Youtube動画や定額制音楽配信サービス、CD、ハイレゾ音源(※)、アナログレコード etc. 音楽の聴き方が多様化している現在。その中でも大多数の人が選んでいるのは、スマホでも手軽に聴けるYoutube動画や定額制音楽配信サービスだろう。しかし、本格的な音質で様々な楽曲に触れる体験をしてもらいたい。そこで紹介したいのが、上質な音響設備でとハイレゾ音源とアナログレコードを聴き比べられる「Spincoaster Music Bar(スピンコースター・ミュージック・バー)」だ。
※CDを圧倒的に上回る情報量を備えた高音質音源。アーティストの息づかいや、レコーディング現場の空気感などまで表現できるとされる。
音楽を愛する人々が楽曲を通じて交流する場として
同店の運営を手掛けるのは、“心が震える音楽との出逢い”をコンセプトに掲げる音楽メディア「Spincoaster」。代表取締役を務める林潤(はやし・じゅん)氏は、宇多田ヒカルの代表曲「First Love」を、ハイスペックな機材 環境で聴いたことがきっかけで 2015年3月にオープンした。
きめ細かな楽器の音や、ボーカルの息づかいまでも聴き取れることに衝撃を受けた彼は、アーティストの想いをより正確に伝えられる音源を世に広めるべく、同店のオープンを決意。さらに、音楽を愛する人々が楽曲を通じて交流する場を設けたいという気持ちも、立ちあげた理由の1つだという。オープン以来、老若男女を問わず幅広い層の音楽愛好家に支持されている。
ハイレゾとアナログレコードの音響を完備
店舗の魅力は数あるが、はじめに紹介したいのはやはり音響設備へのこだわりだ。ハイレゾ音源とアナログレコード、それぞれに適したスピーカーで、互いの良さを存分に聴き比べられる環境が整っている。ハイレゾ音源には、音響的に理想とされる卵型デザインを起用した、先進的な国内ブランド「KOON」のスピーカーを使用。一方、アナログレコードには、 “原音忠実再生”を命題とするドイツ発ブランド「ムジーク」のスピーカーがセレクトされている。オーディオマニアなら、垂涎もののラインナップだ。
ハイレゾ音源とアナログレコード、それぞれの特性と音楽とのマッチングについて林氏に尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「CDに比べてデータ量の大きいハイレゾ音源は、シンガーの息継ぎや衣擦れの音まで聴き取れるような臨場感が魅力的です。個人的にはアコースティックセットだったり、ウィスパーボイスを多用していたりする楽曲がオススメ。宇多田ヒカルさんの音楽性とも相性が良いと感じます。一方で、アナログレコードは太くて暖かい音という印象。聴き疲れしにくく、BGM的に流しても良いし、しっかりと向き合ってリスニングするにもバッチリです。山下達郎さんをはじめ、世界中で再評価されている日本のシティポップにもマッチします。店でも頻繁に聴きますが、70年代頃の録音は圧倒的に音質が良いですね」
彼は続けて、“選択肢”を増やして楽しみ方に幅を持つことが大切とも話した。
「ハイレゾ音源やアナログレコードを聴いた上で、データ量を圧縮したCDやMP3などの音源にも魅力があると考えています。機材導入にコストがかかるハイレゾ音源とアナログレコードは、ファッションに当てはめるならハイブランドのような存在。一方で、圧縮された音源はファストファッションかもしれません。でも、それらを全て知った上で選択できれば、生活がより豊かになると思うんです。これは音の場合でも同じで、曲ごとに再生機器を変えることで、同じ楽曲を聴いても感じ方が変わるし、広がりを感じられる。それに気付いていただけるようお手伝いできたら、本当に嬉しく思います」
林氏が話すように、重要なのは使い分けることだ。仕事中や移動中は、気軽に利用できる音楽配信サービス。自宅でリラックスしたいときはアナログレコードなど、選択肢を増やせば楽しみ方は無限大に広がっていく。これこそ、現代に生きる醍醐味の1つではないだろうか。
音楽を通じて交流できる都心のオアシス
ここからは、同店のユニークなシステムや人気のメニューなどを紹介しよう。はじめに触れたいのが、チャージ料金(700円)に含まれている「1曲リクエスト」だ。こちらを利用すると、ハイレゾ音源orアナログレコード共に、店内の音源をリクエストして再生できる。日ごろから慣れ親しんでいる楽曲でも、高音質な環境で聴けば新たな発見や感動が生まれるはず。初見の利用客同士が、互いに知っている曲を通じて意気投合することも日常茶飯事だ。
ハイレゾ音源をリクエストする際は、メニューに記載されたQRコードをスマホで読み込めばOK。新旧や洋邦問わず、多彩な楽曲からチョイスできる。曲に添えられた小粋なコメントも、「Spincoaster」という音楽メディアが運営している同店ならではといえる。
一方、アナログレコードにもユニークなシステムが。ボトルキープならぬ「レコードキープシステム」である。こちらは、利用客のアナログレコードを店内で預かり、その人が来店したときに、選曲リクエストを受けるというもの。「よく行くバーにレコードを預けてるんだ」などと話して、友だちや恋人を店に誘ってみるのも粋だろう。
続いて、スタッフの方々に気のメニューを聞いてみた。オススメしてくれたのは、「北海道クラフトビール金鬼」と「自家製ローストビーフ」だ。凝縮された旨みを堪能できるローストビーフは、柑橘系の香りと鋭い苦みが際立つビールと相性抜群。
バナナチップや柿ピーなどの乾き物が食べ放題なのも嬉しい。上質な音楽とおつまみは、お酒をよりおいしくする最高のパートナー。「永遠に飲み続けられそう…」なんていう、幸せな錯覚を覚えた。
新店舗オープンやオリジナルクラフトビール発売を目指して
「Spincoaster Music Bar」は、これからも進化を続けていく。具体的には、都内に会員制の新店舗を立ち上げる予定なのだとか。これにより、チャージ料金が無料になったり、専用フォームから席予約が可能になる様々な会員特典がさらに拡充。音楽愛好家の会員同士で、よりディープに交流が可能になるという。
さらに、新店舗の運営からノウハウを得た後に、札幌や名古屋、福岡、大阪などの主要都市にも、新たな店舗をオープン予定。ハイレゾ音源とアナログレコードの魅力を、各地方でも楽しめるようになる日はそう遠くなさそうだ。
近日中に発売する、店舗オリジナルのクラフトビールにも期待が高まる。「スピンコースター」という銘柄を皮切りに、今後は音楽アーティストのイメージに合わせたビールを展開していくという。こちらは、音源が売れたら演奏者や作曲者に印税が入るように、ビールの売り上げがアーティストに還元される仕組み。CDの場合、どんなに好きなアーティストでも、2枚以上購入することは稀だろう。
しかし、クラフトビールを飲むこと自体が、アーティストの応援に繋がるとしたら…。コアなファンでなくとも購入しやすいし、音楽フェスティバルやライブ会場での展開も期待できる。音楽文化やアーティストを支えていきたいという想いが、色濃く反映されたプロジェクトだ。
ハイレゾ音源とアナログレコードを上質な環境で聴き比べられるという店舗のコンセプトは、もちろん今後も変わらない。普段は専らYouTube動画で音楽を聴くという人も、上質な音に触れる経験をしてみてほしい。その感動を自宅に持ち帰ったら、手間暇をかけて音楽を楽しみたいという気持ちが芽生えるはず。生活を彩る本物志向の音は、人生をより豊かにしてくれると信じている。
Spincoaster Music Bar
CURATION BY
犬とカレーと音楽が好きな三十路のライター。創作系スパイスカレーにハマってから、試作したカレーを冷凍庫内に余らせがち。音楽イベント「SHAKE HANDS(シェイクハンズ)」の運営メンバーとしても活動中。