Vol.55

KOTO

11 AUG 2019

<SERIES>アーティストFILE vol.1 ハッピーじゃない自分もすき。little funny face

湘南・藤沢生まれ。2014年末から活動を開始したlittle funny face(リトルファニーフェイス)。国内に加え、アメリカ・ポートランドでの個展も開催。多岐にわたる活動により、国内外問わずファンを増やしている。今回は、彼女にあるテーマでの作画を依頼した。

テーマ:「何でもできる、自分だけの日曜」

自分だけの空間をとことん追求する

ひらめきはグリーンから

半年程前に現在の家へ引越したことをきっかけに、家に対する考え方や家の中に置くモノたちへの扱い方も大きく変わったことが、今回の制作のインスピレーションになったと話す。

「もう少し若いときは遊びまわっていたし、家というスペースにあまり意識が向かなかったけど家で仕事をするようになって、自分が居たいと思えるような空間にしたいと本気で思い始めました」

女の子が飲みながら、片手にじょうろを持ち少しけだるそうに水やりをしている姿。
実際に彼女の部屋には大中小のさまざまな植物が、生き生きと並んでいる。家での時間を重視するようになってから、植物を集め始めたそう。

「職業柄、個展や展示会といった華やかな場に顔を出すことも多く、新しい人にたくさん出会いますが、その分家でゆっくりする時間もあまりないのが現状です。だからこそ家の中に居る時は自分の大切にしているものに対して時間を費やしたいと思っているので、大好きな植物たちと一緒にいる絵を描きました」

最高の贅沢は、何もしない

「私は絵描きなので無意識に常にネタ探しをしているせいか、家に帰ってきてもマインドが仕事からなかなか抜け出せなくて。何でもできるなら”特別なことをする”よりも、”特別なことを何もしない”でいたいです」と、理想の休日の過ごし方をこう話す。

手元にある作品に目を落としながら、さらに続ける。「この絵は一見したら、少し平凡な休みの日かもしれないけど、誰かのいつも通りは、他の誰かにとってはいつも通りではないですよね。時間の使い方って本当に人それぞれだなってことを描いていて改めて感じました」

常にネタ探しをしているという彼女だが、旅先でも普段の生活でもあまり写真は撮らずに、頭の中に残ったシーンを思い起こして制作をするそう。常に五感をフル回転している彼女には、何もせずに過ごすということがクリエーションを生み出すために必要不可欠なのだ。

センスのよさは才能

今回の制作にあたって、今までと少し違うアプローチを取り入れて、作品を描いてみてほしいとお願いをした。白い背景を活かす作品が多いのが、彼女の作風の特徴のひとつ。背景に色をつけたことは、今までほとんどやったことがなかったと話す。

「今回構図が家の中に決まって、思い浮かんだのが日本の家の不満なところ。床と壁が好きじゃなくて。特に壁は、どこに行っても同じような壁だし、白にも色々あるはずなのにバリエーションが少ない。自分の理想の部屋の壁が、日本ではなかなか難しい色のピンクだから、せめて絵だけでも理想の部屋にしたいと思いました」

彼女がインテリアをデザインすることで一番大切にしているのは、とにかくひとつひとつ好きなものに囲まれること。思いのほか、それ以外は特にこだわりはないとあっけらかんに言うが、部屋にいるだけで自然と彼女のセンスのよさが分かってしまう。私たちの目には見えないたくさんのこだわりが家中に散りばめられているはずだ。

絵は、見られて初めて完成する

小物が多い印象の彼女の部屋に対して、作品はシンプルに真正面から女の子と植物だけを描いた背景は、構図やデザインを出来る限りシンプルに描くことを意識しているからだそう。彼女はさらに話を続ける。
「私は作品の奥にあるストーリーは見る人に完成させてほしいと思っています」

「ヒントを出来る限り少なくすることで、見る人が少しでもその時の自分の気持ちを絵に重ねることができたり、共感してもらえたら嬉しいです。そういった理由でこの絵も、部屋の立体感を出して細かく描くのは私のスタイルではなく、シンプルにすることで見る人それぞれが、自分の生活を投影できたらいいなと思って。植物に水をあげるついでに、お酒も呑んでたらより共感してもらえるかなと思いました(笑)」

ひとつの作品にいくつもの思いが込められた彼女の作品。さらには見る人によってストーリーが変化するしなやかさも兼ね備えている。これも全て、彼女の携える五感の鋭さや表現力の高さが生み出す業なのだろう。

ダークなときがあってこそ、描ける

描くことで浄化する

ポップな色遣いや少しファニーな構図。彼女の作品はポジティブさやハッピーなオーラを纏っているが、実は絵の裏側のテーマは暗いものも沢山あると彼女は教えてくれた。

「ちょっとした失敗や失恋だったり、描くきっかけになるものは意外と暗いものもあって、私は絵を描くことでそういう嫌な思い出を忘れられるんです」

さらに「LIFE IS SHORT」という作品についても教えてくれた。

「’’人生は短いから、今を楽しもう’’というメッセージで捉えられがちだけど、そう感じられない時期があったからこそ描けた絵なんです。きっと見る人によっては、明るい絵に感じるだろうし、ある人は(作品の)左側の男の人に感情移入するかもしれない。SNSによくある”リア充自慢”のような表面的なものよりも、みんながアピールしない部分を描きたいと思っているので、自分が常に100%ハッピーだったら描くテーマがなくなると思います」と明るく笑いながら話してくれた。アップダウンの波があるくらいが人間らしくていいと、彼女の器の大きさが窺えるエピソードだ。

「LIFE IS SHORT」

不安な気持ちをチカラに

会社員をやりながら、毎年個展を開催してオーダーも受けるという忙しい生活を送っていた時のことを振り返る。

「今思うと大変だったけど、あの忙しさを経験しておいてよかった。その時に比べると、今は絵に絞ることで収入も安定していないし、先行きが見えない不安ももちろんあります」

その不安を抱えてまでも、会社を辞めることになったきっかけは、どこにあったのかと聞いてみた。お客さんから貰ったデザインを元に、洋服をつくる会社で働いていたそうで、

「’’モノをつくる’’という観点では、絵を描く自分と同じ目線でいられたけど、自分でゼロから作品をつくったり、発表して反応があったときの喜びのほうが、だんだんと大きくなっていきました。人生は一回きり。不安だけど一度くらいは、’’絵だけで生きる’’ということに挑戦したいと思いました」

上を見据えて更なるチャレンジ

アーティスト vs イラストレーター

「私のことをアーティストと呼んでくれる人と、イラストレーターと呼んでくれる人がいます」今後の展望を聞いてみると、彼女はこう話し始めた。

アーティストは自分の描きたいものを描いて売る、自分発信ベース。イラストレーターは、受注ベースで仕事を進めるのがそれぞれの違いだと教えてくれた。絵を描き始めてすぐ、額装やプリントを手伝ってくれる友人に、ゆくゆくはどっちになりたいのかと聞かれ、考え始めて出た答えが、「私はアーティスト」だったそう。

これからについて

自分はイラストレーターではなく、アーティストなんだという強い気持ちと、やってくる仕事のバランスに葛藤があると話す。以前は頻繁にうけていた個人の依頼や雑誌の挿絵を、今は一旦お休みをして、百貨店での販売用の新しいグッズ作りや、より大きな作品をつくれるように時間の使い方をシフトしているそう。

活動を始めて5年近く経ち、沢山の作品を生み出すことよりも、原画に込めた思いを感じてもらい、そのひとつをずっと持っていてほしいという気持ちがより強くなったと語ってくれた。

「仕事を断る」という勇敢なチャレンジを続けているlittle funny face。常に自分自身と向き合い、作品に対してハングリー精神を忘れない姿勢はまさしく「アーティスト」だ。今後も彼女の精力的な制作活動に注目していきたい。

Information

香港のブランド「Made in Paradise」とのコラボレーションでTシャツや雑貨を10~11月に発売予定。詳しい詳細は彼女のインスタグラムをフォローして、チェックしてほしい。

8月13日から藤沢鵠沼海岸にあるショップ、Buscape(ブスカペ)にて個展を開催。
一般未公開の大判版画2点に加え、アメリカ・ポートランドを旅しながら描き下ろしたポートレイトを展示する。是非ともお見逃しなく。

2019/8/13〜20
Nari Yamashina mini Exhibition
-PORTRAIT-
at Buscape Kugenuma
神奈川県藤沢市鵠沼海岸2-5-6 小田急江ノ島線鵠沼海岸駅 徒歩1分

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