ソフィ・カルのアートブック Rachel Monique
例えば、1981年に製作された作品は彼女自身がホテルのメイドとして働きながら、宿泊客の客室を撮影した作品「The Hotel」や、街で偶然拾ったアドレス帳に載っていた人物に連絡を取り、アドレス張の落とし主についてのインタビューを行った。その事により持ち主から訴えられかけ問題となった作品「The Address Book」を発表した。
他にも、見知らぬ人や友人に自分のベッドで寝てもらい撮影をした作品や、生まれつき目が見えない人へ美のイメージをインタビューしながら、イメージを写真で表すなどインパクトのある作品が特徴だ。
多くの人生は注目されるものではなく、また注目を避けるように生きている。
特別注目されることのなかった他者の人生を、意図的にきっかけを作り深く考察してゆく。そのことにより人間として普遍的な辛さや、苦しみ、またはささやかな幸福を垣間見ることができる。彼女がそのような現代人のアイデンティティに注目し露にされた作品は、ただ綺麗なだけではなく共感し感動してしまう。それがソフィ・カルの魅力である。
写真やテキストは美しく非常に思考深いのだが、彼女のアートブックは製本そのものが実験的で妥協を許さない作品になっている。
表紙に写真は使われず、テキストが黄色い刺繍で装飾されている。タイトルを見ただけでは何の本かは分からない上に何の説明もない。ページをめくると内面のテキストはエンボスで加工されている。軽くめくっただけで、1ページ毎のこだわりが強く、半端な製本でないのがよくわかるだろう。
これほど美しい本には、簡単には出会えない。
ページをめくっていくと最後には…
そこは実際に体験してもらいたい。
母の死に対する悲しみと寂しさが溢れ出ている。そのイメージの連鎖に共感し感動するだろう。
駆け抜けるように読み終えると、母の事を思い寂しさや懐かしい気持ちに合わせて、ベンリネス15年が飲みたくなった。
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Rachel Moniqueとベンリネス15年
その中の1本ベンリネス15年はスコットランドの中でも聖地と呼ばれるスペイサイド地方で蒸留されたシングルモルトウイスキー。蜂蜜やメロンの甘い香り、ベンネリス山に流れる水を仕込み水として使われている。大自然の恵みに感謝し、口に含むと、甘さビター感と唐辛子のようなスパイシーさがあり、強くたくましい印象。それでいて、余韻には甘さと苦味が鼻に残っている。
ベンネリスの歴史は200年近くと長く、個性的で確かな味わいを感じられる。派手なプロモーションは無く、万人受けするウイスキーでも無いところがまた良い。このウイスキーは、どこか強さの中に優しさを含んだ母親というイメージに通ずるように感じられた。静かに落ち着いた時を過ごすのには、とても向いている。
ソフィ・カルのアートブックBecause
右側のページは袋とじとなっていて、その中からプリントの写真が出てくるという仕組みだ。つまり読者はテキストを読み、情景を想像する。その時にイメージはまだ見えていない。そして袋とじからイメージを取り出すという事である。通常アートを鑑賞するときは作品を見てから作者の意図や背景を知ることが多いはずだが、この本をでは、その体験が逆になる。
現代美術を自宅で楽しみながら、ティーニニック10年を脇に置けば優雅な時間が過ごせるだろう。ティーニニック10年も花と動物シリーズの一本だ。ハイランド地方のウイスキーで、りんごの香りを感じ、口当たりはまろやかで、後にはひかずに、さらりとした印象である。描かれている動物はネズミイルカという日本ではあまり馴染みのない動物だが、1.5mほどの小さいイルカが、蒸留所周辺のクロマティー湾に生息しているとのことだ。
ソフィ・カルに揺さぶられ、ティーニニックを嗜む
他にも彼女のこだわり抜いたアートブックは多くあり、これからも制作されていくであろう。
彼女の作品に触れる事で、その都度に揺さぶられ、さまざまな事を自問自答するであろう。
多くの場合は答えのない問いかと思われるが、問いに気づかせてもらえるのは、現代美術の楽しさである。美術館で鑑賞する以外に触れる機会の少ない現代美術を、1万円以内で手に取る事が出来るようにした事は素晴らしい発明だ。
ぜひ、好きなお酒を飲みながら、自宅でゆっくり現代美術を楽しんでもらいたい。