Vol.698

24 OCT 2025

〔ZOOM in 吉祥寺EAST〕朝ごはんを通して、世界を知る。「TASTE THE WORLD」

少し歩くだけで、個性豊かなお店に次々と出会える吉祥寺。好奇心をくすぐるコンセプチュアルな店も多く立ち並んでいて、散歩しがいのある街だとつくづく思う。———今回ご紹介するのは、「世界の朝ごはん TASTE THE WORLD」。“メインメニューが世界各国の朝ごはん”という、一風変わったレストランだ。「TASTE THE WORLD」はどんなきっかけでオープンするに至ったのか?そして、一体どんな料理が楽しめるのか。興味がそそられるままに、足を運んだ。

魅力は公園や古着だけじゃない。異国情緒も感じられる街

駅北口側にある中道通り。奥の方まで個人商店が多く立ち並んでいる
「吉祥寺」と聞くと、多くの人は井の頭公園の自然や、おしゃれな古本屋や古着屋、レトロな喫茶店などを思い浮かべるだろう。しかし吉祥寺の街を歩いてみると、意外にも異国文化に触れられる店が多いことに気づく。

世界中から集まった、さまざまな食品・雑貨が並ぶ「カーニバル」
たとえば、駅北口の中道通りと昭和通りの間にある「カーニバル」は、輸入食品や雑貨、デリカテッセンを扱うお店。店内には、アメリカ、フランス、マレーシア…など、各国から輸入された食品や雑貨が所狭しと並んでいる。

アジア食品やアジア雑貨を2,000アイテム以上取り扱う「亜州太陽市場」
「カーニバル」から1分も歩かないうちに見えてくるのは、アジア・太平洋州地域の食品・雑貨を取り扱う「亜州太陽市場」。人気のインスタントラーメンのほか、山東省の水餃子、羊の薄切り、北京ダック…など、他ではあまり見られない食品も購入することができる店だ。

ドイツやスイスなど、欧州文化の中で育まれたおもちゃを販売する「ATELIER NIKI TIK
他にも、ベネチアンガラスやアクセサリーが楽しめる「ベネチアンバザー」、店頭に置かれた木馬が目印のヨーロッパ玩具店「ATELIER NIKI TIKI」など、長く愛される老舗店も少なくない。吉祥寺は、世界中の風を取り入れながら独自の魅力を生み出してきた、まさに文化の発信地だ。

頭上の黄色いサインが目標!「TASTE THE WORLD」

駅北口から徒歩5分。東急百貨店を越えて大正通りに入ると、「TASTE THE WORLD」の黄色いサインが見えてくる
吉祥寺駅近くにある東急百貨店の向かい側、大正通りに入ってすぐの場所に「TASTE THE WORLD」はある。頭上の黄色いサインを目印に奥へ進んでいくと、可愛らしい雰囲気のお店が見えてくる。

「TASTE THE WORLD」は都内に4店舗あり、吉祥寺店は2020年2月にオープンした。全16席で、テラスでの食事も楽しめる。テラス席はペットの同伴も可能なため、犬の散歩ついでに立ち寄るお客さんも少なくないのだとか。

店内の様子。素朴な家庭料理が提供されるレストランであるため、店内も温かな雰囲気
店内に入ると、カラフルな国旗や世界地図、チャーミングに飾られたガーメントやマスコットなどが目に飛び込んでくる。店内では輸入食品や雑貨も販売されており、見ているだけで楽しくなってくる。

お店の入口に飾られた木靴。オランダでは「木靴は幸運を呼ぶ」と言われている

スペシャルメニューは2ヶ月毎に変更。朝ごはんで楽しむ世界一周旅行

その国のポピュラーな料理や食材が一皿に詰まった「TASTE THE WORLD」の朝ごはん
前述のとおり、「TASTE THE WORLD」のメインメニューは、世界の朝ごはん。その国の伝統的な朝ごはんがワンプレートで提供される。

常時ある定番メニューとして楽しめるのは、アメリカ、イギリス、台湾の朝ごはん。1番の目玉は、期間限定のスペシャルメニューだ。世界各国から1つの国が選ばれて、オススメの特別メニューとして再現される。取り上げられる国は2ヶ月ごとに変わり、メニューの開発には大使館や政府観光局といった政府機関、東京在住の現地出身者も協力しているという。

リトアニアの朝ごはん。写真奥の「クゲリス」は、リトアニアを代表するジャガイモ料理

筆者が訪れた日に取り上げられていた国は「リトアニア」(※1)。早速朝ごはんをオーダーすると、リトアニアで定番のクゲリス(オーブンで焼き上げたポテトパイ)、ライ麦パン、そばの実のカーシャ(お粥)、ビーツ・ニシン・ピント豆を和えたサラダが1皿に乗って運ばれてきた。ちなみに、2025年10月〜11月のスペシャルメニューは「ウズベキスタン」(※2)。

※1 2025年8月〜9月のスペシャルメニュー
※2 2025年10月1日(水)〜11月30日(日)

リトアニアのご当地ビール「Volfas-Engelman」(2025年8月〜9月に販売)。「TASTE THE WORLD」では朝ごはんの他、各国のドリンクやスイーツも楽しめる
驚いたのは、その美味しさ。遠い国の家庭的な朝ごはんが自分の舌にあうのだろうか?と一抹の不安も抱いたが、食べ切るのが惜しいほどの味だった。その一方で、ライ麦パンの固さ、カラフルなビーツの見た目、サラダとして食べるニシンの塩味…など、日本の食文化との違いも五感のすべてで感じられる。

リトアニアに行ったことがない筆者でも、リトアニアの日常生活を想像できてしまうような、不思議な食体験となった。2ヶ月ごとに足を運び続ければ、さながら世界一周旅行に出かけた気分になれるかもしれない。

ウズベキスタンの朝ごはん。ナッツやドライフルーツは現地から輸入されたもの
ちなみに、2025年10月〜11月のスペシャルメニューは「ウズベキスタン」。カイマク(クリーム状の乳製品)やコムハニー(巣蜜)をつけて食べるウズベキスタンの主食のパン「ノン」、茄子入りのシャクシュカ(トマトソースの上に卵を割り落として焼いた料理)、ウズベキスタン産のドライフルーツなどが1皿になった朝ごはんが楽しめる。

常時用意されている「台湾の朝ごはん」は、吉祥寺店の人気メニュー

すべては、ゲストハウスに置いたノートから始まった

ゲストハウスに置いていたノート。宿泊客が書き残した文章やイラストの数々が、「TASTE THE WORLD」開店のきっかけとなった
「世界の朝ごはんが食べられる店」というコンセプトは、どんな背景から生まれたのだろうか。吉祥寺店の店長にお話を伺った。

「当社のオーナーは、かつてゲストハウスを運営していました。あるとき、海外から来た宿泊客と料理の話になり、その方が『僕の国ではこんな料理を食べるよ』とノートに絵を描いてくれたそうです。そしていろいろな宿泊客の地元の料理を知るうちに、“日本の朝ごはんといえば白米・味噌汁・焼き鮭・納豆であるように、他の国にも象徴的な朝ごはんがある。そして朝ごはんには、その国に不可欠な個性が詰まっている”と気づいたそうです。その発見が、お店のオープンにつながりました」。

「食べることや料理が好きなスタッフが多く、みんなでお店作りを楽しんでいます」と話す、吉祥寺店 店長
続けて、店長に「これまでに実現した朝ごはんの中で、特に印象的だった国は?」と質問したところ、すぐに「コロンビア」という回答が返ってきた。

「どの国の朝ごはんも美味しいのですが、コロンビアの朝ごはんは毎日食べたくなる味ですごく好きだと感じたんです。特別にコロンビア大使館へのヒアリングにも同行させてもらい、コロンビア人のフレンドリーな人柄にも心を打たれました。実は近いうちに、コロンビアに実際に行ってみようと計画しているんです。私みたいに、当店での食体験をきっかけに各国に興味を持ってくださる人が増えたら嬉しいですね。」

店内では、各国のお菓子や雑貨、本なども販売されている
「TASTE THE WORLD」の料理には、時に食べる人の価値観や人生まで変えてしまうような引力があるのかもしれない。世界を知り、新たな自分を発見する。まさに自分探しができるお店だ。

朝ごはんは、国の「写し鏡」

これまで作成してきた色とりどりのリーフレットは、窓際に飾られている
「TASTE THE WORLD」を訪れた際、料理と同じくらい注目してほしいのが、卓上に置いてある三角形のリーフレット。開いてみると、その月に取り上げている国についての情報が詳しく書かれている。

面積はどれくらいで、どんな国と隣接していて、どんな歴史を辿ってきたのか———説明を読みながら食べれば、より一層目の前の朝ごはんが味わい深くなるはず。朝ごはんには、文化、歴史、宗教、特産品…など、その国を象徴するようなユニークポイントが凝縮されているのだ。

「さまざまな国の文化に触れられる」という、意外な魅力も持っている街・吉祥寺。ただ食事や散策を楽しむのではなく、異国の文化や歴史を深く知る特別な食体験をしてみたい方は、ぜひ「TASTE THE WORLD」を訪れてみてほしい。

TASTE THE WORLD 吉祥寺店

東京都武蔵野市吉祥寺本町2-4-2-102
JR・京王「吉祥寺」駅から徒歩5分

TEL : 0422-27-6582
7:30〜20:00(L.O. 19:00)
不定休 ※インスタグラムで要確認

https://www.taste-the-world.jp/
https://www.instagram.com/taste_the_world.jp/

CATEGORY