Vol.684

KOTO

05 SEP 2025

懐かしくて、新しい。不二家が届ける、ケーキと笑顔のある暮らし

ZOOMLIFEを運営するトーシンパートナーズが展開するマンションブランド「ZOOM」シリーズは、2014年度から11年連続・計18棟で「グッドデザイン賞」を受賞している。グッドデザイン賞は、日本で唯一の総合的なデザイン評価・推奨の仕組みで、「Gマーク」とともに広く親しまれてきた制度だ。今回はそれに関連して、2024年に「グッドデザイン・ベスト100」に選出された、株式会社不二家のリブランディングを取り上げる。新たな一歩を踏み出した、誰もが知る老舗ブランドの挑戦。その姿から、暮らしに前向きな気づきを得てもらえたら嬉しい。

もっと幅広い年代に愛されるブランドに。リブランディングの出発点

ペコちゃんと聞けば、ほとんどの人がすぐに不二家を思い浮かべるのではないだろうか。それほど、ペコちゃんは不二家のメインキャラクターとして浸透している存在だ。

日本に住んでいて、ペコちゃんを目にしたことがない人はほとんどいないはず
不二家の歴史は、明治時代まで遡る。1910年、創業者の藤井林右衛門氏が横浜・元町で開いた、小さな洋菓子店がその始まりである。当時、日本では洋菓子はまだ珍しかったが、1922年には、アメリカ式のショートケーキにフランス菓子の技術を取り入れた、オリジナルのショートケーキを発売。これが「日本のショートケーキの先駆け」とも言われている。

ハイカラだった、創業当時のクリスマスケーキ(復元イメージ)
1950年にペコちゃんが誕生。まずは不二家の店頭人形としてお披露目され、翌年にはペコちゃんとポコちゃんをパッケージにあしらったミルキーが登場した。これをきっかけに、チョコレートやビスケット、キャンディーなどの菓子事業にも本格的に展開を広げていく。昭和の時代には、「洋菓子といえば不二家」と言われるほど、洋菓子の代表的な存在となり、多くの家庭で親しまれてきた。

昭和34年頃の不二家銀座六丁目店でケーキを選ぶ親子
しかし、長い歴史の中で、時代ごとに部分的にブランドが更新されてきたため、次第に統一感が失われていった。たとえば店舗の“顔”である看板は、赤を基調としながらも、1990年代にはピンクを取り入れたものが現れ、近年では一部の店舗限定で青を基調としたデザインが採用されるなど、色もフォントもばらつきが生じていた。

そうした中で、2022年に不二家が取り組んだのが、大胆なリブランディングである。創業理念「お菓子で世の中を幸せにしたい」を改めて形にし、より多くのお客様に愛されるブランドを目指して、店舗デザインから商品パッケージに至るまで、すべてを新しいブランドデザインに統一したのだ。こうした取り組みは、100年以上続く不二家にとって、大きな変化をもたらすことになった。

内装もパッケージも紙袋も、すべてが新しいデザインに

ペコちゃんの口を記号化。笑顔をつなぐスマイルマーク

リブランディングは、株式会社6D-Kのアートディレクター&グラフィックデザイナー・木住野彰悟氏をはじめとする、外部の専門家や広告代理店にも加わってもらい、ディスカッションを重ねて進められた。

その中で「絶対に変えない」と決めたのが、Fマークだ。1961年に20世紀を代表する産業デザイナー・レイモンド・ローウィ氏が手がけたもので、アルファベットのFに花びらをあしらい楕円で囲んだ、コーポレートマークである。Fは不二家のイニシャルであるほか、Familiar(親しみやすい)、Flower(花のような)、Fantasy(夢)、Fresh(新鮮なアイデアに満ちた)、Fancy(高級な品質)という5つの意味が込められており、創業理念とともに大切に受け継がれてきた。

新しいビジュアル・アイデンティティに生まれ変わった、洋菓子店舗のロゴ
そしてもう一つ不二家にとって欠かせなかったのが、ペコちゃんの存在だ。事前の顧客アンケートでは、店舗写真を見て最も印象に残ったのは圧倒的にペコちゃんという結果が出た。9割以上の人が「ペコちゃんを見て不二家だとわかる」と答えたという。

そんなペコちゃんを、より親しみやすく、世代を問わず愛されるロゴにするために誕生したのが「スマイルマーク」だ。ペコちゃんの舌をモチーフにしたこのマークは、試行錯誤の末に完成した。立体から線画へ、フルカラーから単色へと少しずつ要素を減らしていき、最終的には口だけになった。にもかかわらず、不思議と誰もがペコちゃんを思い浮かべるデザインに仕上がっている。

誰もが知るペコちゃんが、大人っぽさと可愛らしさを兼ね備えたマークに生まれ変わった
このマークには「笑顔の連鎖」という意味が込められている。ケーキを選ぶ瞬間、受け取る瞬間、食べた瞬間、そしてふと思い出した瞬間——さまざまなシーンで笑顔になって欲しいという願いだ。

プロジェクトは、若手中心のチームによって進められた。「自分が買いたいと思えるか」を基準に、お客様視点を徹底して追求したという。不二家の店舗の多くはフランチャイズであるため、ブランドデザインの大幅な変更には、オーナーの間に不安の声もあった。しかし、先行した店舗で売上が向上するなどの成果が見られたことで、慎重だった他の店舗にも徐々に導入が進んでいったそうだ。

初めは、赤い看板が白に変わることに戸惑いを覚えるオーナーも少なくなかった

デザインひとつで、ブランドはここまで変わる

不二家のリブランディングは、老舗企業の大胆なブランドデザイン変更の成功事例として、国内外の賞を相次いで受賞している。なかでも注目されるのがグッドデザイン賞で、2024年の「グッドデザイン・ベスト100」に選ばれたことだ。

自分で目や鼻を描いてオリジナルのペコちゃんを楽しむ人もいるそう
審査員からは、長い歴史を持つブランドを刷新し、これまでに築いてきた信頼を損なうことなく成功させた点が高く評価された。ケーキ箱やギフトボックス、紙袋、ペーパープレート、ケーキの敷き紙など、数十種類におよぶ資材を一新したことも、大きな挑戦として注目された。さらに、ペコちゃんを記号化しながらも、一目で「あのブランド」とわかる視覚的なわかりやすさを実現した点は、完成度の高いデザインとして称賛された。

スマイルマークが生まれるまで。どこまで要素をそぎ落とせるのか、チャレンジだった
不二家では5年ほど前から、若年層へのアプローチとして人気アイドルをブランドキャラクターに起用したり、新たな店舗展開を進めたりしており、不二家への入社を志望する大学生やアルバイト希望者、来店客が増えるといった効果が表れていた。リブランディングは、そうした変化をさらに後押ししたという。

その一例が手土産だ。従来のデザインでは、「可愛らしすぎる」という理由でビジネスシーンでは使いづらいと感じるお客様もいたが、新デザインでは利用されるシーンが明らかに広がった。

焼菓子ギフトのパッケージにもスマイルマークが採用され、男性からの需要も増えた
「デザインを変えただけで、ここまで変わるとは思わなかった」と驚くほど、すべての商品で売り上げが向上し、なかには前年比200%を超えた商品もあったという。店頭でも「不二家、最近よくなったね」と声をかけられることが増えているそうだ。

ドーナツから自販機まで。不二家の新しいスイーツ体験

近年力を入れている取り組みの一つが「ペコちゃんmilkyドーナツ」だ。世間のドーナツブームに加え、不二家の店舗で好評だったソフトドーナツをきっかけに、看板商品のミルキーフレーバーを生かしたドーナツ専門店の展開をスタートさせた。

プレーン、チョコレート、いちご、そして季節限定のフレーバーも。どれにしようか迷うのも楽しい
リングタイプのドーナツ生地には、ミルキーにも使われている北海道産の練乳を使用。クリームドーナツは、中のクリームに同じ練乳を使い、パッケージもミルキーの包み紙をイメージしたデザインとなっている。

milkyクリームは、プレーンやカスタードに加え、季節限定のフレーバーも楽しめるラインナップ
ひと口食べると、ふんわりしっとりとした食感。甘すぎず、いくつでも食べられそうなやさしい味わいだ。どこか懐かしさもあり、年代を問わず楽しめるドーナツに仕上がっている。

また、大阪・関西万博にも出店し、「未来のショートケーキ」をテーマに、洋菓子を販売している。片手で手軽に楽しめるワンハンドショートケーキや、廃棄ロス削減にも配慮した、冷蔵・冷凍の両方で味わえるセミフレッドタイプのショートケーキなどだ。

大阪・関西万博に出展中の「人と地球とショートケーキと FUJIYA EXPO 2025 STORE」で販売されている、片手で食べられる新感覚のショートケーキ
その他、ケーキを自動販売機で販売するという新しい試みも始めた。閉店後でも、24時間いつでも購入できるようにと考えて実現したものだ。もちろん、味にも自信がある。

24時間いつでも購入可能な「FUJIYA CAKE’s STAND」。食べやすいスタンド型のスイーツボトルも人気

ケーキがあるだけで、日常がちょっと特別に

不二家では、2024年に「ほめ曜日」というキャッチコピーを掲げた。なんでもない日でも、そこにケーキがあるだけで少し特別な日になる...そんなふうに、ケーキをもっと日常的に楽しんでほしいという思いが込められている。

今回の取材を通じて感じたのは、お客様に喜んでもらうことを真剣に考えながら、その原点として「自分たちが欲しいか、楽しいと思えるか」を大切にする、不二家らしい前向きな姿勢だった。

皆さんも、新しい不二家を是非訪れてみてほしい。味の美味しさはもちろん、店舗や商品から伝わるワクワク感を、きっと感じられるはずだ。

いつもの日を、少し特別にしてくれる一皿。まずはお店に足を運んでみて
取材協力:株式会社不二家
洋菓子事業本部 営業本部 マーケティング部 営業推進課
課長 瓜生 麻未さん / 佐久間 愛さん
経営企画室 広報IR部 CSR担当 兼 広報室 兼 ファミリー文化研究所
宮永 奈津紀さん

不二家|ペコちゃんmilkyドーナツ

milkyドーナツ(各種):199円(税込) / milkyクリームドーナツ:212円(税込) ほか
ショップ情報:https://www.fujiya-peko.co.jp/cakebrand/milkydonuts/
2024グッドデザイン・ベスト100:https://www.g-mark.org/gallery/winners/27484

「ZOOM」シリーズのご紹介

トーシンパートナーズの「ZOOM」シリーズは、「SAFETY(安全で、安心する)」「SENSE(センスが刺激される)」「PRACTICAL(実用的で使いやすい)」という3つの価値をコンセプトに、都心での上質な暮らしを提案している。

2024年度は、「ZOOM麻布十番」「ZOOM広尾」の2棟がグッドデザイン賞を受賞している。それぞれ、都心部という制約の多い立地の中で、暮らしやすさと美しさを兼ね備えた設計上の工夫が評価された。麻布十番は構造の工夫によって開放的で自由度の高い空間を生み出した点が、広尾は高層ビルと住宅地の間に自然に溶け込む設計が、特に高く評価されている。

トーシンパートナーズ|ZOOM麻布十番

トーシンパートナーズ|ZOOM広尾

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