を、体質に合わせて処方してもらった。

「気」「血」「水」のバランスから、大きく6つの体質に分けられ、人はこれらの特徴を複数併せ持つことが多い
「気」「血」「水」はそもそも、五臓と呼ばれる場所で生み出され、蓄えられているとされ、それ以外の排泄や消化吸収を担当する場所を六腑といい、中医学ではこの「五臓六腑」が人間を動かしていると考える。五臓は「肝」「心」「脾」「肺」「腎」と呼ばれ、それぞれ貯蔵、コントロール、生成など「気」「血」「水」を司る役割を担っている。

自然はすべて5つに分けて考えることができるという五行論を中医学の視点からわかりやすく図式化したのがこちら
さらに私は加齢などもあり腎が弱っていて、温かさや潤いをキープする力が足りない状態にあり、さらにほてりやすい、下半身が冷える、肩こりといった症状から熱が上に上りやすく血や気の巡りが悪い状態にあると診断された。また交感神経が過剰な、過緊張の状態でこれが自律神経を乱し、「気」「血」「水」の循環を悪くしているとも。まずは「気」「血」「水」を作り出す役割を持つ「脾」(胃)をいたわるため胃腸の働きを助け、自律神経を整えストレスを緩和させてくれる漢方「加味帰脾湯」を、そして体に「気」・「血」・「水」が少ないと「瘀血」と呼ばれる血が流れにくい状態や「気滞」になりやすいので、これらを増やし腎を強くする「亀鹿霊仙廣」という2つの漢方を処方してもらった。

LAOSIの店内で販売している食養生の助けになる薬膳食材の数々
さらに松浦さんからは、普段の食生活を整える「食養生」について食べるべきもの、食べないほうがよいものも指南をいただいた。脾を休め、消化ではなく血や気を補うためにエネルギーが使えるよう、消化のよい食べ物をとることが体のバランスを整えることの基本となるという。

「小麦・乳製品・生のものは消化しにくかったり消化に時間がかかったりするので、これらを控えることで脾が休まり、エネルギーをほかの臓に使うことができます。ストレスを緩和してくれるのは葉野菜など香りのある食べ物。黒い食べ物は腎を養うので積極的に食べるといいです。麹など消化によい食べ物を取って胃腸をまず労わり、脾そのものの回復のために栄養を使えるようにしましょう。一番良いのが日本人が昔から食べてきたご飯と味噌汁。季節の野菜。それらを食べることが昔は当たり前でしたが、今はいろいろなものが季節問わず手に入り、今の自分に本当に必要な食材が意外にとれていないのです」。消化力が弱ってしまう原因となるため、冷たいものを飲んだり、食事中に水を飲みすぎるのも控えるべきとのこと。私の体質から提案いただいたが、これらはすべて食養生の基本的な考え方なのだという。

処方してもらった漢方。いずれも顆粒タイプの1回分が個包装となっている

まずは1週間。食養生を行い体の変化に耳を傾ける

処方された漢方は1週間分。1か月となると大変だが、1週間なら続けられると思った。漢方と共に教えていただいた食養生を可能な限り取り入れてみる。小麦類・乳製品・生ものを控え、処方してもらった漢方を飲み、胃腸を休ませる食を1週間続けてみたが、便秘やガスがたまった感じ、お腹のハリがかなり緩和され、肌色が少しよくなったのではと人から言われるようになった。

LAOSIでは、一度処方をした方のフォローアップとして、LINEで質問のやりとりができるようになっていて、このまま飲み続けていいのか、体調がこんなふうに変わってきたが…など相談に乗ってもらうことが可能。再び舌診などをして、もう漢方は飲まなくてよいと判断することもある。

腎によいのは黒い食べ物ということでこの日はキクラゲで主菜を作る。旬のトマトと玉子で中華炒めに
そもそも中医学は、食養生と呼ばれる普段の食事で体を整えることがその土台。季節や年齢、体の体質に合わせた食事をとることで体は自然と整っていくのだ。それが乱れることで慢性的または急性的な不調と繋がっていることが多く、それを改善させるために一時的に漢方を添える。漢方は続けなければいけないというイメージがあるかもしれないが、漫然と飲んでいてもいけないのだ。

松浦さんは不調が和らいだらやめてもらい、体が持つ自然治癒力と食養生で整えていくことを基本とすべきという。体質だけでなく季節の変化、例えば湿気多い暑い時期は体に湿気がこもりやすいので、「気」「血」「水」が滞ってしまいがち。トマトやきゅうりといった夏野菜は体を潤し巡りをよくしてくれるので積極的に食べるのがおすすめなのだという。旬の食材を食べることは体のためにもよいのだ。

食べることで体を整えることができる中医学伝統の薬膳食材の代表的なものがこちら
松浦さんが日々のカウンセリングで感じるのは、訪れる人の多くが疲れている…ということ。特に現代人はストレスや生活習慣の乱れから、自律神経が乱れていて、リラックスを司る副交感神経の働きが弱く、私と同じく交感神経が過剰な、過緊張となっていることが多いのだそう。緊張しているときは脾の働きは抑えられてしまい、うまく血やエネルギーを作り出すことができない、すると疲れる…だるい…という状態になってしまうのだ。エネルギーをうまく作り出せていないから血や気が少なくなってしまっているので、いくらホットヨガなどの血を巡らせる運動や、サウナなどをしても、もともとの血が少ないので、うまく巡らず、根本的な解決にならないのだ。

店をオープンさせるにあたって、漢方を取り寄せることから始めた松浦さん。各漢方の効能を紹介しながら販売している
そして中医学と西洋医学の一番の違いは、痛いところ、症状が出ている患部を見て治療を行う西洋医学に対し、中医学はその人の体質やどうしてその症状が現れいてるのかを体全体を見て診断するので、体を整えることで改善させることを主眼とする。現代人が抱えがちなストレスやうつ、なんとなくだるい、疲れるなど、西洋医学ではなかなか対応しづらい状態が、漢方や食養生で体を整えることで改善していくことを、松浦さんは日々実感しているのだそう。婦人病や心の病、皮膚病などは中医学の得意とするところだという。

松浦さんが配合・量を試行錯誤し、飲みやすさも配慮した漢方薬膳茶。4つのブレンドがあり、それぞれスパイスやハーブなどを配合した飲みやすいフレーバーに仕上げてある
普段の食事が体の調子と直結している。当たり前といえば当たり前のことなのだが、現代人はその症状を改善させるサプリメントや薬を飲んでその場をしのいでいるだけで、根本的な解決にはならないことを知っておかなければならないと感じた。LAOSIを訪れた人は松浦さんのアドバイスを実行したことでそれを実感しており、症状がよくなっても、漢方をそして食養生を普段の生活に取り入れたいという声が多い。そんな声を受けて松浦さんは気軽に飲める体によいものをとオリジナルのブレンドティーを開発。活力、温める、リラックスなど、その日の気分や体調に合わせて選べるようになっている。

店内ではほかにも眼精疲労に役立つクコの実や脾を労わる麹ドリンクなど、食養生に基づいたさまざまな商品をセレクトしているので、漢方をいきなり始めるのは少し不安…という人は、これらの商品を手に取ってみるのもいいだろう。

命の基本は食。そのことを知り、体のためにできることを毎日少しずつでも

漢方や食養生をはじめとする中医学の考え方を知ることができるLAOSIをきっかけに、自分の体とあらためて向き合う時間を持つことができた。体を整えるための食を基本とした暮らしをこれからも自分のペースで続けてみようと思う。中国で2000年以上前からのエビデンスが蓄積され、松浦さんが現代の人のためにとオリジナリティを加えた漢方や食養生の考え方が、腑に落ちる瞬間がいくつもあった。

この日のおやつは、LAOSIの漢方薬膳茶に黒豆の甘煮。黒豆と米粉でガトーショコラも作ってみた。
とはいえ、飲食店に入れば必ず冷たい水が出てくるし、スーパーにはありとあらゆる食材があるので、季節のものは何か知らないといけないし、こってりとした食欲をそそる食べ物が常に誘惑してくる。かつては当たり前だったが、現代人にとっては季節のものをいただく、胃腸によいものをいただくという自然の生き物と同じことをする食を取り入れることが意外に難しいことも実感した。しかし、今なんとなく感じている不調を整えることが、将来の自分の健康につながると信じて。自分の体の基本となる食を大切にしようと思う。

LAOSI

東京都渋谷区神山町42-9
営業時間:12:30〜17:00
休日:水・日・祝 ※営業日は公式instagramにて確認を

https://laosi.jp/
https://www.instagram.com/laosi.ph

CATEGORY