Vol.769

FOOD

30 JUN 2026

バターがくれる至福の時間。ガトー・エシレ ナチュール

筆者がフランスに滞在していた頃、何気なく口にしたバターの味に驚いたことがある。ひとくちで感じるコクと香り、そしてまろやかさ。パンに少し塗るだけで、食事そのものが豊かになる感覚があった。フランスでは、クロワッサンや焼き菓子、ソース料理など、日常のさまざまな場面でバターが使われている。なぜこれほどまでに“バター文化”が発展したのか。その理由を、食べるたびに自然と理解していった気がする。そんなフランス産バターの魅力を、シンプルに、そして贅沢に味わえるのが「ガトー・エシレ ナチュール」だ。

フランス生まれの発酵バター「エシレ」とは?

お土産としても人気のエシレ バター
エシレは、フランス中西部・ドゥー=セーヴル県の小さな村、エシレで生まれた発酵バターだ。協同組合がバターを作り始めた1894年以来、100年以上にわたり受け継がれてきた伝統的な製法でつくられている。特に、ゆっくりと時間をかけてクリームを発酵・熟成させる工程や、木製チャーン(攪拌機)による製法は、エシレならではの品質を支える大きな特徴だ。

エシレ バターは、フランスの原産地呼称保護制度であるA.O.P.(Appellation d’Origine Protégée)認証を受けた「ポワトゥー・シャラント産バター」のひとつ。厳しい基準のもとで生産されており、その品質はフランス国内外で高く評価されている。

発酵によって生まれる豊かな香りと深いコク、そして濃厚でありながら驚くほどなめらかな口当たりのバターだ。フランスでは上質なバターの代名詞として親しまれている上、世界的なシェフやパティシエからの支持も厚く、多くの名店で使用されている。日本でもその人気は高く、エシレ専門店が誕生するほどだ。

フランスで愛され続ける“バター文化”

クロワッサン、スクランブルエッグ、ポタージュ。すべてにバターは欠かせない
フランスで暮らしていて印象的だったのは、バターが特別な食材ではなく、日常の中に自然と溶け込んでいることだった。

朝は焼きたてのバゲットやバターたっぷりのクロワッサンにさらにバターを添え、昼にはサンドイッチやキッシュに使われる。夕食では魚や肉料理のソースにも欠かせない存在だ。フランスのレシピを見ていると、スープやソースの仕上げに「クルミひとつ分のバターを加える(une noix de beurre)」という表現が当たり前のように登場する。バターは単なる調味料ではなく、料理のおいしさを支える大切な食材として親しまれているのだ。そのため、スーパーの棚にはたくさんの種類のバターが並び、人々は好みに合わせて選んでいる。

特にフランス西部のブルターニュ地方やノルマンディー地方は酪農が盛んで、地域ごとに異なるバター文化が根付いていることで有名だ。

私自身、フランスへ行くまではバターの違いを意識したことがほとんどなかった。しかし現地でバターを口にしたとき、その香りの豊かさや深みのあるクリーミーな味わいに驚いた。たったひとかけのバターが料理のおいしさを何倍にも引き立ててくれる。その体験は今でも強く印象に残っている。

エシレが多くの人に愛される理由も、単に高級だからではないのだと思う。毎日の食卓を少しだけ豊かにしてくれる存在だからこそ、100年以上にわたって支持され続けているのだろう。

丸の内で出会うエシレの世界

東京・丸の内の「エシレ・メゾン デュ ブール」
そんなエシレのバターが作り出すおいしさを、存分に楽しめるのが「エシレ・メゾン デュ ブール」だ。店舗は東京・丸の内にあり、世界初のエシレ バター専門店として2009年にオープンした。店内にはエシレ バターそのものはもちろん、エシレ バターをふんだんに使った焼き菓子やヴィエノワズリーが並び、多くのファンを魅了している。



エシレ バターたっぷりの生菓子が並ぶ
お店に足を踏み入れると、途端に焼きたての菓子から漂う芳醇なバターの香りを感じる。

人気のマドレーヌ・エシレ
ショーケースには美しく焼き上げられた焼き菓子が並び、まるでフランスのブーランジュリーやパティスリーを訪れたような気分だ。

外はカリッと、中はふんわりとした食感を楽しめるフィナンシェ・エシレ

特に人気なのが、焼きたてのフィナンシェ・エシレ。時間帯によっては行列ができることもあり、丸の内の名物として親しまれている。ほかにもクロワッサンなどのヴィエノワズリーや多彩な焼き菓子がそろい、「エシレ バターのおいしさを味わうためのお店」というコンセプトを存分に体感できる場所だ。

シンプルだからこそバターのおいしさが際立つ「ガトー・エシレ ナチュール」

ガトー・エシレ ナチュール
「ガトー・エシレ ナチュール」は、「エシレ・メゾン デュ ブール」を代表する看板商品だ。

一見すると、どこか素朴で愛らしい佇まいのバターケーキ。しかし、その中にはエシレ バターへの並々ならぬこだわりが詰まっている。最大の特徴は、クリームの約半分にA.O.P.認定のエシレ バターを使用していること。まさに“エシレ バターを味わうためのケーキ”といえる存在だ。


かわいらしい四角いフォルムは、かつてエシレ バターの製造に使われていた木型をイメージしているのだそう。シンプルな見た目の中にも、ブランドの歴史や伝統への敬意が感じられる。

繊細に作られた5層のバタークリームとビスキュイ生地のサンド

カットすると、バタークリームを5層のビスキュイ生地でサンドした美しい断面が現れる。

ひとくち食べると、エシレ バターならではの濃厚なコクと豊かな香りが口いっぱいに広がる。特に角の部分はクリームがたっぷりと感じられ、なめらかなバタークリームがすっと溶けていく瞬間はまさに至福のひとときだ。

角のバタークリームたっぷりの部分がたまらないおいしさ
これだけのバターが使われているとなると、その濃厚さから「食べ疲れるのでは」と思うかもしれない。しかし、その味わいは決して重たくない。発酵バター特有のほのかな酸味が全体を引き締め、後味は驚くほど軽やかなのだ。バターのうま味を存分に楽しみながらも、最後まで心地よく食べ進めることができる。

持ち帰るときも気分が上がる

その人気は非常に高く、開店前から行列ができることも珍しくない。素材の魅力を余すことなく引き出したこのケーキは、まさにエシレの哲学を表現したケーキなのだ。

日常に、バターの贅沢を取り入れる

ホールで販売されており、家族や友人と分け合って楽しみたい
贅沢なお菓子と聞くと、色とりどりのフルーツが飾られたケーキや、華やかなデコレーションを思い浮かべる人も多いかもしれない。

けれど、ガトー・エシレ ナチュールが教えてくれるのは、贅沢とは必ずしも華やかさだけではないということだ。

主役は、あくまでもバター。パンや焼き菓子など、私たちの食卓にも身近な存在である素材が、最高品質の発酵バターになることで、ここまで豊かな味わいを生み出せる。その事実に、改めて驚かされる。

好みの厚みにカットして
フランスでは、食材そのもののおいしさを大切にする文化が根付いている。特別な日だけではなく、毎日の食事の中に小さな喜びを見つけること。その積み重ねが、暮らしの豊かさにつながっているのだと思う。

プレゼントにもぴったりのパッケージ
ガトー・エシレ ナチュールもまた、そんなフランスらしい価値観を感じさせてくれるケーキだ。本当に良い素材には、人を満たす力がある。

忙しい日の終わりにコーヒーを淹れてひと切れ味わう。休日の午後に紅茶とともにゆっくり楽しむ。そんな何気ない時間が、少しだけ特別なものに変わる。自分へのご褒美に。あるいは、大切な人と過ごす穏やかな時間のお供に。

ガトー・エシレ ナチュールは、バターが持つ本来のおいしさと、日常を豊かにする小さな贅沢を教えてくれるお菓子なのである。

エシレ・メゾン デュ ブール

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