Vol.716

26 DEC 2025

〔ZOOM in 渋谷笹塚〕渋谷区の端っこで、フランスの家庭料理を

大都会・東京の中でも、ことさら中心地にある渋谷区。毎日たくさんの人と情報で溢れかえる、刺激の多い街だ。しかし同じ渋谷区でも、北側エリアにある「笹塚」は、いわゆる"渋谷"とはまた違った雰囲気。日々の地道な生活に寄り添う、素朴な住宅街である。今回ご紹介するのは、そんな笹塚にあるフレンチレストラン『Galette DECO』『Bistro DECO』。お昼はガレット、夜はビストロと、2つの顔を持つお店である。常連客で絶えない同店の、愛される秘訣を探った。

名物の観光地も、大きなデパートもない。だが、そこがいい。

新宿や渋谷から好アクセスの京王線「笹塚駅」
笹塚の魅力は、何といっても「素朴さ」にあると筆者は考える。「飾らない」「気取らない」と言えばいいだろうか。息苦しさが全くないのだ。

渋谷駅から電車で約15分、新宿駅からは5分ほどと、都心からのアクセスは抜群。にも関わらず、笹塚には高層ビル街も派手な繁華街も豪華なデパートも存在しない。

あるものといえば、住民の生活を支えるスーパーや小売店、地元住民が集う飲食店、小さな公園くらい。駅前や甲州街道沿いは少しガヤガヤしているが、3〜4分も歩けばその騒音も消え、閑静な住宅地に。17時には遠くの方から「夕焼け小焼け」のチャイムが鳴り響く。渋谷区なのに“都会の喧騒”を感じない、とても居心地の良い街だ。

笹塚駅の水道通り沿いに新しく出来た「九号通り公園」。休日は子どもたちで賑わう
街の至る所から、程よい活気が感じられるのは、笹塚駅を中心にちらほらと点在する商店街のおかげに違いない。駅の南口側にあるのは「観音通り商店街」。その名の通り、中央付近では笹塚聖観音が優しく見守っており、毎月18日にはご開帳がある。

観音通り商店街の中ほどにある笹塚聖観音。毎月18日にご開帳がある
また、駅から甲州街道を挟んですぐの「十号通り商店街」は、花屋や米屋、青果店など昔馴染みの個人店が多いのが特徴。

頭上の花飾りが賑やかさを引き立てる「十号通り商店街」
さらに奥へ進むと、下り坂の「十号坂商店街」が見えてくる。夏には坂の傾斜を利用した「70mの流しそうめんイベント」も開催される。笹塚を訪れた際は、ぜひ個性あふれる商店街にも足を運んでほしい。

個性豊かな飲食店が多く集う「十号坂商店街」

本場ブルターニュのガレットが楽しめる『Galette DECO』

ランチは『Galette DECO』として営業。生地にそば粉を使うブルターニュ流のガレットが楽しめる
今ご紹介した「十号坂商店街」の中ほどに、今回ご紹介したいレストラン『Galette DECO』『Bistro DECO』はある。2008年にオープンし、現在に至るまで笹塚で長く愛されてきた。

カウンターがメインの店内は、こじんまりとしていて落ち着く雰囲気
『Galette DECO』『Bistro DECO』と2つの名前があるのは、昼と夜で業態が変わるからだ。まずお昼の顔は、そば粉の生地に卵やハムなどの具材を乗せたフランス料理「ガレット」の専門店『Galette DECO』。ガレットというと少し敷居の高いイメージを持つ方も多いかもしれないが、本場であるブルターニュ地方では日常的に食べられる郷土料理なのだそう。

セットメニューについてくる前菜も豪華。特にポタージュは絶品
メニューは、ベーシックな「ガレットコンプレット」をはじめ、同店オリジナルの「ガレットスペシャリテ」や、旬の食材を使用した「季節のおすすめガレット」までさまざま。デザートクレープのラインナップも充実している。メニューには使われている食材が絵とともに詳しく書かれており、どれを選ぶか迷うのも楽しい。

目玉焼きたまご、パリ風ハム、チーズといった基本の具材に、トマトが加わった「ガレットコンプレット トマト」
今回オーダーしたのは、「ガレットコンプレット トマト」と、季節のガレット「ほうれん草ベーコンガレット」。色とりどりの食材が綺麗に包まれたビジュアルは、思わず息が漏れそうなほど食欲をそそる。

腕を振るうのは、オーナーの吉田さんが太鼓判を押すフランス出身のシェフ アドリアンさん。具だくさんの食材と香ばしい生地は相性抜群で、一度食べたら病みつきになるおいしさだ。

フランスの自然豊かな田舎で生まれ育ったという、シェフのアドリアンさん

素朴な家庭料理を味わう、肩肘張らないフレンチ『Bistro DECO』

素材の味を存分に生かした「柿とカブ、ブルーチーズのサラダ仕立て」
夜の顔は、“フレンチおばんざい”と豊富なワインを提供するビストロ『Bistro DECO』。ソムリエの資格も持つ吉田さんが、とっておきの料理とワインを振る舞ってくれる。

フレンチと聞くと高級レストランを思い浮かべてしまうものだが、『Bistro DECO』ではテーブルマナーやドレスコードを気にする必要は一切なし。“フレンチおばんざい”という言葉どおり、同店が提供するのは、フランスで長く親しまれてきた素朴な家庭料理だ。

食感が楽しい「キャロットラペ」は、ビールにもよく合う味。フレンチだが、カトラリーにはお箸も用意してくれている
『Bistro DECO』に来たらまず食べたいのが、定番商品の「キャロットラペ」。3種類のナッツとチーズが入ったオリジナルの味は、お酒によくマッチする。

「季節のおすすめ」には、日本ではあまり耳慣れない料理名も。スタッフが丁寧に教えてくれるので、気になったら質問してみよう
メニューにあるスタンダードな料理だけでなく、黒板に書かれた「季節のおすすめ」も必見。今回は、「舞茸のムニエルと塩鱈のブランダード」を注文した。ブランダードとは、鱈とジャガイモを混ぜ合わせてペースト状にした南フランスの伝統的な郷土料理なのだそう。

立派な舞茸が肉厚で美味しい「舞茸のムニエルと塩鱈のブランダード」
メイン料理の「野鴨のロースト」は、寒い時期だけの特別なココット料理(鉄製の鍋でじっくり調理し、そのまま提供される鉄鍋料理)。毎年猟師から直接野鴨を仕入れ、お店で捌くのだという。身から臓物までおいしくいただける、贅沢な逸品だ。

お店で捌いた野鴨を使った、季節限定のココット料理「野鴨のロースト」

本格的な修行を積んだオーナーが作る、“心が笑う” 味

吉田さんが「この値段で食べられるお店は他にないはず」と話す、フォアグラのソテー
オーナーの吉田さんは、ベルギー、フランス、そして都内のレストランで修行を積んできた腕利きの料理人。一時期は、ホテルニューオータニ大阪 サクラで総料理長を務めたドミニク・コルビ氏がディレクションする、高級レストランにも在籍していたという。

しかし吉田さんは、いわゆる本格的な高級フレンチではなく、素朴な家庭料理を極める道へ進む。「元々カウンターが中心の小さなお店をやりたかったんです。娘の誕生が、お店を始めるきっかけなんですよ。2008年に昼も夜もガレットを提供するレストランとしてスタートし、その後ビストロにも手を広げていきました」

食後のデザートは、フランス語で「焦がしたクリーム」を意味するクリームブリュレ
また、吉田さんは「お店を笹塚に構えたのは、単なる偶然」とも語る。元々は代々木上原でのオープンを考えていたのだとか。「代々木上原を下見がてら散策しているうちに、笹塚に辿り着いたんです。たまたま入った不動産屋さんにいい物件がないか相談したところ、そのまま連れて来られたのが今の場所でした」。

笹塚を選んだのは偶然かもしれないが、『Galette DECO』や『Bistro DECO』は、笹塚という街にとてもよく馴染んでいると感じる。老若男女から愛される人気店であり、人気の秘密は一度足を運べばすぐにわかるはず。都会の喧騒に疲れたとき、ほっとする料理を食べたいとき、ぜひ訪れていただきたい名店だ。

慌ただしい都会暮らしに、ひとときの安らぎを与えてくれる場所

スタッフとお客さんが談笑する場面も多々あり。常連さんも一見さんも温かい雰囲気で出迎えてくれる
東京という街において、観光客やサラリーマンでごった返す風景は今やお馴染みとなった。もし、せわしない日常からふと抜け出したくなったら、ぜひ気軽に笹塚駅へ降り立ってみてほしい。街の至る所にある、人々の体温を感じられる素朴な風景が、あなたを優しく包んでくれるはずだ。


そして、とにかく美味しい料理が食べたくなったら、ぜひ『Galette DECO』『Bistro DECO』へ。きちんとした格好でなくても、一人でフラッと来店しても大丈夫。腕利きの料理人が手がけるフレンチを、気取らずフランクに楽しんでほしい。

Galette DECO |Bistro DECO

東京都 渋谷区 笹塚3-19-6萩原ビル1階
TEL : 03-6304-2855

営業時間:
Galette DECO 11:00~15:00
Bistro DECO 18:00〜1:00

HP:
https://bistrodecosasazuka.com/

インスタグラム:
https://www.instagram.com/galettedecosasazuka/
https://www.instagram.com/bistrodecosasazuka/

CATEGORY