Vol.171

MONO

06 OCT 2020

ずっと、一緒に。L.L.Beanのボート・アンド・トート・バッグ

身の回りにどれくらい、10年以上愛用し続けているものがあるだろう。それがファッションに関わるものであれば尚更、その数はものすごく少ないのではないだろうか。目まぐるしく流行が変わる現代において、何かを変わらず使い続けることの意味と価値を、長い歴史を持つL.L.Bean(エル・エル・ビーン)のトートバッグを通して再考したい。

アメリカの老舗アウトドアブランドが作り続けるバッグ

今回フォーカスするのは、L.L.Beanのボート・アンド・トート・バッグ。世界中の人々に愛される、帆布素材の、しっかりとしたトートバッグだ。

L.L.Beanのスタンダードアイテム、ボート・アンド・トート・バッグ
L.L.Beanは、レオン・レオンウッド・ビーンにより1912年に設立された、アメリカの老舗アウトドアブランド。現在も愛されているビーンブーツの元となるブーツの発明から、その歴史は始まった。

アウトドアブームにも後押しされ、その確かな品質で人気を確固たるものにしたL.L.Beanが、「アイスキャリア」として世界で初めてトートバッグを発表したのは、1944年のこと。これが、ボート・アンド・トート・バッグの先祖である。

1944年に発表されたアイスキャリア
この「アイスキャリア」はその名の通り、氷を運ぶために作られたものだ。電気冷蔵庫がなかった当時、アイス・チェストまで氷を運ぶためのバッグは、暮らしになくてはならないものだった。

氷が溶け出し、水になってもすぐに染み出さないよう、生地は24オンス。多くのデニムパンツが大体14オンスくらいなので、その厚みと頑丈さは想像に難くないだろう。重ねて縫われているので、重みにも耐えることができる。

人々の暮らしのために生まれたバッグといっても、大げさではないだろう。「アイスキャリア」は、当時の人々が生きるために必要な大切なものを、壊すことなく、守り、運び続けられる、画期的なバッグだった。

その「アイスキャリア」が、「ボート・アンド・トート・バッグ」として現在のかたちに落ち着いたのは、1960年代。以来アウトドアだけでなく、ファッションの一部として、日常使いするファンも増えた。

驚くべきは、ファッションバッグとして認知された現在も、製造方法は変わらず、当時と同じように手作業でつくられているということ。日常使いだけで考えれば、おそらく、ここまで頑丈でなくてもいいだろう。しかしL.L.Beanは、このバッグがブランドのアイコンであるからこそ、アウトドアに背景を持つ、その不変性を大切にしているという。

アウトドアに磨き抜かれた機能性、使い心地の良さ、そして変わらないものへの安心感。これらが、L.L.Beanの製品が時代を超えて愛される理由なのかもしれない。

27年もののボート・アンド・トート・バッグ

私はL.L.Beanのボート・アンド・トート・バッグを、ミディアムサイズ、ラージサイズともに、27年間使い続けている。27歳の私が、27年。実はこのバッグたち、両親が0歳の私に名入りで贈ってくれたものだ。

1歳の私と、私のボート・アンド・トート・バッグ
1992年に日本初のフラグシップストアが東京・自由が丘にできたものの、まだまだ地方では買いにくい時代。両親は「Mail Order」というシステムで、これらのバッグを購入した。

この「Mail Order」、アメリカ本国よりカタログを取り寄せ、そこに付属するハガキでオーダーするというもの。実はL.L.Beanは、100年以上前からカタログ販売に力を入れており、創業年である1912年にはすでにパンフレットの送付を始めていて、1927年には、全米No.1のカタログという評価も受けている。

日本に実店舗がなかった頃、もちろんインターネットも普及していない時代、アウトドアやファッションが好きな日本人もまた、この「Mail Order」を利用して、L.L.Beanの製品をオーダーしていたようだ。

そうして遥々アメリカから、私の名前がサイズごとに異なるフォントで入った2色のトートバッグが、我が家にやってきた。

左:ボート・アンド・トート・バッグ、オープン・トップ、Red Trim、ラージサイズ(高さ38 x 幅43 x 奥行き19cm)、右:ボート・アンド・トート・バッグ、オープン・トップ、Blue Trim、ミディアムサイズ(高さ30 x 幅33 x 奥行き15cm)*個体差によりサイズ変動の場合あり

人生のさまざまな時間を共に過ごした

我が家でこれらのトートバッグは、「マザーズバッグ」、「子どものおもちゃ入れ」、「キャンプ用具を運ぶバッグ」、「通学バッグ」、「一泊旅行用バッグ」と、私の成長とともに役割を変え愛用されてきた。

ミディアムサイズを通学バッグとして使うようになったのは、大学生になった頃から。それ以前の、それこそ流行を気にしていた頃の私にとって、このアイテムはいささか地味に映っていたが、アウトドアファッションブームも相まって使い始めてみると、こんなに通学に適したバッグは他になかった。間口が広いため荷物を整頓しやすく、作りが頑丈なため、重い教科書などにも耐えることができるからだ。原点である「アイスキャリア」の特徴が、日常使いにも生きている気がする。

そして、そのシンプルなデザインは、不変的であるからこそ、普遍的である。世代も性別も、時代さえ問わないようなデザインの懐の深さもまた、このバッグの魅力だと感じる。

ミディアムサイズは通学バッグに最適。教科書などをスッキリ入れることができる

性別も年齢も超えて使えるトートバッグ。我が家も夫婦兼用で
ラージサイズは、一泊旅行に十分なサイズ感。現在は画家である夫の搬入用具入れバッグとして、欠かせない存在でもある。厚みのある生地は、がさつに扱っても簡単には形崩れしないので、さまざまなシーンで重宝する。

沢山入れることが出来て一度に運べるので、車の積み下ろしも楽

十分な荷物を収納できるので、旅行でも活躍してくれる
人生のさまざまなシーンで、自分の生活に合ったスタイルで使うことができる、ボート・アンド・トート・バッグ。

私が27年間使ってきて思うのは、このトートバッグは、長い時間を共に過ごすことが出来るプロダクトだということだ。私はこのトートバッグを、何十年後、おばあさんになっても使い続けることができるだろうと、確信している。

流行に左右されず、信頼し、使い続けられるバッグ。親の愛を感じる思い出の品だから、というだけではない、特別な魅力と愛着を、私は自分の人生を以て感じている。

経年変化を楽しむことは、人生を楽しむこと

突然だが「worn out」の意味をご存知だろうか。「使い古した」「ボロボロ」という意味の言葉だ。それに対して「worn in」という言い回しがあるらしい。意味は「使い込んだ」というもの。この言葉からは、ものに対する愛を感じる。

L.L.Beanのボート・アンド・トート・バッグは、この「worn in」を実現できると、私は思う。使い続けていれば、もちろん色は褪せてくるし、角も破れたりもするけれど、そこには価値が生まれるのだ。

発色のよい原色カラーは、褪せたけれどオンリーワンの色合いになったし、24オンスの分厚い生地は、使用と洗濯とで大分クタっとしてきたけれど、より身体にフィットするようになった。陽にあたり焼けてきた具合も、こなれた印象だ。

ひとつのものを長く使い続けたからこその、スペシャルな見た目と使い心地が、私のボート・アンド・トート・バッグにはある。

24オンスのキャンバス地。27年経った今も、破れることなどなく、しっかりとした使い心地だ

このハンドルの色褪せも、私にとっては「worn in」。思い出が詰まっている
一緒に過ごした時間、見てきたもの、かいだ匂い、聴いた音、そういった全部の記憶が染み込んだような、24オンスの帆布。

その経年変化を楽しむことは、人生を楽しむことに直結する気がする。

もしあなたが今、普段使いのバッグとして流行り物に手を伸ばそうとしているのなら、一度考え直して、L.L.Beanのボート・アンド・トート・バッグを候補に入れてみてはどうだろうか。

それが、大事なプレゼンが終わった記念なのか、初デートの思い出なのか、自分への誕生日プレゼントか、入居祝いか分からないが、10年後、購入時の価格の10倍以上の価値を、きっとあなたに与えてくれるだろう。

自分自身で価値を高めることができるトートバッグ
レザーのブランドバッグや、ひと目でそれと分かるロゴ入りバッグに比べれば、安価で、持っている人も多いけれど、10年間使い続ければ、もうそれはただのボート・アンド・トート・バッグではない。あなただけの、あなたの人生そのものになっているはずだ。

これからも、ずっと一緒に

自分自身で「一生もの」にできる、L.L.Beanのボート・アンド・トート・バッグ。私はこれからの人生も、これまで共に過ごしてきたこのバッグを、愛用し続けたいと思う。

そしてそれだけでなく、節目節目で、新しいボート・アンド・トート・バッグも迎えたい。真新しい24オンスの帆布と、新しい物語をつくるのも良い。

我が家のボート・アンド・トート・バッグたち。一番新しいものは、5年前のホワイトデーに夫にもらった
また、最初から程よくクタっとした帆布を楽しみたいなら、ヴィンテージで探してみるのも面白いかもしれない。

古着屋さんへ行くと、よくL.L.Beanのボート・アンド・トートを目にする。L.L.Beanは、内側のタグでおおよその年代を知ることができるので、その製品がどのくらい昔のものか想像しやすい。私の27年もののトートも、80年代製を示すタグがついており、「ヴィンテージ」と呼ばれ価値が上がってきているもののひとつだ。

セルフヴィンテージの素晴らしさは言うまでもないが、誰かの人生が染み込んだトートバッグに、自分の人生を重ねていくのもまた、素敵なことだと思う。

’93年購入の私のボート・アンド・トート・バッグは、主に80年代に製造されたという2色タグ

ヴィンテージショップで探して購入したミニミニトートには、90年代製のタグ。このサイズ感は廃盤になっているので、L.L.Beanファンの間でプレミア価格がつくことも
「アウトドアという非日常の中で得られる喜びを多くのひとに知ってもらいたい」という熱意を持ちつづける、L.L.Bean。創業当時から100年以上変わらないその想いと、ものづくりへの真摯な姿勢は、アウトドアという枠組みを超えて、人々の生活をすこし豊かなものにしてくれる。

流行に左右される世の中だからこそ、歴史ある定番ものを取り入れてみてはどうだろう。そしてそれを長く、大切に使う。遠い将来を見据えつつ、ほんの些細な軸を持つことが、ライフスタイルそのものを変えるきっかけになるかもしれない。

L.L. Bean