「絞り染め」と聞いてどんなイメージを持つだろう。レトロで渋い、落ち着いた印象があると思う。絞り染めの歴史は古い。7世紀頃、インドの染色技術が日本に伝わってきたのが始まりと言われている。奈良時代に多くの技法が生まれ、技術の発達につれ、江戸時代には日本独自の染色技法が完成したそうだ。
愛知県・有松で生産されている「有松・鳴海絞り(以下:有松絞り)」は、約400年続く歴史ある伝統工芸品。実は、日本の絞り製品の大半は、ここ有松でつくられている。
そんな歴史ある伝統工芸の世界に、新たな絞りのイメージをつくりだしている女性二人組のユニットがいるという。今回は歴史と伝統の垣根を越えた、新しい価値観に触れてみた。
東海道の情緒残る町、愛知県・有松
有松は、江戸時代より有松絞りで栄えた町。
有松絞りの色は紺一色が基本で、町を歩くと紺色で綺麗に染め上げられた暖簾が風に揺れていた。
江戸と京都を結んだ旧東海道沿いの風情ある町並みは、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されるなど、歴史と伝統を深く感じることができる。
そんな趣のある街並みの中に、カラフルな絞りが目を引く「まり木綿」というお店がある。
経営しているのは、クリエイターの伊藤木綿(いとう ゆう)さんと村口実梨(むらぐち まり)さんのお二人だ。
正直なところ、若いお二人や作品を目にしたとき、絞りのイメージと全く正反対だと感じた。なぜ、有松で伝統工芸品の職人としてスタートしたのか、お話を伺った。
オープンのきっかけは、大学の授業と京都を代表するテキスタイルブランド
お店をはじめたきっかけは、なんと大学の授業。二人が専攻していたテキスタイルデザインコースでは、繊維に色を付ける「染め」と、繊維を構成する「織り」の、布をつくるための伝統的な技術を学ぶ。
あるとき、京都のテキスタイルブランド「SOU・SOU」のプロデューサー・若林さんが、二人が通う大学に特別講師として訪れた。そこで二人のカラフルな色合いの作品に目が止まり、SOU・SOUの商品とコラボして販売されることになった。商品の反響も良く、お店に納品する度に二人の中で「店頭に立って販売したい」という気持ちが大きくなった。二人のオリジナル商品も販売するようになると、若林さんに「こんなポップな絞りを出しているお店はないし、自分たちでこれだけ商品をつくってきたなら、お店を出したらいいんじゃない?」と提案をしてもらったそうだ。
大学を卒業して2ヶ月後、二人はお店をオープンさせた。最初は手ぬぐいと足袋しか商品がなかったが、お客さんの「こんなのあったらいいな」という声を聞きながら、商品の種類を増やしている。
オリジナリティあふれるカラフルな絞り
授業を受けていた最初の頃は、二人ともベーシックな紺色で作品づくりをしていた。色の縛りはなかったので、「もっとカラフルな方が可愛い!」と思った二人は、自分たちのやりたいように研究を始めたのがポップでカラフルな絞りが生まれたきっかけだそうだ。
紺ベースが基本の有松絞りだが、まり木綿の活躍で、少しずつカラフルな有松絞りが認知されるようになった。今では周りでもカラフルな絞りを出す店が増えてきている。
最近、まり木綿の二人は有松町の会議に呼ばれるようになり、有松絞りの商品開発で独自の色彩センスやアイデアを求められるようになった。昔ながらの職人さんと「こういう色が売れるんだ」と商品を介してコミュニケーションを取るなど、有松の伝統と歴史に新しい風を吹かせている。
作品のひとつひとつにストーリーがある
まり木綿が絞りを染めるときの技法は「板締め絞り」という。
「板の中に布を挟んで外から染めるので、布を広げるまで中がどうなっているか全くわからないんです。染料の色によって浸透の速さが違うので、隣り合う色が混じって違う色が出て来たり、発見があるので毎回ワクワクしますね」と伊藤さん。
「私は店頭に立って、制作だけしていたら見えなかったことが見えてくるのがおもしろいなと思っています。実際にお客さんの意見を聞いて、こんな商品だったら欲しい、使いたい、と直接生の声が聞ける環境にいられるのが嬉しいし、コラボしたいという声もいただけるので、人とのつながりが生まれることが楽しいです」と村口さん。
絞りは遠い存在であるように思っていたが、二人の話を聞いていると不思議と身近にあるように感じた。そんな二人のカラフルな世界に、ぜひみなさんも触れてみてほしい。
まり木綿
住所:愛知県名古屋市緑区有松1901
電話:052-693-9030
営業時間:10:00~18:00(定休日:火・水・木曜日)
最寄駅:名鉄名古屋本線「有松駅」下車 徒歩2分
[web]
https://marimomen.com/[ワークショップ]
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ある時はライター。またある時にはデザイナー。ディレクターという名の何でも屋さんをやっています。音楽とお酒でふわふわ旅をするのが好き。